【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第2分科会 ~生きる~「いのち」を守る

 政府から高レベル放射性廃棄物の地層処分の方針が示されてから16年、未だに地層処分の場所も決定できていません。東日本大震災により全国の原子力発電所が停止されましたが、政府・電力各社は原子力発電所の再稼働に向けて突き進んでいます。「トイレなきマンション」とよばれ、発電開始当初から問題視されてきた放射性廃棄物の最終処分について、無責任な「埋め捨て」方式の危険性を指摘し、あるべき方向を提言します。



高レベル放射性廃棄物処分場の行方
―― 10万年後に誰が責任を取るのか ――

岡山県本部/脱原発専門委員会・委員長 平岡 正宏

1. はじめに

 福島第一原子力発電所の事故から5年が過ぎ、日本国政府および各電力会社は事故など忘れたかのように、原子力発電所の再稼働に突き進んでいます。
 これまでの脱原発運動の中でも再三にわたり指摘されてきた問題ですが、現在の原子力政策の方針では使用済み核燃料は原則再処理することとされており、原子力発電所が再稼働されると、発電により原子炉から生じる使用済み核燃料は再処理され、プルトニウムと高レベル放射性廃棄物が生み出されることになります。
 核燃料サイクルが未完成(完成不可能)な現在、プルトニウムを日本国が蓄積することの問題については既に国際機関等からも指摘を受けているとおり、将来的な核兵器開発への技術的蓄積とも受け止められかねない大きな問題です。しかしながら今回は、プルトニウムと高速増殖炉による核燃料サイクルが破たんしていることを後ほど指摘するにとどめることとします。
 もとより我々は、現在存在している以上の高レベル放射性廃棄物が生み出されることには反対の立場ですが、そもそも現在存在する高レベル放射性廃棄物の最終処分地すら決定できてないという事実が、あまりにも一般に知られていないことが、原子力発電所をはじめとした核施設の在り方を議論するうえで、大きな問題であると認識しています。
 我々自治労岡山県本部脱原発専門委員会は、地元の「放射能のゴミはいらない 県条例を求める会」と連帯しながら、脱原発運動の中で、高レベル放射性廃棄物の最終処分問題に注目しながら活動をしてきました。
 2000年に「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」(いわゆる「高レベル処分法」)が成立し、ほぼ同時に処分実施主体として「原子力発電環境整備機構」(原環機構)の設立が認可されました。それから16年が過ぎようとしています。しかしながらこれまでに最終処分場の建設に応じた自治体はありません。福島第一原子力発電所の事故でも明らかなように、電力会社は放射性廃棄物の発生責任者としての自覚もありません。
 原子力発電所の再稼働問題がクローズアップされるなか、原子力発電開始以来「トイレなきマンション」といわれ、原子力発電の最大の欠陥である、使用済み核燃料の処分問題について改めて指摘していきます。

2. 現在の状況

 政府、電力会社は原子力発電を開始するに当たり、使用済み核燃料をどのように処分するかを先送りしたかたちで原発の稼働に踏み切りました。そして、その方針は現在でも変わらないのです。
 前述の「高レベル処分法」においても、本来であれば電力会社の責任である放射性廃棄物の安全な処分については、「業務困難の場合」には国が「業務の全部または一部の引継ぎ」ができるように定められています。
 これだけを見ても電力会社の責任を免責するひどいシステムではないでしょうか?
 それどころか現在、放射性廃棄物の最終処分場が地元からの「立候補」制では決定できないと「反省」した国は新たに最終処分場を決定するプロセスに積極的に関与する方針に転換しました。すなわち、①現世代の責任として地層処分を前提に取り組みを進めつつ、将来世代が最良の処分方法を再選択できるよう可逆性・回収可能性を担保する、②国が、科学的根拠に基づき、より適性が高いと考えられる地域(科学的有望地)を2016年中に提示し、重点的な理解活動を行った上で、複数地域に対し申入れを実施する、等の基本的な取り組みの方向性を決定しています。

<国主体の処分地選定プロセスへ>
 国は2016年(平成28年)中に科学的有望地を提示することを決定しています!!
 経済産業省資源エネルギー庁は関係閣僚会議を重ね、無理な審議会を設置し、むりやり2016年(平成28年)中に科学的有望地と称して沿岸から30キロメートル、島嶼部も含めることを決定したとして、全国数カ所を日本地図の荒いメッシュで提示する準備を進めているといわれています。さらに、国が直接市町村へ最終処分場の立地を申し込むことも決定しています。
 私たちは、これまで狙われてきた地域も含め、全国でこれを迎え撃つ態勢を整えなければなりません。

<現在の情況>
 それではこれから議論するためのおさらいです。
 現在、日本国の原子力政策は、原子力発電と、その使用済み核燃料の再処理・プルトニウムの取り出し、高速増殖炉による発電、という「核燃料サイクル」を固持しています。つまり、ウラン濃縮→通常の原子力発電所での発電→使用済み核燃料の再処理→プルトニウム取り出し→高速増殖炉での発電→使用済み燃料の再処理→プルトニウム取り出し……というサイクルにより、使用したプルトニウム以上の量のプルトニウムを取り出すという夢のようなシステムを構築しようとしているのです。この核燃料サイクルを維持する以上、再処理時に、高レベル放射性廃棄物が生み出されることは止めることはできません。
 それでは「核燃料サイクル」の世界の潮流について概観してみます。実は主要先進国では①技術的に困難②経済性がない③社会的合意が得られない、等の理由によりすべて撤退しているのが実情です。世界の中では、社会的合意など必要のない、独裁的・中央集権的な国々がわずかに研究を進めているに過ぎません。すなわち、社会的合意を得られないということは国民を危険にさらす可能性があるということであり、そのような「核燃料サイクル」に固執しているように見える日本政府は独裁政権なのでしょうか?
 繰り返しますが、核燃料サイクルとは「燃料がサイクル」するのですが、現実は「回らないサイクル」であり、使用済み燃料から取り出されたプルトニウムは高速増殖炉で使用するはずでした。使った燃料よりもたくさんのプルトニウムを取り出すことができる「夢の燃料サイクル」であり、資源のない日本国には当時非常に魅力的なエネルギーと見えたのでしょう。

<破綻した核燃料サイクル その1 高速増殖炉もんじゅ>
 ところが再処理されたプルトニウムを燃料として発電するはずの当の高速増殖炉もんじゅは、稼働当初からトラブルの連続で、挙句の果てには昨年来の新聞報道等でご存知の通り、現在の運営主体である日本原子力研究開発機構の安全管理能力について、政府寄りの原子力規制委員会が事実上の「不適格」を突きつける状態になっています。
 1983年に設置が許可され、1994年に完成、早くも1995年にはナトリウム漏れ事故を起し停止、2010年に試験運転を再開したものの、同年に年炉内燃料中継装置脱落事故を起し、再び停止したままです。
 このようにもんじゅは運転が止まってから20年以上が経過しており、その運転については原環機構以外に熟練の組織はありませんが、20年間の停止で人材が失われ、もんじゅを熟知する人間が不在になってしまっているのが現実です。もし、原環機構が当事者能力がないのであれば、即刻廃炉にすべきです。
 原子力資料情報室を中軸として結成した「『もんじゅ』に関する市民検討委員会」では、東京と敦賀で集中的な議論を行い、5月9日、①「もんじゅ」の新たな主体はありえない。ありえない主体探しに無駄な時間をかけるべきではない。②「もんじゅ」は廃炉にすべきである。という提言を発表しています。

<破綻した核燃料サイクル その2 六ケ所再処理工場>
 使用済み核燃料の再処理工場は、その工程の中で長崎型原爆を作ることができます。つまり軍事工場と表裏一体と外国からは認識される工場なのです。核の平和利用から軍事技術への転換の意図があることについては中東、インドなどが疑われていますが、日本の六ヶ所村再処理工場もその疑いをぬぐうことはできないのです。
 六ヶ所再処理工場は1993年に着工、2006年にアクティブ試験を開始しましたが、2008年ガラス固化ラインで事故を起し、現在23回目の延期を経て、2018年に竣工予定(おそらく不可能)です。
 これまでに2兆円超の膨大な金額をつぎ込み、通常運転においても1日で原発1年分の環境放射能を放出する非常に危険な施設であることは知られていません。
 その上、現状ではプルトニウムを再利用するためにMOX加工する工場が必要ですが、それも未完成です。さらに重大事故への対応の甘さも指摘されます。原子力発電施設ではない故に耐震性問題・活断層問題・火山問題が十分に検討されていません。また、避難計画も不十分であり、半径5キロ程度しか見積もっていません。
 六ヶ所再処理施設で取り扱うプルトニウムの1%が環境に抄出されたと仮定した場合、急性の臨床的症状(急性放射線症)が認められるという200ミリシーベルト以上の被ばく範囲は東京まで到達するのです。
 以上のように、政府・電力会社の目論む核燃料サイクルは、それを実現するために不可欠の「もんじゅ」と「六ヶ所村再処理施設」が稼働のめどが立っておらず、既に破たんしたと言わざるを得ません。

3. 地層処分の危険性

 高レベル放射性廃棄物の地層処分については、繰り返しになりますが2000年にその方針が出されて以来、処分地の決定に至っていません。その最大の理由は高レベル放射性廃棄物を「埋め捨て」るという行為の危険性を地域住民が不安に感じているということではないでしょうか?
 地下深く、半減期が数万年にも及ぶ(プルトニウム239で2万4千年)高レベル放射性廃棄物が存在し続けることにより、いつかは地下水脈等によって地上に流出するのではないかという不安があるのではないでしょうか?
 そもそも、人類は歴史上万年単位の未来を具体的に描くことなど不可能です。今から1万年前を教科書で調べると縄文時代早期です。放射性廃棄物の半減期単位でみればごく短い期間である1万年前は、言葉は通じず、文字さえない時代なのです。
 そもそも、そんなはるか未来について、誰が責任を持つのでしょうか?

<使用済み核燃料のあり方>
・すでに現在存在するものはどうしようもない。
・これ以上の再処理はすべきではない。
・高レベル放射性廃棄物は地上で監視できる状態で管理し続けるしかない。
・使用済み核燃料は直接処分すべき。
・これ以上使用済み核燃料を増やさないために、原子力発電所は再稼働すべきではない。

4. 岡山県での取り組み

 これまでの何度か紹介してきたとおり、岡山県は県北部、人形峠周辺が高レベル放射性廃棄物の最終処分場としてねらわれているのではないかと言われ続けてきました。
 そのため、県条例の会は、県内全自治体の首長から、「高レベル放射性廃棄物の最終処分は受け入れない」という文書回答(一部口頭回答)を取る運動に取り組んできました。
 この運動を全国レベルで取り組むことにより、事実上日本国内に高レベル放射性廃棄物の最終処分場が立地できなくなります。

5. まとめに変えて

 福島原発事故から五年、政府電力会社はまるで事故がなかったかのように平然と原発の再稼働を進めています。
 しかしながら以上みてきたように原子力発電、とりわけ核燃料サイクルを取り巻く状況はますます悪化していることは明白です。
 この状況を冷静にみるならば、下記にまとめるような方向へ転換せざるを得ないと考えます。
① 使用済み核燃料の最終処分方法の確定していない原子力発電所は、再稼働すべきではありませんし、廃炉にすべきです。
② 核燃料サイクルは破綻しています。稼働の見込みのない高速増殖炉もんじゅは即刻廃炉にすべきです。
③ もんじゅが動かなければプルトニウムも不要です。もちろん六ヶ所村再処理工場所も不要です。
④ 現存する使用済み核燃料は再処理せず、直接処分すべきです。
⑤ 現存する高レベル放射性廃棄物については無責任な「地層処分」ではなく、地上で管理していくべきです。
 われわれはこれ以上原子力発電に依存すべきではありません。