【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第5分科会 まちムラの見方「見えているもの」と「見えていないもの」

 2015年5月に日本創生会議で発表された増田レポートは、該当する全国の自治体に衝撃を与えました。同氏のレポートについては、政府が進める「地方創生」などの政策の後押しのため、人口推計に問題があるなど数々の問題点が指摘されていますが、全国の自治体の定住対策に与えた影響は多大であり、浜田市においても例外ではありません。このレポートでは、定住対策に女性の感性を活かそうとした取り組みについて報告します。



浜田市女性職員による定住プロジェクト
「チームCoCoCaLa」
―― 女性職員の感性を活かしたまちづくり ――

島根県本部/浜田市職員労働組合 官澤 優子

1. はじめに

 地方自治体にとって定住対策は、大きな課題であり、名称こそ異なりますが、市長や副市長などをトップとした人口減少問題、定住化のプロジェクト会議を立ち上げています。当市においても市長をトップ(立ち上げ当初は副市長がトップ)とした「人口減少問題対策本部」を設置し、部長級以上の管理職が中心となった本部会議を設置しています。
 今回紹介する「チームCoCoCaLa」は、この本部会議の検討組織として設置されたものであり、これまで女性による政策提案がなかったことを受け、市長の意向により女性職員による特別な部会として設置されました。
 この立ち上げに際しては、公募により行われた結果、以下のとおり正規職員以外の臨時・嘱託等の非正規職員をはじめ、地域おこし協力隊の女性も参加するという総勢13名の多彩なメンバー構成となりました。


【構成図】

【メンバー構成一覧】13人

区 分

人 数

備 考

管理職

1人

リーダー

係長級

2人

うち1名サブリーダー

正規職員

6人

うち1名事務局

非正規職員

3人

うち1名事務局

地域おこし協力隊

1人

 

 



2. 取り組み内容と成果

(1) 進行方針
  このプロジェクトチームでは、検討を行うに際して、5つの基本方針を定めました。検討期間が2か月という制約があるなかで、ランチミーティングを活用するなど、男性中心の会議では考えられない柔軟な対応をしているのが特徴です。
 なお、チームCoCoCaLaの名称は、13人のメンバーが考案したもので、「ここから発信します」「ここからはじめます」という自分たちの意気込みをもじっています。
【進行方針】
① 男子禁制
② 自由な発想を基本に
③ 無理なく集まって
④ 毎週2回のランチミーティング
⑤ 職員である前に1人の女性として考える

(2) 会議の進め方
 チームCoCoCaLaでは、政策提言のレポートを完成するまでに8回の会議を行っていますが、第1回の発足会議を除き、毎週火・木曜日を基本としてランチミーティングを実施しています。
 男性中心の会議の場合、通常業務後に設定し、残業などで出席できないという事例が多く見受けられますが、ランチミーティングを活用することで、子育てや家事に忙しい人でも日中のランチ時間なら無理なく参加できます。
 また、会議の進行は、KJ法、ブレーンストーミングを活用して効率よく短い期間で充実した内容となるように工夫されているのも大きな特徴です。


【活動記録】全8回

2014年8月27日(水)

チームCoCoCaLa発足式
第1回会議

8:45~11:30

2014年9月2日(火)

第2回会議

12:00~14:00

2014年9月4日(木)

第3回会議

12:00~14:00

2014年9月9日(火)

第4回会議

12:00~14:00

2014年9月11日(木)

第5回会議

12:00~14:00

2014年9月25日(木)

第6回会議

12:00~14:00

2014年10月9日(木)

第7回会議

12:00~14:00

2014年10月16日(木)

第8回会議

12:00~14:00

【会議風景】


(3) レポートの成果と提言内容
 チームCoCoCaLaが取りまとめたレポートは、大きく3つの柱で構成されています。1つ目は「仕事」、2つ目は「住居」、3つ目は、「(少しの)エンターテイメント」です。
 提案の内容は、独自性にこだわったものでも、街の活性化の特効薬となるようなものはないかもしれませんが、今の浜田に何が必要であるかを、女性職員が率直に感じ、望んでいることが掲載されています。
 ここからは、レポートで提案されたものが実際にどう政策に活かされたのかをご紹介します。


【成果と提案の内容】予算総額:20,058千円

政策として事業化されたもの
(平成27年度予算書)

チームCoCoCaLaの提案内容

食による賑わい創出事業
 道の駅「ゆうひパーク」を、地元食材を使用した料理等を提供する食による賑わいの拠点とし、そこに「地域おこし協力隊」制度を活用して意欲的な女性スタッフを配置し、女性の感性を活かした事業展開を行うことで女性や若者をターゲットとした新たな賑わいを創出する。
【事業費:4,274千円】
<事業概要>
〇「地域おこし協力隊」のミッション
・美しい海と夕日を活かしたレストランでの空間・雰囲気づくり
・6次産業化の推進、試食会の開催
・地産地消に係るコーディネート
・地域おこし協力隊の活動等の情報発信
・アドバイザーの下での研修

1 仕事のこと、住まいのこと
 (女性の起業支援パターン1)
 若い女性の中には、カフェ、パン屋、雑貨店などを経営したいと考えている人が多くいます。私たちは、そういった意欲ある女性がつくる、すてきなお店が、浜田で起業できるよう応援したいと考えました。
 その一つの方法として、地域おこし協力隊制度を活用したカフェを提案します。例えば、まず「カフェで地域おこし」と題して、カフェを起業したい女性を都市部から募集します。地域おこし協力隊の任期中は、報酬を受け取りながらカフェの運営に取り組みます。
3 "わざわざ行きたくなる"カフェを作ってはどうでしょう
 私たち女性は、仕事や家事、育児などの日常から少し離れてほっと一息つけるような、ほっこりできるカフェを求めています。
 浜田のお宝にも選ばれた夕日や海の見える景色のいい場所、山や森の中のひっそりとした場所で、ゆうひパークや古民家、学校施設の跡地など現存する資源を活かすことでも、その空間を作ることができます。

起業家支援プロジェクト
 起業時のイニシャルコストに対して支援を行うことで、起業を促進し地域活性を図る。
【事業費1,600千円】
<事業概要>
〇浜田市起業支援補助金(新設)
・補助対象経費/改修費、建築費、建物取得費、備品購入費、広告宣伝費
・補助率/補助対象経費の1/2
・補助限度額/男性20万円、女性30万円
〇女性のための独立・創業セミナー
・全5回(合計24時間)講義、ワークショップ、個別面談による実践的な指導
・定員/20名
・参加費/2,000円(全5回分)

1 仕事のこと、住まいのこと
 (女性の起業支援パターン2)
 起業はしたいけど、いきなりショップをオープンさせるのはプレッシャーがあるという女性のために、次のような支援の方法を考えました。
○期間限定の「チャレンジショップ」や「レンタルボックス」の提供
○定期的なハンドメイドイベントの開催
○市内で活動している女性の応援するウェブサイト、SNSの立ち上げ
○本格的に起業したい人のためにビジネスコンテストを開催
○起業に関する相談窓口の開設

 

はまだ暮らし応援事業(地域政策部)
 介護人材確保のため、シングルペアレントを対象にUIターンの受け入れを支援する。
【事業費:8,015千円】
<事業概要>
 市へのUターンもしくはIターンを希望するシングルペアレントを対象に、市内にある介護施設で就職を決めれば、1年間家賃月額の1/2補助(最大2万円)、養育支援として、高校生以下の子どもがいる世帯に月3万円を給付する。(2015年度は3世帯を受入予定)
 また、通勤等移動に必要な中古自動車の無償提供(保険等の諸費用を除く)を行う。
〇その他
・浜田市が指定する介護サービス事業所での就労を斡旋する。
(給与月額15万円以上・事業所による)
・転入時の引越し等の支度金として、事業者から30万円が支給される。
・1年間の研修終了後に、事業者から100万円が支給される。(2年退職に退職したときは要返還)

1 仕事のこと、住まいのこと(住まいのこと)
 UIターンを考えている人を中心に、あとひと押しとなる「手だて」を考えてみました。
 シングルマザーの方同士が住む、シェアハウスの整備を支援し、地域全体で子育てを応援していくというのはどうでしょうか。
 子育てを地域で、多くの人が関わる中で育てる、という事がとても大切であると考えており、都心といちがいに比較はできませんが、浜田市ではそういった環境が十分にあると感じています。こういった住居があることで、子育ての悩みもシェアもでき、親が安心して子育てできるのではないかと考えます。

産前産後家事援助ヘルパー派遣事業
 産前産後において、家事を行うことが困難な家庭等に対し、家事援助ヘルパーを派遣することで、子育て世代への負担を軽減する。
【事業費:756千円】
<事業概要>
〇浜田市産前産後家事支援サポーター派遣事業実施要綱(新設)
・利用対象者/浜田市内在住の、体調不良等で家事を行うことが困難な妊婦で、日中に家族の援助を受けられない人
・利用期限/妊娠中から出産後1年以内なら何度でも利用可能(1回2時間・延長可)
・利用時間/平日・土日・祝日の午前9時~午後6時
(年末年始を除く)
・サービス/衣類の洗濯、住居等の清掃・整理、生活必需品の買い物、その他必要な家事支援
・利用料金/400円/回(延長・1時間ごとに200円)

2 ママと家庭をはぐくむ事業(ママはぐ)
 「子どもを産むのなら浜田で産みたい」「自然いっぱいの浜田で子育てがしたい」~そんな想いをかなえるためには、アメリカのナースファミリーパートナーシップのように、妊娠中から2歳くらいまで、実家のお母さんのような人が寄り添って継続的に支援をしてくれて、どこかに相談に出かけるのは大変だけど「元気?」と定期的に声をかけてくれる人に気軽に相談ができる、そんな事業が必要ではないでしょうか。そこで、「ママと家庭をはぐくむ事業」略して「ママ・はぐ」という事業を提案します。

 

 

財産管理事務費(財務部)
 一般公募による「浜田市封筒デザインコンテスト」を実施し、無機質な封筒からの脱却を図り、女性に魅力あるまちづくりの一環とする。
【事業費:400千円】

4 すぐできますわ(庁内でもすぐにできること)
 浜田の温かみが感じられる「浜田市封筒デザインコンテスト」を開催し、無機質な封筒から脱却しようという提案です。現在使用されている浜田市の封筒は無機質なものですが、市のPRになるデザインを募集してコンテストを実施し、特色のある封筒を使用すれば、浜田市が身近に感じられ、市のイメージアップが図られるのではないでしょうか。

庁舎維持管理費(総務部)
 庁舎の顔である市民ロビーを明るく使いやすいものとするための設備の更新を行い、併せて女性や子供連れ、高齢者が利用しやすい庁舎をめざし、備品の購入やトイレ改修を行う。
【事業費:3,578千円】
公民館管理運営費(教育委員会)
 公民館のトイレに擬音装置やポンプ式石鹸、便座クリーナー等を設置することにより、子育て世代にも優しい清潔なトイレ環境を整備する。
【事業費:1,435千円】

5 その他のこと(住民目線の小さな気づき)
 「浜田市の公共施設のトイレがもっときれいだったらいいな」という意見です。具体的には、設備面としてトイレ用擬音装置とポンプ式石鹸の設置。この設備設置はすぐには難しくても、こまめな掃除で常に清潔に保つこと・花や絵を飾るなどのちょっとした工夫から始めてみてはどうでしょうか。

 


(4) 政策反映以外の効果
 チームCoCoCaLaのレポートは、「人口減少問題対策本部」で発表され、本部会議では、直ちに2015年度の予算化の検討を「人口減少問題対策ワーキング会議」に指示しました。
 この検討に際し、ワーキング会議に女性がいないということで、直ちにワーキング会議に12名の女性が追加されることになり、各事業案の評価をその女性メンバーが行いました。


【イメージ図】


3. まとめ

 浜田市女性職員による定住プロジェクト「チームCoCoCaLa」の取り組みは、レポートの成果以外にも様々な視点を私たちに与えてくれます。
 先ずは、チームに非正規職員や地域おこし協力隊の隊員も参加していることです。レポート前段では、女性の働きやすい職場像について記載されており、その内容は、①人生の転機である結婚や出産してからも働きやすい。②産休・育休が取りやすく、その後も職場復帰しやすい。③バタバタする朝や夕方など、より柔軟な勤務時間「フレックスタイム」で働くことができたり、時間短縮勤務ができたりする。④子どもの用事で休みやすいといったものですが、こうした願いは、全ての働く女性に共通するものだということが分かります。こうした制度は正規職員には制度化されていますが、非正規職員には適用されていないものも多く、やはり同じ職場で働く仲間の処遇に差があってはいけないとの思いを新たにすることができました。
 つぎに、労働組合への女性の参画です。自治労においても「男女がともに担う自治労計画」を策定し、具体的な数値目標を定めて、職場・地域・労働組合内の男女平等参画に取り組んでいます。しかしながら、自らの単組を振り返ってみると、女性の執行委員の数は少なく、また各闘争時の交渉において発言がほとんどないのが現状です。組織強化や後継者の育成はどこの単組にとっても重大な課題ですが、こうした問題を解決するためには、やはり女性の参画しやすい環境を構築することを考えていかなければと強く感じたところです。
 最後は、女性から出た意見を具体的に具現化する仕組みづくりです。この度のチームCoCoCaLaの提言も実際に予算化され、実行されたことに意味があります。提言だけで終わるようであれば、これ以降、いくら意見を求めても出てこなくなるのではないでしょうか。女性の意見をいかに具現化するかということを組合活動においても取り入れていく必要があると思います。
 以上のことを踏まえ、浜田市職員労働組合においてもこのたびの報告をヒントにし、今後の組合活動に活かしていただければと考えます。