【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第11分科会 地域から考える「人権」「平和」

 日田市では市民に対する人権教育については、各地区(原則小学校区に1館)にある地区公民館が大きな役割を担っています。そこで、ここでは地区公民館がどのように人権教育に取り組んでいるのか、またその成果と課題について見ていくことで、今後の人権教育のあり方について議論していきたいと思います。



地区公民館における人権教育の取り組みについて


大分県本部/日田市職員労働組合

1. はじめに

 日田市では1995年に「日田市部落差別をなくし人権を守る条例」を制定し、同和問題をはじめとするさまざまな人権問題の解決をめざすとともに2000年に「人権教育のための国連10年」日田市行動計画を策定、2007年3月に「日田市人権施策基本計画」を策定し、市民一人ひとりがお互いに人権を尊重し合う心豊かな共生社会の実現をめざして、学校や地域などあらゆる機会を通じて人権尊重の意識の醸成を図るため、人権教育・啓発に取り組んでいます。しかし、そのような中で2010年6月に複数の公共施設で差別的な落書きが書かれるという差別事象が発生しました。そこで、7月に「差別をなくす日田市民集会」を開催して、「差別をなくす市民集会宣言文」を採択し、「市民一人ひとりが力を結集し、あらゆる差別に立ち向かい、人権が尊重される、明るく差別のない日田市」をめざすことを誓いました。
 日田市では人権同和対策課が中心となり、市民に対して啓発活動の更なる推進を図っているところです。市内20地区にある公民館において、日田市人権教育基本方針及び日田市教育行政実施方針に則り、自治会を中心に人権学習会を開催し、人権教育の推進を図っています。
 ここでは日田市の地区公民館で取り組んでいる人権教育の取り組みについて紹介していきます。

2. 日田市の取り組み

 日田市では、人権の取り組みについて、人権啓発と人権教育の二つの分野から行っています。人権啓発については、日田市人権・同和対策課が担当し、市民に対する人権啓発活動を行うほか、企業向けの人権学習会の開催を行っています。人権教育については日田市教育委員会が担当となり、日田市人権教育基本方針を策定し、それに基づき学校教育分野(学校教育課)と社会教育分野(社会教育課)のそれぞれで人権教育の推進を図っています。
 私たち地区公民館の職員は社会教育分野での人権教育を担当し、地域における人権学習を推進することで、人権啓発に取り組んでいます。

3. 日田市公民館運営事業団としての取り組み

 さて、日田市内20地区にある地区公民館は2004年度に公設民営化が導入され、2006年からは指定管理者制度を導入し、その管理運営を各公民館運営協議会が担っていました。さらに2011年度には一般財団法人日田市公民館運営事業団を設立し、各地区公民館運営協議会から同事業団に公民館の管理運営を一本化しました。公民館事業については、現在この事業団が指定管理を受け、日田市教育行政実施方針に基づき、地域の特色を生かした事業を展開しています。
 一般財団法人日田市公民館運営事業団では、日田市社会教育課の監督・指導のもと各種事業を行っていますが、各地区公民館において社会人権・同和教育事業として自治会における人権学習会及び地区での人権講演会を開催しています。また、館長会及び主事会で人権研修会を年数回開催し、公民館職員の人権問題に対する意識や公民館における人権学習内容の充実を図っています。


4. 日田市高瀬公民館での取り組み
2011年第9回高瀬地区人権フェスティバル
日田市立南部中学校生徒による人権

 それでは、高瀬公民館における人権教育の取り組みについて述べてみたいとおもいます。高瀬地区は日田市の南部、三隈川左岸一帯に位置し、12自治会、1,578世帯、4,264人が暮らし、高齢化率は約29%となっています(2012年3月現在)。地区内には地区集会所もあり、2年1回人権フェスティバルを開催するなど、地区をあげて人権啓発に取り組んでいます。
 そのような中で、高瀬公民館では、社会人権・同和教育事業を重点事業の一つとして取り組んでおり、主に自治会単位での人権学習会を行っています。全12自治会の開催を目標としており、2010年度は達成できましたが、2011年度は1自治会が開催できず未達成となっています。また、各自治会では人権啓発推進員がおり、推進員が学習会開催の準備等を行うほか、全12自治会の推進員を集め、市人権同和対策課の協力の下、年1回の会議と研修会を行っています。その他、公民館講座(女性対象講座「女性セミナー」、高齢者対象講座「シルバー大学」等)での人権学習会を開催しています。
 
「くるめにわかで繋ぐ人権の輪」 吉谷忠男・比佐子夫妻
人権についてくるめにわかで楽しく学習。

 町内人権学習会は自治会(自治会長及び人権啓発推進員)と高瀬公民館が連絡調整し、学習会の内容を決めます。基本的にまずは、学習会にどのくらい時間を割けるかを勘案し、その上で、ビデオ放映による学習会、講師による学習会かを選んでいます。1時間程度時間が取れる場合は、講師による学習会を実施しています。講師は、内容等を自治会と相談し、選んでいます。2011年度は学習会を開催した11自治会のうちビデオ及びDVDによる学習会が4件、他7件が講師による人権学習会です。講師もわかりやすさ、おもしろさなど講師によって様々な特徴がありますが、人権学習会は内容が非常に難しいので、講師を選ぶ際には、おもしろさや分かり易さを重視し選択しています。その方が参加者も真剣に聞き入ります。


「報恩感謝」本耶馬溪町 弘法寺住職 吉武隆善氏
笑いの絶えない学習会でした。
「くらしに中に豊かな人権感覚を~流行歌からのメッセージ~」 原田一郎氏
クイズを出しながら参加体験型で学習。


 過去三ヵ年の実績を見てみると、2009年度は10自治会で開催した他、女性セミナー、シルバー大学で1回ずつの開催。延べ287人の参加でした。2010年度は全12自治会で開催することができ、他にシルバー大学で1回開催し、延べ435人の参加でした。2011年度は11自治会で開催した他、高瀬地区人権啓発推進員会議も開催し、延べ361人が参加しました。
 自治会が人権学習会の開催に協力的であり、2011年度は町内事情により1町内開催できなかったものの、2010年度からほぼ全町開催できていることもあり、年1回の人権学習会というものが浸透しつつあります。
(表1) 2011年度高瀬地区自治会別人権学習会参加者数
 
世帯
総人口
参加者
世帯割
人口割り
A町
269
755
0.00%
0.00%
B町
141
439
71
50.35%
16.17%
C町
89
302
39
43.82%
12.91%
D町
33
93
32
96.97%
34.41%
E町
234
657
19
8.12%
2.89%
F町
267
702
27
10.11%
3.85%
G町
130
276
32
24.62%
11.59%
H町
75
212
45
60.00%
21.23%
I町
34
104
23
67.65%
22.12%
J町
32
77
27
84.38%
35.06%
K町
20
57
25
125.00%
43.86%
L町
254
675
21
8.27%
3.11%
高瀬地区
1,578
4,349
361
22.88%
8.30%
 ただし、問題は参加人数です。町内によっては、総会や集金常会など町民が集まる時に開催してもらうため、1世帯に1人の割合で参加しているところが多く、2011年度で見ると(表1参照)、世帯数の6割が参加している町内が5町内、そのうち1町が100%を超えるなど(1世帯から複数人参加)、多くの町民が参加している町もあります。一方で、世帯の多い町場の町になると、世帯及び人口に対して、非常に参加者が少ないです。高瀬地区では200世帯以上の自治会が4町ありますが、世帯割りでも1割前後の参加人数しかいません。しかも、参加者は町の役員やご年配の方等、ごく一部のいつも限られた人です。自治会ともっと協力し、人権学習会の必要性を訴え、より多くの参加者を募る必要があります。


5. 今後の課題

 2011年度の「人権に関する市民意識調査報告書」では、日田市では1996年から5年ごとに市民への意識調査を実施しています。2011年度は、4回目の意識調査実施年度にあたり、先ごろ報告書ができました。それを見ると人権学習に関して、今後の課題とすべきデータがあります。「日田市では自治会・職場・公民館などで人権問題に関する研修会や講演会を行っていますが、今までに参加されたことがありますか」という問いに対し「全く参加したことがない」が41%にも上ります。しかも、働き世代の30歳代~40歳代が半分以上、20歳代にいたっては8割以上が参加したことがないと回答しています。また、人権学習に参加したことがない人の参加しなかった理由については40%以上が「特に理由がない」と回答しており、50歳代以上の方の半数がそう答えています。また、「研修会や講演会が開かれていることを知らなかった」という回答も多く、主に20歳代~40歳代がそう答えています。
 これを見る限り、やはり人権問題に関して「無関心」という人が少なくないということ、また、学習会開催の情報提供がまだまだ少ないということが読み取れます。「無関心さ」については、市内で許されない差別事象が起き、さらなる人権啓発を推進しようと差別をなくす日田市民集会を大々的に開いたにも関わらず、その差別をなくす日田市民集会宣言文を知らないと答えた人が、6割近くいることにも見て取れます。まずは関心を持たせること、人権問題は他人事ではないことそこを知らしめる必要があります。公民館としては、まずは町内人権啓発推進員もしくは自治会長と連携し、人権学習会の開催をお願いすること、そして魅力ある内容を提供することが求められます。また、人権学習会開催の情報提供については、公民館便り、学習会開催のチラシ等を通してさらなる周知をする必要があります。
 また、学習会の内容についても、ビデオ学習ではなく人権講師による学習会を推進すると共に、参加体験型の人権学習会を開いていく必要があります。疑似体験を通して、より差別的な心情を学習でき、人権啓発のより良い効果が期待できるからです。2012年度では、事業団の方針としてビデオを学習ではなく、人権講師による学習会を行うこと、また参加体験型の学習会も行うようにしています。
 さらに、人権教育を提供する私たち公民館職員についても、自らの研修を通じて、地域における人権教育の推進者として正しい知識や感覚を身につけていく必要があります。私たち公民館職員が人権教育に関して求められることは「コーディネーター」としての役割です。職員自らが人権教育を行うことがベストですが、地域の実情、求められている内容に即して、適切な講師等学習内容を選択し、人権啓発につとめることが必要となります。そのため、公民館職員については、館長会や主事会などでの人権研修会を通して、人権講師の新たなる発掘を行うとともに、講義形式のみならず参加体験型の研修会に積極的に参加し、自己研鑽を積む必要があります。

6. おわりに

 今回は日田市の一公民館の事例を紹介しました。日田市では20の公民館がそれぞれ人権教育を推進し、人権啓発に努めています。しかしながら、繰り返し差別的事象が起きています。差別の無い日田市をめざすためにも、敬遠されがちな人権学習会を地道に行い、一人ひとりに対して人権啓発を行うしか方法はありません。もちろん公民館職員のみの力ではどうにもなりません。まずは日田市役所職員みんなが人権問題に取り組み差別の無い日田市をめざす必要があります。
 差別と言っても一言で解決のつかない問題が様々あります。男女・思想信条・人種など最近では労働組合に所属をしていることに対する差別がリストラ・経営合理化の中で行われてきております。このことは労働者の団結権を踏みにじるもので、とても許されるものではありません。
 このように「あらゆる差別をゆるさない」たたかいが労働組合の取り組みに大きくかかわってきている今こそ、すべての労働者は団結して敵の攻撃に反撃していかなければなりません。