【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第10分科会 「地域力」「現場力」アップにむけた学び合い

 小規模自治体において、政策実現を行うには、地域住民の理解なくしてはありえません。
 地域住民との関わりについて、実際に仲間の組合員がどのように活動を行っているかを調査しました。
 レポートでは、職員でもあり地元住民でもある役場職員として実際取り組んでいる活動や、求められる内容について提言します。



川本町職員が地域に求められる役割


島根県本部/川本町職員組合 竹下 耕二

1. はじめに

 本町は、2010年国勢調査人口3,900人の、典型的な山間過疎地域であり、現在は県内では最も人口規模の小さい自治体である。
 「平成の大合併」が全国的に進む中、2003年末に単独町政の道を選択した本町の町財政を取り巻く環境は予想以上に厳しく、国の「三位一体改革」に伴う地方交付税の削減、少子・高齢化による自主財源の先細りなどの影響を大きく受けることとなった。また、バブル期に整備した音楽文化施設、観光施設等の「ハコ物」建設のツケは大きく、町の存続は危機的な状況であった。
 しかしながら、単独町政を選択してから9年目を迎える今も、「川本町」は存続している。もちろん現状も厳しいことには変わりないが、当時の危機的な状況は何とか乗り越えることができたのではないかと思われる。
 まず、その理由の一つとして「地域住民の理解」があげられる。第2次行財政改革プランにおいては、財政再建に向けて、補助金・助成金の見直しや、サービス料金の見直し、施設の閉鎖等を行った。また、これまで行政が担ってきた役割を可能な限り地域で担う、あるいは行政と地域が連携して担う仕組みづくりを構築した。全ての地域住民が納得して理解しているとは言わないが、これらの取り組みに対して多少なりとも理解を得られていることが、今もなお川本町があり続けられる大きな要因であると感じている。
 では、なぜ地域住民の理解を得ることができたのだろうか。単独町政を選択した小規模自治体が生き残るために、役場職員に与えられた役割、特に地域住民との関わりについて論考を試みることとした。


2. 常識を超える行財政改革の推進

 単独町政を選択した本町が生き残っていくため、まず、これまでの常識を超える抜本的な行財政改革を行わなければならなかった。2005年度から2009年度の5か年で取り組んだ「川本町第2次行財政改革プラン」は、地域住民にとっても我々職員にとっても過去に経験したことがない厳しいものであった。


表1:総人件費と職員数の推移(2002年~2010年)

 行財政改革プランの中で私たち職員にとって大きな負担となったのが、職員数の削減である。
 2002年度81人であった職員数は、単独町政を選択した2004年度以降、退職勧奨の促進と新規採用の抑制により大きく減少し、2006年度以降57人~59人で推移している。特に2002年度から2006年度の間に24人の職員が削減されており、このわずか5か年で30%の職員数減は、職員にとって大きな負担となった。職員が担う業務の範囲はこれまでと比較して増大し、一人ひとりが複数の業務を兼務しなければ仕事が回っていかない状況となった。小規模自治体であるがゆえに一つ一つのサービスの対象となる住民や企業・団体は少ないとはいえ、担う業務の範囲は他の自治体と何ら変わることはない。しかし、質の高い適正なサービスを提供するためには、「広く・浅く」では決して済ますことはできない。まさに「広く・深く」業務を遂行しなければ地域住民に満足していただけるサービスは提供できない。
 また、仕事量の負担だけでなく、給与の面においても大きな負担が生じた。2002年度から行っている1%~3%職員給料のカットは、単独町政を歩み始めた2004年度から5%~10%にさらに拡大した。これらの取り組みにより、職員数のみならず、総人件費も約30%の削減に至った。
 町の財政支出を抑制するための取り組みとして、職員組合と町執行部とが意見を出し合い、2004年度から庁舎、町有地等の清掃委託を廃止した。これに伴い、庁舎清掃とトイレ清掃、クリーンセンターへのごみの持ち込み、庁舎や町有施設周りの草刈り等、多忙な業務の中で、管理職も含む全職員が現在も毎日庁舎管理に取り組んでいる。


3. 厳しい行財政改革の中での職員のモチベーション

 行財政改革プラン等による職員の処遇は大変厳しいものとなったが、このような状況下でも、職員は意欲を失うことなく前向きに取り組んでいった。その理由は、「自分たちの町を守りたい」という熱い思いからであり、職員がこの町を、単に「働く職場としての川本町」としてではなく、「守るべき自分たちの川本町」として再認識したからであろう。
 職員がこの町を、「守るべき自分たちの川本町」と再認識したとすれば、その要因は何であろうか。多くの職員にとって、「働く職場である川本町」イコール「自分たちの住む町」であり、「自分たちが育った町」であり、「自分たちが学んだ町」である。また、「自分の子どもが育っている町」である職員も少なくない。私自身もこの町に生まれ育ち、大学を卒業した後に、この町へ帰ってきた。生まれ育った集落は自分の幼少時代と比較すると大きく状況は変化しているが、お世話になった地域の方々への恩返しの気持ちと、この町に育つ子ども達にふるさとへの愛着を持って欲しいという思いは強い。そして、多くの職員が同じように自分のふるさとに愛着を持っている。そうした愛着のある町を何とかしたいという思いが、厳しい状況下で前向きに取り組んでいく職員のモチベーションとなっているのではないだろうか。


4. 地域を支える役場職員

 職員が地域に愛着を持ち続けいるという一つの根拠として、職員の地域活動への関わりの大きさがあげられる。職員組合として、あるいは役場組織としてのイベント参加等ももちろんであるが、職員一人ひとりが一住民として様々な活動に参加している。この度、これらの関わりを詳細に把握するため、全組合員を対象に、「組合員の地域活動に関するアンケート」を実施した。このアンケート結果及び考察について以下に記述する。

(1) 自治会活動への参加について
 自治会活動は地域活動の基本であるが、48人中42人(87%)が何らかの形で自治会活動に参加している。不参加の理由は、親や夫が参加するため自分は参加しないというケースがあるのではないかと思われる。また、参加者42人の内、積極的に参加しているのが15人(34%)、一般的な参加が22人(54%)、あまり深く関われていないのが5人(12%)であり、約9割の職員が標準以上の関わりを持っている。
 参加者42人の内22人(52%)が自治会で何らかの役職を担っており、中でも会計や事務局等の役を担うケースが多い。

(2) 音楽・文化・伝統芸能・スポーツ活動への参加について
 回答は川本町内での参加に限ることとしたが、それでも48人中25人(52%)と半数以上が何らかの活動に参加している。多いのはスポーツ関係であり、神楽、太鼓等の伝統芸能や吹奏楽団等への参加者も多い。また、参加者の6割が世話役を担っており、自治会同様にその大半が事務局や会計である。
 これらの活動は、職員が自分の好きな事を楽しみながら地域住民と関わることができるため、職員のメンタルヘルス対策や健康管理の面からしても多くが参加すべきと思われる。

(3) 営農活動、ボランティア活動、NPO活動等への参加について
 参加者は48人中8人(17%)と、音楽・文化・伝統芸能・スポーツ等と比較して少ないが、参加者の約6割は事務局・会計等の役割を担っている。
 参加者が少ないのは、町内にこれらの活動自体が少ないことも理由であると思われる。これらの活動は公共的な役割も担う取り組みであるので、多くの職員がこれらの活動に関わり、必要に応じて住民とともに新たな活動を立ち上げることも必要ではないかと思われる。

(4) PTA役員等の関わりについて
 保護者としてPTA活動に参加するのは当然の事であるが、PTA会長をはじめ、部長等の大役をPTA対象者の4割以上の職員が担っている。町内小中学校のPTA会長の大半は役場職員であるのが現状である。能力的にも時間的にも大きな負担となる会長職等は誰もが担うことができない役割であるため、地域における役場職員への期待度は高いと思われる。

(5) 地域防災活動への参加について
 地域消防団への役場職員の参加は男性33人中25人(76%)であり、多くの職員が関わっている。担い手となる若い世代の減少などの理由から消防団員数が軒並み減少している中で、役場職員の入団は、ほぼ義務的な状況である。
 自分たちの地域を自分たちで守る役割である地域消防団は、地域活動の基本であり、役場職員は積極的に参加すべきであると思われる。

(6) 地域活動に対する意識
 「役場職員は積極的に地域活動に参加すべき」と答えたのは全体の約7割であり、残り3割は「他の住民と同じように参加すればよい」と答えている。積極的に参加する必要はないという職員は0人であった。
 「他の住民と同じように参加すればよい」と答えている理由は、「積極的に関わるのは役場職員だけでなく地域住民すべての責務であり、役場職員ばかりが地域活動に関わって、地域住民に依存されるのは良くない」というものであり、地域活動そのものを否定するものではない。したがって、役場職員のほぼ全員が、積極的に地域活動に参加しなければならないという認識を持っていると思われる。


(7) 地域活動に関する自由意見
 自由意見を求めたところ、以下のとおり多くの意見があった。
① 地域活動に対する考え
  役場職員は地域活動に積極的に関わり、地域住民の期待に応えなければならないという意見が最も多かった。また、小さい町の職員だからこそ参加が必要であるという意見もあった。一方で、役場職員だから参加すべきということではなく、地域で生活する一住民として当然地域活動に参加すべきであるという意見もいくつかあった。
② 地域活動参加のメリット
  役場職員が地域活動に参加することのメリットに関する意見が多数あった。
  地域活動に参加することは、住民を知り、自分を知ってもらい、住民のニーズや考え方を把握することにつながり、自分の業務にも役に立つという意見が多数であった。これらの意見は、現に地域活動に関わっている職員が既に実感していることあろう。
③ 地域活動参加への不安・懸念
  役場職員が積極的に地域活動に参加することに対する不安や懸念の意見もあった。役場職員が地域活動の中心を担うことで、地域住民が「役場職員にやらせればいい」という認識を持ってしまっては、結果的に地域の活性化につながらないという意見である。これらの不安を解決するには、役場職員がリーダー役となりながら地域住民を引っ張り、共に活動することで地域全体の活動が活発になることが望ましい。
④ 職員組合に対する意見
  地域活動を組合活動の視点でとらえた意見もあった。我々の賃金は地元企業等と比較すれば決して少ない方ではなく、この賃金を地域住民に認めてもらうためにも、組合全体で地域活動への参加を推進していくべきという意見であった。また、職員の地域活動への参加の必要性について、当局からのメッセージを聞く機会が減ってきているため、組織としても当局に対してメッセージを送る必要があるという意見があった。


5. 川本町職員が地域に求められるもの

 このところ、国においても、公務員に地域活動への参加を促す動きが出始めている。「新しい公共」や「地域協働」といった、行政と地域住民の間に新たなパートナーシップを構築する政策が進められている中で、公務員がいかに住民目線で業務を推進できるかが問われている。また「地域に飛び出す公務員を応援する首長連合」といった、「公務プラスワン」の意識を持つ職員を後押しする地方自治体の首長も増え続けている。
 本アンケート結果をみてもわかるように、本町の職員の多くは「公務プラスワン」のみならず、公務以外に地域において「プラスワン」以上の役割を担っている。また、その役割を担うことに不満を抱くどころか、これも公務のひとつと認識し、積極的に取り組んでいる職員も少なくない。本町だけでなく、小規模自治体の職員は皆同じであろう。
 本町のような小規模自治体で政策を実現するためには、地域住民の協力なくしては困難である。その地域住民の賛同を得るためには、理にかなった質の高い政策企画は当然必要であるが、それ以上に求められるのが、役場職員と地域住民との信頼関係である。小規模自治体であればあるほど、その信頼関係が政策実現に占めるウェイトは大きいはずである。そして、その信頼関係は、職員の日ごろからの地域住民との関わりから生まれる。
 また、理にかなった質の高い政策企画を行うためには、常に住民ニーズを把握していなければならない。ニーズの把握は政策企画の度に「住民アンケート調査」を行えば把握できるのかもしれないが、少ない職員で業務を回している我々に、それを行っている時間はないし、アンケートではなかなか住民の本音は見いだせない。また、「住民の意見を聴く会」などを開催しても、意見が言えるのは一部の住民だけである。住民ニーズは職員個々が日頃の住民との対話の中で把握するものであり、共に汗をかきながら、その対話の中で生まれるニーズ把握こそが、実現できる政策企画につながっていくのではないだろうか。
 高齢化が進む本町の各集落において、役場職員は間違いなく「地域リーダー」としての役割を求められている。今後、もっと広い範囲での合併が進むことがあれば、我々職員は「川本町で働く自治体職員」であり続けることができなくなるかもしれない。しかし、もしそのような時代が訪れても、「川本町を担う地域リーダー」であり続けることはできるし、そうでなければならない。それぞれの職員が、少なくとも生活している地域の中でその役割を担うことができれば、真の行政と地域との協働が生まれ、「川本町」は将来にわたって存在し続けることができるのではないだろうか。


6. おわりに

 今回の自治研レポートの作成にあたり、私自身も職員の地域活動への関わりについて、様々な視点から考える良い機会となった。このような論考を試みながらも、自分自身の地域への貢献は他の職員に比べてもまだまだ少なく、今後もっともっと住民と接する機会を作らなければならないと感じた。また、全組合員へのアンケート調査を通じて、各組合員もあらためて自分の地域への関わりについて考える良い機会となったのではないかと思う。何よりも感謝したいのは、短い期間の中で、全組合員がこのアンケートに対する趣旨を理解し、回答に協力してくれたことである。このまとまりこそが、小規模自治体、小規模職員組合の強みであり、川本町が様々な試練を乗り越えてきた理由であると実感することができた。
 職員数削減が進む中で、新規採用を控えていた本町も、毎年職員を採用している。平成の大合併の議論を知らない職員がこれからも増えていく。これらの将来の川本町を担う役場職員が「将来の川本町を担う地域リーダー」となれるように、全組合員で議論を重ねていきながら、誰もが地域を愛し、地域に愛される職員になれるよう取り組んでいきたい。