【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第5分科会 まちムラの見方「見えているもの」と「見えていないもの」

会津地域の観光振興、現状と課題


福島県本部/民進党県民連合県議会議員 宮下 雅志

1. はじめに

 これまで経験したことのない少子高齢化・人口減少社会を迎え、地方の自治体はその存続さえ危ぶまれており、将来への生き残りをかけた厳しい対応を迫られている。
 そして本県は、それに加えて、震災と原発事故の影響という大きな課題を抱えており、問題は更に深刻なものとなっている。
 その中にあって、会津地域は当初の被害がそれほど大きくなかったことから、「会津は大丈夫」と言われてきたことが、逆にこの地域にとって深刻なダメージとなって表れているように感じられる。
 農業や観光といった会津の基幹産業は、未だに厳しい風評の影響を受けており、今会津地域の振興対策に真剣に取り組まなければ、地域が立ち行かなくなり、取り返しのつかないことになってしまう恐れが出ている。このような状況の中で、会津地域の活性化を図っていくためには、やはり観光を中心とした交流人口に頼らざるを得ない。
 そこで、交流人口の拡大とそれによる地域の活性化をめざした地域振興策が必要となるが、その中心となるべき会津の観光が現在、その重責を担うだけの力があるかと言えば、残念ながらその力があるとは言えないと考える。
 それでは現在、会津の観光はどのような状況にあり、また、どのような課題を抱えているか、それを検証することは、今後の実効性ある観光政策と地域振興策に繋がるものと考える。
 以下、人口減少問題に対する福島県の対応を確認し、本県及び会津地域の観光の実態を検証したうえで、課題に対する対応策を検討する。


2. 「地方創生」と「人口減少・高齢化対策プロジェクト」

 政府は人口減少、自治体消滅という地方の厳しい状況を受けて、首都圏への人口の一極集中を是正し、地方への人の流れを作り、地方の活性化に繋げようとする、「地方創生」と銘打った地域活性化策を進めようとしている。
 国の機関や企業が地方に移転することによって、その地域に雇用が発生し、流入人口の増加や現役世代の地域への定着が図られ、地域の活性化に繋がるとするものである。しかし、これは同時に非常に厳しい地域間競争に参入することであり、必ず結果がついてくるものではない。
 国から補助金が出ても、厳しい競争の中で、企業等へのインセンティブを与えるためには相当多額の負担を強いられることになり、厳しい財政状況にある自治体にとっては有効な手段とは言い難い。
 また、本県は、福島県総合計画の11の重点プロジェクトの第1番目に掲げた、「人口減少・高齢化対策プロジェクト」について、「ふくしま創生総合戦略 ~ふくしま7つの挑戦~」を策定し、ふくしまの持つ潜在能力・強みを生かした地域創生を推進することとしている。
 しかし、未だに10万人近い人々が避難生活を強いられ、依然として根強い風評に悩まされている本県にとっては、厳しい挑戦ではあるが成し遂げなければならない課題である。
 中でも、観光と農業への依存度の高い会津地域では、現在でも風評による影響が大きく残っており、特に厳しい状況が続いているが、観光を中心とした交流人口の拡大が、会津の持つ地域資源を生かした最も相応しい取り組みと言うべきであり、経済波及効果の大きい観光の振興にこれまで以上に力を入れていく必要がある。
 以下、福島県及び会津の観光の実態を検証し、地域振興に結びつく観光の在り方を検討する。

3. 福島県及び会津の観光の実態と会津地域の課題

(1) 観光客数について
 はじめに2014年の観光調査から本県及び会津地域の現状を確認する。
 先ず日本人の国内旅行についてだが、観光庁の「旅行・観光消費動向調査」によると、2014年の国内宿泊旅行者数は、延べ約2億9,734万人泊、前年度比で7.2%減少した。(表1:日本人の国内旅行における延べ旅行者数の推移
 中でも本県観光への影響が大きく、全体の半数以上にのぼる「観光・レクリエーション」目的の旅行が前年比9.3%減と、旅行者数が最低だった震災の年の2011年以降の増加傾向から減少に転じた。(図1:日本人の国内宿泊観光・レクリエーションにおける延べ旅行者数の推移および伸び率
 日帰り旅行についても同様に、旅行者数約2億9,788万人回で前年比4.1%減、「観光・レクリエーション」目的は8.6%減少した。(表1:日本人の国内旅行における延べ旅行者数の推移
 次に本県について見ると、「福島県 観光客入込状況」によれば、2014年の県全体の観光客入込数は約4,689万3千人で、前年比2.9%減となった。(表2:方部別観光客入込数
 県全体では減少幅が全国平均を下回っており、中通りと浜通りでは震災前には遠く及ばないものの、それぞれ前年を上回り、復興に向けた様々な施策の効果が少しずつ表れていることを物語っている。(表2:方部別観光客入込数
 しかし、会津地域においては前年を11.8%も下回っており、「八重の桜」効果で観光客数が大きく伸びた前年の反動が出たものと考えられる。
 ここで会津地域の中心である会津若松市の状況を見ると、2014年の観光客入込数は約289万5千人で前年比約27%もの減少となった。(図2:平成26年会津若松市観光客入込みの概況について
 「八重の桜」の反動とは言え、この下げ幅はあまりにも大きいと言わざるを得ない。大河ドラマやデスティネーションキャンペーンのような大きな仕掛けがあれば観光客は増えるが、終わってしまうとまた元の状態に戻ってしまい、着実な伸びに結び付かない。これは会津の観光が今一つ魅力に欠けるために、再び訪れたいという気にならないということを示しているのではないかと考える。
 これは県全体の問題ともいえるが、会津地域の観光が抱える大きな課題の一つと言うことができる。

(2) 満足度と再来訪意向
 全国の都道府県を対象にした、(公財)日本交通公社「JTBF旅行実態調査」の「旅行先別の満足度と再来訪意向調査」によると、旅行先について、「大変満足」と積極的に評価した人の割合では、1位が沖縄県の43.5%、2位北海道36.8%、3位千葉県35.9%、4位以下は奈良県、香川県、徳島県、東京都、長野県、京都府と続き、福島県は26位の27.1%と差がついている。(表3:旅行先(都道府県)別の満足度・再来訪意向
 また、再来訪意向については、「1年以内に当該地域を再び訪れたいですか」との質問に対し、「大変そう思う」と答えた積極的評価は、1位は沖縄県の41.3%、2位東京都38.0%、3位千葉県37.6%、4位以下は京都府、高知県、宮城県、大阪府、北海道、長野県と続き、福島県は20位の24.7%となっている。(表3:旅行先(都道府県)別の満足度・再来訪意向
 これを見ると福島県の満足度と再来訪意向は、全国の有名観光地と比較すると、差が開いているように思われ、これが本県及び会津地域の観光の魅力やリピート率の実態を示しているように感じられる。

(3) 旅行先での楽しみと会津観光
 観光客はそれぞれの地域に何を求め、何を楽しみにして来るのかが分かれば、満足度やリピート率に繋がる観光地の魅力づくりの助けになると考える。
 「JTBF旅行実態調査」の「旅行先(都道府県)別の最も楽しみにしていたこと」に関する調査によれば、全体としては「温泉に入ること」「おいしいものを食べること」が15%を超え、次いで「文化的な名所(史跡、社寺仏閣など)を見ること」「自然景観を見ること」「観光・文化施設(水族館や美術館、テーマパークなど)を訪れること」が10%を超えている。(表4:旅行先(都道府県)別の最も楽しみにしていたこと
 都道府県別では、「温泉」が草津・伊香保温泉などの群馬県、皆生・三朝温泉などの鳥取県、嬉野・武雄温泉などの佐賀県、別府・湯布院温泉などの大分県で40%を超えており、全体に比べ15%以上高い。福島県は35.1%と比較的高い値が出ている。
 「食べる」では、「香川」「福岡」「石川」「福井」「愛知」「宮崎」「北海道」などが20%を超えており、香川県の「うどん」に代表される特徴的な食文化の地域の値が高くなっている。福島県は8.8%とかなり低く、この調査を見る限り、おいしいものについてはそれほど期待されていない結果となっている。
 「文化的名所」では、「京都」「奈良」が40%を超え、次いで出雲大社の「島根」、伊勢神宮の「三重」と続く。福島県は7.9%と低く、調査対象者の訪問先との関係で結果が異なることを考慮しても、「文化的名所(史跡・社寺仏閣)」を観光の目玉にしている、会津地域にとっては厳しい数字と言わざるを得ない。

 

 他の項目で全体を上回っているのは「自然景観」と「スポーツやアウトドア」で、これは磐梯山周辺の自然景観やスキー場、尾瀬等の自然によるもので、他の上位都道府県と遜色がなく、今後の本県及び会津観光においても重要な役割が期待できる。
 ここで部門別の福島県の入込状況(2014年)を見てみると、「温泉」では飯坂温泉、いわき湯本温泉、土湯温泉、母畑・石川温泉が増加した一方、会津地域の東山温泉と芦ノ牧温泉は15%を超える大幅な減少となった。(表5:観光種目別観光客入込数の多い観光地〈温泉・健康〉
 「歴史・文化」では、二本松・霞が城、福島市・花見山公園が増加したのに対し、会津地域では軒並み減少しており、中でも会津若松市の鶴ヶ城天守閣、若松市街がそれぞれ36.6%、45.6%と「大幅減少」という言葉では言い尽くせない状況となった。(表5:観光種目別観光客入込数の多い観光地〈歴史・文化〉
 これは2013年に増加した観光客に地域の魅力が伝わらなかったために、前にも述べたように、観光地としての魅力が定着せず、それが期待感にも結び付かなかったためにこのように大きな変動として表れたのではないかと考える。

4. 課題の克服と会津観光の可能性

 魅力ある観光地をどう作っていくのかを考える上で、先ず、魅力ある観光地とはどのような所かを検討する必要がある。
 原点に帰れば、観光とは「光を観ること」であり、この「光」とは地域固有の文化が発する光ということになる。
 地域で育まれた文化、地理的・歴史的条件の中で脈々と受け継がれてきた、祭りや芸能、景観、食、信仰、精神、伝統工芸、生活スタイルなどの地域固有の文化的価値に触れることこそが「光を観る」ことすなわち観光である。
 従って魅力ある観光地であるためには、地域で暮らす人たちが先ずこの地域の文化的価値を受け入れ、楽しむこと、その喜びを味わうことが重要となる。
 地元の生活と結び付いていない、単に観光客向けの「張りぼて」ではすぐに飽きられてしまう。観光客は地域の文化に触れること、日常では体験できない非日常を求めてやって来る。今こそお膳立てされた商業観光から脱却して、感動を与える非日常を、地域固有の文化を通して生み出すことにシフトしなければならないと考える。
 では会津観光は今後、どのような取り組みをすべきなのか。
 会津は沖縄や北海道、奈良や京都のような、単品で勝負できるようなビッグな観光地ではない。これまでは温泉や歴史・文化施設、自然景観などの観光資源がコンパクトに立地し、首都圏から近い、手近な観光地という位置づけではなかったかと思う。従って、大河ドラマやデスティネーションキャンペーンなどがあれば人は足を運ぶが、終わればその反動で落ち込むという状況を繰り返してきたように感じる。
 その状況を脱却して、足腰の強い観光地として安定するためには、先に述べた地域固有の文化的価値から、観光客が感動する非日常を生み出すことと、地元の人々が地域の文化的価値を享受する能力を高めることが必要であると考える。文化を前面に出した、しっとりと落ち着いた観光地づくりこそが「会津」のイメージにぴったりと合ったものと考える。
 さらにその文化的価値の中心に、「会津の精神文化」を位置付け、そこから派生する、「生真面目さ」「頑固さ」などの様々な価値観を、ものづくりや教育、景観などに結び付けていくことができれば、会津観光はその総合力で十分勝負できる観光地になれるものと確信している。また、「武士道と精神文化」の神髄を示すことができれば、外国人観光客の誘致にも繋がっていくものと考える。

5. 終わりに

 この原稿の締め切り間近に、2015年福島県観光入込状況の速報値を確認することができた。それによると「ふくしまデスティネーションキャンペーン」期間中の4月から6月までの県内観光客入込数は、前年同期を12.2%上回った。会津地域においても前年比15.6%の伸びとなったが、これで問題が解決したわけではない。これまで述べたように、会津観光は今後、足腰の強い観光地をめざして改革をしていかなければならない。そして、今回の成功を今後に繋げる取り組みが必要であり、それこそが魅力ある観光地として生まれ変わるきっかけになると確信するものである。