【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第2分科会 ~生きる~「いのち」を守る

 地球温暖化対策や再生可能エネルギーへの転換は、2011年の東日本大震災以降、重要な課題となっています。しかし、全国的に急増している太陽光パネルの設置は、山林の伐採や景観問題など、自然・生活環境に大きな変化を与えています。日出町での地域住民・行政・議会の取り組みをもとに、太陽光発電施設設置の諸問題解決になにが必要かを考えます。



日出町における太陽光発電施設建設の現状と
地域課題への取り組みについて

大分県本部/日出町議会議員 川西 求一

1. はじめに

 2011年3月11日の東日本大震災による、福島第一原発の事故に端を発する原子力発電の全面停止により、再生エネルギーの活用が喫緊の課題とされ、2012年7月に再生エネルギー固定価格買取制度が始まりました。再生エネルギー電源とは、太陽光、風力、地熱、中小水力、バイオマスから電気エネルギーを生み出す発電施設の総称でありますが、本町としては、地形的・地理的好条件に恵まれた日照条件があることや、早くから住宅用太陽光を手掛けている大分県下ナンバー1の太陽光発電施工実績を持つ地元事業者の事業展開により、太陽光発電施設が急増の運びとなりました。
 しかしながら、地域住民の生活圏域内やその周辺地域での遊休農地や山林地域に大規模な施設建設が計画される事例が多くなり、自然環境問題や雨水流出による災害対策問題等を理由に、設置事業者に対して、地域住民より反対運動が発生する状況となり、行政に対しては設置事業者に対しての行政指導を強く求める要望がなされるようになりました。これら諸問題は、本町のみならず他市町村においても多数報じられ、それぞれのケースにおいて行政は勿論、議会としても厳しい対応が求められているところです。
 そこで、本町におけるこれまでの事例を検証するとともに、今後の再生エネルギー電源(太陽光発電)に対する地域住民・行政・議会の取り組みや対応について考えていきたいと思います。

2. 日出町の太陽光発電施設計画の現状について

(1) 遊休農地等土地利用による太陽光発電施設

農地法による区分申請件数面積(m2備考(平均面積m2
農地法第4条関係17地区33,6201,978
農地法第5条関係30地区90,4153,014
47地区124,0352,639
農地法第4条:自己所有の農地を転用するもの
農地法第5条:権利移動と転用を同時に行うもの

(2) メガソーラー施設計画

ケース施工業者計画面積
(ha)
使用面積
(ha)
計画発電量全体投資額
京セラTCL
ソーラー合同会社
160ha76.6ha30.5MW約100億円
スカティク・
ソーラー・
ジャパン
25ha29ha13.2MW約50億円
LOHASESE2(株)190ha57ha44.0MW約130億円
(株)グローバル
ニュウエナジー
ジャパン
50ha27ha16.0MW約55億円
(株)林興産
ソーラーファーム
5ha 5ha 3.0MW不明
全体合計 430ha194.6ha106.7MW 

3. 問題の提起と対応

 2012年7月に再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)が導入されて以来、前述のように日出町においても遊休農地や、バブル期に開発用途で所有され続け未開発状態であった市街地近隣の山林等、急激に土地の太陽光発電施設への進出計画が打ち出されるようになりました。
 初期段階においては、農地転用等による中・小規模の太陽光発電施設の設置に伴う工事等が活発に計画され、これらについての行政に対する周辺環境問題や雨水対策問題に関する相談や苦情については、隣接する行政財産の管理部署での対応で、ある程度解決や合意が図られていました。
 しかし、メガソーラー開発計画が具体的に進むにつれ、施工業者等による地域説明会等が行われるようになると、開発区域周辺住民より様々な形で行政や議会に対して計画の中止を求める陳情や、施工業者への指導を求める要求が強くなされるようになりました。
 そこで、前述の事案の中でこれまでに行政及び議会が行ってきた対応について、検証してみることにします。

(1) ケース(D)における事例
 本計画は、日出町のほぼ中央に位置し、日出ICに隣接し南東に緩やかに傾斜する山林地域であり、下流地域には日出バイパス、国道10号線へと続いています。
《住民の対応》
 下流地域に当たる行政区は、27haにおよぶ山林の伐採や太陽光パネルの設置は、自然環境を大きく変えるものであり、洪水の誘発をおこし有益な山林環境を壊すもので、区民総意のもと計画の中止を求める陳情を、日出町及び日出町議会に対して提出しました。
《日出町の対応》
 再生可能エネルギーの固定価格買取制度が導入されて以来急激な開発事例に対して、国や県における指導要領等がなく、各自治体において独自対応が求められている中、平成25年11月29日告示第85号にて、「日出町発電施設設置事業指導要綱」を定め2014年1月1日から施行することとなりました。
《日出町議会の対応》
 下流地域住民より提出された陳情に対して、速やかに所管委員会により現地調査に赴くとともに行政に対して指導要綱、条例等の研究を強く要求することとなりました。また、2013年9月定例会において議会運営委員長よりメガソーラー建設反対に関する決議(案)が提案され、全会一致により決議され、行政及び施工者へ通知しました。
《検証》
 「日出町発電施設設置事業指導要綱」は、日出町内において施行する発電施設設置面積が5,000平方メートルを超えるものについて適用するものであり、事業者の責務として、近隣関係者との良好な関係と、事業者の責任において誠意をもって紛争の解決に努めるものとしています。事業者は町に対して、設置事業の着手前に町と協議をするものとしており、町は関係法令の届出等や、地域住民の意見の把握のための措置が適切に図られているかどうか等について助言または指導を行うものとしています。あくまでも、開発計画についての住民説明と合意の形成は施工業者の責任としながらも、それに対する罰則規定や、技術的指導等については踏み込めないものとなっています。
 一方、議会での、「これまでの説明や方法では十分に地域住民の不安を払拭できるものではない」とする建設反対決議については、行政への提言や、施行者への地域住民の願いが届けられたこと等、一定の評価ができるのではないでしょうか。
 現在、当該施設計画については、施行者による再考として計画が中断されている状況にあります。

(2) ケース(E)における事例
 本計画は、本町東部地域の集落背後の高台に広がる荒廃樹園地を含む5万平方メートルの土地にソーラーパネルを設置するという計画です。
《住民の対応》
 設置予定土地の下には多くの住宅が存在しており近年の異常気象がもたらす豪雨等により造成地の崩壊により生命の危険性がある。「ホタルと鯉の里」として、地域の活性化の一役を担っている集落内河川への雨水流入により自然環境が破壊される恐れがある。2015年3月3日、これら不安について、施行者から詳しい説明がなされないまま工事着手の動きがあることから、日出町議会に対して住民の要求・疑問を解消すべく太陽光発電事業反対に関する要望書を提出することとなりました。
《日出町議会の対応》
 関係自治会長及び二水利組合長名で提出された要望書に対して、総務産業建設常任委員会により現地調査、聞き取り等を行うとともに、2015年第1回定例会において「尾首山の太陽光発電事業反対に係る要望書の決議案」を上程し、全会一致で決議されました。当該決議に伴い、2015年4月21日、日出町議会議長名において「尾首山の太陽光発電事業に関する要望書」を施工業者のもとへ届けました。
《検証》
 当案件は、「日出町発電施設設置事業指導要綱」によるところの、施工業者による地域説明等の責務が、形骸化して実態的ではないとの住民不安がうかがわれたが、議会決議及びそれに伴う具体的案件に対する要望書作成・持込みについては施工業者に対して住民との合意形成に向けた大きな材料になっているのではないだろうか。

4. まとめ

 太陽光発電は、日出町の地形特性や自然環境に最も適した再生可能エネルギー電源として、遊休農地やこれまで塩漬けとなっていた未開発用地の利活用として有用な産業として成り立っています。ことに2012年7月から導入された固定価格買取制度の背景のもと急激に増加してきました。
 行政の方針として、また我々議会として、地球温暖化対策や自然エネルギーへの転換は、重要かつ喫緊な課題であり、これまで学校や役所などの公共施設において積極的に太陽光発電等を設置することにより、広く町民にも啓発を行い、住宅用太陽光発電においては補助制度なども設け推進を図っているところです。
 しかし一方で、大規模発電施設の建設においては前述のように、広大な山林に対して自然環境の大きな破壊へと繋がり、環境への悪影響が懸念されるようになってきていることも事実です。また、他地域の事例にあるように、地域の景観等に及ぼす影響等が開発者と地域住民との間で紛争を招く結果となっています。
 あくまでも、私達議会の目標とすることは、自然エネルギーの開発者と、環境や住民との共生が最も重要な課題であり、行政と一体となって地域住民との合意形成を図っていかなければなりません。そのためには、他自治体と情報の共有を図りながら、国、県に対しても、開発者や自治体に対しての指針等の整備を一定程度の要求を行っていく必要があるのではないでしょうか。現在、日出町議会では、太陽光発電等開発に関する規制と誘導についての条例等の作成に関する勉強会を弁護士等を含め行っているところです。