【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第5分科会 まちムラの見方「見えているもの」と「見えていないもの」

 市内の6割を占める森林の適正管理を図るため、単に間伐材の処分をするのではなく、未利用の間伐材に価値を生み出し、木質バイオマスエネルギーとして利用することにより、森林資材の有効活用・地球温暖化対策として化石燃料量費量の削減・燃料の地産地消による地域経済の活性化を図ることを目的とした事業取り組みの報告。



木質バイオマス利活用事業構築に向けて
―― 地球と市民にやさしいエネルギー対策 ――

茨城県本部/常陸大宮市職員組合 大森  敦

1. はじめに

 常陸大宮市は、茨城県北部に位置し、県内2番目の面積を有しています。総面積の約6割を森林が占めており、近年、木材価格の長期低迷や林業労働者の激減により山林の荒廃が課題となっています。
 2008年より導入されている「森林湖沼環境税」を活用して、森林の間伐を実施し、森林環境の保全を行うとともに、間伐材等を木質チップ化して燃料として活用する事業取り組みを行っています。
 間伐材や林地残材は、これまで用途が無く山林に放棄されてきており、山林荒廃の原因にもなっていたものに対し価値を生み出すことで、搬出を促し環境保全を促すものです。また、市内にチップ製造施設及び木質バイオマスチップボイラー施設を設けることで、燃料の地産地消により燃料費の地域循環・化石燃料使用量減による地球温暖化防止を図ることになります。

◎常陸大宮市概要
 面 積       348.38km2  (茨城県の約5.7%)
 可住地面積     132.57km2
 林地面積      216.14km2  (62%) 
 人 口       42,386人   (男性 20,867人 女性 21,519人)
 世帯数       16,043世帯
 1次産業就業人口  農業 2,336人
           林業   62人
           漁業   1人            ※常陸大宮市HPより


2. 施設概要

(1) 木質バイオマスチップ製造施設
 間伐等で発生したスギ、ヒノキ等の林地残材を木質チップ燃料に加工し、市内温泉施設へ供給します。
① 場 所  常陸大宮市小田野地内
② 面 積  約8,000m2
③ 施 設  チップ製造施設(木造240m2)      1棟
       トラックスケール           1基
       貯木場              約2,500m2
④ 機 械  チップ製造機(90m3/日・生産可能)   1台
       林業用グラップル           1台
       フォークリフト            1台
⑤ 事業費  機械購入費           約48,000千円
       工事費             約69,000千円

(2) 木質バイオマスチップボイラー施設
 重油ボイラーに替わり、チップボイラーにより熱負荷をまかないます。
① 場 所 常陸大宮市氷之沢地内(ささの湯)
② 施 設 木質バイオマスボイラー棟(鉄筋構造126m2) 1棟
      木質バイオマスチップボイラー(出力300kW) 1基
      燃料サイロ(30m3)            1箇所
      バグフィルター               1基
③ 事業費 工事費     約187,000千円
 ※2016年度にあと2施設にボイラー施設を建設予定


3. 目的と効果

① 地産地消による燃料費の地域循環及び地域活性
 これまで重油を燃料にボイラーを活用していたが、木質チップ燃料に変わることにより、燃料費を削減(2015年度ささの湯・約570万円削減)し、エネルギーを市内で循環還元させることができました。また、原木調達からチップ製造運搬までを常陸大宮市森林組合に委託することにより地域経済の発展に貢献しました。また、今後事業規模拡大することで中山間地域における林業、収集運搬業、燃料製造事業等での多くの雇用が発生することが期待できます。

② 温室効果ガス排出削減
 2015年度ささの湯重油削減量  
 130,813L(2014年度重油使用量)-12,000L=118,813L
 二酸化炭素排出削減量(2015年度ささの湯重油削減量より) 
 118,813L×2.71kgCO=321,983kgCO
                                約322tCO削減

 重油の二酸化炭素排出量削減だけでなく、間伐材や林地残材を減らすことで木材の成長を促し、2次的なCOの吸収、蓄積により温室効果ガス排出量の削減が見込めます。

③ 健康増進
 木質チップを使用し、温泉温浴施設の熱負荷をまかないます。市内には現在3つの温泉温浴施設(ささの湯・三太の湯・四季彩館)があり、現時点ではささの湯のみとなっていますが2016年度に残り2施設にも木質チップバイオマスボイラーの設置を予定しています。
 市内の温泉温浴施設に活用することで、「環境にやさしいお風呂」というブランドイメージをアピールし、市民だけでなく市外の利用者を確保するとともに利用者の健康増進を図ります。
ささの湯

今後予定の施設
三太の湯 四季彩館
④ 森林環境保全
 森林が適切に管理されることにより、降雨による表面土の流出を抑え土砂災害防止につながります。また、雨を一時貯水し洪水を緩和するといった森林が有する機能の確保がされ、地域防災の向上が図られることになります。


4. 課 題

 重油など化石燃料から、木質チップに移行することで重油削減及び温室効果ガス排出量を削減できるものの、現在、木質チップの供給先が市内温泉温浴施設3施設のみと限られているため、木質チップ製造施設の製造能力からみると十分な能力を余しており、利用施設を拡大していき安定した供給を構築することが必要になります。
 そのためにも、需要の拡大を図るため、近隣のバイオマス発電施設への供給や、園芸農家の農業用ハウス等での暖房利用について、バイオマスボイラーへの転換も必要になると思われます。ただし、暖房設備を必要とする園芸農家は既に設備が整っており、新たに設備の転換を求めても困難と思われるため、今後の事業展開を踏まえ安定した価格と供給が可能になれば設備転換に必要な費用の一部を助成することも検討する必要があると思われます。


5. 最後に

 2009年にバイオマスタウン構想を策定し、「清流と里山に学び、みんなで創る 環境にやさしいまち 常陸大宮市」の実現に向け、木質バイオマス利活用事業を進めてまいりました。
 私たちの生活は、化石燃料によるエネルギーに依存しています。しかし、これらの資源は有限であり、いずれは枯渇する運命にあります。これからは、再生可能な地域資源からエネルギーを供給することが、未来に向けて必要であると考えます。
 木質バイオマス利活用事業は、第一歩を踏み出したばかりですが、この事業が、再生可能なエネルギー利用の一端を担うことで、常陸大宮市の未来を明るく照らすものとなるよう取り組んでまいります。
 常陸大宮市にお立ち寄りの際には、ぜひ「環境にやさしいお風呂」をご利用ください。


【参考】

常陸大宮市バイオマスタウン構想より