【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第10分科会 「地域力」「現場力」アップにむけた学び合い

 近年、性の早熟化や活発化に伴い、若年者の妊娠問題が取り上げられ、網走市でも若年者の妊娠が後を絶たず、若年出産も見られている。若年者の妊娠は、自ら希望して妊娠、出産し、楽しんで育児をしている10代女性もいる一方で、社会的な問題が多く、リスクも高いという意見が多い。ここでは、若年者の妊娠をとりまく現状と、私たちに何ができるかを考察する。



女性自らが望む妊娠・出産ができる社会をめざして
~思春期からの適切な性教育のために
保健と教育の連携のあり方を考える~

北海道本部/網走市役所労働組合・自治研推進部

1. はじめに

 近年、性の早熟化や活発化に伴う若年者の妊娠問題が取り上げられてきた。我が国では、20歳未満の妊娠を若年妊娠と定義している。若年者の妊娠は、社会的な問題が多くハイリスクであるという観点から語られる事が多いが、自ら希望して妊娠、出産し、育児を楽しんでいる10代女性も少なくない。 
 網走市でも若年者の妊娠が後を絶たず、若年出産もみられている。若年者の妊娠は、本人が望むか否かに関わらず、本人と周囲の人々に大きな影響を与える。
 ここでは、地域において若年者の望まない妊娠、出産を減らすために私たちに何ができるか考察する。


2. 現 状

 2009年の20歳未満の出生数は14,687件、北海道は650件、網走保健所管内は33件となっているが、数年前からの推移をみてみると、全国と北海道は減少しているが、オホーツク振興局管内では増加している。さらに、網走保健所管内に絞ってみると2009年には総合振興局の出生数の半数を占めている。(表1・図1参照)


表1
 

1999年

2004年

2009年

全国

18,253

18,591

14,687

北海道

887

883

650

オホーツク総合振興局管内

43

58

61

網走保健所管内

8

12

33


図1 20歳未満の若年出生数の推移

 このことからも判るとおり、全国や全道では10代の妊娠は減少しているも、網走保健所管内では10代の妊娠は増加している傾向にある。
 現在、妊娠した10代の若者は、20代30代の女性と同様に産科問題に直面しており、2008年の日本産婦人科学会の報告では、平均初潮年齢は12歳2.3ヶ月とされている。また、統計上の日本における十代の出産率は大韓民国とともに世界最低レベルとされている。


図2 日本女性の初潮年齢の推移
(発達加速現象の研究 -第12回全国初潮調査結果-より)

 日本の性教育との関連として、2004年秋の社団法人全国高等学校PTA連合会と京都大学大学院の木原雅子氏の調査によれば、対象となった約1万人の高校生のうち、小学校時代に性体験をした人間が39人いたとされている。
 日本では、キリスト教やイスラムなどに代表される「いかなる場合においても婚前交渉は罪である」とする宗教上の背景は存在しないが、性にまつわる話をタブー視する傾向があるほか、学校の授業では「卵子・精子・受精卵」などの生物学的なことを学び、性に関する知識やモラルを学ぶ機会が少ないなど、性教育は非常に論争の原因になる傾向にある。
 また、社会的な問題として、妊娠したために婚姻することで夫婦2人の共同生活が伴わないまま出産し、子どもを育成する環境が成熟できずに離婚し、子の祖父母に養育を受けるか、生活保護を受けるケースも見受けられる。
 ほかにも、母子分離がされないまま娘が妊娠・出産するケースや、成人後に未熟なまま出産するケースでは、祖父母による代理子育てが行われた結果、娘の母性がなおさらに育たず未熟なまま子育てをしていくなど、子どもの心に影響を及ぼす問題も懸念されている。
 さらに、若い母であることが教育に影響を及ぼすこともある。
 10代の母は、学校を中退する、もしくは学校側の圧力によって強制的に自主退学を迫られるなど、妊娠による進路変更を要されることが多く、また、早い時期に母になることが幼児の心理社会的な開発に影響を及ぼすこともありうる。


3. 要 因

 このような10代の望まない妊娠の原因には、以下のようなことが挙げられる。

(1) 子どもへの性に関する教育の不足
・団塊の世代にあたる祖父母の養育により、子どもへの性に関する教育が不足している。
 ※ 性的な話題は、家庭・社会的にもタブーとされる傾向。団塊世代とその2世世代の思考を改善することは困難であるのが現状。(拒絶の傾向)
・「できちゃった婚」という言葉が日常で使われるほど、10~30代の意識は変わっている。(容認の傾向)
・インターネットで知識は容易に得られるが、どのような知識を得るかは本人の興味しだい。
 ※ 誤った情報は、今も昔も変わらず存在する。

(2) 本人たちの知識の不足
・雑誌、ドラマ、テレビなどの内容からも性行為自体については、過去に比べて容認の傾向にあるといえるが、生物学的な性の知識を得る機会は、過去からさほど変わっていないのが現状。

(3) 親の愛情不足
・愛情不足の結果、娘が男にすがって妊娠してしまうケースがある。
・不安定な雇用情勢も原因の一つと考えられる。(具体的な事項は以下のとおり)
 ① 家庭より仕事優先
 ② 経済的困窮
 ③ 子どもの放置
 ④ 親と接する機会の減少

(4) 教育プログラムの不備
・イギリスでは、2004年から「Young People's Development Program」(YPDP)と呼ばれる性教育プログラムを開始し、ソーシャルワーカーや医療関係者が「生活状況から妊娠のリスクが高い」とみなす少女がいた場合に、この教育プログラムに推薦して、避妊の方法などを教えるということを行った。
 今までに合計2,000人以上の少女が参加し、1人当たり2,500ポンド(日本円で約340,000円)も費やしたが、避妊教育をしたことで、逆に性に対する関心を招き、結果、プログラムを受けた方が妊娠の確率が高まったとの結果が出ている。
・社会教育プログラムがさほど重視されていないことも考えられる。
 ① 出産により、どれだけの費用がかかるのか
 ② その後の生活基盤をどうするか
 ③ 子どもではなく親として生きることの意味は
・性の社会の現実を突きつけるような視点の教育は現状ないと考えられる。

出産→育児の理想とギャップ。このギャップが「望まない」妊娠を生み出す重要な要因ではないか?

4. 今後に向けて

 以上の原因から、私たち自治体職員が、若年者の望まない妊娠を減らすために何ができるか、以下のポイントについて、まとめた。
◆ 思春期から正しい性知識を身につけられれば、自分が望んだ時期に妊娠、出産できるのではないか。
◆ 限られた専門者だけでなく、ごく普通に広く一般的に、偏見を持たず性知識を普及するにはどうすれば良いか。
◆ どのような状況におかれている女性でも、授かった命を大切に育て、産むことのできる社会をつくるには、何から始められるか。


このポイントを踏まえて、私たちにできることは、

(1) 社会教育プログラムの整備
・10代の親の離職率、出産・育児費用の平均額、法的手続きなど、「見たくないが、現実として向き合わなければいけない事実」を学習する機会を設けるべき。具体的な手段は以下のとおり。
 ① 学校教育の中に盛り込む
 ② 冊子の作成
 ③ ホームページでの展開
※ 10代を対象にするのであれば、漫画やアニメなど表現媒体を考慮し、「まず少しでも見てもらう」ことを意識する。
※ 性に関する話題は、「わかりづらい」「とっつきにくい」という印象がある。「性」を押さず、「どう生計を立てるか」など、伝える際のアプローチを変える工夫が必要。

(2) 10代の親の支援
・子育て、資金援助など、どういった制度があるのかを体系的に知らせる。
 (10代を対象とするのであれば、一般市民向けの冊子類やアプローチでなく、携帯電話や漫画など、表現媒体に思い切った工夫をすることが必要)

(3) 社会教育事業の充実
・外部講師を招き、学校の性教育とは違った視点での講演などを企画
【参考】網走市立第三中学校の参観授業で、「命の大切さと愛の尊さ」と題した“性”に関する講演会が行われた。


 7月18日に実施された2、3年生の参観授業は道徳でした。
 『命の大切さと愛の尊さ』と題した“性”に関する講演会で、苫小牧市在住の助産師で、現在も大学の講義等、多方面で活躍されている西澤乗子先生を講師に貴重なお話を伺いました。
 75歳とは思えない(失礼……)軽快なトークや身のこなしで、予定されていた90分(実際には約100分)があっという間に過ぎてしまったように感じました。
 性について、偏った知識や本当に知っておかねばならないこと、普段家庭や授業ではなかなか話すことのできない内容も交えて熱く、わかりやすく語っていただきました。その語り口から西澤先生の人柄が十分に伝わってきました。
 また、この講演会をPTA研修会としてもご案内し、当日は約60名の保護者の皆様が参加されました。講演会終了後、西澤先生との懇談があり、その中で保護者としての感想や、日頃の悩みに関する質疑など有意義な交流が出来たと思います。
 この日、1年生は各教科の参観授業でした。各学級では子どもたちが真剣な取組がみられ、「入学当初や4月の参観授業と比べ、授業の取組方や集中力が全然ちがいますね。やっと中学生としての自覚がでてきたのかな。」と話していた保護者の方もいらっしゃいました。

・網走市では、社会教育の一環として、中学生と子どものふれあい事業を実施。
 子どもとふれあうことで、中学生の意識も変わる。(実施の前後で表情が変わる)


5. おわりに

 若年者の望まない妊娠を減らすには、学校での性教育の体制整備(教える側の知識を含む)など課題も多いが、まずは私たち自治体職員が、こうした背景を理解し、問題解決に向けた意識を持つことが必要だと考える。
 このレポートを読んだ方が、若年者の妊娠を取り巻く背景、現状を理解し、この問題を解決するためにどうすればいいかを考えていただければ幸いと思う。