【論文】

第36回宮城自治研集会
第2分科会 ~生きる~「いのち」を守る

 小規模分散型エネルギーによる「地産地消」の観点から、再生可能エネルギー利活用の青森県での可能性について探り、「農林水産業が基幹産業」とされる同県において農家が所得を増やすため、域外から購入しているエネルギーを自前調達し、将来は農家がエネルギー生産・販売事業を兼業とすることで収入を増やしていくために、自治体は何をなすべきかを検討する。



青森にふさわしい自前のエネルギー循環確立へ向けて
―― 農家所得向上の道を探る ――

青森県本部/一般社団法人青森県地方自治センター 井上  浩

1. はじめに

 2011年の3月11日に発生した東京電力福島第一原発過酷事故以降、国のエネルギー政策が再検討されつつある。ところが原子力施設所在自治体の青森県及び六ヶ所村、東通村、大間町、むつ市、さらには原子力施設所在自治体の隣接及び隣々接自治体である十和田市、三沢市、平内町、野辺地町、七戸町、六戸町、横浜町、東北町、おいらせ町、風間浦村、佐井村は事故の検証さえ待てずに3月11日以前への回帰に傾いている。
 あいも変わらず原子力マネーに依存するため、東北電力東通1号機(出力110万kW、原子力規制委員会が審査中)、東京電力東通1号機(出力138.5万kW、整地工事休止中)、Jパワー大間原発(出力138.3万kW、同審査中、準備建設工事中)の3基の原発中、東北電力東通と大間についてそれぞれの運転及び本格工事再開をめざして関係自治体は運動を進めている。このまま建設させると県内の原発による発電の設備容量合計は386.8万kWとなる。福島の経験から、原発は建設停止と既存分の廃炉計画が求められているにも拘らず、青森県は年間の電力需要の3倍の設備容量(注1)を原発だけで抱え込もうとしているのである。
 また、原子力による発電を支えるものとして六ヶ所村で稼働及び試験中、又は建設中の日本原燃核燃料サイクル施設(ウラン濃縮工場、低レベル放射性廃棄物埋設センター、高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センター、使用済核燃料再処理工場、六ヶ所保障措置センター、MOX燃料加工工場)は既に、それぞれの作業に戻っている。
 同じく、むつ市で建設中のリサイクル燃料(RFS)使用済核燃料中間貯蔵施設も、今回の事故とは無関係に作業が進められている。
 このように国策を唯一の拠りどころとしてきた青森県は、今に至っても核関連施設を維持し増やし続けようとする。しかし震災以降は「エネルギーの地産地消、小規模分散型のエネルギー」が原子力による発電に取って代わる電源として期待されるようになった。
 そこで本稿ではまず、原子力発電関係分以外の県内発電状況を明らかにし、次いで原発を廃棄しながら再生可能エネルギーを増やすという今後の改革の道筋について検討する。具体的には東北電力東通1号機の廃炉を進めながら、小規模分散型エネルギーによる「地産地消」の観点から、再生可能エネルギーを青森県で利活用していくことである。「農林水産業が基幹産業」とされる青森県において農家が所得を増やすため、域外から購入しているエネルギーを自前調達し、将来は農家がエネルギー生産・販売事業を兼業とすることで収入を増やしていくために、何をなすべきかである。


2. 原子力以外の発電用施設の青森県内現状

(1) 火力発電
 県内の火力施設所在関係自治体は八戸市。隣接自治体は五戸町、南部町、階上町。施設対象は、東北電力八戸火力発電所3号機(汽力発電方式、使用燃料:重油・原油、定格出力:25万kW、営業運転開始:1968年8月)及び5号機(蒸気タービンを付加したコンバインドサイクル発電方式、使用燃料:軽油・ガス、定格出力:41.6万kW、営業運転開始:2014年8月6日)。同機は、シンプルサイクル方式で運転開始後、コンバインドサイクル発電設備(注2)とした。

(2) 水力発電
 県内の水力施設所在関係自治体は青森市、黒石市、十和田市、平川市、西目屋村、鰺ヶ沢町、深浦町、三戸町。最大出力1万kW以上の発電所は5か所立地している。
 東北電力十和田発電所(十和田市、認可最大出力3万1,100kW、営業運転開始:1943年12月)、同浅瀬石川発電所(黒石市、1万7,100kW、1988年6月)、同岩木川第1(西目屋村、1万1,000kW、1960年4月)、同立石(十和田市、1万500kW、1939年5月)、同大池第2(深浦町、1万kW、1956年3月)、同その他17(4万6,750kW)。合計11万5,450kW。

(3) 再生可能エネルギー(自然エネルギー)発電

エネルギー源

2008年供給量構成比

風 力    50.6%
地 熱    21.0%
潮力・波力    0.0%
小水力    27.5%
バイオマス    0.0%
太陽光    0.9%

  100.0%
① はじめに
 青森県の再生可能エネルギー源のポテンシャルを示す年間供給量構成比(熱及び発電利用)は、右表(注3)が報告されていた。
 その後のFIT導入などにより、2014年度の発電電力量(注4) は太陽光で1億5,700万kWh(設備容量約13万3千kW)、風力が6億3,800万kWh(設備容量約36万4千kW)、大規模水力などを含む全体で12億6,900万kWh(設備容量約63万9千kW)と、太陽光発電が大幅に増えている。
 余談だが旧社会党代議士の故関晴正氏によると、1992年3月に東北電力が「原発の優位性を誇示する」ため、津軽半島竜飛岬にNEDO(新エネルギー産業技術総合開発機構)と設置した風力発電実証研究設備により「風力発電最適地と判明」し、「このデータをもとに、その後の県内外での風力発電の普及につながった」という。
② 風 力
 風力で風車をまわし、その回転運動を発電機に伝えて電気を起こす。前述したこともあり、青森県では1990年代後半から風力発電施設建設が急速に進み、2015年3月末現在では総設備容量が36万3,763kWで都道府県別では、全国第1位、設置数も229基で全国第2位となった。
 前述したように2014年度の発電電力量は、6億3,800万kWhとなっている。





③ 地 熱
 地中に蓄えられた地熱エネルギーを蒸気や熱水などで取り出し、タービンを回す地熱発電は、地中熱利用ポテンシャル調査段階で、実用化に至っていない。弘前大学北日本新エネルギー研究所(青森市松原)の村岡洋文所長は「青森には発電能力約32万kWの中低温(100度前後)の熱水資源が眠っている可能性を突き止めた。北海道や新潟などに次ぐ全国5位の数値。アンモニアなど低温で沸騰する媒体を使えば、発電機を回す蒸気を発生させることができる」とする。
④ 潮力・波力
 海流の運動エネルギーを水車などの羽で電気エネルギーに変換して発電させる潮力及び波力発電については下北半島大間崎における潮力発電の構想などがある。弘前大学がこれまで海流発電の研究を実施。県は東京都とともに、波力発電研究会などにかかわっている。
 これらの実績を踏まえて、2012年7月24日、「青森県海洋エネルギー実証フィールド検討委員会」(委員長は金子祥三・東京大学生産技術研究所特任教授)が発足した。同検討委は国が選定する実証試験海域の本県誘致をめざしたが、漁業者の理解を得られずに断念した。
⑤ 小水力
 用水路などの水流や落差を利用して水車を回し発電する、出力千kW以下の施設による。県土地改良事業団体連合会(野上憲幸会長)は2011年度、五所川原市神山にある長橋溜池(満水面積32.5ヘクタール・五所川原市南部土地改良区管理)で、2012年度は七戸町の「早川幹線用水路」(天間林土地改良区管理)での実証実験に取り組んだ。
 農林水産省の「低コスト発電設備実証事業」の補助事業であり、国の直接の指導下で、長橋ため池での発電は12kW。かんがい期の5月から9月上旬の総発電量は約3.4万kWhで、今春には正式稼働した。県内のため池は大小合わせて約2千ヵ所あり、今後の普及促進には自治体の関与が不可欠となる。
 小水力等及び、マイクロ水力発電(20kW未満)推進へ向けて県は「青森県小水力等発電利活用推進協議会」を設置し、農村地域における再生可能エネルギー導入調査等の具体化を始めた。(県農村整備課)
⑥ バイオマス
 家畜排せつ物や農作物残さ、林地残材、食品廃棄物など、動植物から生まれた再生可能な有機性の生物資源をバイオマスという。燃焼させて電気をつくる点では火力発電の部類となる。
 県内初のバイオマス発電としては、津軽バイオマスエナジー(平川市)が2015年11月から設備容量約6,250kWの事業を始めた。また八戸市では、八戸バイオマス発電(株)が2017年12月の営業運転予定で出力1万2千kW級の木質バイオマス発電を進め、発電電力量は、8,500万kWhを予定している。さらに同市ではエム・ピー・エム・王子エコエネルギー(株)が2019年6月の営業運転予定で、出力7万5千kW級の木質等バイオマス発電を進めており、5億3,000万kWhの売電を予定している。
 また青森県特産のリンゴをジュースにした後に出る搾りかすやリンゴのセン定枝等から固形燃料「バイオコークス」を生産する実証用生産プラントや、稲わら・籾殻利用等、小規模バイオマス利用の研究が進んでいる。
⑦ 太陽光(発電機不使用)
 太陽光のエネルギーを太陽電池で直接電気に変えて使用する。住宅用など県内で広く普及してきている。
 豊田通商(60%)と東京電力(40%)の共同出資により2001年に設立され、世界で再エネ関連事業を推進しているユーラスエナジー(東京都港区)によるユーラス六ヶ所ソーラーパーク(11万5,000kW)が2015年10月1日より営業運転を開始した。むつ小川原開発地区内に253ヘクタール、約51万枚のパネルを設置したもので、現在操業中の太陽光発電設備の中では、国内最大規模となる。
 大和ハウス工業株式会社のグループ会社である大和エネルギー株式会社は、2013年9月30日、八戸市桔梗野工業団地内(36,437.95m2)に総出力1,500kWの太陽光発電所を稼動した。2011年12月20日には、「八戸太陽光発電所」(東北電力1,500kW)が営業運転を開始し、年間発電量160万kWh見込みに対し、2012年3月末迄に36.7万kWhの発電量となった。
 メガソーラー発電により2014年度の太陽光発電電力量は1億5,700万kWh(設備容量約13万3千kW)となった。


3. 原子力以外での県内発電状況は

 以上、県内では既に原子力以外で、およそ130万5,000kWの発電設備を有する。既に明らかとしたように、青森県の1時間当たりの電力需要は、おおよそ130万kWhなので需要に対する調達能力を基本的に有する水準に近づいている。
 これからさらに、火力・水力発電を除いて自然エネルギーのみに着眼しても、次のような指摘がされている。
 「青森県エネルギー産業振興戦略ロードマップ」(青森県)では「本県のエネルギーポテンシャル(風力・太陽・木質バイオマス・地熱)は県内のエネルギー需要量の111%を賄うことが可能であり、中でも地熱、風力、木質バイオマスは、その割合が高く、本県の特徴的なエネルギーといえる」と指摘する。さらに2016年3月に策定された新「青森県エネルギー産業振興戦略」では「2014年度末のFIT制度による設備認定量が305万7千kWで、このうち未稼働が255万1千kW」と指摘する。
 その後2015年度中にもユーラス六ヶ所ソーラーパーク(11万5,000kW)が稼働する等、電力改革の進展により稼働率は上昇し続けるだろう。飯田哲也氏が「東北・2020年自然エネルギー100%プラン」で指摘した「青森県は電力需要を大きく上回る自然エネルギーの導入ポテンシャルがある」ことが今や、現実の発電設備化に向かっている。
 しかし新「青森県エネルギー産業振興戦略」が指摘するように2014年度末で「県内事業者によるものはメガソーラーで約1万3千kW(全体の約25%)、風力発電で約1万8千kW(全体の約5%)」にとどまっている。
 今後の課題としては東北電力東通1号機の廃炉を進めながら、域外から購入しているエネルギーを自前調達するとともに、県人自らがエネルギー生産・販売事業に携わっていくために何をなすべきかである。小規模分散型エネルギーによるエネルギーの「地産地消」の推進である。

4. エネルギーの小規模分散型「地産地消」の推進へ向けて

(1) 国の動向
 2015年5月発刊の「2015年版食料・農業・農村白書」では第3章「地域資源を活かした農村の振興」第3節「再生可能エネルギー推進」で活用へ向けた国の考えが示されている。先行しているバイオマスの活用を除けば概ね、これからの取り組みということだ。また2015年3月にまとめられた「今後の農山漁村における再生可能エネルギー導入のあり方に関する検討会」の報告書に触れて、「①地域の農林漁業者などが自ら出資、意思決定を行い利益を得ることができる取り組みの拡大、②外部事業者のみで行われようとする事業について、計画段階から地域が関わり、農山漁村の活性化に資する取り組みへの誘導が重要であること、それを実現するための対応策などが提言されました」と紹介された。その報告書では「おわりに」で次のように結んでいる。
 「農山漁村における再生可能エネルギー事業を中長期的に支えていくため、農林水産省は、再生可能エネルギー政策を、農林漁業振興政策(産業政策)や農山漁村振興政策(地域政策)の一環として引き続き明確に位置付け、事業を推進していくことが必要となる。
 すなわち、農林水産省は、関係省庁と連携を図りながら『農林水産政策と再生可能エネルギー政策の融合』を更に推進していくことが求められる。今後も農山漁村における再生可能エネルギー事業は大きく拡大し得るものであり、農山漁村の活性化の可能性は大きい。農林水産省の再生可能エネルギーに対する本気度が、今、試されている。」
 しかし、こうした掛け声とは裏腹に2016年度の農水省予算「導入等促進対策事業費」は23%減の1億6,300万円(前年度2億1,100万円)である。

(2) めざすべき方向について
 再生可能エネルギー発電を兼業とし、小規模農家が環境保全型の農業を営むことについて農水省は「営農型発電設備」として「支柱を立てて営農を継続する太陽光発電設備等についての農地転用許可制度上の取り扱いについて」指導するようになった。農家をこの担い手として、農山村の地域資源を活用して食料とエネルギーを共に利活用する経営体を育成していくことで、農家所得を引き上げることが可能となる。
 なお農水省内の検討会では「電力小売自由化後の新たな再生可能エネルギーの販売」として「電力システム改革により、2016年度を目途に電気の小売事業への参入が全面自由化される」ことを受けて、次の指摘がされている。「これにより、家庭部門7.5兆円を含め、合計17兆円の電力市場が開放されることとなり、農山漁村においても、一定の発電量や電力需要量を取りまとめることができれば、電力小売事業を行うことができる。この際、地域に密着した特定規模電気事業者(新電力)が、地域で生産された再生可能エネルギー電気を地域で販売することができれば、地域内経済循環が図られるとともに、雇用創出が期待できる。さらに、このような事業者が、農山漁村で生産された電気を都市の需要家へ『電力の産地直送』として販売する仕組みを作り、都市の電気の需要家が農山漁村で生産された再生可能エネルギー電気を購入することによって、地域の利益のさらなる増加も期待できる。農林水産省は、電力自由化による地域への利益還元効果も見極めつつ、電力小売事業に地域の主体が参画できるような環境の整備を進める必要がある。」
 この指摘に具体的な結果を出すためには自治体農政が前面に出て、農家による売電事業を新たな兼業として領導していくことが今後の課題である。




(注1) 青森県の電力需要は、資源エネルギー庁「都道府県別エネルギー消費統計」によると113億7,600万kWh(2013年)、120億3,000万kWh(2012年)。電力(kW:キロワット)と、電力量(kWh:キロワットアワー)の関係からわかりづらくなっているが瞬間の発・消費電力量をkW、1時間継続した発・消費電力量をkWhで示す。上記の青森県の例では、2013年の1年間で113億7,600万kWhの需要だから、一日あたりは113億7,600万kWh/365 3,117万kWh、一時間あたりは 113億7,600万kWh/365/24 130万kWhとなる(需要変動は別途の考察が必要)。 
 附■単位の「k(キロ)」は1,000をあらわす。1kWh=1,000Wh(ワットアワー)。通常の電力量の表記ではkWを用い、Whは殆ど使わない。

(注2) 東北電力八戸火力発電所5号機コンバインドサイクル化
 附■汽力発電・内燃力発電・コンバインドサイクル(combined cycle)発電
   汽力発電 :燃料の反応熱で水蒸気を作り、水蒸気でタービン発電機を回し、電力へ変換する。
   内燃力発電:燃料の燃焼による高温なガスで内燃機関(ガスタービンエンジン等)を回し発電する。
    コンバインドサイクル発電:内燃機関の排熱で汽力発電も行う複合発電。

(注3) 千葉大学公共研究センター(倉阪秀史教授)・NPO環境エネルギー政策研究所「永続地帯2008年報告書」(2008年3月末時点設備)による。集計では熱利用の木質バイオマスが集計から外された他、小水力は一万kW未満の水路式(調整池を含む)。また地熱は浴用・温泉熱利用他。

(注4) 新「青森県エネルギー産業振興戦略」(2016年3月)

補■主な参考文献類
・「青森県の原子力行政」(青森県)
・「青森県エネルギー産業振興戦略」(青森県)
・ 都道府県別エネルギー消費統計(資源エネルギー庁) 
・ 小水力発電ニュース(全国小水力利用推進協議会)
・ 国、青森県、関係団体のHP
・ 東北・2020年自然エネルギー100%プラン(環境エネルギー政策研究所)
・「自然エネルギー白書2015」(環境エネルギー政策研究所)
・「エネルギー政策と地域社会」(法政大学社会学部船橋研究室)
・「核燃料サイクル施設の社会学」(船橋晴俊+長谷川公一+飯島伸子/有斐閣選書)」
・「脱原子力社会へ」(長谷川公一/岩波新書)
・「原子力防災ハンドブック」(自治労政治局/脱原発ネット・アドバイザー)
・「脱原発アクションプログラム」(社民党全国連合) 他