【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第4分科会 安全な場所・逃げる場所ってどこなの? ~防災を知ろう~

 東日本大震災の被害を受けて、防災に強いまちづくりを考えたとき、自治体と地域とのつながりや常日頃から防災に対する意識や心構えが重要視されます。
 防災訓練から、いざという時に慌てず冷静に行動できるようにしましょう。



地域防災と自治体・住民とのネットワーク


茨城県本部/大子町職員組合 藤田 浩二

1. はじめに

 大子町は茨城県の最北西端に位置し、日本三大名瀑の一つ「袋田の滝」で知られる奥久慈地域の中心です。かつて42,000人を超えた人口も減少の歯止めがかからず2016年7月1日現在18,384人となってしまいました。世帯数は、人口の大幅な減少にもかかわらず、1955年の7,779戸から2016年の7,551戸と微減にとどまっています。一世帯当たりの人員数は年々減少傾向にあり少子高齢化が進んでしまっています。10歳以下の人口は、1,005人と全体の5.47%で65歳以上の人口は、7,399人と全体の40.25%を占めています。(図Ⅰ参照)

図Ⅰ


 総面積は、325.76km2と県全体の20分の1を占める広大な町で面積の約8割は、八溝山系と阿武隈山系からなる山岳地で、八溝山をはじめ高笹山、男体山など県内有数の秀峰を擁しています。この山間から流れる中小河川は数多く、これらは源を福島県に発して町の中央部を流れる久慈川に注ぎ、この各河川に沿って狭めあいながらも耕地が開け人家が集落を形成しています。居住地については、全体のわずか約2%です。
 こうした現状から大災害が町を直撃したときを想定すると、町全体が洪水にみまわれ孤立する被害が危惧されます。

2. 過去の大災害の被災状況

○1965年9月4日 大子町全域に降った鶏卵大から直径8cmほどの大きさの雹(ひょう)により、農作物、山林、家屋等が大きな被害を受けた。農作物では、被害面積1,066ha、被害戸数9,439戸、被害総額3億6,574万円。
○1986年8月 台風10号により久慈川、押川などの河川が氾濫し、町内の総雨量は238mmを記録した。住家の全壊1棟、半壊2棟、床上浸水181世帯、床下浸水91世帯、がけ崩れ10か所などの被害を受けた。被害総額は16億8,264万4千円。
○1991年9月 台風18号より河川が氾濫し、総雨量174mmを記録した。住家の半壊1棟、床上浸水127世帯、床下浸水52世帯、がけ崩れ21か所などの被害を受けた。被害総額は12億6,066万3千円。

3. 東日本大震災時の状況

・停電は全域復旧が3月15日でピーク時停電件数10,500戸
・山間部の土砂災害5か所
・水道被害は、一部断水で3月25日全面復旧
・住家被害は、全壊1戸・半壊1戸・一部破損752戸(屋根瓦破損含む)
・自動車燃料が入手困難。
・町内のライフライン情報伝達不足。

4. 自治体の取り組み

 東日本大震災においては、過去に例を見ない未曾有の大震災に対し災害対策本部が設置されましたが、うまく起動できなかったのが実情でした。一部の職員は、応急対応業務分担が明確化されていなかったことや人手不足も重なり連日にわたる避難所応急対応業務を行った職員もいました。また、職員自らも被災している中で自分の家や家族を心配しながらの応急対応業務は、職員にとって精神的・肉体的負担やストレスもありました。今後も想定される回避しきれない大災害に備え、災害に強い町づくりを考えたときに自治体職員のみでは対応しきれない部分もあり、地域住民と連携し一体となった町ぐるみの防災計画が必要です。
 東日本大震災の影響を受けてから2013年3月に大子町地域防災計画が大幅に見直しされました。民間の地域防災コンサルタントを中心に素案を作りあげ計画見直しに取り組みながら、各課より震災後の応急対応や意見を提出し大子町防災会議で議論を重ね、災害対策本部の事務分掌作成や配備区分の明確化に加えて、新たな取り組みとして対策本部被害報告系統に地域からの自主防災組織が加わり自治体と地域の連携強化とFMコミュニティー(FMだいご)からの情報発信等も整備されました。(図Ⅱ資料参照)

5. まとめ

○大規模災害時に人々が期待するもののひとつに、国や自治体など公的な機関や組織、そしてそこに働く人々による支援があります。
 人々のくらしや生命・財産を守ることを目的とする仕事に携わる立場の公務員は、当然災害時などの緊急時には一層期待を寄せられることになります。平時からの公務員として住民の生命・財産・くらしに責任を負う自負と誇りを持ちながら防災整備を常に見直し点検して整えておくことは非常に重要です。
○大震災後に毎年地域防災計画を基本とし、実施されている防災訓練を地域と一体となり行っていますが、いくつかの課題や改善点が示されています。

 
防災訓練の様子

○住民参加団体からは、計画的に実施できたので、炊出し訓練がうまくいったとの意見や町の訓練と地区の訓練を同時に行うことは、防災に関する理解を深め、地区での話し合いの機会とすることができたことや情報伝達訓練・避難所開設訓練・炊出し訓練に取り組んだ参加者は真剣であり、いざという時に役立つと感じた等々の意見が出ました。一方、高齢者が多いことから移動手段の検討、避難場所が土砂災害特別警戒地区内にあること、ハザードマップがわかりにくい、防災ラジオに雑音が入り聞きづらい、受信できない家が数件あった、訓練に「土のう積」「救命処置」を追加してみてはどうか等の課題も示されました。
○対策本部員からの意見としては、参集メールで連絡がとれない場合があるので電話連絡も併用する必要がある、災害対策本部の動員体制のうち情報受信体制・情報伝達や情報発信体制については年度当初に細かな役割分担を定めるなどの充実が必要、全職員(第3次体制)まで動員し防災意識の共有と非常時の的確な判断・行動に繋げるべきである、コミュニティFMを使っての情報伝達は良かったが実働を伴わない聞き流しの情報処理であったためどれだけの人が耳を傾けたか疑問に思う、会場訓練への参加者は多かったので訓練想定との整合性はともかく各個人がアクションさえ起こせば興味を持って行動するし防災意識の高揚・普及啓発を図れるように感じた等々の意見が出されました。今後の訓練の課題として反映させるべきだと思います。
○こうした取り組みに対して、わたしたち労働組合は、各職場からの意見等を集約し当局と話し合い、防災計画に積極的に関わりあいながら、さらには働く者の仲間として地域とのネットワークの構築をより深く築きあげ、地域と市民の声を行政に発信していく役割も担っていく必要があると思います。


図Ⅱ資料

■大子町地域防災計画の概要

◎ 計画の目的
 大子町地域防災計画は、災害対策基本法第42条に基づき、大子町防災会議が作成する計画です。この計画では、大子町の地域に係る災害に関し、町と防災関係機関がその全機能を有効に発揮し、町民の協力のもとに、町民の生命、身体及び財産を災害から保護することを目的とし、災害を防ぐために平常時から行う予防対策や、災害発生後の応急、復旧・復興において実施すべき対応などを定めています。

◎ 地域防災計画の構成
 大子町地域防災計画は、次のような構成及び内容となっています。


◎ 地域防災計画の構成
 町の地域防災組織は、次のとおりとなっています。


■災害予防計画の主な記載事項

◎ 町の防災力を向上させるための取組
 ①町民一人ひとりの防災力向上②家庭における防災力向上③自主防災組織における防災力向上④事業所における防災力向上⑤学校における防災力向上

◎ 災害に強いまちをつくるための取組
 ①災害に強いまちづくりの整備

◎ 災害時に的確な情報処理を行うための取組
 ①町民への情報伝達体制の整備②通信設備バックアップ体制の整備

◎ 円滑な災害対応を行うための取組
 ①災害に強い組織づくり②災害時の連携体制づくり

◎ 災害から町民を守るための取組
 ①消防・救急体制の整備②災害時要援護者の支援体制の整備

■災害復旧・復興計画の主な記載事項

◎ 被災者の生活再建支援
 ①インフラ・ライフライン施設の応急対策②応急仮設住宅③り災証明の発行

■町の役割と地域の役割とつながり

◎ 災害情報の収集・伝達と広報
① 災害・気象情報の収集・伝達
 災害につながるような異常な現象を発見した人は、直ちに町(総務課)に通報することになっています。町は、重要な通報を受けた場合は、関係機関に通報し、町民の皆さんにも周知を行います。
 町からの情報伝達手段は、FMだいご、広報車、サイレン、町の公式ホームページ、情報メール一斉配信サービス、区長や消防団情報収集団員からの伝達があります。
② 災害情報の広報
 災害時には、町は災害情報(被害規模など)と応急措置情報(避難の指示や被災者の支援など)について、わかりやすく広報を行います。また電気・水道などの復旧情報についても情報の提供に努めます。
③ 情報を受けた際の対応

●緊急地震速報
 最大震度が5弱以上と予測された場合、テレビやラジオ、緊急速報「エリアメール」(NTTドコモ)による情報提供が行われます。緊急地震速報を見聞きした場合、屋内にいれば家具など倒れる危険のあるものから離れて机の下に隠れる、屋外にいればブロック塀や自動販売機など倒壊の危険のあるものから離れ、身を守るために頭を保護し安全な姿勢をとります。

●避難情報
 避難情報には、一般に避難に時間を要する災害時要援護者の方を対象に、早めの避難を促す「避難準備情報」、災害が発生する可能性を受け避難を促す「避難勧告」、事態が切迫した場合の「避難指示」があります。
 避難にあたっては、町からの避難情報のみに頼らず、自らも各種の防災情報の収集を行い、危険を察知した場合には早期の避難を心がけましょう。

区 分発令時の状況町民に求める行動
避難準備
(災害時要援護者避難)情報
○災害時要援護者等、特に避難行動に時間を要する者が避難行動を開始する段階であり、災害の発生する可能性が高まった状況 ●災害時要援護者等、特に避難行動に時間を要する者は、計画された避難所への避難行動開始
●上記以外の者は、避難準備開始
避難勧告 ○通常の避難行動ができる者が避難行動を開始しなければならない段階であり、災害の発生する可能性が明らかに高まった状況 ●通常の避難行動ができる者は、計画された避難所への避難行動開始
避難指示 ○災害が発生する危険性が非常に高いと判断された状況
○災害が発生した状況
●避難勧告等の発令後で避難中の町民は、直ちに避難行動を完了
●未だ避難していない避難対象地域の町民は、直ちに避難行動に移るとともに、そのいとまがない場合は生命を守る最低限の行動

◎ 町及び自主防災組織による救助などの活動
 町は、災害発生後すみやかに被害状況を把握し、被災者および負傷者の保護・救助にあたります。なお、町民の皆さんや自主防災組織では地域で助け合って、初期消火や救助を行うほか、町が行う救助活動への協力に当たります。

◆自主防災組織の活動体制の例
 


◆自主防災組織の活動内容の例

災害時の活動平常時の活動
○ 地域内の被災情報の収集・伝達
○ 出火防止・初期消火の実施
○ 負傷者の救出・救護の実施及び協力
○ 避難誘導、災害時要援護者の避難支援
○ 給食・給水・救援物資の配布に対する協力
○ 避難所運営への協力
○ 防災知識の普及及び地域の危険箇所確認
○ 初期消火、救出・救護、避難、各種防災訓練の実施
○ 災害時要援護者の避難支援のための取組
○ 防災資機材等の備蓄整備・点検
○ 避難場所の確認や避難所運営のための訓練

◎ 災害時の応急活動組織
① 町職員の災害時配備体制
 町に災害が発生した場合、又は発生するおそれがある場合には、災害の状況に応じて職員の動員配備を行います。

種  別配備時期
災害対策連絡会議
(準備体制)
震度4を記録し、又は暴風雨の通過の予見等により、次順以上の配備の要否の検討が必要なとき。
第1次配備
(警戒体制)
震度5弱を記録したとき、町域に掛かる暴風雨、大雨、洪水等の注意報の1以上が発令され、非常災害のおそれがあるとき、又はその他の状況により本部長が必要と認めたとき。
第2次配備
(緊急体制)
震度5強以上を記録したとき、町域に掛かる暴風雨、大雨、洪水等の警報の1以上が発令され、局地的に災害が発生し、なお、災害の拡大するおそれがあるとき、又はその他の状況により本部長が必要と認めたとき。
第3次配備
(非常体制)
広範な範囲にわたり大規模な災害が発生したとき、又はその他の状況により本部長が必要と認めたとき。

◎ 避難所の開設と運営
① 避難所の開設
 町は、避難勧告・指示に伴い、直ちに避難所の開設を行います。

② 避難所の運営
 避難所の運営は、自主防災組織や避難者が中心になって行います。町は、避難所の状況を総括しつつ、避難所運営の支援を行います。
 なお、避難所となった学校の教職員などは、児童・生徒の安全確保や学校教育正常化に向けた準備などに支障のない限り、避難所運営への協力に当たります。