【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第4分科会 安全な場所・逃げる場所ってどこなの? ~防災を知ろう~

 1995年1月17日「阪神・淡路大震災」、2004年10月23日「新潟県中越地震」、2008年6月14日「岩手・宮城内陸地震」、2011年3月11日「東日本大震災」、2014年9月27日の「御嶽山噴火」、そして、2016年4月14日「熊本地震」、私たちの記憶に残る災害は数多い。災害が発生する度に、死傷者の名前が報道され、亡くなられた人やその家族のことを思うと心苦しい気持ちになってしまう。災害から命を守る取り組みとして、「防災」や「減災」がこれほど注目を浴びている時代はなかったのではないだろうか。本レポートは、わたしたちの住む網走において、どのような災害が考えられ、どのような対策が必要なのかを過去の事例や現状の取り組みから考察する。



網走市に求められる防災計画とその取り組みについて


北海道本部/網走市役所労働組合・自治研推進部

1. はじめに

 網走市は北海道の東部オホーツク海に面し、一年を通じて晴天が多く、年間の降水量・降雪量は北海道レベル、全国レベルにおいても少ない地域と言われている。また、海に面しているため寒暖差も少なく、海流の影響で寒気も内陸に比べ入りづらく、総じて比較的温暖な気候の地域と言える。
 さらに、地震や台風による災害も少ない地域として、住民の防災や危機管理への意識は比較的低い地域と考えられる。網走市の「防災意識に関する市民アンケート報告書」では、「調査対象者が被害・危険を感じた災害は?」との質問に対し、46.4%の市民が「被害や危険を感じたことはない」と答えているのが現状である。
 しかしながら、数年に一度の頻度において、「津波警報」の発令や、低気圧による「暴風雪」といった災害が発生し、さらに寒波の影響による大規模な「断水」といった地域特有の災害も発生し、死者も発生しているのが現状である。
 本レポートは、網走市において過去に発生した災害時の状況を振り返り、将来においてどのような災害が考えられるのか、また、その災害に対し、事前にどのような施策が必要なのか等を明らかにすることを目的とする。


2. 網走市における災害発生時の現状

2006年11月16日付 読売新聞記事より
(1) 津波警報発令時
 2006年11月15日午後8時15分頃、千島列島沖を震源地とするM8.1の大地震が発生した。気象庁は同日午後8時29分、北海道太平洋沿岸東部、オホーツク海沿岸に津波警報を発令。同じく北海道は同日午後8時29分に危機管理対策局内に津波対策連絡本部を設置し、太平洋沿岸東部、オホーツク海沿岸の自治体に対し「避難勧告」を発令した。網走市でも同日午後8時50分に災害対策本部を設置し、低台の市街地域や郊外の沿岸部など2,050世帯4,120人(人口の約1割)に避難勧告を出し、約1,500人が市内14カ所に設けられた避難所や高台地区に避難したという事態が起こった。幸いにも、津波の高さは当初予想されていた50~200cmを下回り、実際には10~30cmであったため、災害には至らなかったものの、この背景で自治体職員は夜にもかかわらず、テレビやインターネット等を通じて自主的に市役所庁舎に集まり、集まった順に地図を片手に、2人1組となり公用車で低台の市街地域や郊外沿岸地域へ分かれて走り、一軒一軒チャイムを鳴らし、避難所への避難を促したという事実があった。
 その後、年が明けた2007年1月13日午後1時55分頃、同じく千島列島沖にて大きな地震が発生、前年11月の津波警報に次いで、オホーツク海沿岸地域に再び避難勧告が出された。日中であったことも幸いし、スムーズな連絡・避難体制が図られたにもかかわらず、避難者は約900人と前回の避難時よりも約600人減少するという結果であった。実際の津波については当初予想50~100cmに対し、実際は10~20cmと低かったことは不幸中の幸いとしか言えない状況である。
 オホーツク海沿岸に津波警報が発令されたのは、1952年以来、実に54年振りのことであり、当時の避難の様子を知る人も少なく、また、東北地方のように古くから「地震が発生した際は裏山に避難するべし」というような言い伝えもないが、1回目は約3人に1人が夜にもかかわらず避難したのに対し、2回目は昼間にもかかわらず5~6人に1人しか避難しなかったという事実は、いかに住民の危機管理が低いかを物語る事実となった。
 東日本大震災後、解ったことであるが、大きな津波時に沿岸部に行くことは自殺行為であったこと、実際に避難勧告が発令された後、網走市職員は沿岸部や低地の市街地において避難誘導を行っていたこと、さらに低台の避難所にて避難者の対応を行っていたことは、今後の危機管理に課題を残す結果となった。

2013年3月4日付 朝日新聞記事より
(2) 暴風雪発生時
 2013年3月2日から3日にかけて、北海道東部は発達した低気圧による暴風雪に見舞われた。その暴風雪により根室管内中標津町では、親子4人が雪に埋もれた車の中で一酸化炭素中毒で亡くなるという痛ましい事故が発生し、全国ニュースにも取り上げられたのは記憶に新しいことである。同日、網走でも暴風雪により、郊外地区において、酪農ヘルパーの50代の男性が帰宅途中、吹雪で方向を見失い自宅近くの畑で倒れ死亡しているのが発見された。死因は低体温症とのこと。いずれの事故も低気圧がもたらした暴風雪による災害である。この時の最大瞬間風速は20~30m、網走市に隣接する大空町にある女満別空港では終日、全便が欠航、道路も完全に雪に塞がれ、復旧するまでに2~3日を要する状況であった。また、この吹雪により車が道路で立ち往生し、近くの会館や消防団事務所などに避難した人は、網走市内で約130人、暴風雪による倒木により送電線が切れ、市内約50戸の家庭で約22時間の停電が発生した。
 網走市では暴風雪が治まった直後より、道路管理部署は昼夜を問わず市道の除雪に追われ、福祉部を中心とする職員は、「災害時要援護者台帳」等に基づき、一軒一軒電話を掛け、ライフラインと換気口や自宅通路の状況確認に追われた。そのような中、自宅玄関の戸が雪で開かない、換気口が雪で塞がり換気が困難な状況との報告を受ければ、急遽2~3人が1つのチームとなり、スコップと地図を手に除雪作業に出動するという状況が2日程続いた。
 北海道では、年に数回、暴風雪や地吹雪による死亡事故が発生している。網走市でも暴風雪が発生した際は、国道や道道、市道が完全に塞がれ、車の往来が困難となり、物流がストップし、陸の孤島のような状態になることもしばしば起こる。それでも市内は比較的早い段階で除雪車などにより道が開通するが、郊外地区でトラクターなどの重機を持っていない家庭では、自宅から道路までの道を除雪するのも一苦労な状況である。特に高齢世帯や独居となると、誰かに助けてもらわなければ命の危険もありうる状況だが、暴風雪時の具体的な対応マニュアルは特にない状況であり、今後何らかの準備が必要な災害と考えられる。

2010年2月6日付 網走タイムズより
(3) 大規模断水発生時
 2010年2月4日、網走市の約70%にあたる1万1,600世帯が断水に見舞われた。原因は厳しい冷え込みにより、水源地から浄水場に水を送る導水管に亀裂が生じたことが原因と考えられている。極寒の中、原因となった郊外の導水管復旧には20時間を要し、その間、ライフラインを突然断たれた市民に対し、市は自衛隊に給水車の派遣を要請する一方で、広報車を出して給水支援の広報活動を行った他、各給水所に職員を配置し、ポリタンクや給水袋を市民に渡すなどの支援を行った。また、市の事業部局では、病院やホテルなどの状況調査を実施し、給水が必要な施設への給水活動を実施した。
 この断水により生活用水が確保できないとの理由から、市内の小中学校7校が臨時休校の処置をとった他、飲食店、理容美容室、ホテルなどのサービス業、水産加工や食品製造会社、病院や福祉施設など幅広い分野に影響を与える結果となった。そのような中、受水槽や井戸などがあった施設は、比較的影響は小さく済んだという事実もあった。
 この断水の背景で、近隣市町村からの支援もあった他、町内会や地元の建設業者が給水活動の支援を行ったり、照明機材や発電機、ジェットヒーターなどを無償で貸し出すなど「地域の共助」が目に見えるかたちで現れ、寒波による断水災害を最小限に抑えることにつながったことも事実である。しかしながら、地域の病院や福祉施設、飲食店や食品加工会社では、もっと早く断水情報があれば、何らかの対応ができたと批判の声も聞こえている。


3. 網走市の防災施策

(1) 防災計画の策定
 網走市では、2003年に網走市地域防災計画を策定しているが、この間の関係法令の改正や関係機関の状況、防災の取り組み等の反映に加えて、東日本大震災の教訓を踏まえて、計画全般の見直しを図った。見直しに当たっては、市民の防災に関する意識や要望を反映させることができるようアンケートを実施し、「自助・共助・公助による減災活動」、「自主防災組織の構築」、「災害や防災に対する意識」、「地域住民の高齢化」などについての課題が窺えるアンケート結果を反映させながら、『市民と地域、行政が一体となり、かつそれぞれの役割に応じた防災対策に取り組む』ことをめざして、見直しを行ってきている。
 内容については、「自助を中心とした地域防災力の向上」「公助を中心とした減災のまちづくり」「共助を中心とする災害に強い防災体制」づくりを基本方針に掲げて見直し作成を行っており、その具体的な対策については、「避難体制の整備」「高波・高潮災害予防」「自主防災組織の育成」「災害時要援護者対策に係る対応・体制」等について掲げ、行政と住民の"共助対策"の具体化を図っているものである。

(2) 防災ガイドブックの作成
 防災ガイドブックについては、日ごろからの備えや災害ごとの対応や行動、防災情報、防災や災害発生時に必要な事項、ハザードマップを一冊にまとめたものを2014年2月に作成し、3月には市内全戸に広報紙とともに配布した。従来は、防災マップや洪水ハザードマップ、津波ハザードマップ、津波防災のしおりを別々に作成・配布してきたが、それらを一冊にまとめ、内容や表現についても社会福祉協議会や老人クラブ連合会などの意見反映を受け、子どもから高齢者まで幅広い年齢層に対応したものとして作成している。
 また、2013年7月には「お知らせメール@あばしり」の運用を開始し、気象警報や暴風雪等による道路通行止め情報等の防災情報などを発信している。このお知らせメールの登録方法についてもガイドブックに掲載し、住民の利用促進を図っている。

(3) 災害備蓄及び災害の避難所の開設について
 網走市では、小中学校を災害時の地域の拠点避難施設と位置付け、2013年度から2017年度までの5ヵ年間で備蓄品の整備を行っている。総体で乾パンや飲料水等約4,000食分に加えて、簡易トイレ約3,000個、毛布約2,000枚などの備蓄資材を市内小中学校に備えているほか、2018年度以降には市内コミュニティセンターにも備蓄品整備を行う予定である。
 また、災害が発生した際の避難所開設方法については、「避難所開設マニュアル」に基づき、避難所運営委員会(施設管理者・町内会・民生委員・市職員等で構成)で開設することとしており、現在は避難所開設マニュアルが整備されているのは、市内小学校1校のみとなっているため、他の小中学校にも、早期にマニュアル整備を進めるように準備を進めている。また、コミュニティセンターの避難所開設マニュアルの整備については、小中学校での開設マニュアル整備後にとり進める予定である。


4. 市民レベルの防災と危機管理

(1) 自主防災組織の立ち上げとその内容
 2008年6月に発生した岩手・宮城内陸地震、ちょうどその頃を境として、網走市において地域住民の防災意識が生まれはじめたと言われている。それまで災害の少ない地域であったため、「防災」や「減災」に対しての意識が低い状況であったが、防災や危機管理の全国的な高揚のもと、市町内会連合会内において、地域防災の向上をめざした議論がスタートし、まず、近隣市町村において地域防災に取り組む町内会役員を招き、地域防災の学習会を開いたのが自主防災組織立ち上げの始まりであった。
 2010年より町内会連合会主導のもと、網走市地域福祉会議(市町連・民児連・市老連・地域包括支援センター・市社協・市)が協働して、「防災福祉の地域づくり」の取り組みが開始された。「防災福祉の地域づくり」の概要としては、単位町内会においての「組織づくり」を第一段階とし、次に「災害時要援護者台帳」や「災害福祉マップづくり」を行い、最終的に「自主防災活動」や「地域福祉活動」へとつなげていこうとするものである。
 「自主防災活動」における防災訓練の内容としては、主に「個別訓練」、「総合訓練」、「図上訓練」が推奨されており、具体的には「個別訓練」として、情報収集や伝達訓練、消火訓練、救出・救護訓練、避難訓練、給食・給水訓練が、「総合訓練」は個別訓練に掲げる訓練を総合的に行う訓練と位置づけられている。さらに、ハザードマップや災害福祉マップを活用して、実際の災害時を想定した図上訓練(DIG)も組み込まれている。

(2) 自主防災組織の現状について
 網走市内の町内会数は、2015年度現在、211町内会であり、その内自主防災組織を設置している町内会は114町内会で、全体の54.03%となっているのが現状である。市は総合戦略の中で、2020年までに町内会の自主防災組織率を70%以上にするとの目標を掲げているものの、具体的な加入促進策は無いのが現状である。さらに、網走市の町内会における自主防災組織の現状については、町内会長自身が自主防災組織の管理者として、リーダーシップをとっており、自主防災組織の担当者を特別に配置している町内会は数少ない状況である。よって、多忙な町内会長業務の傍ら、防災訓練を行うことは非常に難しい状況であり、実際に防災訓練を実施する際は、地区連単位での実施となっているのが現状である。そのような状況であるため、約46%の町内会が自主防災組織の設置には至っていない。
 また、2012年3月に出された網走市の「防災意識に関する市民アンケート報告書」において、自主防災組織を「知らない」と回答した市民は、全体の62.3%を占める状況であり、市民の約3人に2人が町内会の自主防災組織の存在を知らない状況である。
 さらに、災害時における災害状況等の緊急情報や各種イベント情報、その他生活に関する情報など様々な情報から、希望する情報を配信するサービスとして、市は「お知らせメール@あばしり」を提供しているが、2016年6月末現在、登録者数は1,848人に過ぎず、全人口の約5%弱に過ぎないのが現状である。

(3) 地域防災訓練の実施状況
 市地域福祉会議が先導するかたちで、2011年9月26日には、網走市農村環境改善センターで北浜・娜寄町内会での「地域防災訓練」が実施された。各機関・団体からの参加者約100人が地震を想定した「情報収集・伝達訓練」や「避難所開設訓練」、「避難訓練」を実施し、消防署職員によるAEDや三角巾の使い方を学ぶ「応急救護訓練」、非常食の試食と調査のための「食糧物資供給訓練」を実施した。訓練内では、市担当者より自主防災組織の結成や災害時要援護者支援制度の説明を受け、参加した町内会の人々と各機関・団体の代表者との「地域福祉懇談会」が開催され、参加した住民の方々からは「とても有意義なものだった」「訓練は継続していくことが大事」などの感想が出された。
 また、2016年2月14日には市内潮見地区連合会において、避難所運営をまかされたという想定のもとのシミュレート訓練が実施された。網走沖でM7.5規模の地震が発生し、大津波警報が発令され、市街地より高台地区である同地区へ多くの被災者が避難してくることを想定した防災訓練で、同地区内にある小学校に避難所を開設した際のHUG(避難所運営ゲーム)を行ったものであり、約80人が参加したこの訓練では、実際の避難所において何が必要となるのか、避難所となる学校の問題点などが話し合われたとのことである。


5. 今後の取り組みについて

 網走市における過去の津波警報やその他の災害、また、現状の防災施策や地域防災訓練の状況を確認することによって、いくつかの課題が浮き彫りになった。
 まず、網走市では「地震」や「津波」だけではない、地域特有の災害があるということ。つまり、「暴風雪」や「断水」、「竜巻」や「落雷」なども想定した防災施策の完備が必要であることが指摘される。
 また、災害ごとに住民や市職員の行動マニュアルを作成し、日頃より訓練を行っておくことも重要である。市内各地区の町内会連合会が取り組んでいる防災訓練は、一部の市民しか参加していない状況であり、地域全体での取り組みには至っていない。よって今後は、単位組織や単位町内会レベルでの防災訓練の継続実施が急がれる。さらに、断水時に町内会や地元建設業者が自主的に支援を行ったことを参考に、市が民間組織や企業と防災協定を結んでおくことも必要な施策と考えられる。
 今後、住民の防災や減災、危機管理意識の向上を図るためには、市民一人ひとりの意識の向上が必要と考えられる。住民の防災や危機管理意識向上のためには、身近な広報誌や情報誌等を活用して、日頃より市民の防災・減災への意識高揚を図る必要がある。現状において、災害情報を積極的に活用していない市民が多いため、新たな情報ツールとしてSNS等の活用も必要と思われる。また、危険区域には防災無線や防災サイレン等の完備も必要である。
 さらに、少子高齢社会においては、町内会など身近なコミュニティが果たす「共助」は、防災時には有効な手段と考えられるため、単位町内会の自主防災組織を今以上に設置する必要がある。そのためには、単位町内会レベルで自主防災組織の設置を促す施策が必要である。地域にある企業者や学校、NPO団体などの組織が災害時に町内会と連携できるよう取り組みを展開する必要がある。
 そして、市役所組織においても、現時点において防災訓練は実施されていない現状に鑑み、いち早く市が防災訓練を実施する必要がある。全てが整ってからの訓練でなくてもよく、できることから一つずつ始めることが必要であると考える。


6. おわりに

 2016年6月10日、国の地震調査委員会は、30年以内に震度6弱以上の地震が発生する確率を都道府県庁と総合振興局・振興局の所在地全国61ヵ所について公表した。網走(オホーツク)は61ヵ所中55位で、確率は1.3%とのこと。少ない確率ではあるが、災害の危険はあるとの予想である。市内では未だ耐震化が進んでいない建物も多く存在するのが現状であり、防災や減災に対する施策の充実が急がれる。
 今回、わがまちの防災の現状について、様々な視点より考察を行った。自らも知らないことが多く、そして、防災や減災、危機管理意識が低いことに改めて気づかされた。防災ガイドブックの存在は知っていたものの、その隅々まで目を通したことはない自治体職員であるのだから、自ずと市民の防災意識が高いはずはない。全国的に防災や減災への取り組みが進められている中で、わがまちの防災を積極的に議論し、取り組みを開始することが不可欠な状況に直面している。