【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第11分科会 地域から考える「人権」「平和」

 自治研センター「人権・文化専門部会」は2012年度の活動として、県民人権意識調査項目とリンクさせた県内自治体職員の人権意識調査を行い、検証作業に取り組みました。実施した人権意識調査は、18自治体12,127人中、6,542人(自治体職員回収率53.9%)から回答を得ました。以下に、得られた回答から自治体職員の関心が高かった人権意識の実態について報告します。なお、本意識調査は2009年に大分県が実施した「人権に関する県民意識調査」と同様の質問内容で行っています。



自治体職員の人権意識調査結果の報告


大分県本部/大分県地方自治研究センター・人権文化専門部会

1. 自治体職員と県民の人権意識の違い

 「あなたは、人権に関心がありますか」という問いに対して、自治体職員では、かなり関心がある4.7%、関心がある61.4%、あまり関心がない 31.1%、関心がない2.8%となっており、かなり関心がある・関心があると答えたのは、66.1%でした。
 県民意識調査は、非常に関心がある9.2%、かなり関心がある43.3%、あまり関心がない37.9%、関心がない5.7%、不明(無記入)3.9%となっています。半数以上の人は非常に関心がある・まあ関心があると答えています。これにより、自治体職員と県民では、比較的自治体職員の人権に対する意識が高いことがわかりました。
 しかしながら、自治体職員の「あまり関心がない」、「関心がない」という回答を合わせると33.9%であることから、楽観視できる状況ではないことがわかりました。人権意識の向上を図っていくにはどうすればよいかの検討が必要です。
 意識向上を図るには、関心があるものについて、より関心を持ってもらうようにするか、もしくは関心がないものについて関心をもってもらうことが必要です。より効果的な方法は、関心があることにより関心を持ってもらうこととなります。
 次に自治体職員が関心を持っている人権課題を示します。

2. 自治体職員が関心を持っている人権課題

 次の表で、自治体職員に対し「あなたが関心を持っている人権課題を挙げてください(複数回答可)」という質問を行った回答結果を示します。
 これらから上位3つを挙げると1位は「子ども」22.9%、2位は「障がい者」16.6%、3位は「同和問題(部落差別問題)」15.8%ということがわかりました。
 なお、同様の質問に対する回答で、県民の1位は「障がい者」56.8%、2位は「高齢者」51.7%、3位は「女性」39.0%でした。


  女性 子ども 高齢者 障がい者 同和問題(部落差別問題) アイヌの人々 在日韓国・朝鮮人 外国人 HIV(エイズウィルス)感染者・エイズ患者 ハンセン病患者・元患者
人数
1,010
1,501
892
1,086
1,035
177
527
286
475
432
割合
15.4
22.9
13.6
16.6
15.8
2.7
8.1
4.4
7.3
6.6
 
刑を終えて出所した人 犯罪被害者やその家族 インターネットによる人権侵害(プライバシー侵害や誹謗・中傷) 北朝鮮当局によって拉致された被害者やその家族等 ホームレス 性的指向(同性愛等) 性同一性障がい(生物学的な性と心の性が一致しない) 人身取引(性的搾取(さくしゅ)、強制労働等を目的とした人身取引) 上記のような条件が重なった人に対する重層的差別 その他
人数
402
652
964
486
356
270
552
505
652
342
割合
6.1
10.0
14.7
7.4
5.4
4.1
8.4
7.7
10.0
5.2
※ 分母を6,542人として割合を算出

3. 自治体職員が関心を持っている人権課題を掘り下げる

(1) 人権課題1位「子ども」
 次の表で、自治体職員に対し「今の日本の子どもに関することで人権上問題があると思われるものを選んでください(複数回答可)」という質問に対する回答結果を示します。


  「仲間はずれ」や「無視」、身体への直接攻撃や相手がいやがることをしたり、させたりなど、いじめを行うこと いじめをしている人や、いじめられている人を見て見ぬふりをすること 学校で、教師による体罰が行われていること 親が言うことを聞かない子どもに暴力を加えたり、子どもの世話をしないこと 進学先や就職先などについての子ども本人の希望(意見)を大人が無視すること 学力による評価が優先し、多様な能力が評価されないこと
人数
1,821
1,389
306
1,012
339
663
割合
27.8
21.2
4.7
15.5
5.2
10.1
 
家庭の経済状況が理由で、子どもの自己実現ができないこと 児童買春・児童売春・児童ポルノ等 性的行為や暴力シーンを子どもに見せること その他 特にない わからない
人数
647
815
1,483
213
233
349
割合
9.9
12.5
22.7
3.3
3.6
5.3
※ 分母を6,542人として割合を算出

 自治体職員の1位は「『仲間はずれ』や『無視』、身体への直接攻撃や相手がいやがることをしたり、させたりなど、いじめを行うこと」27.8%、2位は「性的行為や暴力シーンを子どもに見せること」22.7%、3位は「いじめをしている人や、いじめられている人を見て見ぬふりをすること」21.2%でした。
 この結果からわかるように自治体職員は特に「こども」のいじめ問題に対して関心を持っていることがわかりました。なお、これと同様の質問に対し、県民の1位は「『仲間はずれ』や『無視』、身体への直接攻撃や相手がいやがることをしたり、させたりなど、いじめを行うこと」71.4%、2位は「いじめをしている人や、いじめられている人を見て見ぬふりをすること」67.8%、3位は「学力による評価が優先し、多様な能力が評価されないこと」52.2%でした。
 自治体職員も県民も「子ども」のいじめ問題について関心が高いことがわかりました
(参考:自治体職員と県民の意識 ~ 子どもは幸せに暮らしているか ~)
 参考に、次の質問に対する回答結果も示します。
① 今の日本の子どもは家庭では幸せと思いますか
  自治体職員の意識調査では、幸せに過ごしているように思う14.5%、まあ幸せなように思う59.1%、あまり幸せでないように思う14.6%、幸せではないように思う1.7%、わからない10.1%でした。
  なお、県民意識調査では、幸せに過ごしているように思う24.1%、まあ幸せなように思う56.2%、あまり幸せではないように思う12.7%、幸せではないように思う1.8%、わからない5.2%となっています。
② 今の日本の子どもは学校では幸せと思いますか
  自治体職員の意識調査では、幸せに過ごしているように思う10.8%、まあ幸せなように思う58.0%、あまり幸せでないように思う15.4%、幸せではないように思う2.1%、わからない13.7%でした。
  なお、県民意識調査では、幸せに過ごしているように思う15.8%、まあ幸せなように思う53.3%、あまり幸せではないように思う16.0%、幸せではないように思う3.3%、わからない11.7%となっています。
③ 今の日本の子どもは地域(家庭や学校以外)では幸せと思いますか
  自治体職員の意識調査では、幸せに過ごしているように思う10.8%、まあ幸せなように思う55.5%、あまり幸せでないように思う17.0%、幸せではないように思う2.8%、わからない13.9%でした。
  なお、県民意識調査では、幸せに過ごしているように思う16.7%、まあ幸せなように思う55.8%、あまり幸せではないように思う13.8%、幸せではないように思う3.1%、わからない10.6%となっています。

(2) 人権課題2位「障がい者」の人権
 次の表で、自治体職員に対し「今の日本の障がい者に関することで人権上問題があると思われるものを選んでください(複数回答可)」という質問に対する回答結果を示します。


  結婚に反対されること 就職・職場で不利な扱いをされること 差別的な言動をされること 悪徳商法の被害者が多いこと アパート等の住宅への入居が難しいこと
人数
775
1,152
1,019
300
627
割合
11.8
17.6
15.6
4.6
9.6
 
スポーツ・文化活動・地域活動に自由に参加できないこと じろじろ見られたり避けられたりすること 人々の障がい者に対する理解が足りないこと その他 わからない
人数
313
813
1,527
179
756
割合
4.8
12.4
23.3
2.7
11.6
※ 分母を6,542人として割合を算出

 自治体職員の1位は「人々の障がい者に対する理解が足りないこと」23.3%、2位は「就職・職場で不利な扱いをされること」17.6%、3位は「差別的な言動をされること」15.6%でした。
 なお、県民の1位は「人々の障がい者に対する理解が足りないこと」61.6%、2位は「就職・職場で不利な扱いをされること」56.4%、3位は「差別的な言動をされること」42.1%でした。
 複数回答可ということで自治体職員と県民の数値に開きはありますが、上位1位~3位が大分県においては自治体職員と県民で意識が同じことがわかりました。大分県では、1981年の国際障害者年を記念して、世界で初めての「車いすだけのマラソンの国際大会」として「大分国際車いすマラソン大会」を毎年実施してします。大会は、自治体職員のみならず多くの一般市民ボランティアにより運営されています。このような取り組みの継続が調査結果にもあらわれているのではないでしょうか。しかしながら、調査結果どおり、まだまだ人々の障がい者に対する理解が足りないことなどは実態としてあり、まだまだ課題はたくさんあります。そのような中、国では障がい者が自立した生活を送れるようにするための「障害者自立支援法」を「障害者総合支援法」とする法律を成立可決させましたが、この法律に対する批判の声が大きいのも実態です。
(参考:自治体職員と県民の意識 ~ 障害者の人権 ~)
 参考に次の質問に対する回答結果も示します。
① 今の日本で、障がい者の人権は法律や制度の上で保障されていると思いますか
  自治体職員が考えているものの1位は「まあ保障されていると思う」53.0%、2位は「あまり保障されていないと思う」24.1%、3位は「保障されていると思う」10.3%でした
なお、県民が考えているものの1位は「まあ保障されていると思う」43.2%、2位は「あまり保障されていないと思う」27.2%、3位は「保障されていると思う」12.7%でした。
② 今の日本で、障がい者の人権は日常生活で保障されていると思いますか
  自治体職員が考えているものの1位は「まあ保障されていると思う」44.7%、2位は「あまり保障されていないと思う」34.0%、3位は「わからない」11.2%でした。
  なお、県民が考えているものの1位は「まあ保障されていると思う」36.9%、2位は「あまり保障されていないと思う」34.7%、3位は「わからない」11.0%でした。

(3) 人権課題3位「同和問題(部落差別問題)」
 次の表で、自治体職員に対し「同和問題で現在起きていると思うことを選んでください(複数回答可)」という質問に対する回答結果を示します。


  結婚に反対されること 就職・職場で不利な扱いをされること 差別的な言動をされること 差別的な落書きをされること 身元調査をされること
人数
1,965
947
666
549
1,095
割合
30.0
14.5
10.2
8.4
16.7
 
インターネットを利用して差別的な情報を掲載されること その他 特にない わからない  
人数
763
113
406
1,023
 

割合

11.7
1.7
6.2
15.6
 
※ 分母を6,542人として割合を算出

 自治体職員の1位は「結婚に反対されること」30.0%、2位は「身元調査をされること」16.7%、3位は「わからない」15.6%でした。
 なお、県民の1位は「結婚に反対されること」49.2%、2位は「身元調査をされること」33.4%、3位は「差別的な言動をされること」21.1%でした。
 自治体職員の3位に、同和問題について「わからない」という回答が15.6%あるというのは課題として挙げられます。同和問題について、各種学習会の実施が自治体で行われていますが、わかっている人が何度も学習会に参加し、本来参加すべき人が参加していないことも原因と考えられます。
(参考:自治体職員と県民の意識 ~ 同和問題 ~)
 参考に次の質問に対する回答結果も示します。
① 同和地区の人を見下したり、排除しようとする差別意識を持った人がいると思いますか
  自治体職員が考えているものの1位は「差別意識を持っている人はまだ多い」38.8%、2位は「ほとんどの人が差別意識は持っていない」33.8%、3位は「わからない」24.5%でした。
  県民が考えているものの1位は「なかには差別意識を持っている人がいる」31.6%、2位は「ほとんどの人が差別意識は持っていない」29.8%、3位は「わからない」16.2%でした。
② 差別意識は近い将来なくすことができると思いますか
  自治体職員が考えているものの1位は「かなりなくすことができる」52.1%、2位は「なくすことは難しい」43.1%、3位は「完全になくすことができる」4.7%でした。
  なお、県民が考えているものの1位は「かなりなくすことができる」55.9%、2位は「なくすことは難しい」41.0%、3位は「完全になくすことができる」3.0%でした。
③ あなたのお子さんが同和地区の人と結婚するとしたら、あなたはどうしますか(どうすると思いますか)。お子さんがいない方はいるものと仮定して考えてください
  自治体職員が考えているものの1位は「同和地区の人かどうかは関係ない、そのことで反対などしない」53.2%、2位は「できれば同和地区の人でない方がよいが、反対はしない」19.3%、3位は「わからない」18.2%でした。
  なお、県民が考えているものの1位は「同和地区出身は関係なく、そのことで反対はしない」37.7%、2位は「できれば同和地区出身でない方がよいが、反対はしない」22.4%、3位は「わからない」19.5%でした。

4. 人権課題解決にむけ

 大分自治研センターでは、まず手始めに人権課題として一番関心事が高かった「子ども」の人権をキーワードに講演会、グループワークなどを実施しました。しかしながら、自治体職員人権意識調査は、まだ着手したばかりでありこれから詳細に分析、改善につなげていくこととなります。
 また、自治体職員人権意識調査は、この調査そのものが人権意識の向上につながり、住みやすい町づくり、働きやすい職場づくりにつながるものと考えています。複数年に一度実施される県民意識調査実施と連動した調査の実施を行っていきます。
(参考調査結果)

~人権の大切さを多くの人に知ってもらうのは、どんな方法が効果的だと思いますか(複数回答可)~


  講演会や研修会 展示会 広報誌・パンフレット・ポスター テレビ・ラジオ 映画・ビデオ 新聞・雑誌・週刊誌 ワークショップ
割合(自治体職員)
25.3
5.4
6.2
20.7
9.5
10.6
8.8
割合(県民)
44.4
5.7
28.0
60.9
31.0
35.5
11.3
  高齢者や障がい者の疑似体験 高齢者・障がい者・外国人等との交流 インターネット・Eメール 自由な意見の交換ができる会合 その他 わからない  
割合(自治体職員)
11.2
22.2
17.1
9.0
2.8
8.2
 
割合(県民)
19.6
22.8
7.3
20.4
3.9
7.9
 


~ これまで自分の人権が侵害されたと思ったことがありますか(複数回答可) ~

  あらぬ噂、悪口、かげ口 名誉・信用の毀損、侮辱 警察官の不当な取り扱い 暴力、強迫、強要 犯罪、不法行為のぬれぎぬ 悪臭・騒音等の公害 差別待遇 地域などでの仲間はずれ
割合(自治体職員)
29.9
12.7
3.0
3.7
0.9
9.4
2.6
1.5
割合(県民)
63.2
28.3
8.6
10.7
3.4
6.9
21.2
10.9
  使用者による労働強制などの不当な待遇 社会福祉施設での不当な取扱い プライバシーの侵害 ハラスメント ストーカー行為 その他 なんとなく差別されているような感じ 答えたくない
割合(自治体職員)
1.7
5.3
5.4
10.5
1.4
17.1
8.2
9.7
割合(県民)
7.5
0.9
14.3
12.2
5.8
13.3
12.8
3.2