【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第2分科会 ~生きる~「いのち」を守る

 東日本大震災による福島第一原発事故を受け、福島県同様に原発立地県である島根県で、自民党議連との協議により大幅な修正を余儀なくされながらも制定にこぎつけた「再生可能エネルギーの導入の推進に関する条例」制定の取り組みについて報告します。



「島根県再生可能エネルギーの導入の推進に
関する条例」の議員提案の取り組み

島根県本部/島根県議会・民主県民クラブ はくいし恵子

1. はじめに

 2015年2月の島根県議会冒頭、総務委員会に所属する議員を中心に有志議員が、「島根県再生可能エネルギーの導入の推進に関する条例」を提案。全員一致で可決となった。
 昨年来から、民主県民クラブ所属議員が中心となり、議員提案による条例化に取り組んできたが、最終的に自民党議員連盟の賛同も得られ、条例化の運びとなったものである。


2. エネルギー自立地域推進条例否決

 2011年3月11日東日本大震災によって引き起こされた福島第一原発事故により、私たちは、原発は決して「安全」ではないこと、いったん事故が起こった時には、多くの住民の命と健康、そして今までの生活を根こそぎ奪うものであることに否応なく向き合わなければならなくなった。
 そして、福島県と同じ原発立地県である島根県でも、「原発依存から脱却し、新しい安全でクリーンなエネルギーに転換すべきだ」との趣旨を盛り込んだ県条例の直接請求が住民団体により行われ、自治労島根県本部も署名活動に取り組んだ。
 2014年2月、思いを共有する8万4千人余の署名を添え、「島根県エネルギー自立地域推進基本条例」の直接請求が県に提出されたが、溝口知事は、「エネルギー自立のためには、現在の40倍の再生可能エネルギーが必要であり、国の関与がないまま島根県だけで実現することは困難」という付帯意見を付け、県議会に条例案を提出した。
 その後、県議会全員協議会において、直接請求提出者の説明や議員との意見交換の場を設けることはできたが、条例案は、付託された総務委員会で否決された。


3. 再エネ・省エネ条例の議員提案を準備

 しかし、直接請求の条例を否決した本会議での総務委員長報告には、委員会での審議等を踏まえ、「エネルギー自立は実現困難として否決となったが、多数の方々の直接請求であったことを重く受け止め、執行部に対し、①再生可能エネルギーや省エネルギーについて、これまで以上に調査・研究し施策の充実を図ること、②再生可能エネルギーや省エネルギーの普及推進にあたって、市町村と連携し県民の意識啓発に努めること」の2点の要望を盛り込むことができた。
 これを受け、自治体議員連合所属議員などでつくる「民主県民クラブ」では、成立の見込める再生可能エネルギーや省エネルギー推進に絞った条例案を議員提案で成立させるべく検討をスタート。
 自治労島根県本部地方自治研究会の協力を得て、既に条例が制定されている北海道、宮城・神奈川県の条例等を検討し、2015年9月「島根県省エネルギー及び再生可能エネルギーの導入等の促進に関する条例(案)(別紙1)を作成。最大会派の自民党議員連盟に提示し、水面下での協議をスタートした。

4. 難航した自民党議員連盟との協議

 自民党議員連盟からは、「再生可能エネルギーについて調査を進めてきた総務委員会の委員長報告に添う形にしたい」「執行部とのすりあわせも必要」という見解が示され、しばらく検討の時間が必要ということになった。
 ところが、9月県議会後においても、自民党議員連盟内での検討は全く進んでいなかったため、11月県議会では、民主県民クラブ単独でも提案すべく準備を進めた。
 継続審査になることも覚悟の上であったが、いざ議長に議案提案するという段階で、自民党議員連盟から、「今検討を進めている。2月県議会では必ず提案できるようにする」との申し入れを受け、提出を保留した。

5. 条例案は、骨と皮だけに

  その後、何回も修正協議を行ったが、「なるべく簡素な理念条例を」「再生可能エネルギーに特化したい」という自民党議員連盟の意見を受け入れた結果、「省エネルギー」について触れることがかなわず、「脱原発」に触れた前文もなくなり、電気事業者の責務や大切な年次報告、審議会の設置が入れられなかった。
 また、県の法令担当からは、「地方分権の立場から、県条例に市町村の責務は盛り込めない」「理念条例に5年ごとの見直しはなじまない」等の修正も加えられ、最終的に再生可能エネルギー推進という理念は生かされたものの、民主県民クラブの当初提案とはほど遠い、「骨と皮」だけとなってしまった。残念と言わざるを得ない。
 11月県議会に、民主県民クラブ単独でも議案提案しておけば、「提出議案の修正」という形もとれたはずだが、水面下の調整に精力を注ぎすぎたあまり、せっかくの当初案が闇に葬られることとなった。経験豊富な自民党議員連盟に「してやられた」感は否めない。
 この点は、議員として未熟であったことをお詫びし、今後同様の失敗をしないよう肝に銘じたい。

6. 条例を再生可能エネルギー推進の力に

 しかし、成立した今回の「島根県再生可能エネルギーの導入の推進に関する条例」には、県の責務として「再生可能エネルギーの導入を総合的に推進する責務を有する」とした第2条、及び「県は基本計画を策定する」とした第10条があり、これは大きな意味を持つものだと考える。
 また、現在県は、「再生可能エネルギー及び省エネルギーの推進に関する基本計画」を策定中であり、6月県議会には成案が示されるが、「計画」の検討報告書には、「熱利用」「コージェネレーション(熱電併給)」「地熱・地中熱」等も触れられており、太陽光、風力、小水力、バイオマス等の導入目標値も示されている。
 さらに、「省エネルギー」について1章が起こされ、家庭・事業所の行動目標も数値化されている。
 できれば、今後の総務委員会で「計画」を審議する際、「数年ごとの計画の見直し(必要に応じ見直す、としているが)」や「進捗状況の報告」等、条例に盛り込まれなかった項目を盛り込めればと期待している。




(別紙1)

島根県省エネルギー及び再生可能エネルギーの導入等の促進に関する条例(案)

 私たちの生活は、多くのエネルギーを消費するということで成り立っている。しかし、大量生産・大量消費・大量廃棄という経済活動・ライフスタイルは、石油・石炭等の化石燃料の使用による気候変動など、自然環境と生活環境悪化の主な原因になっている。
 一方20世紀半ばに実用化された原子力は、発電時に温室効果ガスを排出しないなどの優れた特性を有している反面、放射性廃棄物の処理及び処分の方法が確立されていないこと、事故が起こった時の環境や人々の生活への甚大な影響等の問題がある。
 私たちは、エネルギーの使用が人の様々な活動から生じていることを心に留め、社会経済活動や生活様式の在り方を見直し、エネルギーを無駄なく大切に使う省エネルギーの推進を図るとともに、地域に根差した環境に優しい再生可能エネルギーの利用を拡大する覚悟を問われている。
 今日の島根県は、高度経済成長期から進行する都市への人口流出に伴う厳しい過疎化の進行と、激しい少子高齢化への対策が急務となっている。一方、誇れる歴史や文化とともに、海、山、川、湖等の豊かな自然に囲まれた無限の可能性を秘めた地域でもある。
 島根県は、こうした豊富に有する自然の資源を活用し、新たな産業と雇用の創出が図れ、地域経済を活性化させる再生可能エネルギーの積極的な導入と普及に取り組むことが重要である。
 ついては、将来にわたって化石燃料への依存度を最小限に抑えた、持続可能な環境型社会、地域循環型社会の実現と、エネルギー需給の安定化を図るために、この条例を制定する。
(目 的)
第1条 この条例は、省エネルギーと地域資源を活用した再生可能エネルギーの導入の促進について、県、事業者及び県民の責務を明らかにするとともに、施策の基本となる事項を定めることにより、その施策を総合的かつ計画的に推進し、もって、現在及び将来の県民が、自然の恵沢と良好な環境を享受し、県経済の発展及び県民の生活の安定に寄与することを目的とする。
(定 義)
第2条 この条例において、次の各号に掲げる用語の定義は、当該各号に定めるところによる。
(1) 県民 県内に居住する者又は県内に通勤もしくは通学する者をいう。
(2) 事業者 県内で事業活動を行うすべての者をいう。
(3) 省エネルギー 熱、電力、燃料等のエネルギー使用の節約及び効率化により、その消費量を削減すること、及び電気需要の平準化を図ることをいう。
(4) 再生可能エネルギー 太陽光、太陽熱、風力、水力、バイオマス、地中熱等の自然由来で永続的に利用可能な資源を活用して得られるエネルギーをいう。
(県の責務)
第3条 県は、省エネルギーの推進及び再生可能エネルギー導入等に関する総合的かつ基本的な計画(以下「基本計画」という。)を策定し、実施する責務を負う。
2 県は、その市町村の行う省エネルギーの積極的推進及び再生可能エネルギーの導入に関する施策に関し、助言・情報提供等の必要な支援及び総合調整を行うものとする。
3 県は、その施設の建設及び維持管理その他事業の実施に当たっては、自ら率先して省エネルギーの積極的推進及び再生可能エネルギーの導入に努めるものとする。
4 県は、県民及び事業者に対し、省エネルギーの積極的推進及び地域における再生可能エネルギー導入の促進に関する的確な情報の提供及び必要な支援を行うものとする。
(市町村の責務)
第4条 市町村は、その事務事業の実施に当たっては、自ら率先して省エネルギーの推進及び再生可能エネルギー導入の促進に努めなければならない。
2 市町村は、県が実施する省エネルギーの推進及び再生可能エネルギー導入の促進に関する施策に協力するものとする。
(県民の責務)
第5条 県民は、日常生活において、自ら省エネルギーの推進及び再生可能エネルギーの導入に努めるとともに、県が実施する施策に協力するものとする。
(事業者の責務)
第6条 事業者は、その事業活動を行うに当たって、自主性及び創造性を発揮し、省エネルギーの推進及び再生可能エネルギー導入の促進に努めるとともに、県が実施する施策に協力するよう努めるものとする。
(電気事業者の責務)
第7条 電気事業法(昭和三十九年法律第百七十号)第二条第一項第2号に規定する一般電気事業者、同項第六号に規定する特定電気事業者及び同項第八号に規定する特定規模電気事業者は、自ら再生可能エネルギー等(電気に限る。以下この項において同じ。)の発電を行い、又は再生可能エネルギー等を買い取ることにより、再生可能エネルギー等の供給に可能な限り努めなければならない。
(施策の基本方針)
第8条 県は次に掲げる基本方針に基づき、省エネルギーの推進及び再生可能エネルギー導入の促進に関する施策を総合的かつ計画的に推進するものとする。エネルギーの安定供給のため、地域資源を活用した再生可能エネルギーの導入促進及び消費エネルギーの低減のため、省エネルギーの促進を図ること。
(1) 地域特性及び技術開発の動向に即した省エネルギーの導入及び再生可能エネルギーの推進を図ること。
(2) 事業者の業態に応じた省エネルギーの推進及び再生可能エネルギーの導入等の促進を図ること。
(3) 県民の多様な生活様式に応じた省エネルギーの推進及び再生可能エネルギーの導入促進を図ること。
(4) 省エネルギーの推進及び再生可能エネルギーの導入等の促進に関連する産業の育成、雇用の創出、人材の育成に努めること。
(5) 省エネルギーの推進及び再生可能エネルギーの導入等の促進に積極的に取り組む地域づくりに努め、地域の活性化を図ること。
(基本計画の策定)
第9条 知事は、省エネルギーの推進及び再生可能エネルギー導入等の促進に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、前条の基本方針に基づき、次に掲げる事項を定めた導入促進に関するする基本計画(以下「基本計画」という。)を定めなければならない。
(1) 省エネルギーの推進及び本件の特性に即した再生可能エネルギー導入の促進等に関する総合的かつ長期的な目標及び長期的な施策の大綱
(2) 前号に掲げるもののほか、省エネルギーの推進及び再生可能エネルギー導入等の促進等に関する施策を総合的かつ計画的に推進するために必要な事項
2 知事は、基本計画を策定するに当たっては、地域に存在するエネルギー源が地域の自然的社会的条件によって異なることに鑑み、当該地域の特性に応じた形で利用されるべきこと及び地域の発展に資するよう配慮することとする。
3 知事は、基本計画を策定するに当たっては、県民の意見を反映することができるよう必要な措置を講じなければならない。
4 知事は、基本計画を定めるに当たっては、あらかじめ、島根県省エネルギー推進・再生可能エネルギー導入促進審議会(以下「審議会」という。)の意見を聞くとともに、議会の議決を経なければならない。
5 知事は、基本計画を定めたときは、遅滞なく、これを公表しなければならない。
6 前項の規定は、基本計画の変更について準用する。
(調査研究等)
第10条 県は、省エネルギーの推進及び再生可能エネルギー導入等の促進に資する技術の向上を図るため、大学その他の研究機関との連携も含め、必要な調査研究を行う。
(普及啓発)
第11条 県は、次世代を担う子どもを含む県民及び事業者が省エネルギーと再生可能エネルギーの導入促進の必要性について深く理解し、これを主体的に担う意識を育てるよう、必要な普及啓発に努めるものとする。
(関係機関との連携)
第12条 県は、省エネルギーの推進及び再生可能エネルギー導入等の促進に関する施策の策定・実施に当たっては、国、葉の地方公共団体、大学、その他の研究機関、県民、事業者及び民間非営利団体その他の民間団体(以下「民間非営利活動団体等」という。)との十分な連携を図るとともに、相互の緊密な協力が促進されるよう努めるものとする。
(年次報告)
第13条 知事は、毎年度、基本計画の実施状況を調査し、その結果を県民に公表するものとする。
(審議会)
第14条 県は、次に掲げる事項について審議するため、島根県省エネルギー推進・再生可能エネルギー導入促進審議会(以下「審議会」という。)を設置する。
(1) 基本計画の策定。
(2) 省エネルギー及び再生可能エネルギー導入の促進に関する基本的かつ総合的な施策及び重要事項について提言すること。
(3) 県が実施する基本計画の推進に関する施策の実施状況について検証し、意見を述べること。
2 知事は、審議会が述べたい県ならびにこれを受けて知事が講じた措置の内容を取りまとめ、県民に公表するものとする。
3 審議会は、委員30人以内で組織する。
4 男女のいずれか一方の委員の数は、委員総数の10分の4未満とならないものとする。
5 委員は、次に掲げる者のうちから知事が任命する。
(1) 環境問題、省エネルギー、再生可能エネルギー等に関し、学識経験を有する者
(2) 省エネルギーの推進及び再生可能エネルギー導入の促進等に関わる活動を行う住民団体、事業者団体等を代表する者
(3) 公募に応じた者
(4) その他、知事が適当と認める者
(委 任)
第15条 この条例に定めるもののほか、この条例の施行について必要な事項は、規則で定める。
附 則
(施行期日)
1 この条例は、平成  年  月  日から施行するものとする。
(検 討)
2 知事は、この条例の施行の日から起算して5年を経過するごとに、この条例の施行の状況について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。
3 知事は、前項の規定にかかわらず、エネルギーを巡る情勢に変化が生じた場合には、その変化の状況等を踏まえ、この条例の施行の状況について検討を加え、必要な措置を講ずるものとする。

(別紙2)

議員提出第2号議案

島根県再生可能エネルギーの導入の推進に関する条例

(目 的)
第1条 この条例は、再生可能エネルギー(太陽光、風力その他非化石エネルギー源のうち、エネルギー源として永続的に利用することができると認められるものを利用して得られるエネルギーをいう。以下同じ。)の導入が地球温暖化の防止、エネルギーの供給源の多様化、エネルギー自給率の向上、地域資源の利活用による新産業の創出及び雇用の拡大に伴う地域の活性化、非常時のエネルギー確保による地域防災力の強化など広範多岐にわたり効用をもたらすことにかんがみ、県民、事業者、県、市町村等が一体となって、その導入について理解を深め、推進することを目的とする。
(県の責務)
第2条 県は、国、市町村、県民、事業者等と連携し、再生可能エネルギーの導入の推進を総合的に実施する責務を有する。
2 県は、県有施設の整備及び維持管理その他事業の実施に当たっては、自ら率先して再生可能エネルギーの導入に努めるものとする。
(地域資源の活用)
第3条 県は、地域資源を活用した再生可能エネルギーの導入を推進するため、必要な施策を講ずるものとする。
(地域振興への配慮)
第4条 県は、再生可能エネルギーの導入の推進に当たっては、新産業の創出、雇用の増加など地域経済への波及効果に配慮するものとする。
(県民の役割)
第5条 県民は、再生可能エネルギーについての学習機会を通じてその理解を深め、日常生活において、その導入に努めるものとする。
(事業者の役割)
第6条 事業者は、その事業活動を行うに当たっては、自主性及び創造性を発揮し、再生可能エネルギーの導入の推進に努めるものとする。
(情報収集と調査研究)
第7条 県は、再生可能エネルギーの新技術に関する情報収集に努めるとともに、導入推進に関する調査研究及びその成果の普及に努めるものとする。
(啓発活動の推進)
第8条 県は、県民、事業者等が再生可能エネルギーの導入の必要性についての理解を深めるため、エネルギーに関する学習機会の提供及び知識の普及啓発に努めるものとする。
(基本計画の策定)
第9条 県は、再生可能エネルギーの導入の推進に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、再生可能エネルギーの導入の推進に関する基本的な計画を策定する。
附 則
 この条例は、公布の日から施行する。