【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第1分科会 ~生きる~「いのち」を育む・いかす、支えあう

 農業の持つ特性を活かし、農業にこだわりながら障がい者就労支援事業を行う「あすなろ倶楽部」。障がい者に対する社会的バリアーが残るなかで、地域に溶け込み、地域の人々の理解を深め、障がいのある人もない人も相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現をめざす取り組みの報告。



農業の持つ力で社会参加、労働の喜び
就労継続支援事業所『あすなろ倶楽部』

富山県本部/富山県地方自治研究センター・農林部会長
あすなろ倶楽部・顧問 藤井 宗一




1. はじめに

 あすなろ倶楽部は障がい者就労継続支援A型・B型事業所です。A型事業は、通常の事業所に雇用されることが困難であって、雇用契約に基づく就労が可能である者に対して行う雇用契約の締結等による就労の機会の提供および生産活動の機会の提供その他の就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練その他の必要な支援事業のことです。B型事業は、通常の事業所に雇用されることが困難であって、雇用契約に基づく就労が困難である者に対して行う就労の機会の提供及び生産活動の機会の提供その他の就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練その他の必要な支援事業のことです。
 あすなろ倶楽部は、障がい者の方々の就労に必要な知識や能力の向上、そのための訓練などは当然のことですが、農業にこだわり、地域に溶け込んでいくこと、地域の活性化に貢献すること、障がい者をめぐるバリアーをなくしていくことなどをめざしています。そうした取り組みを報告します。

2. あすなろ倶楽部の発足

 この事業を始めたオーナーは、富山県滑川市出身です。彼は大阪で会計士事務所を経営しています。彼は普通でいう定年年齢も過ぎたことから、何か地元に貢献したいということや農業に元気がないこと、身内に障がいをもった人がいたこともあり、農業にこだわった障がい者の就労支援をしたいとの思いからこの事業をはじめました。施設長はその高校の同級生であり、「一緒にやろう」ということになり、事業を本格的に始めたのは2015年春からです。
 私も同級生であり、農業を営んでいます。他にも同級生がいろいろな形で協力しています。団塊の世代ですから、何かをやろうと言えば、結構みんな協力してくれる者も多いのです。後述するように他にも多くの方の協力によって成り立っています。

3. 農業へのこだわり

 就労支援事業では、企業の下請け的に割と単純な作業の繰り返しということも多いのですが、あすなろ倶楽部は農業に、農作業にこだわっています。農業は自然を相手にし、生き物を育て、成長する過程です。畑を耕し、種をまき、芽が出た喜び、水をやり、草を取り、肥料を与え、手をかけて、生き物が育っていく様を見て実感する喜び、そして収穫の喜び。自分たちの労働が目に見えた形で表れてきます。そして収穫するだけではなく、販売しなければなりません。人と対面し、会話します。金額の計算もしなければなりません。自分たちの作った野菜などが売れ、収入を得る喜びがあります。働くことの喜びを体で感じて欲しい。と農業にこだわっているのです。
 「『あすなろ倶楽部』は、あしたはヒノキになろう!! ……というおっきな目的をもって活動しています。爽やかな風 を感じ、大地 にしっかりと足をつけて踏ん張り、自然のぬくもり、恵みを感じてもらいたい ということで基本作業は『農業』なのです。」(あすなろ倶楽部パンフレットより)。

4. 地域の農業を少しでも元気にしたい

 農業にこだわるのには、もう一つ理由があります。農産物価格が安く農業は採算性が低い、多くの農家は赤字経営であり、農業後継者もいない。農業に元気がない。耕作放棄地が増え、雑草が生い茂っている。こんな現象を見て、農業を元気にする、地域を元気にすることに少しでも貢献できないか、ということです。
 「あすなろ倶楽部でどれだけのことができるんだ」と思うかもしれません。でも、「障がいを持つ人たちも農業で頑張っている。農業は障がいをもつみなさんを元気にする」ということがあれば、農業の見直しにもつながると思っているのです。

5. 農業の素人が皆さんに支えられて

 あすなろ倶楽部では、障がいを持つ方々と一緒に、じゃがいも、さつまいも、トマト、キュウリ、ニンジン、オクラなど40種類以上の野菜を作っています。
 生き物を育てているので、「今日は暑いから農作業はやめておこう」「今日は雨だからやめておこう」というわけにはいきません。
 また、「お盆くらいはゆっくり休みたい」というわけにもいきません。その間にきゅうりやナスがとてつもなく大きくなってしまったり、野菜が病気にかかってしまったり……ということになりかねませんから。
 特に夏の暑いときは大変です。熱中症にならないように水分補給をしながら体調に気を付けながら、灼熱の太陽のもと、みんな真っ黒になり、汗と土にまみれながらも歯を食いしばりながらも楽しくも頑張っています。
 現在(2016年8月)、利用者はA型が3人、B型が2人の5人とまだまだ小さな事業所ですが、利用者に携わる支援員は、農業経験はゼロ 農家の生まれでもありません。JAの営農指導員に聞いたり、農家の方々に教えてもらったり、栽培本を読んだりしながら、初めての野菜作りに挑戦してきました。
 耕作面積は5反(50アール、5,000m2)。各種野菜1反、じゃがいも3反、シャクヤク1反。支援員は、利用者のみなさんに種まきの仕方や雑草と野菜苗との区別などを個々人に指導し、見守りをしながら、自らも畝作りや草刈りなどを利用者と一緒にしています。

6. 障害者をめぐるバリアー

 知的障がいや精神障がいをはじめ障がいを持つ方々に対する偏見をなくす取り組みは、民間、公的を含め努力されています。しかし、まだまだ偏見は残っています。
 障がい者手帳の申請をしない方も多くいますし、障がいのあることを隠さざるを得ないような環境や意識が残されています。あすなろ倶楽部ではこうしたバリアーを取り除き、障がいのある人もない人も相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を実現していくことが大切と思っています。地域の皆さんに障がいのある方々のことについて理解を深めていただくことが欠かせないと考えています。そのためにも、人目の付く屋外で農作業をし、利用者の皆さんと一緒に地域のイベント等に積極的に出かけています。

7. 障がい者への理解を深める取り組み

(1) イベントへ出かけコロッケ販売
 10月には滑川ほたるいかマラソンに出店、利用者とその親、ボランティアのみなさんの協力で収穫したじゃがいもでコロッケを手作りして販売しました。同様に11月には野菜のトラック市に参加し、収穫野菜を軽トラの荷台に積み込み販売し、手作りコロッケも販売、両会場ともにコロッケは売り切れとなる盛況でした。また、障がい者週間の取り組みとして、滑川市民交流プラザにおいて、収穫野菜の販売もしてきました。

(2) 14歳の挑戦を受け入れ
 14歳の挑戦は、富山県独自の取り組みとして、中学生に職場体験させ、さまざまな経験を積むことを目的に行われています。中学2年生が企業や福祉施設などで5日間就労経験を積むものです。あすなろ倶楽部は市の教育委員会を通じて市内の2中学校に14歳の挑戦を受け入れたい旨の申し入れを行いました。昨年9月には女子中学生2人が就労体験に来ました。その1人がわずか5日間の利用者との作業をやり終えたあとにポツリと"将来障がいのある人たちの役に立つような仕事につきたいかも"と言ってくれたのには感動でした。今年7月には別の中学校から男子中学生が1人来てくれました。暑い炎天下での農作業や市役所での野菜販売を利用者の皆さんと一緒に行いましたが、中学生が来たことで利用者はいつもよりは、張り切っていました。男子中学生は後日お礼の手紙を持参して事業所へ来たり、野菜の収穫にも訪れました。

(3) 学校給食へ
 滑川市の学校給食は地元農産物の利用が5割を超えています。市は食育、地産地消に力を入れており、農家も協力しています。あすなろ倶楽部もジャガイモなどを納入し、協力しています。将来的には、障がい者が作った野菜の給食を学童と障がい者の皆さんが一緒に食べる機会ができればいいな、という思いもあります。市教育委員会主催の「親子で学ぶ食育講座」では、あすなろ倶楽部の農場を訪れ、野菜の収穫体験、「オクラは上を向いているんだ」などと感心しきりでした。

 
(4) エコバッグ作り
 雨が降り、屋外作業ができないときには、新聞紙でエコバッグ作りなどもしています。エコバッグは市内の幼稚園、保育所に寄付し、子どもたちの買い物ごっこなどに利用してもらっています。また、ジャガイモなどの野菜販売時にも買い物バッグとして利用しています。一人暮らしの老人が増えていることなどもあり、地域のつながり、きずなを大切にしようと各町内の公民館で「ふれあいサロン」がもたれていますが、そうした場でエコバッグ作りの指導なども行い、障がい者への理解を深めています。
【資料1】

 

(5) 田植えにも参加、市役所では野菜販売
 アジア・アフリカ支援米の田植えや稲刈りにも参加し、保育園児や老人会の皆さんと一緒になって、にぎやかに活動しています。春から秋にかけては、滑川市役所の協力でお昼の時間に市役所内で富山湾の深層水で育てた「深層水トマト」などの収穫野菜の販売をさせてもらっています。新聞報道を聞きつけ、遠くから買いに来てくださる方もいらっしゃり、感動しています。また、保育園児を招き、障がい者の皆さんが育てたイモ掘も楽しんでいます。
【資料2】【資料3】

 

(6) "竜宮のつどい""収穫祭"
 滑川市は"ほたるいか"が名産、あすなろ倶楽部を応援する方々で実行委員会を結成し、今年5月"竜宮のつどい"を開催しました。漁業協同組合女性部長さんの献立で、食べたことのないほたるいか料理を堪能。
 10月には、あすなろ倶楽部初めての収穫祭を行います。障がい者の皆さんが作った野菜の収穫祭です。詳細は今詰めているところです。多くの皆さんで収穫を祝いたいと張り切っています。

(7) 畑の管理に細心の注意
 とりわけ気を付けているのは、畑の管理です。地域のみなさんから「草ぼうぼうにして、野菜を作っているのか、草を作っているのか」「障がい者のやることだ」などと後ろ指をさされないように気をつけています。甘えはゆるされませんから。

(8) 農業体験ツアー
 来年夏の実施に向けて、子どもたちの農業体験ツアーをあすなろ倶楽部近くに事務所を構える旅行会社と企画中です。旅行会社は需要があると乗り気です。障がい者が育てた野菜の収穫体験をしてもらう。海や川、山も楽しんでもらう。富山県は水深1,000メートルの富山湾から3,000メートルの北アルプスまであり、その間を全国有数の急流河川が走る。幸い滑川市は今年遊覧船を購入し、春から秋まで富山湾のクルージングを実施しています。募集に当たって、滑川市や富山県の素晴らしさをアピールし、実際に体験してもらい地域の活性化の一助ともなるのではないか、と考えています。農業体験と言えば、数年前東京の塾に通う中学生2人が筆者の家にきました。父親に「農村の原体験」をしてくるように言われ、筆者の田んぼで田植えをしていきました。また、保育園の園長さんから、園児に田んぼに入り泥の感触を経験させたい、そのため田植えをしたいし、また稲刈りも経験させたいと筆者に申し出がありました。それならばとアジア・アフリカ支援米田で田植えと稲刈りをしています。10年続いています。農業体験ツアーの需要は十分にあると思われます。

8. 利用者の積極性

 利用者が農業を始めて、暑い夏を過ぎたころからわずかばかりですが興味を示し、積極性も出てきて変化も見受けられました。
 その変化とは、物を作る、育てるそして収穫の喜びをわずかながらでも知った、感じ始めた時からです。私の目からみても農作業に携わる意識が変わったのを感じています。自分たちで作った野菜販売では大きな声も出るようになり、積極性が出てきました。
 なによりも畑にいるときが明るく、楽しそうなのが大きな収穫です。

 

9. 応援団(サポーター)をつくりたい

 今日まで、JAの営農指導員や市役所農林課、福祉課、そして地域の人々のお世話になりながら取り組んできています。
 今、冬場でも農業ができるようにハウスを作りたいとも思っています。
 いずれにしても、A型・B型の両方をやっており、利用者の個別指導が必要な事、イベントに参加することなどを含めて、人手はどれだけあっても足りない状況であり、かといって、もともと補助金をいただいても採算割れしているので、これ以上人を雇うのは困難です。
 そうしたことや、障がい者の事に対する理解を広めることも含めて応援団を作りたいと思っているところです。応援団は、畑作業やイベントでの協力、知恵を貸していただく、精神的協力でも結構と思っているところです。まだまだ多くの課題がありますが、楽しく元気にやっていきたいと思っているところです。

10. 将来は、利用者の適正、ニーズにあった就労を

 今、私たちがやっているのは農業ですが、農業以外の就労に適している人や農業以外で関心がありやってみたいという人がいます。
 さまざまな就労形態の事業者が協力して、できれば一か所に集まり、障がい者のみなさんが自分の適した就労につけるようにできたらいいなと思っているところですが、まだまだ先の事になるようです。

11. 自治研運動との接点を

 富山県地方自治研究センターの前理事長・竹川慎吾さん(富山大学名誉教授)は、3つの「自治研」ということをおっしゃっています。第1は、自治体職場における自治研活動。自分たちの公務労働の意義、住民に向けた活動になっているのか点検し、住民と連携すること。第2は、自治研センターの活動、このセンターの活動は、職場自治研に役立つ情報や知識を提供するのが本来の活動。第3は、全国の自治研活動に学ぶこと。そして、基本は職場自治研にあると。
 あすなろ倶楽部の活動も全国や北信地連の自治研活動に学びながら、職場自治研との接点も模索しながら進めていきたいと思っているところです。




「あすなろ倶楽部」連絡先
 富山県滑川市上小泉1201番地1(パスタ隣)
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 平日 午前9時~午後5時