【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第10分科会 「地域力」「現場力」アップにむけた学び合い

 長崎県職労発行の「長崎消息」という長寿情報誌を先輩として誕生した「那の津」。天野初代編集長と砂川元県本部委員長と川口元書記の3人で創造した「那の津」。7年弱で試作版3号と本誌41号の計44号を隔月発行するも、2012年3月号で暫時休刊となった「那の津」。公務員バッシングにさらされる自治労組合員に今最も必要な「自治研活動」の必要性を宣伝した「那の津」の野望と蹉跌の足跡を2代目編集長が報告。



挑戦する県職労
―― 福岡県職労情報誌『那の津』41号の試み ――

福岡県本部/福岡県職員労働組合・遠賀川支部・直方県土整備事務所班 中山 秀才

1. 福岡県職労情報誌『那の津』をなぜ創ったのか?

(1) 2005年1月発刊準備当時の組織実態と情報活動をどう見ていたか
① 情報提供が質量ともに劣っていた。
  県職労の組織と運動を支えるためには、情報量が圧倒的に不足していた。
  県職労大会報告という基本の情報さえ、系統だった編集がなされていなかった。
② 組織力量の変化
 ア 支部・職場班執行体制の弱体化が進んでいる。
 イ 組合員に、県職労の活動が日常的に見えていない。
③ 運動課題の変化
  賃上げ・時短などの物取り闘争から、県職労の運動課題が大きく変化しているのに、県職労の組織と運動が対応できていなかった。
 ア これまでの県職労運動が勝ち取ってきたものを活用し、豊かな生活をどう実現していくのか。
 イ 自治研活動・政策立案活動・県政改革など、県職労の存在感を高め、組合員の働きがいを高める取り組みが重要となっている中で、県職労の運動・理論が追いついていなかった。

(2) 『那の津』に盛り込みたかったこと
① 県職労の組織・運動課題を確実に役員(+組合員)に伝えること。
 ア 県職労大会・中央委員会の報告及び意義について確実に伝えること。
 イ 各種集会・後援会の内容を報告すること。(参加者は復習、不参加者には内容・知識の拡大。せっかくの取り組みを単発に終わらせない)
 ウ 県職労運動の重要で長期にわたる課題について掘り下げた解説をすること。
 エ 労働組合を取り巻く社会・政治状況を報告・解説すること。
   具体的には、新聞記事・本・論壇誌の紹介解説。(橋口甚ノ輔元委員長や出水薫九州大学教授の時評など)
② 役員としての知識・技術をわかりやすく伝えること。
  「職場活動の手引」という形で追求すること。
③ 役員の広場としての機能を盛り込みたかったこと。
  現場で苦労している役員の意見交流の場に『那の津』をすること。
各支部で作成している資料(賃金確定闘争時の割休学習会資料など)に活用するために支部を越えて資料交換する橋渡しをすること。
④ 県職労運動を担う人材とネットワークをつくること。
  積極的・主体的に県職労運動に参画する層を、情報活動の中から育てること。
  できるだけ多くの支部から編集スタッフに参加してもらい支部を越えたネットワークを創ること。
⑤ 自治研活動の意義を組合員に広め、参画してもらうこと。
  県職労運動=自治労運動は、実は賃金闘争や身分・労働条件闘争だけでなく、他の労働組合が持っていない県民・住民に良質な公共サービスを提供しようとする【自治研運動】をすることができると言うことを宣伝し、理解を深め、そして地域に出て住民の皆さんとともに実践すること。
⑥ その他
 ア 県職労組織内議員との連携
 イ 福岡県職労の歴史と運動総括

(3) 自治研活動について
① 自治研活動を自治労が取り組んでいるということを初めて知った時の感動は、多くの自治労組合員の共通の思い出であろう。自分たちの身分労働条件だけでなく、地域自治のあり方について研究実践活動をしている自分が所属する労働組合に誇らしさを感じたはずだ。それも広範囲に渡った課題を持続的に取り組んでいる姿は……。
② 自治研活動は、組合員にとって労働条件の向上の実はもっとも重要な運動であること。現在の自治体職員としての労働条件の最大の課題は、賃金や時間短縮ではなく、働きがいをいかに獲得するかにある。
  自治労組織にとって運動を進めるにあたっての最も障害となっているのは労使関係ではなく、公務員バッシングに端的に表れているように、市民・納税者からの批判・不信である。信頼関係を再構築する際の決定打は、「自治研活動」である。いかに市民にとって、公務労働がかけがえのないものであるかを仕事を通じて伝えることが焦眉の課題である。
  つまり、自治労運動の活性化策は、実は、時間もかかり、地道な取り組みである「自治研活動」に最大の力を傾注することにある。そうです、千里の道も一歩からです。

(4) 長崎県職労の先進事例に学ぶ
 すでに県職労単組として情報誌「長崎消息」を発行している長崎県職労の先進事例に学びながら2005年1月に試作版を創り、3号の準備期間の後同年7月に誌名を「那の津」に決定し創刊した。

2. 個別記事の紹介

はじめに
 「政治活動」「道路特定財源」「時間外勤務問題」などの重要課題の解説、時事課題、労働組合を取り巻く状況の報告や「書評」、「新聞を読む」、「職場活動の手引」、「国会議員の日常生活」、「県議会議員の日常生活」、「川崎・古賀の活動報告」、「ユース部」、江崎孝参議院議員の「江崎たかし ちっご弁で語る」、「えさきたかしの鵜の目鷹の目」、岡部元自治労中央本部委員長の「自治労運動を振り返って」、共闘団体である「国労」・「福教組」・「郵政」、「支部活動紹介」、「委員長にこれだけは言い隊」、「大震災派遣報告」、天野真理子書記の「ブレイクタイム」などは割愛しました。以下は自治研活動中心の記事を紹介します。

(1) 県職労大会・中央委員会報告
 1年に1回、2日間に渡って過去一年間の運動総括、今後1年間の運動方針を討議する大会は、福岡県職労最高の意思決定機関でもある。大会での発言や本部答弁などをその年の重要課題に絞り、かつ発言した代議員の発言主旨にそってダイジェスト版にすることに力点をおいた。
 毎年2回開催される中央委員会も大会に次ぐ議決機関であり、1日間ではあるが、10月と1月頃に開催されており、賃金確定闘争の課題が中心でもあるので限られた課題中心の報告となっている。
 幸いに執筆者が自治労中央大会や県本部大会、又は県職労本部ユース部大会や福岡支部大会、北筑前支部大会に参加でき、臨場感あふれる報告ができた。

(2) 各種集会報告
 まず、県職労時事セミナーとして試作版1号では、安全保障問題を九州大学出水薫助教授講演から報告した。
 次に試作版2号では、自治労組織内国会議員の藤田一枝代議士から国政報告を詳報した。
 試作版3号では、中坊公平氏の連合評価委員会最終報告について、本誌1号では、笹森連合会長(当時)の連合評価委員会最終報告について熱い講演内容を詳しくかつわかりやすく報告した。
 5号では、県本部地方自治研究集会での金子勝慶応大学教授の「郵政民営化・イラク戦争」、8号では、県本部政治セミナーの後房雄名古屋大学教授の「07参院選」、さらに同号では県職労政治セミナーにおいて山口二郎北海道教授の「小泉政権と小沢民主党」講演を図面も入れてわかりやすく報告した。9号では、県職労結成60周年記念式典において神野東大教授による「地方自治に期待するもの」講演、10号では、県職労政治集会に北橋健治代議士の「07政治決戦に向けて」の講演。11号では、海老井悦子副知事による「教育現場から副知事への新たなる挑戦」を報告した。同じく同号では県本部政治セミナー田中秀征福山大学教授による「2007年問われる日本の選択」をこれも図解入りで報告した。17号では、県職労政治セミナーで出水薫九州大学教授からの講演報告。18号では、県職労政治集会で山口二郎北海道大学教授による講演を報告した。24号では、県職労政治セミナーとして、相原久美子参議院議員による「国政に参画して見えてきたもの」の講演を報告した。

(3) 「月刊自治研を読む」・「自治労通信を読む」
① 「月刊自治研を読む」について
  本誌編集委員でもある大空仁氏が10号から定期的に執筆することとなり、まず最初は月刊自治研2006年11月号の「市民と自治研活動」から。大牟田市職労の自治研活動の宅老所つくり「自治研ってなに?」の報告、大阪市従の職場改善運動「ボトムアップコンテスト」のわかりやすい報告を行った。
  2回目は、12号から2007年1月号「民主主義の原点 議会改革」を取り上げた。佐藤成蹊大学名誉教授と小原隆治成蹊大学教授の「自治の原点 議会制民主主義を問い直す」を説明し、政策型議会になるための選挙のあり方や議員定数と議会事務局、特に北海道栗山町議会の議会基本条例を詳述している。
  3回目は、14号から月刊自治研2007年6月号「自治体市場化テストの実際」を取り上げた。戸部真澄名古屋大学教授の論文を元に、行政の守備範囲、公の役割の大切さを説明し、大空氏は福岡県にもアウトソーシングの波が迫ってきていることを訴えた。
  4回目は、16号から、「夕張特集」、5回目は、18号から月刊自治研2008年3月号「財政健全化?」を取り上げている。自治総研の菅原敏夫研究員の論文「自治体健全化法で健全化は実現するのか」で菅原氏は健全化法が本来の市町村の救済や支援になっていない点を取り上げている。さらに、同志社大学の安川文郎氏の報告「自治体財政健全化と自治体立病院」における職員の「生産性」を高める人的配置の取り組みの必要性を大空氏も強調している。
  5回目は、20号から「現業労働者の取り組み」を説明している。
  6回目は、22号から「自治体職員の使命・医師を取り巻く現状」を報告している。
  7回目は、24号から2009年3月号の「財政健全化対象自治体の現状と今後」と2009年2月号「長野県栄村からみえる実践的地方自治」を取り上げている。
  8回目は、27号から2009年9月号「通巻600号を迎えた月刊自治研」から宮本憲一大阪市立大学名誉教授に辻山幸宣自治総研所長がインタビューしたもの。自治研の始まりは、「住民のための地方自治を確立し、民主主義をいっそう発展させるための自治労運動である」としてスタートした。大空氏もインタビューを紹介しながら「市民として、一労働者として自分の勤める自治体のことを見直すという視点は確かにあって良いと思う」と述べていた。
② 「自治労通信を読む」について
  まず初回は、17号から、初代天野編集長が自治労通信2008年1月号「労働組合の活性化」を初紹介。
  2回目は、29号から、自治労通信2009年11月・12月号から鳩山民主党新政権誕生に関する徳永自治労中央本部委員長と自治労総研辻山所長の寄稿を紹介している。
  3回目が最後となったが36号か2011年3月・4月号公務員制度改革特集から『連合が提言する目指すべき社会像「働くことを軸とする安心社会」の概要』を紹介した。

(4) 全国自治研集会報告
① 第32回北海道自治研集会報告
  初回は、25号から、自治労組織内議員の筑後市議会議員の矢加部茂晴氏の「夕張」特別分科会報告、同じく同号から大牟田市職労牛島慶氏の『「第2の夕張」大牟田から参加して』を写真入りで報告していただいた。
② 第33回愛知自治研集会報告・大空仁・白石寛治・黒岩正治報告
  34号から、本誌編集委員でもある大空氏と本庁支部白谷寛治執行委員から第12分科会・第9分科会報告をわかりやすく報告していただいた。3人目として大牟田市職労出身で福岡県本部政策局長の黒岩正治氏より運営する中央自治推進委員として報告いただいた。

(5) 福岡県本部地方自治研究集会報告
 40号では、福岡県本部地方自治研究集会に参加した中山編集長の「第1分科会 議会改革」と同号で黒岩正治県本部政治政策局長から「公務員の働き方」分科会報告を特集した。

(6) 福岡県職労本部自治研集会
 最終は、41号から、自らの単組で2012年2月16日開催された福岡県職労自治研集会での出水薫九州大学教授の「分権改革と橋下現象の現状と展望」を講演いただき、今自治労組合員は、橋下大阪市長らの公務員バッシングに対抗するためには、時間はかかるがやはり「自治研活動」を住民のそばで意見を聞きながら、地道に活動するしかないと一生懸命話された。講演後の意見交換でも自治研活動の必要性を組合員に訴えられていたのが印象に残った。

(7) 出水薫九州大学教授の自治論文と集談会
① 出水自治論文
  自治研活動を集中的に編集企画に取り入れたいという意志があったものの執筆陣に限りがあり、紙面を飾ることができない状況が続き、1、2年目は、自治研集会などの報告記事に留まっていた。
  3年目に「月刊自治研」の論文紹介を始めた。
  5年目から、組織内の執筆陣では限りがあり、県職労運動に協力と理解を示してくれた九州大学法学院教授の出水薫氏の論文寄稿をいただき、掲載を始めることになった。読者からの反響は大きかった。
  2011年7月から出水教授の意欲もあり、分権自治に絞った連続自治論文「グローカル時代の自治体を考える視点」の7回連載という形に発展した。
② 集談会
  自治論文「グローカル時代の自治体を考える視点」の連載開始と同時に、論文の内容をベースとした討論会を開催した。出水教授の出席も得て、地域ごと、職能協議会(農業改良普及職能と田川児童相談所)との意見交換会を持った。
  さらに、この形式を発展させ、福岡県職労自治研集会を開催することができた。
  『那の津』掲載の自治論文と意見交換会、そして、節々の自治研集会を組み合わせながら、自治研活動の深化を追求したいとの希望を持っています。

3. 『那の津』41号の蹉跌

 残念ながら、単組財政事情及び人事面の理由で『那の津』発行は41号を持って「暫時休刊」という組織機関決定となりました。
 しかし、出水薫九州大学教授の連載中の自治論文「グローカル時代の自治体を考える視点」は、2012年7月から福岡県職労機関誌「本部情報FIT」に発表の場を移して、連載が継続していることを最後に報告します。