【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第13分科会 地域で再生可能な自然エネルギーを考える

地域資源を活用したエネルギー施策
~「エコのまち」「元気活力あふれる産業のまち」をめざして ~

長野県本部/山ノ内町職員労働組合・総務課

1. はじめに

 山ノ内町は、長野県の北東部、上信越高原国立公園の中心に位置する、四季折々の素晴らしい自然に恵まれた町です。「志賀高原」「北志賀高原」の高原エリアに加え、湯量豊富な温泉地として知られる「湯田中渋温泉郷」エリアを有し、日本を代表する観光地として年間を通じて多くのお客さまをお迎えしています。
 年間の寒暖の差が大きい内陸性気候であること、また、特別豪雪地帯に指定されているように冬期間の降雪量が多いことから、高原エリアは避暑地・スノーリゾートとして、平地においては高品質の果樹生産に適した地象となっており、こうした自然条件を活かした観光業と農業が町の主要産業となっています。
 当町は、2010年4月より過疎地域の指定を受けました。近年、少子化や若者世代の町外転出による人口減少や、人口年齢構成の高齢化が特に進んでおり(2011年3月31日現在の住民基本台帳人口:14,050人、高齢化率:32.6%)、また、産業分野においても、昨今の社会経済情勢の影響を受け、観光地延利用者数や観光消費額の減少、農業従事者の減少と高齢化、遊休荒廃農地の増加が進んでいるなど、まちづくりにおける様々な課題が増大傾向にあります。こうした状況が、地域の活力低下を招いている大きな要因となっていることから、町民や地域との協働により積極的な対策を講じながら、自立のまちづくりを一層推進していく必要があります。
 こうした中、2011年度を初年度とする第5次山ノ内町総合計画、2010年度からの6年間を計画期間とする過疎地域自立促進計画をそれぞれ策定し、少子化・高齢化社会への対応、地域ブランド力の強化と基幹産業の活性化などをまちづくりの重点課題に掲げ、町の将来像「人と自然を育み、次世代へつなげる温もりのあるまち」実現に向けた諸施策に取り組んでいるところです。


2. 取り組みのきっかけと基本理念

 美しく豊かな自然環境に恵まれた当町は、様々な自然からの恩恵を受けて発展を続けてきましたが、今日の地球温暖化問題やエネルギー問題は、このかけがえの無い財産である自然環境のみならず、私たちの日常生活・産業活動に対しても脅威を与えるものとなりつつあります。“環境負荷低減への配慮”という考え方が一層求められるようになってきている時代背景を受け、町としても、豊かな自然環境・安全安心な日常生活・安定した産業活動を今後も維持・発展させていくために、地域資源を活用した自然エネルギー施策を積極的に推進していくこととし、総合計画においても“まちづくり重点プロジェクト”の一つとして位置づけてきました。
 まず、2009年度に、地域内の自然エネルギー賦存量や利用可能量の調査・把握、地域に適した導入推進プロジェクトの検討・具体化などを目的として、「山ノ内町地域新エネルギービジョン(初期ビジョン)」の策定に取り組みました。初期ビジョン策定にあたっては、信州大学工学部から学識経験者として2人の先生方を派遣いただくなどご協力をいただき、また、町内の主要産業である観光業・農業の関係者、公募委員を含む町民代表者、長野県の環境施策担当者など関係者の参画をいただきビジョン策定委員会を組織し、1年間かけて調査検討を行いました。
 策定委員会では、自然エネルギー施策推進にあたっての基本理念について再検討を行いました。1つ目に「自然の恵み(エネルギー)を最大限有効利用するエコのまち」として、町に豊富に賦存する自然エネルギーを極力無駄にせず最大限有効利用することにより、実際に環境負荷の低減を図り地球温暖化防止・自然環境保全・化石燃料節減に貢献していく“エコのまち・やまのうち”をめざしていくこと、また、2つ目に「自然エネルギー施策推進による環境に配慮した元気活力あふれる産業のまち」として、観光や農業をはじめとする町の産業分野において、自然エネルギーの有効利用により環境への配慮を広くアピールしながら他地域との差別化やイメージアップを図るなど、環境に配慮した元気活力ある産業振興に取り組んでいくことを掲げました。なお、これら2つの理念については“自然エネルギー施策推進によりめざす町の将来像”として位置づけるとともに、その将来像のもとに「町の地域特性に合致した自然エネルギーの導入推進」「地域振興に資する自然エネルギーの導入推進」「町民・事業者・行政の協働による自然エネルギーの導入推進」の3つを基本方針とすることを確認しました。
 自然と共存する本町の特性やニーズに合致した自然エネルギーを積極的に推進することにより、実際に環境負荷を軽減していくことをめざすとともに、観光業や農業を中心とした地域産業の振興の観点から推進を図っていくこと、また、この取り組みを契機として、町民・事業者・行政の協働体制を一層強化し、この協働体制のもとに地域に根ざした事業推進を図っていくことなどを確認し、単にエネルギー施策として位置づけるのではなく、まちづくり全般にわたる1つのプロジェクトとして位置づけるべきとの検討結果になりました。


3. 4つの重点プロジェクト


 初期ビジョンでは、町の地域特性(自然条件や社会条件)、自然エネルギー賦存量等の試算結果などを踏まえ、今後さらに重点的に検討を進めていくべきものとして、4つの重点プロジェクトを選定しました。起伏激しい地形と豊富な流水を有効利用する「小水力発電プロジェクト」、町の観光資源でもある温泉と雪を有効利用する「温泉熱利用プロジェクト」と「雪氷熱利用プロジェクト」、また、太陽光発電と太陽熱利用による「太陽エネルギー利用」の4つを選定しました。
 なお、4つの重点プロジェクトの中でも「温泉熱利用」と「雪氷熱利用」については、他地域に無い町特有の賦存エネルギーであること(=地域特性)、貴重な観光資源でもあること(=地域振興)から、将来像や基本方針に合致する自然エネルギーであると位置づけることができ、今後優先的に具体的取り組みを進めていくべきものとしました。以下に、重点プロジェクトごとのこれまでの取り組み経過についてまとめました。
 「温泉熱利用プロジェクト」については、初期ビジョンでの検討内容をさらに詳細化することを目的に、2010年度「温泉熱利用に係る詳細ビジョン」を策定しました。本詳細ビジョンの検討結果に基づき、本年度から温泉熱利用促進事業として具体的取り組みをスタートしています。この10月には、町内の温泉利用関係者を対象とした「温泉熱利用普及拡大セミナー」を開催し、設備メーカーから実際の設備導入事例について紹介いただくとともに、参加者とメーカー担当者の個別相談会を実施しました。また、セミナー開催を契機に、町内の温泉利用施設や温泉引湯住宅において温泉熱を利用した省エネルギー設備等を導入する方に対し、その経費の一部を補助する「温泉熱利用設備導入支援補助金」制度を創設するなど、温泉熱エネルギーのさらなる普及拡大に向けた取り組みを進めています。
 「雪氷熱利用プロジェクト」については、2010年度に「第5回雪の市民会議 in 北信濃」大会を誘致し、『掘り起こそう“北信濃”に眠る雪力+気づいて活かす“雪力”』 をテーマに、公益財団法人雪だるま財団(新潟県上越市安塚区)と共催し、雪を活用した身近な取り組みから国内の先進事例に関する発表他を内容とするシンポジウムを開催し、町内関係者に対する普及啓発を進めました。また、本年度については、温泉熱利用に引き続き「雪氷熱利用に係る詳細ビジョン」策定に取り組んでいます。
 「小水力発電プロジェクト」に係る取り組みとしては、本年8月に、信州大学工学部(長野市)の池田敏彦教授・飯尾昭一郎准教授及び同研究室の学生さんからご支援ご協力をいただき、町内の渋温泉地区において約半月間にわたる「ポータブルジェット水車発電機による小水力発電実証実験」が行われました。この取り組みは、地元住民により組織する「渋湯組」が、地域資源を活かした“エコ観光地”実現に向けた取り組みの一環として自主自発的に実施したもので、発電した電気を、同時開催した観光イベント企画(モンスターハンターポータブル3rd×渋温泉)において有効利用し、その取り組みを広くPRすることにより観光地としての地域活性化を図ることを目的として行われました。初期ビジョン策定の大きな目的の一つである「町民・事業者への普及啓発」について、大きな成果が現れた結果となりました。
 「太陽エネルギー(太陽光発電・太陽熱利用)プロジェクト」に関しては、本年4月から、「住宅用太陽光発電システム設置費補助金」制度を創設しました。


4. 今後の取り組み予定

 次年度以降の具体的取り組みとしては、1つ目に「小水力発電導入可能性調査」の実施を予定しています。4つの重点プロジェクトのうち、本年度までに温泉熱と雪氷熱について詳細ビジョンの策定を進めてきたところですが、これと同様に、小水力発電の事業化と普及拡大に向けた具体的な計画づくりを予定しています。
 2つ目に、これらの詳細ビジョンに基づいた実際の「自然エネルギー施設整備」についても併せて検討していきたいと考えています。“どのような自然エネルギーを利用して、どのような施設をどこに整備して、どのように活用していくのか”また、“誰が主体となって進めていくのか、行政としてどのように携わっていくのか”など、具体的な方向性は定まっていませんが、詳細ビジョンの検討結果を十分踏まえながら、かつ関係者との協議調整を図りつつ、“山ノ内町の自然エネルギー施策のシンボル”となるような拠点施設の整備について検討を進めていきたいと考えています。
 なお、現段階では専ら行政主導により“エコのまちづくり”を推進している状況ですが、今後、地域における自然エネルギー普及拡大を図るためには、基本方針の一つ「協働による自然エネルギー導入推進」に掲げたとおり、地域(町民や町内事業者等)による積極的な施策への関与と、自主的自発的な取り組みを引き出していくことが必要です。そのための環境づくりなど「行政の役割」についてあらためて整理し、効果的な取り組みを展開していく必要があると考えています。本年10月には、「新エネルギー講演会」と題し、小水力発電と雪氷熱利用の専門家をお招きしてご講演いただいたところ、多数の関係者の参加がありました。このような普及啓発活動にも今後積極的に取り組んでいきたいと考えています。
 また、国や県など関係機関においても様々な施策や取り組みが行われていますが、これら機関との協議調整を密にしながら、明確な役割分担のもとで、町として必要かつ効果的な取り組みを選択し、進めていく必要があると考えています。そのための情報収集や関係機関との意見交換、学識経験者とのつながりなども大切にしていきたいと考えています。


5. おわりに

 「地域資源を活用したエネルギー施策」と題して、当町のこれまでの取り組み経過や今後の予定などについてご紹介しましたが、サブタイトルにもあるとおり、本施策については、単にエネルギー分野だけでなく、自然エネルギーを核としたエコのまちづくり、とりわけ産業振興につなげていきたいという思いを常に意識して取り組んできました。今後についても、自然エネルギー施策をまちづくり政策の大きな核と位置づけ、その効果がさまざまな分野へ波及されるような取り組みを進めていきたいと考えています。
 当町では取り組みを始めたばかりであり、他地域と比較しても実績も誇れるものも何もありません。まずは自然エネルギー推進に対する町内の意識醸成に地道に取り組みながら、町民・事業者・行政による協働体制の構築を図り、着実な取り組みを進めていきたいと考えています。