【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第3分科会 石巻に虹を架けよう~被災地の今を見る、知る、触れる、考える~

 東日本大震災では津波による被害の他に、液状化現象による家屋への被害、道路・水道・下水道などライフラインへの大きな被害が発生しました。液状化により死者は発生していませんが、その復旧・復興には多額の費用がかかり、地域住民には大きな負担となっています。千葉県香取市での液状化とその対策について報告します。



香取市の被害の特徴を踏まえた液状化対策
―― 地域住民の負担軽減もめざし ――

千葉県本部/香取市職員組合 坂本 興久

 

1. 東日本大震災における香取市の被害

(1) 香取市の地形概要
 千葉県香取市は千葉県の北東部にあります。地形的には北部の利根川の低地、南部の谷津と呼ばれる谷に刻まれた下総台地から構成されます。利根川は東西に流れ、江戸時代以降に利根川の東遷による土砂堆積によって陸地となった低湿地が広がっています。ここは現在水田が広がり、8月中旬には収穫が始まる早場米の産地として、千葉県一のコメの生産量を誇っています。

 
 
2回目の大地震後の液状化の状況
液状化により突出したマンホール
液状化により崩れた堤防

(2) 2011.3.11
 2011年3月11日、東日本大震災が発生しました。香取市でも数え切れないほど地震が続きましたが、特に大きかった地震は2回あり、14:46に震度5強(本震)、その30分後の15:15に再び震度5強の地震(震源地茨城県沖)が発生しました。いずれも地震継続時間が10分を超える長い地震で、揺れは激しい縦揺れというより比較的長周期な大きなゆれが長く続きました。
 2つの大地震の際、たまたま私は市役所の外にいました。最初の大地震が揺れ始めて何分か経った頃から、道路と側溝の隙間から水が出はじめたので、それは液状化ですよと住民の方に教えました。この際はまだ液状化による水の出は多くありませんでした。
 30分後の2回目の大地震の際には、揺れにより舗装がゆっくり動き、割れ目からは水が噴き出し始めました。地震が落ち着いて市役所裏の建物にまわると水道管が大きく破損したときのように大量の水が湧いていました。最初の大地震の際の水は液状化とわかりましたが、この大量の水は水道管の破裂かと思い、液状化とはその場ではわかりませんでした。この後建設課に所属していた私は道路パトロールに出かけましたが、市役所の周辺の道路や家屋の破損が一番ひどいことがわかりました。
 香取市の被害の特徴は地震の振動による建物の損壊より、液状化を要因とする地盤沈下や地盤の移動により、建物が沈下・傾斜したり、道路・下水道管・水道管などが損傷した点です。液状化による被害は、津波のような多数の死者が出るものではありませんが、個人資産である家屋や、道路・水道・下水道などのライフラインに大きな被害をもたらし、日常の生活に大きな支障を生じさせました。また、その復旧に多額の費用を要し、特に家屋の傾斜・損壊を直すことに住民の方々が大きな支出を余儀なくされました。

 

(3) 液状化した場所の特徴
 香取市で液状化した所は、①かつて水域であった場所を利根川の浚渫土などで人為的に埋め立てた場所、②利根川の運んだ土砂が堆積して江戸時代以降に集落が形成された場所などです。地下水位が高く、緩く細かな砂層から形成された形成年代の若い土地が地震により液状化しました(下図)。
 なお、低地であっても、大戸-佐原市街地-一ノ分目-小見川市街地に続くかつての砂州(自然堤防)や浚渫土で盛られていない水田や干拓地(市和田干拓)では、液状化はほぼ見られませんでした。県が作成した液状化しやすさマップによると、液状化の発生しなかった佐原や小見川の古くからの市街地が液状化しやすいという結果になっています。ボーリング結果を元にした液状化判定は、安全側にできているため液状化しない場所でも液状化するという判定がでることになります。液状化判定には、人為的な埋立地であるといった要素をどう加味するかという課題があります。

液状化による噴砂した地点(○)と土地の造成履歴を重ね合わせた地図。かつての利根川や水路を埋めた場所や堤防が決壊した場所で液状化が発生した。(噴砂については図の着色部で航空写真を判読した)

2. 液状化対策事業

(1) 液状化対策事業とは
 2011年の東日本大震災後に液状化した地域の市町村長の働きかけもあり、国土交通省では市街地液状化対策事業というメニューを復興交付金事業の一つとして立案しました。これは以下のとおりです。

公共施設と宅地との一体的な液状化対策を推進する事業
 補助対象:液状化対策に必要な調査、液状化対策事業計画案作成、液状化対策工事
 採択要件:① 液状化対策事業計画の区域内で行うもの
      ② 一定規模以上(3,000m2以上かつ家屋10戸以上)
      ③ 宅地所有者等の3分の2以上が同意
      ④ 公共施設と宅地との一体的な液状化対策が行われること

 国土交通省ではこれと併せて液状化対策事業のガイドラインを作成し、これにのっとり多くの市町村で液状化対策事業の検討が始まりました。このガイドラインが推奨する工法として①地下水位低下工法、②格子状地中壁工法の2つが挙げられており、①の工法により茨城県潮来市や神栖市、千葉市など、②の工法により浦安市での事業化が進んでいます。
 これらの工法は、個人の持ち物である私有地の資産形成に資することには税金を投入することはできないという前提のもと、既存の住宅が建ったままできる液状化対策工法として、道路や河川の官地と民地を一体的に工事することにより民地側で行う対策のうち官地側の効果のための工事は公費の負担とすることで、民地側の工事にかかる経費を減らすことができるとして考えられたものです。民地だけの効果のための工事費用は所有者の負担になります。
 それぞれの工法の特徴は以下のとおりです。

① 地下水位低下工法

  特 徴
○対策を行う地区全体の地下水位を下げることにより、面的に液状化しにくくすることができる。
○地下水位を下げるだけであるので、格子状地中壁工法に比べ個人の経済的負担が少なくなる。
注意すべき点
○地盤に粘性土の地層がある場合、地下水位を下げることにより浮力が減少し粘性土層が圧縮して地盤沈下が発生する。事前のきめ細やかな調査が必要。
○地下水をポンプで強制的に排出する場合、将来的なメンテナンスが永遠に必要。
 
② 格子状地中壁工法
  特 徴
○地盤をセメントなどを混ぜて固め、家の周りを囲むように地盤内に地中壁を造り、液状化しにくい地盤をつくる。
○地下水位低下工法のような地盤沈下の心配はない。
注意すべき点
○地中壁の間隔が広くなると液状化しにくさの効果が弱まるので、適切な間隔での格子の配置が必要。
○民地である家と家の間に地中壁をつくることになるので、この部分の施工に関して個人が負担することになる。狭い場所での工事であるので施工費が高くなり個人負担も大きくなる。

(2) 香取市におけるガイドラインによる工法の検討
 香取市においても、復興交付金により液状化対策事業の検討を始めましたが、細かな地盤調査の結果、粘性土層や粘性土や砂の中間のような層が厚いことがわかり、地下水位低下工法を採用した場合、地盤沈下が発生し家屋に大きな影響があることがわかり採用を断念しました。また、格子状地中壁工法については民地に壁を造る必要があり、個人の負担が数百万円単位でかかること、最近開発された土地のように土地や建物が碁盤目状の整形になっていないため、効果のある格子を実際に組むことが難しいこと、高齢化が進み各戸の経済状況も厳しいことから事業化に至ることはできませんでした。

3. 香取市の被害の特徴を踏まえた液状化対策事業の模索

(1) 側方流動現象の確認
 香取市における液状化被害の大きな特徴として、最も被害の大きかった市役所周辺地区で、地盤の低い河川に向かっての側方流動という現象を起因とする被害が確認されました。
 側方流動とは、液状化した地盤が土地の低いところに向かって移動することで、アラスカ地震、日本海中部地震、阪神・淡路大震災をはじめとして、特に湾岸沿いの埋め立て地などでその現象がこれまでに確認されています。香取市では側方流動により、河川護岸の損壊、道路の損壊に加え、家屋の傾き、古い家屋の引き裂きなどが発生し建物に大きな被害が発生しました。

 
十間川が液状化による噴砂で埋まり、周辺の家が傾いた

 香取市では地震後地盤の変動を確認するために、市役所周辺に都市再生事業で設置されていた基準点について、その位置と高さの再測量を行いました。その結果、国道356号より利根川寄りの、昭和初めころに利根川の浚渫土で埋め立てられた地区において地盤の低い河川に向かって地盤が最大2m水平方向に移動していることが確認されました。航空写真を見ても、地震前と地震後で小野川の川幅が狭くなっていることが確認できます。


 
小野川が液状化による噴砂で埋まり、護岸や周辺の家が傾いた 小野川に面した道路や宅地には、川への地盤の側方流動による大きな地割れが生じた
 
 
川の下を地盤改良で固めることで再液状化した時の側方流動を抑える
 

(2) 側方流動の対策を液状化対策事業に
 「東日本大震災復興交付金要綱(国土交通省)附属編」の16都市防災推進事業(市街地液状化対策事業)を読み見直し、香取市での液状化被害の特徴である土地の低い河川への側方流動の対策が周辺家屋との一体的な液状化対策になるという考え方をまとめ、要綱にのっとったガイドラインによらない第3の方策として、国土交通省及び復興庁に事業への理解を求めていきました。事業への理解には時間を要しましたが、国土交通省担当課の理解もあり、無事事業採択されることになりました。これにより香取市の被害に即した対策ができることになりました。
 具体的な対策としては、再び大地震が起こった場合に、液状化による河川に向かっての側方流動が起こることを解析により確認し、側方流動が起こらないようにするため、河川の下の地盤を格子状に地盤改良することで、横方向への移動を抑えるという工法です。全て官地で行うことから、工事費用の負担は周辺住民には発生しないものとすることができました。


十間川に隣接し液状化被害を受けた佐原中学校で、生徒を対象に工事中の現場を見ながら液状化対策の考え方と工事の説明を行った

4. おわりに

 2016年には側方流動に対する液状化対策事業が完了しました。しかし、残念ながら液状化で被害を受けた数多くの家屋への対策ができたわけではありません。私見としては、液状化対策事業のような建物が建ったままでの面的な対策を行うことは、狭い場所での工事になり工事費が多額になること、液状化の状況は家の建っている場所により違うこと、建物の基礎をしっかりとしたものにするわけでないことから、将来的な建て替えの際に更地にしたうえで基礎杭を入れる等の地盤対策を行う方が個人にとって経済的で安全性の増した建物とすることができると考えています。
 今後も住民の立場に立ちながら、香取市の状況を踏まえた施策の立案を図っていきたいと考えています。
 なお、香取市の液状化対策の検討結果の資料は市ホームページに掲載しています。対策を検討するために行った地質ボーリングの結果も、建物の建て替え時の参考にしていただけるよう併せて掲載してあります。




(出典)
■香取市HP:液状化対策(ボーリング結果も掲載)
 https://www.city.katori.lg.jp/living/sumai/ekijoka/index.html
■香取市HP:被災・復興の記録
 https://www.city.katori.lg.jp/living/anzen_anshin/daishinsai/kiroku/index.html
■香取市公式YOU TUBE 東日本大震災 香取市 液状化被害
 https://www.youtube.com/embed/PAlVT_XYsGo
■復興庁HP:復興交付金制度(制度要綱・交付要綱等)
 http://www.reconstruction.go.jp/topics/post_90.html