【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第5分科会 まちムラの見方「見えているもの」と「見えていないもの」

 山口県市町村職員共済組合の保養施設「防長苑」において、地産地消を軸とした商品開発や他共済施設との連携を図って、既存の媒体から付加価値を見出し、地域の人材発掘や福祉の増進など様々な組織・人の協働による取り組みを紹介し、地域活性化の一助になればと思います。



ちりも積もれば山となる!? 地域活性化の取り組み
―― 地方の小さなホテルの挑戦 ――

山口県本部/山口市職員労働組合 宮崎 竜一

1. はじめに

 全国の県庁所在地で一番人口密度が低く、全国でも珍しい行政都市である山口市(人口197,502人、面積1,023.23km2、人口密度193.02人/km2 2015年10月1日国勢調査速報値)の歓楽街「湯田温泉」にある山口県市町村共済組合の保養施設「防長苑」において、地産地消を軸とした商品開発や他共済施設との連携を図って、既存の媒体から付加価値を見出し、地域の人材発掘や福祉の増進など様々な組織・人の協働により、地域の活性化をめざした取り組みを進めています。
 私は、山口市役所に在籍し、2015年4月から人事交流で山口県市町村職員共済組合に研修派遣されています。自治体職員と共済組合職員の両方の目線から、地域活性化について考えてみました。

2. 福祉の商品化

① 近年、組合員の防長苑利用率が減少する中、特に遠方にいる組合員の宿泊等の減少が著しく、何かしら利用してもらう機会がないか検討していました。そこで、土産物や持ち帰り商品を取り扱うことで、少しでも組合員に利用してもらえないか、という思いから既存の商品を取り扱うのではなく、防長苑の持っている調理技術を生かした今まで手がけたことのない商品開発を行うという発想に至りました。
 山口市の魅力を見直してみると、地形は瀬戸内海から中国山地まで南北に広がっており、自然があふれ、農林漁業が幅広く行われていることに気付きました。そこで、「山口らしさ」を踏まえて地元農産物を使った商品を開発することにしました。
② なにを使って、なにを作るか、そしてどこから仕入れるか、これまでも宴会やレストランの飲食提供は行ってきましたが、お土産や贈り物として年間を通して提供できるものは何か、手探りのスタートです。
 私の以前の職場が、障害福祉関連だったこともあり市内で農作物を作っている障害者施設と共同で商品開発に取り組むこととし、材料は就労支援で生産している野菜や果物のなかで、年間を通して安定供給できるものか、もしくは冷凍保存が可能なものから検討しました。
 障害者施設では、生産している野菜や果物を施設入所者の食事に提供したり、JAや道の駅などで販売されていましたが、障害者施設で加工等まで行う技術は難しく、1次産業の段階で止まっていることに悩まれており、製品を加工・販売することで、少しでも障害者施設で働く者の賃金水準を上げ、より良い福祉サービスの提供につなげたいという思いがありました。
③ 商品化を進める中で、山口県では社会福祉法人山口県共同募金会が赤い羽根共同募金「募金百貨店プロジェクト」を実施していることを知りました。「募金百貨店プロジェクト」は、2012年に山口県共同募金会が全国に先駆けて始め、現在では全国22府県に取り組みが広がっています。概要としては、赤い羽根共同募金が企業等にとって本業にメリットのある寄附つき商品・企画を一同に集約し、募金の百貨店になろうというプロジェクトです。顧客に負担はなく、企業は販売促進と社会貢献に繋がり、それが地域福祉課題解決のための財源となるという、3者のWIN&WIN&WINの関係の構築をめざしているものです。
 共済組合の保養施設であることや、障害者施設の意義も踏まえ、障がい者の就労と地域生活を支えるための活動支援の一助となることを願い「募金百貨店プロジェクト」へ参加し、商品売上げの一部を寄附することとしました。
 *募金百貨店プロジェクトで集まった募金額は、2012年の100万円から2015年には600万円まで増えている。
④ 地方の小さなホテルにとって、商品開発経費は非常に大きな負担となってきます。障害者施設の1次産業と防長苑での2次産業を踏まえ、流通を組み込めば6次産業化できるとの思いから、市役所へ相談に行きました。職員の方には3課に該当しそうな支援制度があるとのことから、
 ア 経済産業部農林政策課の山口市6次産業化等推進事業補助金
 中小企業が対象のため対象外
 イ 経済産業部商工振興課の山口市特産品開発支援補助金
 市内の民間物産事業者で構成する山口市物産事業者連絡協議会が市から委託を受け、「山口らしさ」あふれる商品の開発や商品化を目的に事業実施している
 ウ 地域振興部定住支援室の山口市中山間地域資源付加価値創造支援事業補助金
 中山間地域の地域資源の付加価値化を図り、その利活用を通して地域の活性化に資する活動を行う地域団体等の支援を行う
 を紹介していただきました。
 本事業では、(イ)山口市特産品開発支援補助金を選択し、地場産業の振興と地域イメージの向上をめざし、本市の地域資源、歴史資源を活用した「山口らしさ」あふれる特産品の開発や改良に関わる経費の3分の2の支援が受けられることになりました。
 具体的には、原材料等の購入、パッケージデザイン設計及び印刷、外部からの技術指導等に対する謝礼、マーケティング調査の実施などが対象となります。私自身配属されたことのない職場関連であったこともあり、どのような支援制度があるかまったく知らないなか、支援を受ける側の立場になり、相談者の要望と制度をどうマッチングさせていくかという行政のコーディネイト機能の重要性を改めて考えさせられました。
⑤ 企画にあたっては、山口県共同募金会もオブザーバーに招き、数回の会議を重ねた結果、苺と安納芋を使い、「苺のドレッシング」と「安納芋のスイートポテト」を商品化することに決めました。
 山口市特産品開発支援補助金を活用して、試作品の作製、消費・賞味期限検査やマーケティング調査を実施し、商品に貼るラベルのデザインを専門の方へ依頼しました。
 この商品開発には福祉の増進も主眼に据えていたので、ラベル印刷は市内の障害者施設で構成する山口市障害者施設共同受発注センター協議会へ依頼しました。
 また、防長苑では旅館業、飲食店営業(旅館・そうざいの調理、レストラン)の資格は満たしていたのですが、商品化に向けては菓子製造業、食品製造許可が必須となり、特に菓子製造業については梱包室や調理場を食中毒の関係から既存の厨房と兼用できないため、ハードの整備が必要となるなど、高いハードルをクリアしなくてはなりませんでした。地域の特産品を作ろうとして、料理はできたが許可申請が困難で立ち消えてしまうこともよくある話で、行政や関係機関などの包括的な支援が求められる課題だと感じています。


山口新聞 2016年3月31日

事業スキーム



苺のドレッシング 756円 安納芋のスイートポテト(冷凍)1,500円

3. 施設共同の観光PR「明治維新150年」

① ある時に、山口県美祢市(秋吉台が有名)の職員の方から「竹割箸」の話がでました。
 美祢市(人口26,610人、面積472.64km2)は、総面積のうち森林が7割を占める緑豊かな中山間地域であり、過疎化や少子高齢化が進む自治体です。森林の管理者も激減しており、森林の荒廃等が目立つようになったことから、これを防ぐべく美祢市とカルスト森林組合が共同出資し、第三セクターとして美祢農林開発株式会社が設立されました。美祢農林開発株式会社では、森林の荒廃防止や地球温暖化対策などを目的に、美祢市に誘致された美祢社会復帰促進センター(日本初のPFI方式を活用して運営される官民協働の刑務所)と協力し、竹割箸を製造・販売しています。当然、竹割箸が売れれば刑務作業量も増え、円滑な社会復帰を促進する当該制度にも寄与することになります。
② 防長苑では、主に宴会とレストランで割箸を使用していますが、各々仕入れ価格は14.5円~6.5円と箸や箸袋の種類に応じて変わります。今回は県産の竹を使った竹割箸で地産地消や社会復帰へ向けた支援の取り組みを行うこととしましたが、コストについても無視できない重要な課題です。たかが箸といえども、年間で約6万膳程度使用するので、1膳あたり10円違えば年間で60万円も違ってきます。
 また、美祢農林開発株式会社では、箸袋へ竹割箸を入れ込む作業は行っていますが、箸袋自体の作製は取り扱っていないため、こちらで箸袋を用意する必要も出てきました。
 箸袋の印刷は、同じく山口市障害者施設共同受発注センター協議会へ依頼することにしましたが、数量によって単価が大きく変わってきますので、一定の数量の確保が必要になってきます。防長苑単独では、年間約6万膳にしかなりませんので、他の共済施設(地方職員共済、公立学校共済)と共同して使用し、数量の確保について模索しました。箸袋を共同で使用するためには、通常は施設名が入っていますので、デザインの共通化が課題となります。
 いま、山口県では2018年に「明治維新150年」を迎えることから、幕末維新をテーマにして高杉晋作などを用いた公式ロゴやキャラクターを作成し、「やまぐち幕末ISHIN祭」の観光キャンペーンを行っています。  
 このデザインを活用することで、共通のものを使用することに違和感は無くなりました。さらに、3施設が使用することで観光PRも強化され、県のイベントの後押しにもなり、数量が確保されることからコストを抑えることも可能となりました。
③ 竹割箸の使用にあたって、美祢農林開発株式会社、山口市障害者施設共同受発注センター協議会への発注・納品や3施設からの受注・仕入数量の確認・納品と何処かが取りまとめを行う必要があります。
 これを業務煩雑化の観点から防長苑で行わず、小さなお子様のいる専業主婦の方に相談し、仲介を担っていただくことにしました。概ね月にトータル2日程度の仕事ですが、生活に負担をかけずに働いていただけ、多様な働き方を促すきっかけにしたいと考えています。
 また、結果的に竹割箸の1膳単価を4.65円と以前の割箸仕入価格よりコストを下げることができたため、「募金百貨店プロジェクト」で、竹割箸1膳あたり0.35円の寄附を行い、観光PRと更なる参加呼びかけを行っていくことにしました。

事業スキーム


4. ~もっとまちづくり

 山口県上関町では、原発立地を中心にまちづくりを考えていましたが、東日本大震災の発生後、現在では現地埋め立て作業は中断し、建設計画は不透明なものとなっています。
 一方、既存の主要観光資源として道の駅を中心とした温泉施設や文化センターなどで交流人口の増加、今後は風力発電建設に向けた施策も行い、原発に頼らないまちづくりも行われています。
 このような中、同町での飲食関係の運営を考えられないかというお話をいただきました。私自身、脱原発集会に参加してきましたが、上関町がどう生きていくのかを考えたことはありませんでした。このお話は私にとって良いきっかけになり、今後は苺のドレッシングと安納芋のスイートポテトで培った経験を活かし、地元の方々と一緒に特産品の開発などを行い、地域活性化の取り組みを続けていけたらと考えています。

5. まとめ

 障害者施設と協働した6次産業化への取り組みについては、代表の方より「職員はもとより施設利用者やその家族には、1次産業からの小さな前進ではあるが、新たな挑戦が今までにない励みや喜びに繋がった」とお声がけいただきました。消費者目線で考えると味、分量や価格が同じであれば、より安全なものや、より付加価値(福祉や地産地消)の高いものを選択しやすくなりますし、福祉=奉仕ではなく福祉+付加価値=お金につなげることにより、障がい者のみならず消費者、地域全体が幸せになることが大切だと思います。
 竹割箸では、単純に業者へ依頼(仕入れ)するのではなく、単独では成し得ない事業(商品)を地域での発掘(竹割箸、箸袋、他施設、専業主婦)を行い、どうつなげていくのかが要点であったと思います。さらに課題(箸袋デザイン)を好機(県観光PR)に変えられたことは、大きな成果でした。
 地産地消、福祉の増進、付加価値の創造や多様な働き方などありふれた言葉ですが、人との出会いをはじめ、多くの団体や人と交流(協働)することで、一つひとつの事業を見つめ直すきっかけとなり、新たな価値を生み出すことができるのだと痛感しています。地域活性化の取り組みとして、決して大きなものでは無かったかもしれませんが、「ちりも積もれば山となる」を信じ、邁進してまいりたいと思います。