【要請レポート】

第34回兵庫自治研集会
第10分科会 「地域力」「現場力」アップにむけた学び合い

 NPO法人「学童保育むぎっ子」が運営する学童保育所むぎっ子は、今年25周年を迎えます。神戸市灘区の中心部で、親と子、そして指導員が協力しながら作り上げてきた、子どもたちの放課後を豊かにする場所──人が豊かに人間形成する学童保育の25年の実践を紹介することで、現代に求められる教育のあり方を考える参考になればと思います。



地域の中で子どもと親が育ちあう
──自主運営型学童保育所「むぎっ子」の25年の実践を通して──

兵庫県本部/NPO法人学童保育むぎっ子・副理事 加藤 和彦

 NPO法人「学童保育むぎっ子」が運営する学童保育所むぎっ子は、今年25周年を迎えます。期間の長い短いはありますが在籍した(何らかのかかわりをもった)子どもは200人以上になります。私たちが「卒所」と呼ぶ、子どもなりにひとつの区切りをつけて退所していった子どもたちも100人を超えました。
 神戸市灘区の中心部で、親と子、そして指導員が協力しながら作り上げてきた、子どもたちの放課後を豊かにする場所──人が豊かに人間形成する学童保育の25年の実践を紹介することで、現代に求められる教育のあり方を考える参考になればと思います。

1. はじめに~むぎっ子について

(1) 神戸の学童保育3つの形態
① 地域方式(神戸市の助成金と父母の保育料による自主運営)
② 児童館方式(児童館の中に学童コーナーとして運営、登録制、有料)
③ 学校内学童コーナー(ひまわり学級)(小学校の中にある) 
 地域方式の自主運営の学童として1987年11月に発足。

(2) 立地条件
 4つの学区の境界点にある。周囲は住宅街であるが、公園に近く環境としては恵まれている。区内には大学、高校もあり、文京地区の要素も高い。

(3) NPO設立趣旨より
 私たちは1987年に篠原学童保育所「むぎっ子」を立ち上げ、地域方式の学童保育所として神戸市より認められながら、今日まで地域の人たちと父母、指導員の協力によってたくさんの子どもたちの「家」となってきました。現在、働く親の数が増え、子どもたちに放課後の生活を保障する場としての学童保育所は、これまで以上に必要とされています。働く親の雇用条件が厳しさを増す中で、親は子どもと時間や場所を共有できなくなっています。子どもたちは「ゆとり教育」といわれる学校で、早い授業進度や行事に追われて、基礎学力の充実も仲間づくりの機会もなくしています。
 私たちはこれまで15年間の学童保育所運営の経験の上に立ち、親の子と指導者、そして地域の人たちが信頼しあって子育てできる地域社会を作り上げていこうと決心しています。NPO法人「むぎっ子」の設立は、そのための基盤となり、子どもたちが生き生き生活できる環境づくりの第1歩となるものと確信しています。

2. これまでの経過

(1) 1期 創設期から5年
 学童の基礎を作る。今日まで受け継がれてきた理念。
① 親としては安心して預けられる。子どもにとっては豊かな放課後生活。
② 保護者と指導員の信頼に基づく運営。保護者同士が語り合える場所。
③ 学校、家庭、学童保育所の3者の補完と共同。
④ 地域、近隣に開かれ、理解と協力を得る。
⑤ 他の学童との協力。
 協力、共同を柱にした学童、決して独り善がりにならない。

(2) 2期目 5年~10年目くらいまで
 運営の基礎を作る。親と指導員の信頼ができる。安心して任せられる指導員。
① 現役の父母を中心とした運営。行事は全員で分担して実行委員会形式で行う。役員は在所中に、必ず1回は引き受ける。全ての親が運営の責任者という自覚をつくる。
② 行事、保育の内容が出きる。子ども集団についての捉え方、子どもの成長と日々の保育、行事の位置づけなど、むぎっ子の特徴が明確になりつつあった。
③ 親は「どの子もわが子」という関心のもち方ができる。
④ 指導員と親とのぶつかり合い。お互いを高める関係という認識をもって付き合う。

(3) 3期目 10年~15年目くらいまで
 10年目から入所希望が増える。1~3年までで30人を超える。高学年を入れると全体で50人になる。
① 多世帯、多人数の中で、親の語り合い、結びつきを重視する。(おやじがんばる)
② 子どもの発達段階(学童での様子)を指導員と親が共有することを大事にする。
③ むぎっこの理念の継承、発展を大事にする。
④ 地域に信頼される学童を目指す。

(4) 4期目 15年目~20年目くらい
 NPO法人となる。児童数は一定数の確保(経営基盤の確保)はできていたが、これまで核となっていた保護者の退所していく中で、「むぎっ子」を存続しつづけるために、NPOという選択をする。
① 会議の形骸化。多人数となり意見がいえない、聞けないなかで一体感が薄れていく。
② 親同士がグループ化。指導員に子どもや親の情報が入らない。問題が表面化した時は抉れている。
③ 指導員の力量不足。新人2人とベテラン1人という形になり、指導員を育てなければならない時期に親の関わりが薄くなる。ベテラン指導員任せにしてしまう。
④ NPO理事会と現役役員会の役割分担が作れないまま、なんとなく現役任せになる。

(5) 5期目 20年目くらいから現在まで
① 近隣で公立児童館の分園として、学童保育コーナーができる。入所児童の激減と経営難。
② NPOが運営するのではないか。=なんで親が運営する必要があるのか? NPOは何のためにあるのか? むぎっ子の理念の希薄化。うちの子が小学生の間だけ居場所があればいい。
③ 滞納問題、解決できない苦情の出現。親と指導員の意識の差の顕在化。
④ 親子関係、再び親の主体性、つながりを取り戻す努力をしつつ暗中模索。

3. 運営の特徴 父母会活動の実際

① 現役主義──現在子どもを預けている親が役員になって、むぎっ子の全てのことを決めていく。
② NPO理事は、応援要請があった時には相談にのる。ただし、運営の最高責任はNPOにあるので、事故などがあった時は対応する。
③ 役員には子どもを預けている間に、必ず1回は行う。任期は1年だが組織の継続性を確保するため2年間は役員をする。
④ 行事などは、実行委員会を作って親が行う。実行委員会がしんどいという声もあり、かつてに比べると、指導員が保育の一環として行うものも増えた。
⑤ 役員会は第1土曜日、保護者会(むぎっ子会)は第3土曜日。

役員会
 ・指導員と役員で運営の全てを決める。日程、保育当番、保育内容、会計、経営、などなど。
保護者会
 ・運営の基礎。行事の連絡だけでなく、意義を伝える。みんなで決める。
 ・子どもの事が聞ける。放課後ライフを親も確かめる。心配なのはみな同じ。 
 ・親同士の話しを聞いて、子育てのプラスにする。

4. 問題点

(1) 大きくなりすぎた組織
① 親の結びつき、意見のやり取りをどうやって作るか。
② ひとり、ひとりの親の意見を聞けない。
③ みんなが主人公と言う場をどう作るか。
④ 意見の違いをどう克服するか。
⑤ 運営の透明性をどう確保するか。みんな善意ではやれない。

(2) 子どもの変化
① 変わる子ども達。(表面的には、手先や身体のバランスを欠く、集団行動ができにくい等。本質的には同じ。可能性の引き出し方が変わっただけでは)
② 軽度発達の児童の入所。(学童の中でどのような発達が保障できるのか。方法論、理論的未整理)
③ 異年齢の集団の良さをどう発揮できるか。保育内容をどう豊かにして、現代化するか。

(3) 親の変化(親の教育力、関係力をどうつけるか、子どもの見方、接し方をどう豊かにしていくか)
① 預ける──預けられるという二元論の横行。加えてNPOという形がいっそう運営主体を分かりにくくしている。
② 「親が主体で運営する中で、話し合い、一致点を見つけて、問題解決していく。その姿・行動を通じて学童期に確かな親子を築き、子どもたちの成長につなげる。」というむぎっ子的理念(現役主義)の継承ができない。理念を語れる人がいない。

(4) 地域とのつながり、開かれた学童になるために
① 都賀川事故の教訓に立ち、安全・安心な学童をどう作るか、問題提起をしきれていない。
② 子ども環境の変化(安全に自由に遊べる場の消失、一人っ子の増加、親の長時間労働、習い事、私学進学の一般化)の中で、子ども文化、学童のあり方を理解してもらう努力。
③ 学校、行政との信頼関係をどう作るか。近いはずが遠い存在。(特にNPOぎらい?)