【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第1分科会 ~生きる~「いのち」を育む・いかす、支えあう

 2014年4月に施行された「別府市障害のある人もない人も安心して安全に暮らせる条例」(通称:ともに生きる条例)の制定までの経過とその後の取り組みについて報告します。



「ともに生きる条例」と合理的配慮について


大分県本部/別府市職員労働組合 甲斐健太郎

1. はじめに

 別府市は、障がいのある人の声に後押しされる形で、2014年4月から「別府市障害のある人もない人も安心して安全に暮らせる条例」(通称「ともに生きる条例」)を施行し、現在、この条例に基づき障がいのある人もない人も安心して安全に暮らせる社会 ―― 共生社会 ―― の実現をめざして取り組みを行っています。
 そこで、本稿では、「ともに生きる条例」の成り立ち、内容、そして具体的取り組みについてご紹介したいと思います。

2. 別府市の障がい者の現状と障がい施策の沿革

 別府市には、2014年3月末現在で、8,729人の障害者手帳所持者がいます。人口比でみると7.2%と、市民(121,026人)の約14人に1人が障害者手帳所持者ということになります。別府市は、全国と比較して障害者手帳所持者の割合が高いですが、内訳をみると、知的障がい、精神障がいの割合は全国よりも低く、身体障がいの割合が高くなっています(表1参照)。

表1 全国と別府市の障害者手帳所持者数

(2014年3月31日現在(人口は2014年4月1日現在))
  身 体 知 的 精 神 合 計 人 口人口比


人数(人)5,252,242941,326751,1506,944,718127,135,7735.5%
割合(%)761411100


人数(人)6,9648798868,729121,0267.2%
割合(%)801010100

 別府市には、「太陽の家」という社会福祉法人があります。1965年に医学博士中村裕氏によって福祉工場として設立された太陽の家は、「No Charity, but a Chance 」(保護より機会を)、「世に身心障害者はあっても仕事に障害はあり得ない」の理念の下、オムロン、ソニー、ホンダ、三菱商事、デンソーなど日本を代表する大企業と提携して共同出資会社をつくり、現在に至るまで多くの障がい者を雇用しております。
 別府市に身体障がい者が多いのには、この「太陽の家」の存在が影響していると考えられます。
 太陽の家の関係者の働きかけもあり、別府市は、1973年度から1975年度までの3年間、国から身体障害者福祉モデル都市の指定を受けていました。その間、国・大分県からの補助金を使い、歩道の段差解消、音響式信号機の設置、リフトバスの購入、身体障害者福祉センターの建設等を行いました。
 また、1992年度から1994年度までは、住みよい福祉のまちづくりの指定を受け、やはり国・県の補助金を活用して障害者用トイレ・点字誘導ブロック・音響式信号機の設置などを行っております。

3. ともに生きる条例の制定までの経過

 このように別府市は、先進的な福祉団体に恵まれ、国や県からの補助金を受けたりと、障がい福祉分野においては比較的恵まれた環境にあったといえますが、実際に別府市に暮らす障がいのある人からしてみれば、まだまだ暮らしにくい部分が多くありました。
 ともに生きる条例は、こうした状況を改善したいという障がいのある人からの声がきっかけとなって制定に至ったのです。具体的には、当時の市長が「誰もが安心して安全に暮らせる別府市条例をつくる会」という障がい当事者、障害福祉事業所関係者、弁護士などで構成される任意団体からの働きかけを受け、公約としたところから条例制定の動きが始まりました。
 条例制定に当たっては、多くの方の意見を集め、議論を重ねたため、実際に動き始めた2011年から2013年9月の最終的な制定に至るまで、実に2年以上の期間を要しました。
 ともに生きる条例は、制定までに多くのプロセスを踏んでいますが(表2参照)、中でも、「障がいの当事者の意見の反映」、「一般市民に対する意見募集」の2つのポイントが重要であったと思います。

(1) 障がいの当事者の意見の反映について
 ともに生きる条例は、内容について議論する最初の段階から障がいの当事者が参画していましたので、障がいの当事者の意見が多く反映されています。
 具体的には、別府市では条例の内容づくりについて、別府市障害者自立支援協議会という法定の外部機関で審議してもらう形をとりました。別府市障害者自立支援協議会では、「条例制定作業部会」を新設し、合計10回、時間にして34時間かけて審議し、骨格を作成しました。
 「条例制定作業部会」は24人で構成されており、そのうち障がいのある人が6人、障がいのある人の保護者が8人含まれておりました。すなわち、構成員24人のうち14人は障がいを身をもって知っている「当事者」であり、彼らによって障がいの当事者の意見が条例の骨格に反映されています。
 後述しますが、ともに生きる条例では合理的配慮を様々な具体的な場面ごとに求める定めがありますが(条例第10条~第16条)、こうした定めは、当事者の意見があったからこそできた部分ではないかと思います。また、当事者にとって切実な問題である災害時の避難などの防災関係や保護者から支援を受けて暮らす障がいのある人が、保護者がいなくなったときにどのようにして暮らしていくかという「親亡き後の問題」などについても、当事者の意見を採り入れて条文化されています。

(2) 市民の声を聴く機会の設定について
 ともに生きる条例については、市民の声を聴く機会を多く設けたという点が特徴の一つです。
 全ての市民に関わってくるのが条例ですから、障がいのある人だけでなく、一般市民の声も採り入れていく必要があるということから行ったものです。
 具体的には、市民に対する意見募集、いわゆるパブリックコメントを2回行い、併せて対話形式で意見を採り入れようという趣旨で、タウンミーティングも開催しております。
 タウンミーティングは、一般市民向けと中学生向けをそれぞれ行い、一般市民向けは延べ254人、中学生向けは延べ1,489人の生徒に参加してもらいました。中学生向けは、条例がめざす別府市を創造していくためには成人だけでなく将来を担う子どもの率直な意見を聴き、これを生かすことが必要であるということと、中学生が発達段階であり精神的にも転機を迎える時期であるということから実施したものです。

表2 ともに生きる条例の制定経過

時  期内      容
2011.8~9条例制定に関する意見募集
2011.11.18別府市長から別府市障害者自立支援協議会へ諮問
2011.12~2012.8別府市障害者自立支援協議会条例制定作業部会で議論
2012.9.28別府市障害者自立支援協議会から別府市長へ答申
2012.10~12条例制定庁内検討委員会等で議論
2012.11.28条例制定作業部会と条例制定庁内検討委員会との意見交換会
2012.12.27条例制定庁内検討委員会で条例素案の策定
2013.1~2条例素案に関する意見募集・タウンミーティングの実施
2013.4.23市議会全員協議会の開催
2013.5~7厚生環境教育委員会所管事務調査(計4回)の開催
2013.9.20 2013年第3回市議会定例会で原案可決成立

4. 条例の内容について

(1) 条例の目的
 条例の目的は、「共生社会」を実現することです。
 現在の社会は、障がいのない人を標準としてつくられており、ハード・ソフト両面において障がいのある人には配慮されていない部分が多くあります。ともに生きる条例では、障がいのある人が社会で生活しづらいのは、目が見えないとか、歩けないなどといった機能障がいそのものが原因ではなく、社会が機能障がいのある人が生活することを想定してつくられていないことに要因があるのだと考えます。こうした状況を是正することで、障がいの有無にかかわらず誰もが同じように権利を共有できている社会、すなわち「共生社会」を実現するために、このともに生きる条例は制定されたのです。

(2) 目的達成に必要な取り組み
 ともに生きる条例では、共生社会実現のために必要な取り組みとして、主に、①差別・虐待をなくすこと、②障がいのある人が自立できることの2つを挙げています。
① 差別・虐待をなくすこと
 差別や虐待は、当然ながら障がいのある人の生活のしづらさに直結します。「差別」には、障がいがある人は店に入れないなどの「障がいを理由として不利益な取扱いをすること」と、それから「合理的配慮を怠ること」の2種類がありますが、今後は「合理的配慮」を推進していくことが特に求められていくはずです。
 社会には、障がいのない人には当たり前のものであっても、障がいのある人にとっては普通に生活するための妨げとなるようなものが存在します。ともに生きる条例ではこれを「社会的障壁」といいます。
 例えば、階段は障がいのない人には便利なものですが、車椅子の人は階段を上ることができませんから、車椅子の人にとっては「階段」が社会的障壁に当たります。また、聴覚障がいのある人が講演会に参加した場合、その講演会が声のみで伝達するものであれば、「声のみという伝達方法」が聴覚障がいのある人にとっての社会的障壁となるのです。
 こうした社会的障壁を取り除き、障がいのある人も障がいのない人と同じように生活できるようにすることが「合理的配慮」です。
 例を挙げますと、階段であれば、スロープやエレベーターを設置したり、設備を改善することができなければ人が乗降の補助をすることができる体制を整えるなどが合理的配慮の方法として考えられますし、講演会での声のみの伝達方法であれば、手話通訳者や要約筆記者を配置するなどということが考えられます。
② 障がいのある人が自立できること
 ここにいう「自立」という言葉は、生活面で独り立ちするということではなくて、誰かに支えられながら生活していたとしても、自分の人生を自分の意思で選択することができるという意味です。これについては、「親亡き後等の問題を解決するための取組」という形で条文化しています。
 障がいのある人の多くは、身内をはじめとした周りの人からの保護を必要としています。保護者は、自分が先に亡くなったり、高齢その他の事由により保護できなくなったときを考えて、「自分がいなくなったら、この人はどのようにして生活を営んでいくのだろうか」という不安を常に抱えています。これが「親亡き後等の問題」です。
 「親亡き後等の問題」については、条例制定作業部会の議論の中でも障がいのある人の保護者などから切実な意見が多く出されており、非常に大きな課題となっています。
 ともに生きる条例では、この問題を個人的なものではなく社会の問題と捉え、市においてこの問題を解決する総合的な施策を策定し、これを実施することとしています。

5. ともに生きる条例の実践

 ともに生きる条例が施行されて2年が経過しましたが、その間に行った具体的な取り組みをいくつかご紹介します。

(1) 障がいに対する理解を深める啓発活動
 共生社会実現のためには、より多くの市民が障がいを身近に感じること、そして障がいのある人がどのようなことで困っているのか、どのような配慮が必要かなどを知ることが重要になってくるため、当市では、様々なかたちでの啓発の取り組みを行っています。
① 障がい当事者で構成する「講師団」による研修会開催

 
 
2015年11月27日民生委員児童委員研修の様子
 
 
2016年5月24日ユニバーサル・ファッション in べっぷ記念写真

 障がいのある人やその家族など、障がいを身をもって知る人が講師となって、実体験を踏まえて講義をするという研修会を随時開催しています。
 講師団には、車いすを使用する人、聴覚障がいのある人、視覚障がいのある人、精神障がいのある人、知的障がいのある人の保護者など10人が所属しています。
 2014年度及び2015年度の2年間で、福祉施設職員、自治会、民生委員などを対象に18回開催し、延べ約900人に参加をいただいています。
② 小学校・幼稚園訪問ワークショップ事業
 大人だけでなく、幼少期から障がいのある人と触れ合うことで障がいを身近に感じる機会をということで、2016年度は、民間団体との協働事業により、障がいのある人が小学校・幼稚園を訪問し、一緒にレクリエーションなどを行う「小学校・幼稚園訪問ワークショップ事業」を開催することとしています。
③ ユニバーサル・ファッション in べっぷ
 より多くの市民に啓発を行うためには、様々な形態での活動が求められます。
 当市では、2016年5月に、障がいのある人によるファッションショーを開催しました。大分市に在住している高名なファッションデザイナー鶴丸礼子さんにコーディネートしていただき、障がいのある人が、鶴丸さんが作製した衣服を着てモデルになりました。
 市役所内で開催したので、たまたま立ち寄った市民などにも多く来場していただき、会場が一杯になるほどの盛況を博しました。

(2) 合理的配慮の推進
 市では、各部署において合理的配慮を推進しています。
① 道路のバリアフリー

 

 歩道と横断歩道の段差解消、点字ブロックの新設などを、優先順位を決めて進めています。

② バリアフリーマップの充実
 障がいのある人にとっては、まちの中の施設が自分の障がいにどの程度対応できているかを事前に知っておくことはとても重要なことです。そこで、大分県ホームページ内のバリアフリーマップというページに、市内145施設の状況を調査してその内容を追加しました。これにより、かなりの施設の情報が事前に確認できる状態になっています。
③ 「差別解消ガイドライン」の策定
 市職員や民間事業者などが合理的配慮を実践するに当たっての考え方や例を示したものとして「障がい者差別解消ガイドライン」を策定し、市の全部署に配布するとともに、ホームページに公開しています。

(3) 「親亡き後等の問題」解決策の検討
 親亡き後等の問題は、障がいのある人の生活全般に関わってくることから、解決のための課題も、日常の手助けの担い手、住まいの確保、生活費など幅広く、解決策を講ずることが難しい問題であるといえます。
 当市では、外部委員等からなる「別府市親亡き後等の問題解決策検討委員会」を設置し、2014年6月から2016年6月まで2年あまりの期間をかけて「親亡き後等の問題」の分析及び解決策の検討を行い、その結果を報告書にまとめました。今後は、報告書の内容を踏まえ、具体的な施策を打ち出していくこととなります。
 報告書に記載している解決策をいくつか例示します。
① 相談支援拠点の整備
 障がいのある人は、生活する上で様々な困りごとを抱えます。その中には今ある制度などで解決できるものも多いのですが、本人を活用できる制度に詳しい機関までつなぐ仕組みがないため、制度までたどりつくことができないということが起こっています。
 そのため、障がいのある人を活用できる制度に導いていくために、相談支援の拠点を整備し、相談支援事業所や地域の民生委員や自治会までの相談ネットワークの中核となる存在を構築することが必要になります。
 障がいのある人の将来像を描くことができない不安が親亡き後等の問題を構成している面もありますので、整備する相談拠点では、5年先、10年先の将来に対する相談も受け付けられるような仕組みにしていく必要があります。
② 情報共有シート活用の仕組みの構築
 知的障がいや精神障がいのある人などは、その人ごとにこだわりなどがあって、そうした特性を十分に理解していない人でないと支援が難しいことから、こうした人に対する支援は、これまではごく限られた人でなければできないという状況にありました。
 そこで、こうした特性を、保護者から支援者に伝え、また複数の支援者間で共有するためのシートを作成し、それを広く活用する仕組みをつくっていくことが必要となります。

6. おわりに

 ともに生きる条例は、障がいのある人の切実な思いを形にしたものです。この条例を実効性のあるものにするか、それとも絵に描いた餅に終わらせるかは、今後の取り組みにかかっています。市民の協力を仰ぎながら、めざすべき共生社会の実現に向けて取り組んでいかなければと考えております。