【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第9分科会 農(林漁業)から考える地域づくり

 組織再編やアウトソーシングによる人員削減がなされる中、県職員だけでは限界があるため、生産者の協力を得ながら畜産体験イベントを行ってきましたが、そのイベントがきっかけになり、生産者以外に流通業者、地域なども参画し、生産者-流通業者-消費者-地域-行政が連携し、福井県の畜産を少しでも多くの消費者の方にPRすることができました。



生産-流通-消費-地域-行政が連携した畜産振興
だれもが畜産営業マンになれる

福井県本部/福井県庁職員組合・畜産試験場 桝田 靖憲

1. はじめに

 福井県では、2003年から「福井県行財政改革実行プラン」を策定し、それに基づき、組織再編やアウトソーシング等による人員削減が行われてきています。2009年に私の所属の畜産試験場では、県内にある2つの公共育成牧場(奥越高原牧場・嶺南牧場)が統合され、総務部門が一元化されました。畜産試験場、奥越高原牧場、嶺南牧場の3場は、昔から県内外からの小中学校の遠足や牧場体験実習等の受け入れを行っていましたが、人員削減によりその業務については、アウトソーシング業務となりました。アウトソーシングについては、畜産関係財団法人が受託し、その見学等対応業務については、畜産関係OB(県職員・農協職員)等が行うことになりました。
 また、県民への畜産理解醸成のため、県単事業でゴールデンウィーク及び夏休み期間中に牧場体験イベントを開催し、これら「ふれあい業務」については、私の所属する畜産試験場企画支援室が対応することになり、2009年5月に、はじめての「ふれあいイベント」を開催するにいたりました。
 その後、単に年2回の「ふれあいイベント」開催のはずでしたが、県民からの要望が高くなり、ほぼ月1回開催することとなり、開催をおうごとに、生産者、流通業者、消費者、地域が連携しながらこの「ふれあいイベント」の開催が広がっていきましたのでそのことについてレポートします。

2. 経 緯

 まず最初に、県民に開かれた畜産試験場(試験研究機関)をPRするため、2009年5月2日(土)に、県単独事業でふれあいイベント「わくわく!牧場探検隊」を開催しましたが、これは単に県民と動物がふれあえる場の提供といったイベントであり、そのイベントの1メニューとして、「ソーセージづくり体験」がありました。このイベントの中で、次の夏休み期間中のイベント実施の参考にするため、参加者アンケートをとったところ、この「ソーセージづくり体験」が大変好評であり、アンケートの中で「もっと回数を増やしてほしい」、「その他の加工体験がしたい」という声が多くありました。県内で畜産物加工体験ができる施設はほとんど無く、県民の要望が高いことを痛感しました。このイベントは当初、ゴールデンウィークと夏休みに1日ずつ、事業としてふれあいイベントを行うものでありましたが、このアンケート結果を無視することができず、もっと回数を増やすことを私の部署で検討しました。

(1) イベント開催についてのコンセプト
 「ソーセージづくり体験」だけでは、アンケートにあった県民要望に応えることができないため、何かできる加工体験がないか、また、予算・人員の制限の状況でできることはないかなどについて、所属する企画振興室で検討を行いました。検討した結果、実施にあたり次の4点のコンセプトで実施することにしました。①素材は県産畜産物を使用する、②講師にはなるべく畜産農家の協力を得る、③加工に関する科学的な視点を説明する、④畜産試験場のPRをする、という4つのコンセプトです。
① 素材は県産畜産物を使用する
  福井県には、「若狭牛」、「ふくいポーク」というブランド畜産物があり、また、県内で生産されている牛乳、鶏卵もあります。このコンセプトについては当然のことであり、県産畜産物を使うことで、県民への県産畜産物利用をPRすることができ、県産畜産物の消費拡大につながり、ひいては福井県畜産の振興に寄与できるものでした。

畜産農家による生キャラメルづくり体験

② 講師にはなるべく畜産農家の協力を得る
  このコンセプトの目的は、第1には、人員不足解消にありました。県単事業以外で行うため、畜産試験場全体の協力を得ることが難しく、また、私の所属する部署は管理職1人を含む3人の職員しかいないため、この人数で対応することが難しい状況にありました。そのため、次の開催について畜産農家の息子さんが洋菓子屋のパティシエをやっていたので相談したところ、県産牛乳を使って「生キャラメルづくり体験」ができるということで、畜産農家の方の協力を得ることにしました。それ以降は、実際に自家産牛乳でプリンを製造販売している酪農家の奥さんや以前、畜産農家の女性グループでソーセージなどを作っていた畜産農家の方の協力を得ることができました。畜産農家の方には、体験イベントの合間に、実際に畜産業の実情を直接、参加者に話しをしてもらい、畜産への理解についてうったえてもらいました。

畜産試験場の研究成果を説明する職員

③ 加工に関する科学的な視点を説明する
 
 単に「畜産物加工体験」をするのであれば、畜産試験場で行う必要はなく、単なる「料理教室」にしたくないため、畜産物加工についての科学的な視点を説明し、参加したお母さんや子どもたちにも勉強してもらおうと考えました。例えば、「なぜ、白い牛乳が黄色にバターになるか?」とか、「ソフトクリームの中には空気が入っているために柔らかい」とか、「フェルトづくりでは、羊毛のキューティクルをわざとダメージを与えて作ること」とか、市販の加工品に記載されている食品添加物の説明なども行いました。
④ 畜産試験場のPRをする
  このことも畜産試験場で加工体験を実施するための重要な理由付けであり、体験中の待ち時間を使い、畜産試験場が実施してきた試験研究の内容を説明しました。今までは、畜産農家の方々に試験研究内容を説明するだけでしたが、この体験を活用して、広く県民の方に畜産試験場の業務内容を知ってもらうことにつとめました。


3. 開催したふれあいイベント

子どもたちに搾乳を教える酪農家

 2009年、2010年の2年間に開催した「ふれあいイベント」は、下表のとおりです。
 畜産試験場の調理室のキャパの問題で、1回の体験で20~30人ほどしか受け入れができなくて、2009年に開催した9回の体験イベントは、うち6回が抽選で参加者を選ぶという反響ぶりでした。8月に開催した「搾乳体験」では、畜産試験場には牛乳を搾れるホルスタイン牛がいなかったため、酪農家の方が牛を貸してくれました。乳牛というのは朝晩、決まった時間に搾乳をしないと乳房炎という病気になってしまうため、このような「搾乳体験」に使うことを嫌うのですが、この酪農家の方はせっかくだからと言うことで牛を貸し出してくれました。また、この牛を輸送するにあたっては、このイベントに賛同してくれ家畜商(流通業者)の方が無償で牛の運搬を申し出てくれました。また、3月に開催した「ハム・ベーコンづくり体験」では、地元の精肉店が是非、参加させてもらいたいとの要請がありました。この場では、精肉店が自前で、ふくいポークの半丸肉(豚全体を半分にした状態のお肉すべて)を持参して、お肉の部位別の説明や無駄が出ないように利用していること説明し、精肉店自身が産業動物として豚を扱うことで命の大切さを感じるといった説明をしていただきました。
 また、翌年の2010年には地元公民館からの要請で地元公民館で「ソーセージづくり体験」を開催し、また、その公民館での開催を機に地元小学校の教頭先生から総合学習の「食育授業」としての体験開催要請があり、畜産試験場から地域への広がりをみるにいたりました。
 この広がりは、違う方面での広がりもありました。福井県ではイノシシによる獣害被害が多く発生していて、その駆除されたイノシシ肉の利用について、県内の森林組合から相談を受け、森林組合でソーセージ、ベーコン、ハムの豚肉加工の講習会も行うようになりました。

 

地元公民館でのソーセージづくり体験
 
地元小学校で

開催期日
イベント内容
使用した材料
連携機関等
2009/5/2 ソーセージづくり体験 ふくいポーク (畜産試験場のみ)
2009/6/20 生キャラメルづくり体験 県産牛乳 畜産農家
2009/7/25 プリンづくり体験 県産牛乳、県産卵 畜産農家
2009/8/29 搾乳体験、バターづくり体験 県産牛乳 畜産農家、家畜商
2009/9/26 ソーセージづくり体験 ふくいポーク 畜産農家
2009/10/18 アイスクリームづくり体験 県産牛乳、県産卵 畜産農家
2009/12/5 料理づくり体験 若狭牛、ふくいポーク 県食肉事業連合会
2010/2/20 ハム・ベーコンづくり体験 ふくいポーク 畜産農家
2010/3/6 ハム・ベーコンづくり体験 ふくいポーク 畜産農家、精肉店
2010/5/1 ソーセージづくり・フェルトづくり体験 ふくいポーク、県産羊毛 畜産農家
2010/6/26 生キャラメルづくり体験 県産牛乳 畜産農家
2010/7/24 搾乳体験、バターづくり体験 県産牛乳 畜産農家
2010/8/28 アイスクリームづくり体験 県産牛乳、県産卵 畜産農家
2010/9/25 ソーセージづくり体験 ふくいポーク 畜産農家、地元公民館
2010/10/11 ケーキづくり体験 県産牛乳、県産卵 畜産農家
2010/10/29 ソーセージづくり体験 ふくいポーク 畜産農家、地元小学校
2010/11/27 料理づくり体験 若狭牛、ふくいポーク 県食肉事業連合会
2010/2/26 ハム・ベーコンづくり体験 ふくいポーク 畜産農家、精肉店
2010/3/26 チーズづくり体験 県産牛乳 畜産農家

4. まとめ

 もともと、県民への畜産理解醸成のための事業で行われた「ふれあいイベント」でしたが、組織再編やアウトソーシング等による人員削減による人員不足を補うために、畜産農家に協力を求め、2年間の「ふれあいイベント」は19回の開催ができ、うち8回の新聞掲載、4回のテレビ放映と1回のラジオ放送もされ、はじめの行政の主旨である「広く県民に開かれた畜産試験場のPR」という点は十分にできたと思います。
 ただこの取り組みは、単に行政的な畜産振興というものではなく、最初は畜産農家(生産者)と県民(消費者)の広がりがあり、継続していくうちに、精肉店・家畜商(流通業者)に広がり、地元公民館・小学校(地域)へとつながり、福井県ではマイナーな「畜産」というものを参加者全員が営業マンになってPRしていくことができたと思います。
 今後は、継続することにより、福井県の畜産営業マンが増えることを期待したいと思います。