【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第5分科会 まちムラの見方「見えているもの」と「見えていないもの」

 第2次安倍内閣が肝いりで創設した地方創生・国家戦略特区で全国の自治体は揺れている。石破茂地方創生・国家戦略特区担当大臣はこの地方創生に失敗すれば日本の将来はないと明言しているが、この国家戦略とはどんな内容で地方創生の足掛かり又は起爆剤となり得るのか、国の総合戦略を検証する。



まち・ひと・しごと地方創生戦略を検証する


大分県本部/竹田市議会議員 佐田 啓二

1. 地方創生をどう捉えるか

(1) 「まち・ひと・しごと創生法」と「地域再生法の一部を改正する法律」の関係
① まち・ひと・しごと創生法の概略
 <目 的>
 ア 人口減少に歯止めをかけること。 
 イ 東京への人口一極集中の是正。
 ウ 国民一人一人が希望を持ち、潤いのある豊かな生活を安心して営むことができる社会の形成。
 エ 地域社会を担う個性豊かで多様な人材の確保及び地域における魅力ある多様な就業の機会の確保。
 <7つの基本理念>
 ア 国民が個性豊かで魅力ある地域社会で潤いのある生活が営めるよう、それぞれの地域の実情に応じた環境を整備すること。
 イ 日常生活、社会生活の基盤となるサービスについて、需要・供給を長期的に見通しつつ住民負担の程度を考慮して事業者・住民の理解を得ながら、現在・将来における提供を確保すること。
 ウ 結婚・出産・育児について希望を持てる社会が形成されるよう環境を整備すること。
 エ 仕事と生活の調和を図れるよう環境を整備すること。
 オ 地域の特性を生かした創業の促進・事業活動の活性化により、魅力ある創業の機会を創出すること。
 カ 地域の実情に応じ、地方公共団体相互の連携協力による効率的かつ効果的な行政運営の確保を図ること。
 キ 国、地方公共団体、事業者が相互に連携を図りながら協力するよう努めること。
② 地域再生法の一部を改正する法律
 <改正点>
 ア 自治体は、地域再生計画の策定、変更などにあたり「内閣総理大臣に対し、内閣府の職員又は国の行政機関の職員の派遣・斡旋を求めることができる」としていて、国はその求めに対して「職員を派遣するよう務めるものとする」としている
 イ 農林水産業の振興のための特例措置として「地域農林水産業振興施設整備事業者」が農地や採草放牧地をそれ以外のものもできるよう農地法や農業振興地域の整備に関する法律の規制を緩和した。
[検証1]
 まち・ひと・しごと創生法については、目的や理念が示されているに過ぎず、一見中身がないように見えるが、そこに政府の一貫した狙いが潜んでいる。国民にはこの創生法は地域がまさに生き返るかのような期待感を持たせる効果があるかもしれない。
 しかし、よく見ると、「まち・ひと・しごと創生法」とセットで出された「地域再生法の一部を改正する法律」こそが「まち・ひと・しごと創生法」に定められた基本的な事項を現実に進めていくための改正法であり、言い換えれば「構造改革特別区域法」と同様岩盤規制を打ち破る数あるドリルの中の1つである。そして、中央省庁のキャリアが自治体に居座り監視、指導を行うという住民自治の束縛と地方分権から中央集権への逆戻りが危惧される。

(2) 国は地方に何を求めているのか
 地方創生を推進する地方制度改革とは何か? 昨年5月地方自治法が改正された。
 ◎指定都市と都道府県の事務調整会議の設置
 ◎特例市制度と中核市制度の統合と並んで新たな広域連携の制度を創設
 広域連携制度とは、基礎的な行政サービスができなくなった市町村を広域的又は補完的に支えていこうというシステムである。どういうことかと言えば、公共サービスを提供できなくなった市町村は地方中枢都市と言われる、人口もあり産業集積もある都市と連携協約を結んでそこから公共サービスを提供してもらうということ。
 つまり、周辺自治体の行政機能を中枢都市に集めて、そこに財政的なテコ入れをしていく、これがまさに地域の経済を牽引する地方中枢都市を軸にした「地方創生」という構想に他ならない。
[検証2]
 問題は、消滅自治体と指定された市町村は、中枢の大都市にすがってしか生きていけないような地方創生でいいのかということ。地方創生という名のもとに消滅可能性をちらつかせて地方中枢都市への機能の集中を進め、そこだけに資金を投入するという政府の構想は、結局周辺自治体の自治を奪うことになるのではないか。

(3) 国の真の狙いは何なのか……
 経済財政諮問会議の声明(2014年10月1日)「頑張るものが報われる地方財政制度改革」を政府に要求。政府から見て「頑張っている」と評価される地方自治体に交付金等を厚く積み増す。これは、政府の政策に追従する自治体を「選択と集中」で作り出していくものであり、逆にそうでない自律的な道を進もうとすれば交付金が削減されて、その分を中心市や中核拠点都市、「頑張る」自治体に積み増しするという仕組みである。
[検証3]
 2014年5月8日に「増田レポート」が発表された。2040年までに約半数の896の自治体が消滅するというショッキングな内容(大分県の場合:豊後高田市、国東市、日田市、竹田市、豊後大野市、臼杵市、津久見市、佐伯市、玖珠町、九重町、姫島村の8市2町1村となっている)。しかし、これ以後このレポートの「人口減少社会論」を大前提に地方制度改革が進められてきた。ここに問題がある。
 自治体消滅の脅迫(ムチ)と地方創生予算を餌(アメ)にして自治体を追従させるやり方は、誰もがどこでも安心して生活できる条件整備に程遠く、交付税の趣旨にも反する。選択と集中により生き残る自治体と消滅する自治体に振り分けるなどあってはならないことである。また、「中枢拠点都市」「広域都市圏」をハード面(国土計画・社会資本整備)とソフト面(地方行財政制度)の両面で構築、推進する方向になっている。道州制に移行させるための地ならしともとれる。

2. 安倍流「地方創生」の矛盾

(1) TPP推進と「地方創生」の矛盾
 TPPは地方の基盤産業である農林業や製造業を破壊する。安倍総理が表面的に言っている「地方創生」の性格とは相いれないものである。「地方創生」の真の目的はTPPと同じくアメリカの圧力に抑え込まれたというよりも、アメリカや多国籍企業の利益誘導の思惑に迎合した安倍政権の仕掛けであり、国民をないがしろにした政策と言わざるを得ない。
 国民生活を守るうえで基盤である、極めて大事な、①雇用 ②医療 ③農業に対する保護規制を岩盤規制などと名付けて、さも悪いかのような印象を国民に与え、規制を外してしまおうとしている。たとえば農業を例にとると、企業が農地を取得し生産から加工、販売まで一貫して行うことができるようにしようとしている。条件の良いところのみ企業が手に入れ、その他の耕地は荒れる、儲からなくなると撤退する。これまでの誘致企業の例である。大きな誘致企業が去った後の地域の衰退は著しい。
 集落における第1次産業の消滅は集落の消滅を意味する。第1次産業を切り捨てる政策を進めながら地方創生ができるのか。

(2) 地方自治体の主権は守られるか
・政府は総合戦略を定める
・都道府県は国の総合戦略を勘案して都道府県総合戦略を「定めるよう努めなければならない」
・市町村は国・都道府県の総合戦略を勘案して市町村総合戦略を「定めるよう努めなければならない」……となっている。
 国の総合戦略に沿って自治体は計画をつくりなさい、国は情報支援・財政支援・人的支援をしますとしている。
 国の意向がそこに出てくる。地方自治体が思うこととは逆の評価がなされるかもしれない。国が気に入れば財政上の措置をとる。……頑張っていないとなれば新型交付金はあげませんという法律である。(取り組みの必要度、取り組みの成果を反映、人口増減率、年少者人口比率、若年者就業率、農業産出額、など11項目の指標を示し改善されていると評価されれば交付金を割り増すというもの。また行革努力分の指標として職員削減率、ラスパイレス指数、人件費削減率などが挙げられていることは重大な問題である。)
 ここで問題は、自治体は10年に1度・総合計画を策定し、5年後に見直し、3年スパンの実施計画(毎年ローリング)などを策定しながらその自治体らしい施策展開と体力にあった財政出動に努めている。市町村版総合戦略を「勘案」と言う篩にかけ国の総合戦略の枠にはめられる危険性はないのか、更には10月末までに策定というタイトな時間の中で、満足な戦略が練れるのか、策定するならじっくりと時間を与えるべきである。「国がいうから何か出さないと」という焦りさえ感じる。
 また、なぜ「まち・ひと・しごと」で「ひと」ではなく「まち」が先なのかという問題だが、地方創生事業が人を中心に据えているという思いは伝わってこない。機能的に衰えた効率の悪い集落を環境の整った都市に集団移転させる。そのために移転先の町の機能を整える。そこに「ひと」と「しごと」を集積させ財政効率の良い行財政運営のシステムにしたいということなのか、しかし、高齢者が、あるいは限界集落に住む住人が住み慣れた故郷を簡単に捨てられるであろうか。先祖伝来の田畑、仏壇を残して人間関係のない都会で住めるはずはない。これこそ机上で考えた独りよがりの「人権」無視の考え方に他ならない。法律では「努力義務」としているが、それは地方分権の建前から努力義務規定としているだけであり、この「地方版総合戦略」の策定は「必須」であり、客観的な指標(KPI)を置き、その検証を求めることが「法定」されている。

3. 竹田市はどのように捉えているのか

 とは言っても、現実の問題としてどこの自治体も総合戦略の策定を強いられている。具体的にどんな総合戦略を描こうとしているのか市執行部の考えを聴いた。
 竹田市としては、これまでのように国が示した方程式の解き方を教えて、地方がその答えを出して正解であれば補助金をあげるというような、トップダウン型の仕組みから地方がその方程式をつくり出す、そして自らが答えを出して実践していく。自分たちの地域・未来を、どう切り開いていくかは、それぞれの地域固有の政策が必要でそこに住んでいるあなた方自らが考えなさい。その政策がよければ創生予算を付けます。という風に受け止めている。
 しかし現実に医療や教育や高齢化その他多くの課題がある。たとえば、中九州高規格道路がなぜ必要なのか……地域間連携を支える基軸となる、医療、教育、住環境などこの自動車道によって竹田市が吸い込まれるのではなくこの自動車道をどう活用するかというのがポイント。例として医療の問題では、竹田市は豊肥医療圏に入っている。しかし、3次救急が必要な時、大分市との連携をしなければ生きていけない。自立と連携の棲み分けが大事。
 一方で、竹田の個性「竹田らしさ」の発揮、竹田でなければできない政策を展開していくことが消滅しない最大の力となると考える。議員ご指摘の事項については覚悟をもって毅然たる態度で臨んでまいりたい。とのことであった。
 増田レポートの結末とならないように……「小さくても輝く、市民の声弾む自治体」であるように市民、執行部、議会が力を合わせ取り組むことが大事であろうと思う。

※ 各種資料・著書を多々引用しています。