【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第4分科会 安全な場所・逃げる場所ってどこなの? ~防災を知ろう~

 日本の全ての自治体が、大規模な災害に遭う可能性があります。その時、住民の生命・財産を守るという自治体の基本的な役割を可能な限り果たそうとするならば、私たち自治体職員は「自分たちが今以上にできる事」を平常時から考えていかなければならないと思います。松阪市の清掃職場では「市民のために私たちの現場力を最大限に活用してもらうこと」を目標に清掃職場の枠を超えて精力的に行っています。そのいくつかを紹介します。



清掃職場の現場力を活かすために
―― そして今以上の連携を ――

三重県本部/松阪市職員組合 橋本  健・小林 宏隆
・佐藤 克彦・町野 友道・西野 光宣

1. はじめに

 松阪市は三重県の中央に位置する人口約16万7千人のまちで、隣県の奈良県と接し、西へ車で約2時間かかり、東西に長い地形となっています。市役所本庁舎は、市内中心部にあり、市役所職員は約1,500人います。その中で清掃職場(清掃事業課、清掃施設課、清掃政策課)の職員110人が市民生活を支えるために日々の業務に従事しています。
 私たちの働く「リサイクルセンター」は海抜0m地帯にあります。すぐ横には河川があり、伊勢湾から約300mの場所に建てられています。そのため、この建物は津波一時避難ビルとして、大勢の近隣住民にとって海から一番近い避難所となっています。
 そういったこともあり、いつ起こるかも知れない災害の際に私たち職員は「その時に何をしなければいけないか?」をもう一度よく考えて備えておかなければなりません。


 
リサイクルセンターの各階に海抜を表示しています。


住民はこの屋外階段で3階の踊り場、屋上に避難できます。
  すぐそばに川があります。

近隣住民の避難場所になっています。

建物の高さは20.1mあります。

2. 市役所職員としての意識改革

・平常時から防災の準備はできているか?
・私たちの勤務する建物は津波一時避難ビルになっている事を各自が知っているか?
・建物の中に自家発電装置があることを把握しているか? 使い方を理解しているか?
 その装置は何時間運転が持続できるのか?
・非常食、タオル、毛布は準備してあるか? また、何人分の用意をしているか?
・本庁の災害対策本部と、どうやって連絡を取るか?
・無線機はあるか?
・一時避難としての場所のみか、長期的避難は可能か?
・地元の自治会と協力して訓練などできているか?
・市民のための避難誘導の方法を皆が理解しているか?
・様々な災害時のシミュレーションはできているか?
・いかなる災害に対しても、迅速・的確な対応が可能となるような体制を整備しなければならない。それには「チーム市役所」内での情報収集・伝達体制の充実・強化が必要

災害時の連携

 災害時には、国、県、防災関係機関、市はもとより自主防災隊をはじめ、市民の皆様や企業・各種団体との総合的連携により、迅速・的確な対応を図れるよう、私たちの職場でも全職員が計画を理解し、戦力になる必要があります。

 このような事項を職員同士で意見を出し合いミーティングして、年に3回ほど防災研修を行っています。今では「どこに」「何があるか」など、災害時に特に必要な知識を誰でもわかるようにしています。皆様の職場では、どのようにされているのでしょうか?

 
 
 
 

3. 現場力を有効に活用

 私たちの日常業務は、家庭からの廃棄物や資源リサイクル品の収集運搬処理、清掃施設の運営管理などが主な仕事です。しかし「公務員はサービス業であるべきだ」という言葉があるように、これからは市民のためになるのであれば、既成概念にとらわれず、日常業務以外でも何でもしていくと言う柔軟な考えを持つ職員をめざしていこうと私たちは考えています。その一例として、一人暮らしでごみ出しが困難な高齢者や、障がい者の方への戸別収集(ふれあい収集)を検討しています。このふれあい収集により、居住者の安否確認や私たち職員と地域住民とのつながりが深まることをめざしています。

「市内での活動」
 例えば排水機場を管理する担当課などから「台風後の海や河川の漂流物を何とかしてほしい」と要望があれば、私たちが率先して漁協や農協、自治会と協力して、また土木課などと協力して土嚢袋を何百個も地域住民とともに作ることもあります。

 

 昨年も松阪市では、15世帯ほどが床下浸水の被害に見舞われました。
 その時、土木担当部署から被害状況の報告を受け、私たちは職員同士で相談して通常業務に関わる人数を削って災害現場に駆けつけました。
 実際に現地に行くと、被害に遭った家屋には泥だらけで全く片付いていない家財道具が多くあり、自治会の方々と一緒に汗を流し、住民の方が少しでも早く、これまでと同じように生活していただければと思い、2日間ほどこの作業に取り組みました。
 私たちは東日本大震災で被災された現場は、きっと想像を超える惨状であっただろうと話をしました。

 

「市外での活動」―― 事例 ―― 紀宝町での災害支援活動
 2011年9月に発生した台風12号により三重県でも和歌山県との県境の紀州地域が襲われ、死者・行方不明者の方が出るほどの多大な水害等の被害がありました。
 その時には三重県からの要請があり、松阪市の職員も災害応援に赴きました。同年3月には東日本大震災がありましたが、私たちの課単体ではお手伝いできなかったという経緯もあって、職員からは三重県の要請を受ける以前から「現地に行く段取りをしよう」と自発的に声が上がり、管理職を含めた全員で協議した上で、1か月ほど被災地へ赴きました。その時は希望する職員が多数となり、人選に苦慮するほどでした。
 派遣隊は職員4人ごとの交代制で、松阪市から車で5時間ほど離れた被災地に行き、合計40人が従事する結果となりました。
 朝9時から夕方17時過ぎまで支援活動を行い、その後1時間半ほどかけて宿に戻る生活を2泊3日ずつ行うという活動を続けました。幹線道路に出された災害ごみ・瓦礫を分別し仮設置き場まで搬送するという業務内容でしたが、水分を含んだ重たいごみが多く、分別が全くされていなかったため、かなりの時間と体力が必要な作業でした。また仮設置き場が狭く、ごみの量に追いついていない現場もありました。松阪市でも災害に備えた仮設置き場を複数確保する必要性を感じるとともに、初期の段階から重機械などの導入も重要であることも、作業終了後に報告しました。
 その時の経験は、これから日常業務を続けていく上で、大変貴重な糧になったと職員は感じています。
 今回支援活動に行けなかった職員や新規職員は、災害対応を初めて経験することになるので、私たちはこの経験を伝える必要があります。
 このような経験が、今日の松阪市清掃職場の職員が持っている防災についての意識と、防災についての向上心につながっていると思います。

 
 
 

4. そして今以上の連携を

 清掃職場の大半を占める現業職員も市役所の職員であり、重要な市民ニーズの一翼を担っています。
 「チーム市役所」として市行政を進めていく必要があり、これからの清掃職場は、ごみ・資源物に関する日常業務だけをしていればよいという時代ではありません。
 地方公務員としての在り方そのものの自発的転換を求められています。役職がなくてもできることは山ほどあります。当然ではありますが、私たちの職場でも市役所内の他の部署、そして消防・警察等の行政組織はもちろんのこと、地域自治会、商店街等の地縁組織や民生委員、児童委員の方々とも普段からコミュニケーションを今以上に図り、強いネットワークを作る必要があると思います。そういったことが大規模災害時に職場が市民の役に立つ近道であると強く感じます。
 今後、私たちの市だけでなく他の市町村でも超高齢社会、人口減少社会は避けることはできません。この現実を考えれば、すでに「毎日が非常時」ともいえる状況であるとも考えられます。今すぐに私たち市役所の職員はどのようにしたら「いろいろな市民とコミュニケーションを取ることができるのか?」をもっと知恵を絞り工夫をして考えていく必要があります。そのために私たちは市民や行政機関との架け橋となり、自治体が市民を守るために重要な初動体制を行えるように、日々連絡を取り合い非常時に備えています。
 なお、私たちの職場においても地区の津波一時避難ビルになっていることもあり、今までに述べたことを真摯に受け止めて、いつ起こるかもしれない災害に備えていかなければなりません。平常時の現在にできる限り準備していきたく思います。そして災害時に「チーム市役所」として即座に動けるように一歩ずつ取り組みはじめています。
 下記は、市民を災害から守るための対策を整理しました。

 管理職 

 ……………

・防災体制の再確認、見直し等。
 ・関係機関への連絡方法の確認。
 ・地域、自治会、職員への連絡方法の確認。

 一般職員全て 

 ……

・防災設備の定期的な安全点検、チェック表の作成(別紙参照)。
 (嘱託職員含む)・地域ボランティアへの参加。

 防災訓練 

 …………

・災害の種類別、発生時刻別の訓練の実施。
 ・地域関係機関(主に自治会、老人会)と訓練の実施。

 防災研修 

 …………

・応急処置等の研修の実施。
 ・防災用具等の取扱い方法に関する研修の実施。
 ・心のケア研修の実施。

 これらの役割分担を着実に実行できるように、清掃職場として月1回の労働安全衛生委員会の中で防災について話し合いをして、防災意識の向上に努めています。
 他の自治体の方々からも、取り組まれておられる様々な良案があれば、色々教えていただきたく思っております。

終わりに

 職場の防災力を客観的に確認し、不足している部分を補っていくことは、私たち職員の防災力向上のために重要なことです。
 このチェックリストをもとに自分たちの行動を定期的に点検し、職場の防災力の現状を確認して災害に強い「チーム松阪市」をめざしています。
 特に津波一時避難ビルとなっている私たちの職場は、今後いつ起きるか分からない「南海トラフ巨大地震」が発生した場合、甚大な被害があると予想される場所にあり、多様な準備をしておかなければなりません。
 その1つとして、地域住民への的確な災害情報の伝達・避難誘導等により、有事に住民が的確な避難行動を実施することができる体制を築いておくことが非常に重要となります。巨大津波等の発生に対応するために、また私たちの職場においても更に確実な初動体制を実現するためにも、定期的な訓練を実施するだけでなく地域の防災計画を地元自治会などと協力し合って作成していく必要があります。
 私たちの職場が自主防災組織のような役割を果たせば、地元の住民との共助によって人的被害の最小化をめざすことができると思われます。地域全体としての防災意識および防災力の向上には「地域の人たち」との連携(つながり)を更に強くすることが最も大切であることは言うまでもありません。
 私たちの職場では、6月5日の「環境の日」前後の勤務終了後に地域美化活動を行っています。清掃活動をすると同時に地域の市民と交流を図り「私たちの職場が避難場所となっていることをご存知ですか?」と声かけ運動を行っています。また、11月の松阪市氏郷まつりに、清掃職場ブースを設けて参加しています。その中で環境啓発活動の展示と合わせて避難場所に指定されていることも説明しています。
 昨今、社会全体から公務職場に対して厳しい状況の目が向けられております。特に清掃職場の大半を占める現業職場には、民営化路線・コスト論によって再三にわたる合理化が進み、多くの職場が廃止・外部委託化されております。
 そのような厳しい状況の中で、松阪市役所清掃職場では4年連続で新規採用職員を獲得しています。これは職員が日々変化する市民ニーズに合わせて業務内容を見直し、具体的な内容を提示して労使交渉を行った成果であると思われます。
 しかし地震・水害等で被災された自治体職員のお話しを聞くと、合理化により現業職場が不在となっていたので、瓦礫を処理するパッカー車、ダンプなどの機械はもとより、災害監視パトロールなどの車両を動かす職員が少なすぎて「自治体が市民を守るための重要な初動体制が欠落していた」と発表されておりました。
 民間委託化後は、下請け・孫請けの関係で仕事が行われていることが多くの実態であります。災害時の重要な初動が遅れることは明確であります。日常から「市民の財産・命」を守るという使命感の要求されない民間企業に、果たして「市民への質の高いサービス」、「市民を守る災害対策」を任せられるでしょうか?
 いまこそ、日頃から地域の方々と身近に関わることが多い清掃職場の職員が先頭になり市民と行政のパイプ役・サポート役となり、多くの要望を聞き、迅速に対応していく必要があります。そのような行政システムを構築するために、私たちは今以上にわが町の行政を学び、自ら行動できる自治体職員をめざさなければいけません。

【追加文】
 2016年4月14日に発生した熊本地震により、熊本県を中心に甚大な被害が発生しています。この地震により被災された方々に心よりお見舞い申し上げます。
 このことを受けて、松阪市役所の清掃職場では職員6人及び清掃車両1台(パッカー車)を熊本県に派遣しました。2人1組の計3班体制で順次派遣し、現地では熊本市内などの道路上にある可燃ごみの収集と、仮置き場への搬入を行いました。

 
 

 「余震もある中で、予想以上の災害ごみがあり大変苦労しましたが、地域の方々とコミュニケーションを取りながら支援活動を無事に行うことができて大変勉強になりました。」
 また、「被災されているにもかかわらず、熊本市の職員や地域の方々から私たちに対して大変感謝して頂き、うれしく思いました。」との派遣職員からの報告ありました。
 この熊本支援活動の報告を受けて、平常時より「いつ起きるかわからない大災害」に備える準備をしていかなければならないと改めて思いました。




【参考資料】
・「防災フォーラム(2016年3月開催) 」
・「三重県地域防災計画」
・「松阪市地域防災計画」
・「人が死なない防災(著者 片田敏孝)」

(別紙)地震発生時の行動マニュアル