【論文】

第36回宮城自治研集会
第1分科会 ~生きる~「いのち」を育む・いかす、支えあう

 消費税には「逆進性」があると言われる。この性質を、家計調査の年間収入階級別表により分析する。収入が低いほど収入に占める消費支出の割合が高いため、消費支出に比例する消費税は、収入に対する税負担の割合でみると収入の低い方により重い負担となり、収入の高い方には軽い負担となる。よく議論されるこの性質を、一定の仮定を置いて数値を試算して確認し、社会保障を支える税としての適格性の議論への一助とする。



家計調査でみる消費税の逆進性


山形県本部/山形市役所職員労働組合・統計士・データ解析士 栗村 信一

1. 趣旨・使用資料

(1) 趣 旨
 消費税率は1989年(平成元年)に3%で導入以降、1997年(平成9年)に5%に上がり、2014年(平成26年)から8%である。10%への引き上げは2017年4月1日から2019年10月1日まで延期されることとなった。
 政府一般会計の「租税印紙収入」に占める消費税の割合を見ると、消費税導入当初の平成元年は6%だったが、平成28年度予算では31%を占めるまでになった。
 消費税という税は、その名のとおり消費に比例する税である。
 一般に収入・所得が低い世帯は、収入・所得に占める消費支出の割合が高いと言われるため、消費税は低収入・所得世帯により負担が大きい「逆進性」があると言われている。高収入・所得ほど税率の高い所得税のような「累進課税」とは逆の性質であり、格差を助長する税と考えられる。
 このことを、主に「家計調査(総務省統計局)」の収入階級別表により見ていきたい。
 収入階級で消費支出がどう変わるか、支出に含まれる消費税がどのくらいか、税率を変えると負担がどう変わるかを、いくつか想定をおいた上で簡単な試算を行い、社会保障を支える税としての適格性を議論する材料として提示するものである。

(2) 使用した資料
 「家計調査」(総務省統計局)平成27年年報
  年間収入階級別1世帯当たり1か月間の収入と支出(二人以上世帯)全国 表
 ・年間収入階級別表があるのが「二人以上世帯」のみで、単身世帯は含まれていない集計表である。
  以下「世帯」というと「二人以上世帯」をさすこととする。
 ・家計調査結果の消費支出額は消費税込みである。
 ・世帯ごとの収入や支出に関する表であり、平均的世帯人員や有業人員が異なる点に留意されたい。
 ・消費税以外の税や社会保険料などの「非消費支出」は、「勤労者世帯」でないと調査されない項目である。
 自営業や農家の世帯の場合、家計の収入と事業収入の区別が困難であるため、支出のみ家計簿に記入する調査となるためである。
 収入-消費支出の差額がそのまま貯蓄等になるわけではない。
 ・「月収」は、年間収入階級別の各階級の平均収入を12ヶ月で単純に割って円単位にした値である。
 「国民経済計算」(内閣府)2014年確報
 「労働力調査」(総務省統計局)
 ・都道府県別の値を用いるため、「平成27年都道府県別モデル推計値」を用いる。
 推計方法の違いにより、ニュース等に用いられる全国値とモデル推計値の47都道府県合計は異なるので注意されたい。


2. 収入に占める消費の割合・消費税の逆進性

(1) 収入階級別 収入に占める消費の割合
 図1は、月収に占める消費支出(税込み)の割合を年間収入階級別に示したグラフである。
 なお、家計調査の分析に用いられる「平均消費性向」は、「可処分所得」に占める消費支出の割合であるが、「可処分所得」は勤労者世帯でないと集計されない値であるため、収入に占める割合を用いている。
 年間収入が高いほど消費支出の割合が低下する傾向が明らかである。
 年間収入が350万円以下の世帯(全体の22.8%)では収入の80%以上を消費支出に回すが、年収800万円以上(全体の21.9%)になると50%を切ってくる。
 収入が例えばある階級の2倍だから2倍消費するわけでないこと、半分だから消費支出も半分にまでは中々できないことがわかる。

図1 H27家計調査 二人以上世帯 月収に占める消費支出(税込み)の割合

図2 H27家計調査 二人以上世帯 年間収入階級別 累積構成比

 なお、年間収入階級別の累積構成比を図2に示す。
 例えば年間収入350万円以下は22.8%であり、1,000万円以上は100-88.8=11.2%となる。

(2) 消費税の逆進性
 次に、消費税が収入階級別にどのように負担されているかを見てみる。
 消費支出は消費税込みの値だが、消費税が非課税の項目も含まれている。しかし、消費支出の内訳から非課税項目のみを明確に分けることができないため、消費支出は一律消費税がかかったものとみなすこととする。
 この仮定より、税抜き消費支出=税込み消費支出÷(1+0.08) とみなす。

図3 H27家計調査 二人以上世帯 1世帯・1ヶ月当たり推計消費税負担額(円)(税率8%)

図4 H27家計調査 二人以上世帯 収入に占める推計消費税負担額の割合(税率8%)

 こうして推計した1世帯・1ヶ月あたりの消費税額を示したのが図3であり、月収に占める割合を示したのが図4である。
 図3を見れば確かに収入の多い世帯の方が金額的には消費税を多く負担しているように見える。
 しかし図4により収入の何%を負担しているかを見ると、収入の低い世帯がより高い割合で負担している。
 年間収入350万円以下世帯は収入の6~7%程度を負担する一方、800万円以上の世帯は負担の割合は4%を切る。図4は、間接税である消費税の負担状況を直接税的な見方に置き換えて示したものと言える。
 収入の低い世帯ほど収入に占める消費支出の割合が高いことから「逆進性」が生じている。
 消費税は、収入の低い方には高い税率、収入の高い方には低い税率の税金を払ってください、という税金である。


3. 消費税率10%に増税の場合の影響試算

 消費税率を政府の予定どおり10%に引き上げた場合に、収入階級別に、収入に対する税負担や消費がどのように変化するかを試算する。
 消費税率が変わった場合に世帯が①同じ分だけ消費するのか、②節約するのかの場合をそれぞれ試算する。

(1) 増税後も税抜き消費支出を変えない(消費水準を変えない)場合
 税抜き消費支出は、消費支出÷1.08 で得られる。
 税抜き消費支出を変えないのだから、これに0.1をかけると、消費税額が推計される。
 収入に占める消費税額の割合が、消費税率8%と10%の場合の差で収入階級別に何%増加するのかをしめしたのが図5である。

図5 H27家計調査 二人以上世帯 収入に占める推計消費税額の割合の差
(8%→10%増税で消費水準を変えない場合)

 年間収入350万円未満の世帯では増税時負担増が収入の1.5~1.9%程度、年収800万円以上世帯では負担増が収入の1%を切る。

(2) 消費支出が「収入-税等負担」に比例すると仮定する場合
 消費支出が、自由に使えるお金に比例すると仮定する。
 比例の係数は、収入階級別に異なるとする。
 家計調査の「二人以上勤労者世帯(世帯で最も収入の多い者が勤労者である世帯)」集計ならば、集計項目に「非消費支出」があり、所得税・住民税・その他の税・社会保険料の負担がわかる。
 しかし、自営業世帯や農家世帯等の調査では、収支や税等が家計に属するか事業所に属するかの区別がそもそも困難であるため、支出のみ聞く調査となり、これら世帯を含む「二人以上世帯」集計では「非消費支出」の項目がない。
 そこでやむをえず、「二人以上世帯」についても、年間収入階級別に、勤労者世帯と同じ割合(収入に対する)で「非消費支出」を負担していると仮定する。
 税抜き消費支出をC、月収をY、非消費支出÷月収を、消費税率を
税抜き消費支出÷(収入-非消費支出-消費税)の係数をa
として、以下のモデルを仮定する。
……{1}
これをCについて解いて
……{2}

 二人以上勤労者世帯の非消費支出÷月収(にあたる)を収入階級別に示したのが図6である。
 凸凹もあるが、およその傾向としては収入が高いほど割合も高くなっている。

図6 H27家計調査 二人以上勤労者世帯 月収に占める非消費支出の割合
(非消費支出……所得税・住民税・その他の税・社会保険料等の世帯の自由にならない支出)

 式{2}を見てわかるように、消費税率を増やせば税抜き消費Cは減少する。
 {2}式で、に0.1を代入して得られる新たな税抜き消費C’を計算し、現在の税抜き消費Cと比較して何%減少したか(どのくらい生活水準を落とすのか)の試算を示すのが図7である。
 年収300万円以下では2%近く、1,000万円以上では1%程度税抜き消費支出を抑えるとの試算である。

図7 H27家計調査 二人以上世帯 消費税増税による税抜き消費の変化率の推計値

 {2}式の想定で消費税を10%に増税した場合の、消費税の増額分の収入に占める割合を示したのが図8である。
 年収300万円以下では負担増は収入の1.5%以上の一方、1,000万円以下の負担増は収入の0.8%以下となっていく。
 消費税増税により、低収入ほどより多く消費を切り詰めると同時に、収入に対する割合から見ればより多く税負担することが見て取れる。
 消費税の逆進性があらためて確認された。

図8 H27家計調査 二人以上世帯 消費税増税による推計消費税額の増額分の収入に占める割合


4. 増税の合計としての影響

(1) GDPの影響
 式{2}を仮定すると、消費税10%への増税により消費支出の減少と税負担の増加が同時に起こることとなり、上記3.(2)において収入階級別の影響を試算した。
 では、全体として消費支出はどのくらい減少するのかを計算する。
 3.(2)で試算した収入階級別の消費支出の減少分を、収入階級別の構成比で加重平均すると、1世帯1か月あたり3,524円の減であり、-1.3%である。
 この試算は二人以上世帯のみ対象であるが、仮に民間消費全体が同じように減少したと仮定すると、GDP(国内総生産)に占める「民間消費支出」の割合は2014年国民経済計算確報(名目)で59.9%のため、あくまで単純計算だが(乗数効果や物価変動などがないと仮定して)GDPが1.3%×59.9%=0.8%のマイナス成長することになると見込まれる。
 選挙を前にして、経済を前面に押し出す現政権が増税に踏み切れなかったこともうなずけるマイナスの影響の大きさであると思われる。

(2) 就業者数・失業率の影響(都道府県別)
 上記(1)のようにGDPが全国一律に0.8%マイナス成長するとした場合の、就業者数の減少分及び完全失業率を試算する。数値を示したのが表1である。
 GDPに比例させるには、本来ならば「県民経済計算」中の「就業者数」を用いるべきだが、失業率も計算するために「労働力調査」の「都道府県別モデル推計値」を用いた。
 GDPと就業者数が比例すると仮定し、全国一律に就業者数が0.8%減少したと仮定した場合、就業者数は合計で51万人減少すると見込まれる。
 この51万人がそのまま完全失業者になると仮定すると、完全失業率は3.2%から4.0%に上昇すると見込まれる。
 消費税を増税した分を経済社会のためにより効果的に用いなかった場合は、大都市の人口に匹敵する失業者が新たに発生することになるであろうことを示唆する結果である。


表1 労働力調査 都道府県別モデル推計値による消費税増税の影響試算
 ①~④が労働力調査モデル推計値、④~⑦は筆者試算。
都道府県


H27労働力人口
 (千人)


H27就業者数
 (千人)


H27完全失業者数
 (千人)


H27完全失業率
 (%)

⑤ 
②0.8%
 (千人)

⑥ ⑤が就業者から失業者になった場合の完全失業率(%)


⑥-④
失業率
上昇分

モデル推計値計 65,908 63,777 2,133

3.2%

510 4.0% 0.77%

北海道

2,644

2,553

91

3.4

20

4.2

0.77

青森県

673

643

30

4.5

5

5.2

0.76

岩手県

649

630

19

2.9

5

3.7

0.78

宮城県

1,195

1,151

44

3.7

9

4.5

0.77

秋田県

504

486

18

3.6

4

4.3

0.77

山形県

597

581

16

2.7

5

3.5

0.78

福島県

993

963

30

3.0

8

3.8

0.78

茨城県

1,516

1,467

50

3.3

12

4.1

0.77

栃木県

1,046

1,013

33

3.2

8

3.9

0.77

群馬県

1,016

989

28

2.8

8

3.5

0.78

埼玉県

3,817

3,694

123

3.2

30

4.0

0.77

千葉県

3,277

3,178

98

3.0

25

3.8

0.78

東京都

7,675

7,400

275

3.6

59

4.4

0.77

神奈川県

4,810

4,652

158

3.3

37

4.1

0.77

新潟県

1,197

1,162

34

2.8

9

3.6

0.78

富山県

565

552

13

2.3

4

3.1

0.78

石川県

612

597

14

2.3

5

3.1

0.78

福井県

433

425

8

1.8

3

2.6

0.79

山梨県

430

418

12

2.8

3

3.6

0.78

長野県

1,132

1,103

30

2.7

9

3.4

0.78

岐阜県

1,077

1,051

25

2.3

8

3.1

0.78

静岡県

1,998

1,945

53

2.7

16

3.4

0.78

愛知県

3,988

3,887

101

2.5

31

3.3

0.78

三重県

955

934

21

2.2

7

3.0

0.78

滋賀県

718

702

16

2.2

6

3.0

0.78

京都府

1,320

1,278

42

3.2

10

4.0

0.77

大阪府

4,407

4,222

185

4.2

34

5.0

0.77

兵庫県

2,718

2,616

102

3.8

21

4.5

0.77

奈良県

653

632

21

3.2

5

4.0

0.77

和歌山県

487

475

12

2.5

4

3.2

0.78

鳥取県

292

284

8

2.7

2

3.5

0.78

島根県

348

340

9

2.6

3

3.4

0.78

岡山県

954

926

29

3.0

7

3.8

0.78

広島県

1,430

1,388

42

2.9

11

3.7

0.78

山口県

679

660

19

2.8

5

3.6

0.78

徳島県

368

357

11

3.0

3

3.8

0.78

香川県

491

477

14

2.9

4

3.6

0.78

愛媛県

682

664

18

2.6

5

3.4

0.78

高知県

367

356

11

3.0

3

3.8

0.78

福岡県

2,548

2,443

105

4.1

20

4.9

0.77

佐賀県

437

423

14

3.2

3

4.0

0.77

長崎県

679

658

21

3.1

5

3.9

0.78

熊本県

901

870

31

3.4

7

4.2

0.77

大分県

577

560

17

2.9

4

3.7

0.78

宮崎県

559

541

18

3.2

4

4.0

0.77

鹿児島県

794

767

28

3.5

6

4.3

0.77

沖縄県

700

664

36

5.1

5

5.9

0.76


5. 税負担のあり方の検討

 式{2}の仮定のもとで3.(2)の試算では、1世帯1か月あたり平均の消費税増加分は4,969円となる。
 他の税負担のあり方で同じだけ増税した場合に消費支出がどう変化するかを試算する。

(1) 収入に対し同じ率で増税
 収入に対し、収入階級にかかわらず同じ税率%を増税した場合に、消費支出はどう変化するか。
 月収の1世帯平均は508,370円であるため、これに収入階級にかかわらず同じ率をかけて同じく4,969円増税するためには=4,969/508,370=1.0%となる。
 この場合、式{1}に収入からさらに%引くことになるため、想定としては
……{3}
 これをCについて解いて
……{4}
  
 式{4}により得られた新たな税抜き消費支出の変化分を加重平均すると、1世帯1か月あたり3,174円の減となる。消費税増税10%の場合の3,524円減と比べ約1割抑えている。
 収入階級別に税抜き消費支出がどう変化するかの推計を示すのが図9である。
 どの階級でもおおむね同じ率だけ消費水準を落とすと推計されている。

図9 H27家計調査 二人以上世帯 収入一定率増税1%による税抜き消費の変化率の推計値

(2) 収入に対する非消費支出の割合を一定の率上げる
 非消費支出は消費税以外の税や社会保険料であるため、非消費支出を上昇させることも増税と同じ意味といってよい。
 非消費支出を加重平均して推計すると1世帯1か月あたり84,042円であるため、これに一定の率をかけて4,969円にするには t4=4,969/84,042=5.9% となる。
 想定としては
……{5}
 これをCについて解いて
……{6}
 式{6}により得られた新たな税抜き消費支出の変化分を加重平均すると、1世帯1か月あたり3,032円の減となる。
 収入階級別に税抜き消費支出がどう変化するかの推計を示すのが図10である。

図10 H27家計調査 二人以上世帯 非消費支出増加後の税抜き消費支出の変化率の推計値

 この場合も、どの収入階級も1%近辺消費を減らすと推計される。


6. まとめ

 消費税の負担や増税による消費減は収入が低いほど大きいことが、統計表及び一定の仮定のもとの試算において、数値で確認された。
 収入が低いほど収入に占める消費の割合が高い性質により、消費税は格差により厳しい税のあり方といえる。
 収入に比例する、あるいは累進的な税率の設定など負担の在り方を変えることで、同じ税収でも消費水準に変化が、ひいてはGDPの水準が変化することも確認できた。
 世帯の収入「格差」の議論とは収入や負担の配分のあり方を議論することだが、今回はこの大きなテーマのうち「消費税」に的を絞った。
 経済・社会問題について、統計数値を見て想定・試算して議論されることがより多くなれば、議論がより深まると思われる。
 自治研の場においても、統計数値を活用した議論がより多くなることが望ましいと思う。