【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第1分科会 ~生きる~「いのち」を育む・いかす、支えあう

 「公の施設の指定管理者制度」の本格運用が始まってから2016年春をもって10年が経過した。同制度は、公共施設の運用コストの節減手段としても活用され、指定管理受託団体の雇用する施設職員に非正規雇用=不安定雇用を拡大させるなど、いわゆる「官製ワーキングプア問題」の一因をなすとされている。指定管理者制度をはじめ、自治体事業のアウトソーシング化が多様な形で拡大する状況のもと、これに対する自治体労組の果たすべき役割について、函館市の職員組合の取り組みを例に考える。



指定管理者制度の導入施設の拡大と自治体労組の役割
―― 函館市の取り組みを中心に ――

北海道本部/公益社団法人北海道地方自治研究所・非正規公務労働問題研究会

1. 指定管理者制度本格運用10年の状況

(1) 制度の概要
 2003年9月の「地方自治法」改正で導入が決まり、3年間の準備期間を経て、2006年度より全国の自治体で本格運用が始まった「公の施設の指定管理者制度」(以下、指定管理者制度)は、2016年春をもって本格運用開始から10年が過ぎた。
 指定管理者制度は、文教・スポーツ施設、社会福祉施設、公営住宅などの「公の施設」の管理・運営において、施設の設置者である自治体と民間事業者等との連携をより積極化することにより、「公共サービスの向上」と「経費の節減」の両立をめざすことが目的とされている。
 制度改革を後押ししたのは規制改革・緩和にかかる政府の審議会等の提言であり、「公共施設の管理受託者の民間開放」が目的である。公の施設の管理・運営の方法は、自治体の直営か、自治体出資法人や公共的団体などへの委託に限定されていたのが、指定管理者制度の導入により、委託する場合の受託資格の制約が取り払われ、株式会社やNPO法人のほか、任意団体や地縁団体なども参入が可能になった。

(2) この10年の全国状況
 この10年(2006年4月~2016年3月)を振り返ると、総務省では全国調査を4回(2006年9月1日時点、2009年4月1日時点、2012年4月1日時点、2015年4月1日時点)実施しており、その結果は同省ウェブサイトに公開されている。
 このうち、2016年3月25日付けで公開された最新(上記2015年4月1日時点)の調査結果によると、全国の自治体における指定管理者制度の適用施設数は7万6,788施設に上っている。同調査結果では公の施設の総数が不明のため、導入率(公の施設の総数に占める指定管理者制度の導入施設の割合)は定かではないが、2012年の前回調査の結果(7万4,376施設)に比べ3,312の増となったとされ、導入施設数の拡大状況が見て取れる。あわせて、2015年調査の結果の特徴として、▽指定期間は「3年」、「4年」、「5年」の施設の合計で全体の9割を占めること、▽公募による指定管理者の選定が拡大し、約半数を占めるに至っていること(前回調査43.8%→46.5%)、などが指摘されている。

(3) この10年の道内の状況
 総務省の調査結果に基づき、道内自治体(道庁/札幌市/札幌市以外の市町村)における指定管理者制度の導入状況・推移をまとめたのが図表1である。
 同制度の導入施設の数は、全国的にはこれまで増加の一途を辿っている。道内に限ると、道庁および札幌市については全国の傾向を共有し増加を続けているが、札幌市以外の市町村の合計数では状況が異なる。すなわち、札幌市以外の市町村の場合、その合計数は2009年調査時(5,071施設)をピークにその後減少に転じており、2015年調査では4,967施設まで減少している。これを受け、道内の導入施設数の総計は、2012年調査と2015年調査を比べると、86の減少となっている。
 導入施設数の減少の理由については、別途詳細な調査が必要であるが、導入済み施設の統廃合や、指定管理者に関わる何らかのトラブルの発生などを受けた直営への転換などが考えられる。

<図表1> 道内の指定管理者制度導入施設数の推移
  道庁札幌市札幌市以外
の市町村計
道内計全国計
2006調査2063733,9214,50061,565
2009調査2404065,0715,71770,022
2012調査2634165,0675,74673,476
2015調査2734204,9675,66076,788


2. 指定管理者制度と官製ワーキングプア問題

 総務省は2010年12月28日に「指定管理者制度の運用について」を発出し、同制度の運用状況に鑑み、8項目の運用上の留意点を提示して、各自治体に制度導入のそもそもの趣旨に立ち帰り適切な制度運用に努めるよう求めた。この項目の中には、指定管理者の選定は入札と違い単なる価格競争で決めるべきではないこと、指定管理団体には労働法令を遵守する責務があり、職員の雇用・労働条件へ適切な配慮をすること──が含まれている。
 指定管理者制度導入後に特に焦点化された問題の一つに、指定管理事業を受託した団体に雇用される職員の雇用・労働問題がある。指定管理者制度が、いわゆる「官製ワーキングプア」問題の一角をなすとされる所以である。同制度導入後にこのような問題が深刻化する要因としては、以下の2点が考えられる。
 一つは、指定期間の設定が法によって義務化され、各自治体による制度運用では数年という短いスパンでの更新が定着していることである。自治体が指定管理者に公の施設の管理・運営を行わせる場合、法に基づき指定期間を定めるよう規定されており、一指定期間が終了する度に指定管理者の更新、すなわち、再選定が行われることになる。指定期間は3~5年単位で更新するところが9割以上(2015年総務省調査結果)を占めており、その関係で、次期以降も選定される確実な保障がないことを主な理由として、当該施設の管理・運営のために指定管理団体が独自に雇用する職員を中心に、非正規雇用の職員(臨時・非常勤職員、パート職員、派遣職員など)が増加している。正規職員の採用を抑制し、非正規雇用の職員をもって当面の労働力を確保するというのは、有り体に言えば、人件費コストの縮減の一環であるほか、次期選定に落選した場合のリスクヘッジのためであろう。指定管理者の選定は契約ではなく行政処分であるため、法第234条~第234条の3に定める契約に関する規定が適用されず、最低制限価格制度および低入札価格調査制度の対象外になっている。こうしたことから、自治体の判断によっては、指定管理者の更新ごとに、より人件費の安い事業者を指定管理者に選定することも不可能ではない。
 もう一つは、指定管理者を公募方式をもって選定する施設の拡大である。現行制度上、公募による指定管理者選定は義務化されておらず、非公募(特命)による選定も可能であり、それは各自治体の裁量だが、公募を実施する施設の数は、前出の総務省調査からも読み取れるように、増加傾向にある。公募は非公募に比べ、応募資格面での公平性に勝る半面、指定管理者の選定時、施設管理にかかるコストカットの競争をより強力に惹起する可能性を高める。その中で、指定管理事業に携わる団体職員には人手不足の状況下での過重労働などを、施設職員の雇用・労働条件には非正規雇用の増大などをもたらす可能性がある。
 以上から、指定管理者制度の運用には、「経費の節減」が過剰に追求されると、公共サービスの提供に携わる労働者の賃金・雇用条件を不安定化させ、もう一つの目的である「公共サービスの向上」に悪影響を及ぼす可能性がある。


3. 指定管理者制度と労働組合の役割

(1) 公益社団法人北海道地方自治研究所・非正規公務労働問題研究会の函館市調査
 筆者の所属する公益社団法人北海道地方自治研究所では、2014年度より「非正規公務労働問題研究会」(主査=川村雅則・北海学園大学教授)を設置し、当面の取り組みとして、道内の自治体を対象に、臨時・非常勤職員の雇用・労働条件、組合組織化などの状況について調査を行っている。
 この道内自治体を対象とする調査活動の一環として、最初の調査先に選んだのが函館市である。2014年8月および2015年9月の2回、同市を訪れ、市および市出資団体の非正規雇用職員、すなわち、市役所の臨時・嘱託職員、出資団体の非正規雇用職員などの雇用・労働条件、非正規職員の組合組織化の状況などについて調査を行った。ここでいう「市出資団体」は「一般財団法人函館市住宅都市施設公社」と「公益財団法人函館市文化・スポーツ振興財団」の2団体を指しているが、この2団体が調査対象となった理由については後述する。
 函館市を選定した理由としては、主に以下の2点が挙げられる。
 第一に、市および市出資団体の臨時・嘱託職員の組合組織化への取り組みが早く、1976年に「函館市嘱託臨時職員労働組合」(以下、嘱臨労)が結成されていたことである。嘱臨労は2013年をもって解散し、後継の「函館市公共サービス労働組合」(以下、「函館市公サ労」もしくは「公サ労」)が結成されているが、嘱臨労の40年近い活動期間に蓄積された様々な経験や実績に学びうることが少なくないと考えた。
 第二に、公サ労が指定管理者制度のもとで必要となるであろう労使交渉の方法を実践していることである。公サ労は、後述のとおり、指定管理事業に携わる出資団体の職員を組合員に迎え入れているが、指定管理事業に携わる出資団体職員の雇用・労働条件を維持・向上させるためには、直接的な雇用者である出資団体と交渉するだけでは不十分であり、指定管理者の決定主体である市との間においても交渉が必要になる。この点については後述する。

(2) 函館市公サ労の結成の背景
 函館市公サ労は嘱臨労を前身として結成されたが、両組合の間には大きな違いもある。
 第一に、組合員の加入資格にかかる違いである。嘱臨労の加入資格は、市役所の臨時・嘱託職員と市出資団体の非正規職員であったのに対し、公サ労は出資団体の正規職員(プロパー職員)にも加入資格を認めていることに大きな違いがある。
 プロパー職員が公サ労に加入している市出資団体は、「一般財団法人函館市住宅都市施設公社」と「公益財団法人函館市文化・スポーツ振興財団」の2団体である(第2回調査実施時点=2015年9月現在)。
 両団体とも1980年代末期の設立であり、設立当初は市役所本体から派遣された正規職員(以下、市派遣職員)と、団体自らが雇用する非正規職員の混成状態で出発したが、90年代半ばに始まる市派遣職員の引き揚げと歩調を合わせる形でプロパー職員制度が導入されたことから、これ以降に公社・財団自らが雇用する正規職員が生まれることとなった。しかし、公社および財団のプロパー職員は、職員組合に加入しようと望んでも、市役所本体の職員組合にも嘱臨労にも加入できず、これが長らく課題となっていたところであり、公サ労の成立によってようやく解消された格好である。
 第二に、自治体職員労組のナショナルセンターの一つである自治労への加盟/非加盟の違いである。嘱臨労が自治労への非加盟を貫いたのに対し、公サ労は設立当初から自治労加盟を果たしている。市役所本体にある同系統の職員組合との連携を図る上では、前者より後者の方が取り組みはスムーズであろう。

<図表2> 公社・財団の雇用形態別の職員数
正規 非正規
公社 一般職員 特定職員 事業職員 臨時職員 短時間
勤務職員
18 13 54 17 10
財団 一般職員 高年齢
一般職員
普通契約
職員
臨時職員 短時間
臨時職員
31 41 18 10
 
非正規計 職員数計 非正規率
94 112 83.9
非正規計 職員数計 非正規率
77 108 71.3
※ 時点は、公社が2014年3月31日現在、財団が2014年4月1日現在である。

(3) 函館市の指定管理者制度の導入状況と制度運用の特徴
 2015年4月1日時点において、函館市の公の施設(総数755)のうち指定管理者制度の導入された施設は552である。指定管理者の選定方法は、公募が66、非公募(特例措置)が486という内訳である。公社の指定管理施設は公募2および非公募429、財団の指定管理施設は公募4および非公募10である。
 函館市による指定管理者制度の運用上の特徴の一つは、同制度の導入当初より、公社・財団が法改正前から管理を受託してきた公の施設について、ごく一部を除き、公募による事業者の選定を行わず、管理ノウハウの蓄積などを理由に、非公募で引き続き公社・財団を指定管理者に選定したことにある。
 また、指定管理施設の指定期間は、公募施設が原則5年とされるのに対し、非公募の特例施設は原則3年間とされている。非公募が継続している施設では2015年度から4期目、すなわち、4巡目の指定期間に入っている。
 公社も財団も指定管理事業以外の事業も実施しているが、各年度の収支状況などからも端的に見て取れるとおり、指定管理事業が現行事業総体のうちの大部分を占める点でも共通している。
 一方、2009年12月に策定された『財団法人函館市住宅都市施設公社のあり方』および『財団法人函館市文化・スポーツ振興財団のあり方』には、将来的には指定管理者の選定方法における公募化の拡大が明記されており、この間もすでに、公社・財団が非公募で受託してきた施設の中には、指定期間の更新のタイミングで選定方法が公募に切り替えられ、公社・財団が指定管理から撤退した施設もある。

(4) 指定管理者制度下で求められる労使交渉の枠組み、その応用可能性
 先ほども述べたとおり、嘱臨労では早い段階で非加盟を組織決定していた自治労への加盟が、公サ労の結成とともに実現されている。これにより、労使交渉や要求書の作成などで、市役所職員の自治労系の組合(函館市職)との積極的な連携が可能になった。
 指定管理者事業が最大のウェイトを占める公社・財団の職員にとってみれば、公サ労の重要な意義の一つは、市役所本体の職員組合との連携のもと、市の理事者との間に交渉の経路を持てるようになったことにある。というのも、指定管理事業では、市から指定管理団体に対して支払われる指定管理料の決定権は市側にあるからである。指定管理料の算定には団体職員の人件費分も含まれており、その額の変動は団体職員の賃金や施設職員の雇用条件などに大きく影響する。職員組合と公社・財団の使用者側との間でいくら労使交渉を行おうと、指定管理料の額に関しては団体の使用者側には決定権がないため、労使交渉は市との間で行わなければ内実を持たないということである。
 公サ労と市役所本体の職員組合の連携は、市出資団体の職員組合が主に指定管理料について、市と交渉する枠組みとして機能することが大きな役割の一つである。実際、この間の春闘における公サ労の要求は、公社・財団の各支部のレベルで各団体の使用者に対し個別に出されるだけでなく、公サ労全体としての共通の要求書が市長(市総務部対応)に対しても出されている。指定管理料の維持・改善あるいは減額反対といった要求については、受託団体に共通する要求として市長に対して出されるべき性質のものであり、函館市の公サ労では実際にそのような形で交渉が行われている。
 このような組合交渉の枠組みを「公サ労方式」と呼ぶとすれば、函館市の場合、このアイデアにはモデルとなった先例がある。市の清掃業務を受託する民間事業者の労働組合5団体で構成する「函館地区清掃共闘会議」の取り組みである。同会議は自治労がバックアップし、清掃事業にかかる委託料に関する交渉などは実質的には市役所本体の組合が行っている。
 指定管理者制度が適用され、さらに公募によって指定管理者が選定される施設は増加傾向にあり、指定管理者の受託団体は、自治体の出資団体ばかりでなく、自治体との出資関係のない民間事業者にも拡散していく傾向にある。そうした状況下、函館市における清掃共闘や公サ労で培われた労使交渉のノウハウ等は、指定管理者に限らず、自治体事業のアウトソーシング先で雇用される公共民間労働者の雇用・労働条件を守るための仕組みとしても一定の有効性を持つと思われる。
 この方式の要諦は、指定管理団体の職員やアウトソーシング先事業者の労働者の雇用・労働条件を守るために、市役所本体の職員組合が職員・労働者と市の間に立って積極的な役割を果たし得る枠組みをつくることにあり、そのためにはまず、より広く指定管理団体の職員や公共民間労働者の組合組織化や組合加入を進めていく必要がある。今後の組合組織化の進展と、アウトソーシング先の労働者の雇用・労働条件に対する組合規制の拡充が期待される。

※ 本稿の執筆は、正木浩司(公益社団法人北海道地方自治研究所研究員/非正規公務労働問題研究会事務局)が担当した。