【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第1分科会 ~生きる~「いのち」を育む・いかす、支えあう

 配偶者・交際相手等から受ける暴力(DV)被害者の相談支援を民間支援と行政支援の両方で経験してきました。また岡山県と広島県と2つの県での支援を経験しました。救われるべき「生きた命」が地域間格差で被害者の支援に格差が生まれる事を仕事で目の当たりにしました。相談員の雇用問題・女性の貧困など先進県との違い、何が「課題」なのか、それらを修正する為に行うべき事は何かについて提言します。



竹原市でDV専門相談員をして見えてきた事
~その後~

広島県本部/竹原市職員労働組合 藍野 美佳

1. はじめに

 まず、みなさんはDVと言う言葉をご存知でしょうか?
 DVとは「ドメスティック・バイオレンス」の事をいいます。配偶者等からの暴力をDVといいます。最近はデートDVと言う若年層の交際相手からの暴力・ストーカー行為から殺人事件になる事件が多発しています。DVは人権侵害であり重大な犯罪行為です。DVには様々な暴力の種類があります。

●暴力の種類(DVの定義)
身体的暴力……… 殴る・蹴る・首を絞める・押さえつける・物を投げつける・刃物を突きつける
髪を引っ張り引きずり回す・殴るふりをする・怪我をしているのに病院に行かせない
精神的暴力……… 脅す・大声でののしる・無視をする・大切にしている物を壊す、捨てる
経済的暴力……… 生活費を渡さない・お金を要求する・働かせない・収入を取り上げる・多額の借金をする、させる
性的暴力……… 無理やり性行為をする・避妊をしない・見たくない映像を見せ同じ行為を要する・売春を強要する
社会的暴力……… メールや電話をチェックする・行動を監視し制限をする・家族友人との付き合いを嫌がり制限する
リベンジポルノ……… 元配偶者・元交際相手の裸の写真や動画など、相手が公開するつもりのない私的な性的画像を無断でインターネットに公開する  

 2000年に「ストーカー規制法」2001年には「DV防止法」が制定され、現在3度目の法改正が行われました。このことによりDV被害者は法に守られることになりました。私の仕事は被害者の方の話をお聞きし、法律に基づいた支援方法を考え情報提供をすることです。支援にはその人に合った方法があり、みなさんが全て同じ内容の支援方法ではありません。その人に適した方法を考えお伝えし、最終的には当事者本人の自己決定を尊重します。加害者から逃げる人、加害者の元に戻る人様々ですが、全てを受け入れ長く繋がり続ける信頼関係も作っていきます。
 私は竹原市で「DV専門相談員」として2013年6月から働いています。2014年に自治研に参加しました。私が自治研に参加しようと思ったのは、岡山のDV民間シェルターで働きその後、竹原で相談・支援業務をする中、岡山で出来ていた、国のガイドラインに沿った支援が出来ない。と言う壁にぶち当たったからです。出来るはずの支援が出来ず、当事者の毎日流す涙を見て、自分の無力さを感じました。なぜ、命を掛けて生きてきて、命を掛けて夫の元からやっと逃げ、保護命令という司法に守られたDV被害者が、広島に住んでいるというだけで、受ける事の出来る行政支援が受ける事が出来ない。この被害者が岡山に住んでいたなら……なぜ? と感じた事・怒り・悲しみ・自分に出来る事は何か? と考えていました。そんな時に自治研での発表をする機会を与えてもらい、その場で広島の現状を伝えようと思いました。多くの人達に伝え、考えてもらいたかったからです。その自治研の原稿は佐賀で行われた全国大会にて発言をする時間を設けてもらいました。今回はその後の変化や新たな課題をまとめました。


2. 新しく動きだした事

 この原稿を発表後、広島県内の議員の人たちが問題意識を感じてくれました。竹原市職労・連合地協の取り組みの中で原稿を広島県選出の連合推薦国会議員に手渡し、広島の現状を伝えに行きました。そして一番の大きな動きが、今まで広島県内で「DV」に対し問題意識を持ちながら繋がらなかった人達が繋がり、「広島県DV対策研究会」を発足しました。メンバーは大学准教授・司法関係・医師・民間シェルター・相談員・支援者などです。定期的に勉強会を行い様々な課題に対し、様々な活動を行いました。

(1) DV対策勉強会
 6月22日の自治研広島集会での、発表を受け、町議・市義・県議がもう少しDVについて知りたいと言ってくれた事を受け、まず4回の設定で議員対象の勉強会を開催しました。

内     容
第一回
12/1
自治労会館
ドメスティック・バイオレンスとは。基本的な支援や対策の枠組み
報告者:北仲千里(広島大学ハラスメント相談室准教授NPO法人全国女性シェルターネット共同代表)
1回目の勉強会でみえた事
・参加していた町議が「自分の町でも本当にそんな事があるのか? DVについて何も知識が無かったので驚くばかりだった」
・相談員からは当事者自身が、自分がDVの被害者である認識がない。せっかく、他機関から、繋がり電話を掛けてきても、当事者本人が「私は何を話せば良いのですか?」と、戸惑う。正しいDVについての知識を伝える啓発が必要。
第二回
12/8
自治労会館
広島の取り組みの現状と課題
報告者:野曽原悦子弁護士、民間シェルター
2回目の勉強会でみえた事
・DV案件で弁護士が介入するタイミングや弁護士として出来る事、出来ない事がある。
・DV支援をする為には行政・民間など多くの機関の連携が必要不可欠であるにもかかわらず、民間が財政難の為、閉鎖の危機にある。
第三回
12/15
自治労会館
国や他の都道府県の対策の動向
報告者:近藤恵子(NPO法人全国女性シェルターネット理事・前共同代表)
・DV支援を行う際に、国のガイドラインがある。また婦人保護ガイドラインもこの度、新しく出来上がった。広島県はそのガイドラインに沿った支援が出来ているか? 
・他県の支援内容を知る。(北海道方式)岡山・長崎・鳥取など
・国の動き(自立支援モデル事業)
第四回
12/22
自治労会館
性暴力、ストーカー問題の概要と求められる支援
報告者:北仲千里
・性暴力の基礎知識
・ワンストップセンター設置への動き

 上記、勉強会には様々な党派の議員や弁護士、裁判所関係者、医療関係者、行政職員などが参加しました。

(2) 県議会質問
 組織内議員の宮県議の協力を経て、2015年3月3日の広島県の定例会議で桑木県議がDVに対しての質問をしました。広島県警本部長からの回答では課題であった「110番緊急通報システム」を積極的に行うと回答がありました。このシステムは被害者が自分の携帯電話番号を事前に登録するだけで危険を感じた時、110番をする事により瞬時に被害者情報とGPSにより被害者の居場所が特定され、警察が被害者の元に駈けつける事が出来るというシステムです。このシステムを受け付けてもらえる所と受け付けてもらえない所の地域間格差がありました。このシステムに登録されているだけで、被害者は「守られている。頑張ろう。」と気持ちを強く持つ事ができます。同時に広島県に対しても質問がされ、回答はありました。その回答は改善されるべき点がいくつかありましたが、これから広島県で取り組まれる事を期待したいと思います。

(3) 性暴力被害者ワンストップセンターに対する要望書提出
 性暴力被害者がワンストップで救済を受ける事ができる「レイプクライスセンター(ワンストップセンター)」を全国的に設置するように国が動き始めました。広島県でも数年後を目標に設置する予定ではありますが、多くの課題があります。この課題を整理し、日本で初めての「病院拠点型ワンストップセンター」を立ち上げた大阪阪南市の「SACHICO」代表である医師加藤治子さんを講師に講演会を開催しました。講演会の主催は他団体でしたが、講師依頼・接待・準備・会場運営を「DV対策研究会」が協力団体として行いました。
 この講演会の後に「広島で性暴力を考える会」として多くの人が集まり勉強会と今後の対策を話し合いました。結果、県知事あてに要望書を提出する事がきまりました。2015年6月26日(金)に要望書を提出しました。そして翌日の中国新聞の記事に掲載されました。
 そして広島県は様々な取り組みを行い、中国地方初の「病院拠点型ワンストップセンター」をめざし開設する方向性を決定しました。これは画期的な事です。現在はこの開設に向かい関係者の人たちが試行錯誤されています。あらゆる性暴力被害者が救済される被害者のためのセンターになることを強く望みます。
中国新聞記事要望書提出
                     

(4) 一時保護削減案要望
 少しずつですが、広島県が先進県に近づく取り組みが行われていると思っている時、中国新聞の記事に広島県で「DV被害者の一時保護削減案」が持ち上がっている事を知りました。
 この記事を見て「DV対策研究会」と「全国シェルターネット」より撤回の要望書を提出しました。
 要望書提出後、広島県から「一時保護の数値目標設定は撤回し、新たな対案を検討する」と連絡がありました。市民の声、支援者の声が県に届いたと思いました。広島県も色々考え、意見を聞き入れ、模索しながら取り組んでいると感じています。


3. 変わらなかった事と新たな課題

(1) 地域間格差・二次被害
 国の「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護のための施策に関する基本的な方針」の中には「被害者の立場に立った切れ目のない支援」「民間団体と支援センターが必要に応じ、機動的に連携を図りながら対応する事が必要である」「基本方針を基に地域の実情に合った適切な役割分担となるよう、あらかじめ協議することが必要である」
という文が入っています。これは行政中心の枠組ではなく、当事者中心の枠組で支援をするという事であり、また喧嘩をしないでそれぞれの役割を持ち支援策を作りなさいという事です。国のガイドラインがあるにもかかわらず、全国的にDV支援に地域間格差があるのが現状です。そこで2014年3月に「婦人相談所ガイドライン」が策定されました。更に2015年3月に厚生労働省より「婦人相談員・相談・支援指針」が策定されました。

『婦人相談所ガイドライン』とは
 「婦人保護事業の課題に関する検討会のこれまでの議論の整理」において婦人相談所の役割についての見直しが指摘され、婦人相談所の対応の違いによって、受けるべき支援サービスの内容に格差が生じないよう、全国の婦人相談所が実施する業務内容をあらためて明確化するとともに、支援の均等化・標準化を図るため、全国共通の指標となるガイドラインを策定。(2013年度の研究事業として、2014年3月31日発出)

『婦人相談員相談・支援指針』とは
 全国の市区に配置されている婦人相談員の業務を踏まえ、その専門性を確保する方策として、地域によって婦人相談員の対応が異なり、それによって相談・支援の内容に格差が生じないように、婦人相談員が実施する業務内容や支援サービスについて改めて明確にするとともに、切れ目ない相談・支援の質の向上、業務務の均等化・標準化を図るために本指針を策定。(2014年度の厚労省研究事業の一環として、婦人相談員・支援策定ワーキングチーム名で、各都道府県に配布。)

 指針にはDVだけではなく、様々な困難課題を抱えた女性の支援方法が明記されています。また相談員の専門性のあり方・雇用の安定・保証・研修制度・相談員のスーパーバイズの必要性などが明記されています。全国の相談員は1,295人でその中の1,040人の8割が非常勤です。相談員は年数をかけてスキルを上げていきます。国からは「年数による雇い止め」をする事の無いよう通知がされたにもかかわらず、非常勤職の決まりでスキルある相談員が退職をせざるを得なくなった地域もあるようです。また自治体に対して、
●婦人保護事業への認識・理解の促進
●女性相談の組織的対応の強化
●婦人相談員の権限の明確化
が明記されています。この指針が策定された事で、相談員は最低ラインの支援方法を知り被害者に情報提供できます。ですが指針があるにもかかわらず、婦人相談員には権限なく、権限のある正規職員が支援の指針を知らない為、二次加害や支援が出来ないといった事がいまだに変わっていない地域もあります。

【実 例】
 ○○市では相談員が孤立しており困難事例が多く、相談員から私の所にアドバイスを求めて電話がありました。様々な課題を抱えた被害者で相談員が一人で動くことは無理だと思う事案でした。関係部署と連携を取った組織としての支援が望ましい事だと伝えましたが、相談員から返ってきた言葉は「上司が臨時給付金の手続きの方で忙しいから話が出来ない。他の課と連携はとれない。」でした。DV被害者の多くは同伴児童がいます。子ども関係の課との連携は必要不可欠です。ですがその市では子ども関係の課との連携はとれないとの事でした。相談員の苦悩の叫びを何度も聞きました。
 また別の事例ですが、「保護命令」の申し立て(2回目)をする際に必要な相手方の住民票の取得の為の被害者の同行支援をしました。被害者が手続きをする中で、「保護命令の申し立て書」を見せて欲しいと職員に言われました。そして窓口で極めてプライバシーな内容が書きこまれている「申し立て書」を職員はカウンターの上で広げて読む、被害者が見える所で何人もの職員が「申し立て書」を囲み読む、コピーをとる事の許可を得るなどしました。私がそんな事をするのはあり得ない事だ、と主張しても聞き入れて貰える事はありません。いたたまれなくなった被害者本人が「この申し立て書の中には私の個人情報がたくさんありますが、どこまで読めば気がすみますか? コピーもどれだけとりますか?」と言いました。職員は「鑑(表表紙)だけでいいです。」と答えました。知識が無い事で対応する事が被害者にとって、どんなに苦痛な事が分かって下さい。
 その○○市は外国籍の女性の相談が比較的、多いそうです。私がアドバイスを求められた数件の事案も全て外国籍の被害者でした。外国籍の被害者の支援には特別な配慮を必要とします。外国籍の多くの女性は自立するまでに時間と労力が必要です。夫の元から逃げることで自立が難しい為、夫に頼らなくては日本での生活は困難だと感じ帰ってしまう事はよくあることです。自立をするまで途切れない細かいサポートが必要とされます。夫に頼らなくても自立する方法があると被害者が理解出来た時、少し前に進む事ができます。その情報提供をしても、本人が決心を固めるまでには時間が必要な場合もあります。相談員は時間が掛かっても、繋がり続け信頼関係を作っていきます。夫の元に帰っても決して被害者に罪悪感を持たせないよう「あなたは一人ではない。いつでも待っている。」とメッセージを伝えます。そして決心がついた時、出来る支援をします。ある時、○○市在住の外国籍の被害者が竹原市の知人に助けを求めて来ました。そして私と繋がりました。○○市との連携を求めましたが○○市は動いてくれませんでした。本人が相談に来るのを待っているとのスタンスでした。被害者の親子は数年間、○○市と繋がりがあり課題のある家庭である事を○○市は把握していました。一度は夫から逃げましたが、自立の難しさから夫の元へ帰っていた経緯がありました。言葉がほとんど通じない事も把握していました。その被害者は○○市をとても恐がっていました。竹原市が被害者親子と共に○○市に行きました。○○市に行き、面談の初めの言葉が「あなたは、夫の所から逃げたり、帰ったり何回もしているよね? なぜ? 今回は帰らないと言えるの?」でした。この初めの一言で被害者の心は折れてしまいました。私たちがサポートしながら○○市と話をしていると○○市は「そんなに言われるなら竹原市に住民票を移してそちらで支援すれば良いのではないですか?」と言われたのです。DV被害者は原則、住民票は動かしません。また生活保護の申請など日本国籍の人は住民票地では無く居所で申請出来ますが、外国籍の人は居所では無く、在留カードに書かれている住所地で行うようになっています。○○市を無くしてこの人の支援は出来ないのです。帰りの車の中で彼女は「○○市さん。厳しい。恐い。いつも私達の事、何か悪い事してないか? と疑って話してくる。目を見れば分かる。今までずっとそうだった。行く所の市役所、みんな私達を恐い目で見てきた」と話されました。そして「私の友達で困っている人がたくさんいる。でも○○市さんに相談しても、『あなた達に出すお金はない』と言われる。困っている人助けて欲しい」と話してくれました。この被害者の人は最終的に県に協力して頂き、○○市と連携を取り、現在は安全な場所でサポートを受けながら自立に向かい生活を始めました。この事案は本人の外国籍の人への偏見、差別、生き難さを知って欲しいとの思いがあり、承諾を受け書きました。○○市に限った事ではないと思います。相談員だけではないと思います。一人ひとりが外国籍・障がい者・LGBT(多様な性)・困窮者など特別な配慮を必要とする人に対して、少し考えて思いやりを持って対応をする事により、二次被害や重大な出来事から回避できる事に繋がれば良いと思います。また相談員としっかり連携をとる必要があると感じます。

(2) 女性の貧困と自立の難しさ
広島県におけるひとり親家庭の現状
母子家庭の就業状況
区  分 常用勤労者 臨時・パート
2004年度H1638.3%37.0%
2009年度H2137.7%42.2%
2014年度H2641.3%33.7%
※広島県が実施した母子家庭等に対する自立支援施策重要調査より抜粋

ひとり親世帯の平均収入金額
区  分 母子世帯の収入 父子世帯の収入
2005年 2010年 2005年 2010年
平均世帯人数3.30人4.02人
平均収入213万円223万円421万円380万円
就労収入171万円181万円398万円360万円
※2011年度全国母子世帯等調査による全国値より抜粋

 上記の表から分かる事は母子家庭の雇用状況は「臨時・パート」から「常用勤労」へと数字は増加していますが、就労収入自体は200万円以下という事です。父子のひとり親に関しては就労収入360万円と母子に比べ倍もあります。母子家庭の8割以上が就業しているにもかかわらず平均収入250万円以下が76.1%となっています。35.7%の母子家庭は病気で就労が出来ない状況です。母子家庭の母は生活する為に安定した仕事に就労する。が収入は十分でない為、人によってはアルバイトをして家計を補ってる。母子家庭が貧困であるということは子どもも貧困に繋がり、お金が無くあきらめた事があるだろうと思います。この調査結果はひとり親家庭を対象にしましたが、国の調査では人が一人自立するためには平均約300万円のお金が必要であるとしています。女性一人が300万円を稼ぐのは至難の業です。母子家庭の母が人並みに稼ぐという事は寝ずに働くという事に等しいと思います。私自身が母子家庭ですが、相談員の仕事だけでは生活が出来ないので、毎日相談員の仕事が終わると、そのままアルバイトに行っています。この雇用の変化は前回の自治研からは何もかわっていません。DV被害者親子は暴力により、安全・安心な生活が出来る様になっても、身体・精神と様々な課題を抱えている人は少なくありません。私が支援している人も体調が悪く、思うように仕事が出来ない。子どもも不登校になりがちだったり、問題行動を起こし、学校から連絡がはいり心配事が多く、思うように仕事が継続できなくなる傾向にあります。DV被害者の母子家庭は上記の調査結果より、収入は少ないと思います。


4. 竹原市の取り組みと現状

 竹原市では数年前にDVによる殺人事件が1件、殺人未遂事件が1件ありました。これを受け「竹原市DV防止対策関係機関連絡会議」を立ち上げました。会議のメンバーは庁内の各課より・教育委員会・竹原医師会・人権擁護委員会・法務局・竹原警察署・社会協議福祉会・地域包括センター・広島県西部こども家庭センターから、各代表委員を選任してもらい会議を行いました。1回目の会議の時、私はまだ雇用されていなかったので内容は分かりませんが、その会議は1回目が行われてから、開催される事はありませんでした。私が雇用されDVに対する啓発活動を行った結果、竹原でのDVに関する相談件数が増加しました。DV支援は相談員一人が出来るものではありません。関係機関と連携が必要不可欠です。再度関係機関が連携をとる事の必要性を感じ一昨年・昨年と「竹原市DV防止連絡会議」が開催されました。その会議ではそれぞれの立場からの取り組み状況や傾向・困っている事などを情報交換しました。そして竹原でDV事案に遭遇した時の連携の取り方について共通認識を確認しました。中でも大きな取り組みが竹原市医師会より竹原市内の病院全てにDVのチェックリストの設置と病院におけるマニュアルの配布が行われた事です。
 庁内では事案があると、迅速に関係部署が集まり、それぞれの立場で出来る支援を役割分担して行います。情報を一本化する事でスムーズな支援が出来るようになりました。出来るだけ被害者の負担の軽減をするようにしています。このワンストップサービスは3年前に比べると大変スムーズに行えるようになりました。今では職員が自分の担当課で出来る最新の支援策を教えてくれます。私は職員の人に助けられ支援が出来ています。

竹原市の相談件数
年 度 総 数 面 接 電 話
2012年度17910772
2013年度19512273
2014年度363198165
2015年度422196226

 上記の表にありますように、竹原市での相談件数は年々、増加の一途をたどっています。

広島県内婦人相談員設置市 相談受付件数
  人 口 2012年度(件) 2013年度(件) 2014年度(件) 2015年度(件)
広島市約120万1,3159481,173966
呉市約23万309227290221
竹原市約2.8万179195363422
三原市約9.7万219436457444
尾道市約14万320229169241
福山市約46万1,4271,2699461,026
三次市約5.3万11614390241
庄原市約3.7万197360260369

 上記の表は、婦人相談員が受けた相談件数でDV以外の様々な相談も含みます。

相談件数 DV相談件数
広島市 1,173980
呉市 29043
竹原市 363352
三原市 45773
尾道市 16919
福山市 946946
三次市 9046
庄原市 26048

 上記の表は2014年度の婦人相談員が受けたDV相談件数です。それぞれの市により相談件数の数とDV相談の数の違いがあります。竹原市を例にすると2013年度までは相談員の設置が無かった為、DV相談自体数は少ない状況でした。そんな中でDV殺人があったのも事実です。2013年6月から私が相談員として設置され、まず様々な啓発活動を行った結果、潜在化されていたDV被害が顕在化され、上記の数になったかと考えます。数の違いこそありますが、婦人相談員が一人で上記の相談件数を受けている事は同じです。DV相談に関しては当事者・親族・支援者など様々な人の命が掛かった問題の場合もあります。専門的な知識を要します。今後の取り組みとして、相談員同士の横のつながりを作り定期的に集まり、情報交換や勉強会などを行い相談員がバーンアウトを予防できる環境を作りたいです。最初は少ない人数からのスタートとなりますが、また職務外の活動になりますが、この取り組みを定着していき実績を作り、業務での活動にする事が私の目標です。


5. 最後に……

 DV専門相談員として行政で働く私について……
 3年前、岡山市に住んでいた私は竹原市に相談員として来ました。23年間夫からのDVを受けていた私は岡山市で支援を受け自立しました。そして支援をしてくれた民間シェルターで3年間働きました。岡山市で相談員をしたいと思いましたが求人がありませんでした。竹原市が「DV専門相談員」を求めていると話を聞いた時、私は悩みました。3人いる子どもの2人がまだ学生だったからです。次女に関しては高校に入学する年でした。私に竹原市に行く背中を押したのは子ども達でした。「自分達のような思いをしている人を助けてあげて。悩む必要はない。」と言ってくれました。そしてWワークをしながら岡山と竹原を行き来する生活が始まりました。2重生活、その生活を維持するためのWワーク、思うように進まない仕事、困難事例の多さ、知り合いがいない為の孤独感とのたたかいでした。そして私は体調を崩しました。医師から就労不能の診断をされました。仕事に復帰してからも生活に変化はありませんでした。今年の3月、高校を卒業した次女が竹原市に来て生活を共にする事になりました。そんな中「お母さんって家にいる時間って無いよな。寝るだけの家よな。」と言いました。朝9時に市役所に仕事に行き、そのままアルバイトをして家に帰る生活をしているからです。事実、仕事の内容は最近の傾向として、DV事案が世代間に渡り、問題が複合化しており、解決に向けての支援方法が一つの事案の中に多くなってきた事や、一日に何人もの支援を掛け持ちしていました。どんどん仕事の内容が大変になっていきました。相談員の仕事が終わり、一息つく間もなくアルバイトに行くという生活でした。
 相談件数が増えるにつれ、竹原市外、広島県外から相談を受ける様になりました。市外、県外の相談者は電話で話を聞き、関係機関に繋ぐ事や情報提供をする事しか出来ません。同時に竹原市で取り組んでいる事案は件数が増え、疲れ帰ってくる私を見て次女が「お母さんに求められている事がどんどん大きくなってきて、お母さんがどんどん小さくなっていっている」と言われました。どんどん疲労困憊する中、2度目の就労不能の診断をされました。医師からは生活環境を整える事、次女と一緒に生活をする事、仕事の時間を減らし休息時間を増やす事、自分の限界を知る事を条件に竹原市で相談員の仕事を続ける事の許可を貰えました。「でもこれが最後です。最後のワンチャンスと思ってください。条件をクリアしたにもかかわらず、また就労不能の診断をする時は仕事を辞めて岡山に帰りましょう。」と言われました。
 相談員という仕事は本当に専門性を必要とします。相談者を守る前に自分自身を守る生活環境が必要です。それには安定した雇用が求められます。この問題は私に限った事ではありません。指針の中にも「婦人相談員には高度な専門性が求められる」と明記されています。その為の研修・雇用の保障・賃金の安定など求められると思います。私自身、竹原市での給料は14万6千円です。一時金・昇給などありません。退職金もありません。この給料から家賃や保険・光熱費など引くと生活はできません。だからアルバイトをします。相談員の仕事をする為にアルバイトをします。そして竹原市に来て3年間の間に二度の就労不能の診断をされました。就労不能で休んでも無給です。わずかな傷病手当しかない為、お金の事が心配でゆっくり休むこともままなりません。なぜ、仕事で体を壊しても、何も保障が無いのでしょうか? せめて少しで良いです。アルバイトの時間を減らせる生活がしたいです。指針が打ち出した、相談員の雇用の安定・保証を是非、竹原市が全国の初の実施市にして欲しいです。画期的な事です。そして広島県内にどんどん実施市が増えると、国の評価を受け全国的に広まる事が私の一番の希望です。毎年、地域ブロック別の会議と全国会議が行われます。持ち回りで担当県に全国から婦人相談員があつまり会議をします。2017年度は広島県が開催地です。その時、広島県としての「指針に沿った取り組み」を、胸を張って言える様に進んで欲しいです。

 私の言える事は
 『ただ、ただDV被害者に寄り添った支援がしたいのです。でも私が壊れます。助けて下さい。
 自分の大切な子どもが、孫が…… 被害者だったら……。考えてみてください。』