【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第13分科会 地域で再生可能な自然エネルギーを考える

 福島第一原発事故は、地震国日本での原発立地の危険性・廃棄物処理の困難性を露呈し、核燃料サイクル政策の放棄、自治体主導のもと市民・NPO等と連携した地域分散型エネルギー政策の必要性が示されました。
 本レポートでは島根原発から30㌔圏内の住民を対象に実施した意識調査と関係自治体等への要請行動の概要について報告し、脱原発社会創造に向けた取り組みの素材とします。



世論をつかみ地域から『脱原発社会』を
30㌔圏住民への意識調査から見えたこと

島根県本部/島根県本部地方自治研究会

1. 島根原発をめぐる現況と取り組みの経緯

 国の原子力安全委員会は昨年11月、原発等での事故発生時に重点的に防災対策を実施する地域として、現在の基準であるEPZ(原発から半径8~10㌔圏域)をUPZ(原発から30㌔圏域、緊急防護措置区域)に改めるなど新たな指針を設定。「原子力災害対策特別措置法施行令の一部改正(案)」に含めて第180通常国会に提出しました。
 これに先立ち、島根・鳥取両県と島根原発から半径30㌔圏内に位置する6自治体(米子市・境港市・安来市・松江市・雲南市・出雲市)で構成する「原子力防災連絡会議」は昨年10月、住民の避難計画を30㌔圏に拡大して検討を開始し、島根・鳥取両県も島根原発での事故発生時の住民の避難受け入れについて、山口・広島・岡山の3県に協力を要請。前述の6自治体とともに地域防災計画(原子力災害編)の改定・策定作業に着手しました。
 しかしながら、島根原発は国内唯一の県都市立地原発であり、30㌔圏域の人口は島根・鳥取両県で約46万2千人にも及ぶため、避難誘導や交通手段の確保など課題は山積しています。さらに同圏域内には空港・港湾等も存在するため、事故発生時には離島である隠岐島と本土との渡航や物流が途絶えることも懸念されています。
 昨年12月には、立地自治体以外では全国初となる原子力安全協定を鳥取県及び周辺3市(米子市・境港市・出雲市)が中国電力と締結しましたが、同協定の要である事前了解・立ち入り調査等の権限は除外され、従来どおり立地自治体である島根県と松江市での対応とするなど、不十分な内容のまま見切り発車となりました。
 現在、島根原発は1、2号機が定期検査中で停止しており、建設中の3号機はほぼ100%の工事進捗率となっています。島根県知事や松江市長は「福島第一原発事故の全容解明とこれに基づく国の対策・説明」が判断の前提との態度を表明していますが、経済界などからは再稼働や3号機の稼働を求める声が強まっています。
 国の対応は当然のことながら、とりわけ県都市立地の島根原発における防災対策については国に先駆けた取り組みが各自治体には求められています。一方、福島第一原発の廃炉プロセスや廃棄物処理・処分が混迷を極め、エネルギーの政策の転換に向けた国民的議論が始まろうとしている中で、停止中原発の再稼働、原発の新増設・稼働等の判断について、私たちは何より地元・周辺住民を中心とした民意の把握・反映が必要不可欠と考え、30㌔圏域住民への意識調査を実施することとしました。

2. 6回目の意識調査と関係自治体等への要請行動

 島根県本部は1998年3月、中国電力が島根県と鹿島町(現在は松江市)に対して行った「島根原発3号機の増設同意の申し入れ」を機にそれまでの反原発運動を総括し、自治労方針を踏まえ、「①県都市全体が炉心から10㌔圏内に位置する島根原発への県民の不安、事故発生時の広範囲にわたる連携強化の必要性などから、3号機増設は認めない」「②地方(過疎地)へ原発を集中立地させないためにも、消費者・生産者の意識改革、省エネ・節電の推進、新エネルギーの利活用等により、原発に頼らない社会をめざして調査・検討を行う」ことを基本スタンスに、県本部内に原発対策委員会を設置しました。
 この間、58回の委員会を開催しつつ、平和フォーラムしまねや自治労中国地連等と連携し、エネルギー政策学習会や夏場の省エネ月間(今年で15回目)の取り組みを実施。意識調査については、3号機増設に関して計3回(1999年・2000年・2003年)、プルサーマル計画に関して計2回(2006年・2009年)、いずれも松江市民(約3,000人)を対象に実施し、その結果を踏まえ関係自治体や中国電力へ要請行動を行ってきました。
 30㌔圏域住民に対しては初となる6回目の意識調査の結果(概要)と対応は以下のとおりです。


2012島根原子力発電所に関する意識調査について

1)日 程  2012年1月27日(金)~2月16日(木)
2)対 象  米子市・境港市・安来市・松江市・出雲市・雲南市の住民(計10,000人)
3)抽 出  電話帳から無作為抽出
4)主 体  自治労島根県本部・平和フォーラムしまね
5)回答者  4,411人(全体)
         ※【内訳】()は発送内訳
           米子市:1,025(2,300)、境港市:221(500)、安来市:283(600)
           松江市:1,347(3,300)、雲南市:316(600)、出雲市:1,204(2,700)、未回答:16
6)結果概要(全体集計)
① 原子力について『安全と思わない』が68%、『進めるべきではない』が60%、既存の原発について『計画的廃炉で将来はすべて廃炉』が42%。
② 今後の電源開発について『原子力』が3%、『自然エネルギー』が73%。
③ 新たな防災対策重点地域について『知っている』が90%。
④ 福島と同様の事故発生時の避難先について『行政側の指示に従う』が42%、『どうしていいのかわからない』が26%。
⑤ 島根原発周辺の活断層への対応策について『廃炉にする』が48%。
⑥ 1号機再稼働について『賛成』が16%、『反対』が45%、『どちらともいえない』が30%。
⑦ 2号機プルサーマル計画について『賛成』が8%、『反対』が50%、『どちらともいえない』が22%。
⑧ 3号機増設(稼働)について『賛成』が13%、『反対』が55%、『どちらともいえない』が25%。
⑨ 上記⑥~⑧に対する鳥取県、30㌔圏自治体(5市)の了解の必要性について『了解を得るべき』が85%。
7)対 応
① 報道発表(3/23 15時~・しまね自治労会館)
② 県本部組織内・推薦議員への配布(議会対策)
③ 機関紙掲載(自治労しまね、じちろう新聞)
④ 機関会議での報告・発言(県本部単組代表者会議(4/24)、本部中央委員会(5/24~25))


 上記の結果を踏まえ、島根県本部は平和フォーラムしまねや自治労鳥取県本部と連携し、3月27日~5月16日にかけて、島根・鳥取両県と関係自治体(6市)、中国電力に対する要請行動を行いました。その概要は以下のとおりです。


関係自治体等への要請行動について

1)要請事項
① 1、2号機再稼働・3号機稼働等の中止、自然エネルギー導入計画など脱原発プロセスの具体策明示
② 国の責任による活断層調査の実施
③ 実効ある「地域防災計画」の策定と住民への周知
④ 島根県・松江市と差異のない「原子力安全協定」の締結、30㌔圏自治体と電力会社との同協定締結・事前了解の制度化(義務化)
⑤ 自然エネルギー推進による雇用拡大・地域経済の活性化、規制緩和策

2)概要・総括
① 立地県・市は国の動向に言及し、電力会社は国策として原子力政策を進める考えに変わりない。一方で、30㌔圏内の自治体は福島第一原発の事故を教訓に問題意識が高まっており、原子力防災体制の整備、「原子力安全協定」の締結、再稼働等の事前了解など、立地県・市と連携し足並みを揃えた対応を求める声が多数を占めた。これは島根原発周辺にとどまらず、国内すべての原発周辺自治体で共通の課題であることは、大飯原発の実態を見ても明らかである。
② こうした声や前途多難な福島第一原発の廃炉プロセスを踏まえることなく、夏場の電力不足・電気料金の値上げを理由に、「再稼働ありき」で拙速な政治判断に踏み切る政府の対応は容認できず、国が向かうべき方向性を明確にする必要がある。
③ そのため、原発に依存しない社会の実現、自然エネルギーへの政策転換を政府が明確に示す(国会決議など)ことが大前提である。


3. いま私たちに求められること

 「核と人類は共存できない」ということ、そして国民世論の大多数が原発に頼らない社会の実現を求めていることが福島第一原発事故で明確になりました。
 しかし、電力消費者としてこの間、原発に依存してきたことを忘れてはなりません。だからこそ、福島第一原発の事故原因と今後のエネルギー政策などについて、国や電力会社だけの責任として考えるのではなく、国民全体が当事者であるとの意識を持って議論に参画し、政策に反映させていくことこそ、後世に対する我々の責任です。
 そのためにも、まずは国が向かうべき方向性を明確にすることが前提であり、自治労としても政府に対する1,000万人署名行動の取り組みや、10万人集会等に積極的に参画してきました。
 原発は建設・稼働に多額のコスト(人・金・期間)を要し、稼働後も13ヶ月運転と3~4ヶ月の定期検査の繰り返し(非効率)であることから、電力会社はコスト解消に向け、40年超運転など原発をできるだけ長く動かし続けたい(安全性よりも経済性優先)思惑があります。
 コスト論についても、福島第一原発事故以前から「原子力はコスト安」というのが国・電力会社の言い分でした。しかし、明確な資料は示されず、情報公開により提出された資料についても重要な部分は塗りつぶされるなど、意図的な姿勢は今日も変わっていません。そして何より、今回の事故に伴う損害賠償・廃棄物処理・除染等のコストは含まれておらず、試算もされていません。
  今年5月、国内の原発は42年ぶりに全基が停止しましたが、それでも電力は賄えました。国・電力会社は一昨年夏の猛暑をもとにこのままの状態が続けば今夏は電力不足に陥るとの懸念を示し、大飯原発3、4号機を再稼働させましたが、一昨年夏の電力需要が全国的に過去最大であった事実はありません。環境エネルギー政策研究所の調査結果からも明らかです。
 東京電力管内を中心とする昨年夏の計画停電も企業・市民の努力により乗り越えられました。福島第一原発事故以前から国民の省エネ・節電意識は高まっており、事故以降、「脱原発」、再生可能エネルギーへの転換を求める意識も高まっていることから、今夏の節電計画は、7月からの「再生可能エネルギー買取法」施行とも相まって、日本のエネルギー政策転換の契機となるものでした。こうした意識や福島県民の思い、国民世論を無視して、拙速に原発の「再稼働」に傾いた政府の姿勢は断じて容認できません。
 国・電力会社はかねてから「再生可能エネルギーは島国で資源に乏しい日本では『安定供給』の観点からなじまない」と強調し、研究・開発・導入に極めて消極的です。中国電力も同様の見解を示し、立地自治体である島根県や松江市は国の動向に言及するのみであり、県都市立地としての主体的・積極的な対応は今回の一連の取り組みを通じても感じられませんでした。
 2030年時点の総発電量に占める原発比率の割合は、今後も紆余曲折が十分想定され、いつ原子力を基軸とするエネルギー政策に方向転換するのか予断を許さない状況にあります。「再生可能エネルギー買取法」が施行されましたが、買取価格は電気料金に上乗せされるなど矛盾が生じています。発電・送電・小売部門の分割、電力資本の自由化(規制緩和)を行うことにより、国民(消費者)に選択肢が保障されなければ、本格的な『脱原発社会』の実現は困難です。
 国内全基の原発が停止しても安全が確保されている訳ではありませんが、原発を動かすリスクよりも止めるリスクがはるかに小さいことは明らかです。今を逃せばエネルギー政策は転換できません。エネルギーの「安定供給」から「地産地消」(地域分散型エネルギー社会)への転換、そして「再生可能エネルギー」を基軸とした国民に開かれたエネルギー政策への転換へ。自治労として、自治体として市民やNPO等と幅広く連携し、再生可能エネルギーの実用化計画案の作成などの政策提言、家庭や事業所での太陽光をはじめとする自然エネルギー発電の普及活動、省エネ・ピークカットの推進・徹底、集会・デモ行進および請願行動といった大衆行動、国などが開催する意見聴取会への積極的な参加と意見反映などに取り組む必要があると考えます。


≪資料≫ 島根原発周辺の新たな防災対策重点地域



1)30㎞圏内:「緊急防護措置区域」(UPZ)
【人 口】 約46万2千人 ※東海第二原発、浜岡原発に続き、国内で3番目
【自治体】 米子市・境港市・安来市・松江市・雲南市・出雲市

2)50㎞圏内:「放射性ヨウ素対策区域」(PPZ)
【自治体】 (鳥取)日吉津村・大山町・南部町・伯耆町・日南町・日野町・江府町
(島根)大田市・奥出雲町・飯南町

3)避難先割当案:島根県が公表(2012.2.7)、県内4市が同意(2012.2.20)
   【松江市】(対象:約20万6千人)
    (県内)浜田市、益田市、大田市、江津市、奥出雲町、飯南町、川本町、美郷町、
        邑南町、津和野町、吉賀町(収容可能人数:最大約16万人)
    (鳥取)日吉津村、大山町、南部町、伯耆町、日南町、日野町、江府町(同1万人)
    (岡山)岡山市、倉敷市、玉野市、笠岡市、井原市、総社市、高梁市、新見市、
        浅口市、早島町、里庄町、矢掛町、吉備中央町(同16万8千人)
    (広島)尾道市、福山市、府中市、庄原市、神石高原町(同15万1千人)
   【出雲市】(対象:約12万人)
    (県内)出雲市(同5万人)
    (広島)広島市、呉市、大竹市、廿日市市、安芸高田市、江田島市、府中町、
        海田町、熊野町、坂町、安芸太田町、北広島町(同18万人)
   【安来市】(対象:約3万7千人)
    (鳥取)若桜町、智頭町(同5千人)
    (岡山)津山市、備前市、瀬戸内市、赤磐市、真庭市、美作市、和気町、鏡野町、
        勝央町、奈義町、久米南町、美咲町、新庄村、西粟倉村(同8万2千人)
   【雲南市】(対象:約3万4千人)
    (広島)竹原市、三原市、三次市、東広島市、大崎上島町、世羅町(同11万3千人)