【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第5分科会 まちムラの見方「見えているもの」と「見えていないもの」

 本市では、人口減少による危機感から、2012年3月に策定した総合計画にて「より直接的に人口増に結びつく取り組みを最重点課題」とすることとし、さまざまな事業を展開してきた。その中で、2015年度当初までに本市が行ってきた取り組みについて報告するとともに、移住・定住の施策が自治体間での競争となっている中で、移住者の獲得だけでなく移住した方を定住へとつなげていくことについても考えていきたい。



豊後高田市の定住促進策
―― 移住から定住へ ――

大分県本部/豊後高田市職員労働組合 金木 輝明

1. はじめに

 本年度は、地方創生元年が叫ばれ、国の大号令の中、各自治体は、今まで以上に特色のある取り組みを実施し、移住・定住促進を進めているところである。
 移住促進や定住促進というテーマは、以前より様々な市町村で取り組まれていたが、今年度以降については、特に地方において、移住・定住の取り組まない市町村は極めて少なくなると思われ、そのために、今まで以上に、特色ある取り組みや移住を希望する都市部住民に対してのPRが重要になってきている。
 同時に、移住された方にいかに地域に溶け込んでもらい、本当に意味での定住へ繋げていくかということが今後の大きなテーマの一つとなるのではないかと考えている。

2. 本市の定住への取り組みについての経過

 本市は、大分県北部の国東半島の付け根に位置し、奈良時代末からの独特の山岳仏教文化「六郷満山文化」など独自の文化が花開くとともに、古くから海路交通の拠点として栄え、明治以降においても関門地域への内海航路の拠点として栄えていた小さな地方都市である。
 しかし、その後の我が国の産業構造の変化に伴う都市部への人口流出により、過疎化、高齢化が進行し、最盛期の1950年には約5万人いた人口が、2005年3月31日の合併時では、約26,000人まで減少し、その合併後からも、現在は2,000人以上減少し、最盛期の半分以下の人口となっている。
 その減少の原因は、他の自治体同様に都会への人口流出が一番にあげられますが、近年では、高齢化が進んだことによる死亡数の増加と出生数の減少が大きな原因のひとつとなっている。
 実際、1980年ごろでは、死亡・出生ともに年間300人台の人数であったのが、近年では、年間400人の方が亡くなられ、年間150人ほどしか生まれていないという状況で、出生と死亡の差だけでも、毎年250人が自然減となっている。
 この人口減に大きな危機感を持ったことから、2012年3月に改定した「豊後高田市総合計画」の中に「地域の活力を維持するために人口3万をめざす」との文言を盛り込むとともに、「より直接的に人口増に結びつく取り組みを最重点課題とする」とし、移住・定住対策を含めた人口増対策を積極的に推進していくこととなった。

3. さまざまな定住促進策への取り組み

(1) 空き家バンク事業について
 まず、豊後高田市の移住・定住促進策の柱の一つが空き家バンク事業である。
 この空き家バンク事業とは、大まかにいうと空き家となった自宅を持っているオーナーが、市が運営する空き家バンクに物件を登録し、市は、その空き家バンク物件を利用したい(借りたい・買いたい)という市外在住の利用希望登録者へ情報提供を行うことで、空き家の貸し借り・売買の促進を図り、移住を応援する制度である。
 本市では、2006年度からこの空き家バンクをはじめたが、当初は、なかなか登録物件が増えず、2009年度の空き家調査で、市内に800件近い空き家があることがわかった後も、仏壇があること、盆お正月に帰省すること、法事があることなどの理由から、なかなか空き家バンクに登録していただけない状況であった。
 しかし、さまざまな場所で物件登録を依頼し続け、市報・ケーブルテレビ・チラシでも呼びかけたところ、近頃では、地域の知り合いから勧められた方や登録して実際に空き家を貸した方の口コミなどから物件登録していただける方も多くなり、今では、全国の中でも登録数がトップクラスといわれる空き家バンクとなってきている。
 しかし、利用希望登録者が毎年増えていく中、条件の良い物件はすぐに決まってしまう状況となっており、同時期に多くの契約が成立した後などは、ご紹介する空き家が不足することもあり、いろいろな方法で物件登録の推進を図っている。
 この空き家バンク事業の利用希望登録者は、全国ネットのテレビ放送や雑誌などで度々取り上げてもらったことなどにより、年々増加しており、2014年度末までに685世帯1,546人の方が登録してもらっており、その結果、142世帯341人の方が豊後高田市での暮らしを始めている。
 また、空き家バンク事業を始めたころは定年後に農村でゆったり暮らすというシニア層が多いのではと考えていたが、近頃では若い働き盛りの世代も多く、世帯主の年齢が40代以下の割合が60%を占めている。
 もちろん、子どもがいる家庭も多くあり、本当の意味での本市の定住促進策の目玉の一つとなっている。

(2) 住宅支援策
① 市による宅地の提供
 住宅支援策の一つは、安価で優良な宅地の提供である。
 定住の最終地点の1つとも言えるのが「家を建てる」ということであり、本市では、若い世代の方に家を建ててもらい、子どもを産み・育ててもらいたいとの願いから、若い世代でも購入しやすい低価格の宅地分譲を進めている。
 2014年度には、「夢まち城台・夢まち犬田」の2か所の住宅団地の予約販売を開始し、夢まち犬田は、坪42,000円、夢まち城台は、坪30,000円~40,000円という低価格に設定するとともに、45歳以下の方には宅地のリース制度も実施している。同時に、宅地リースでは住宅ローンが組みづらいことから、大分県信用組合さんの協力で、同分譲地では、宅地リースに対応したローンも始めてもらっている。
 現状では、夢まち犬田は販売後まもなく完売となり、その後に販売を始めた夢まち城台は66区画中54区画が予約されている状況で、両団地ともに市外からの購入者もあり、周辺地域の活性化が期待されている。
② 子育て世代や移住者向けの市営住宅
 空き家バンクや宅地提供だけでなく、一般の公営住宅ではない特色のある市営住宅を用意することでも定住促進を図っている。
 2012年度に県職員住宅を買い取り、内装を全面リニューアル後に全国的にも珍しい新婚さん専用住宅として整備した「ハピネス・ステージ」(3階建て、12戸、家賃40,000円/月、現在満室)や、市内の空き家を市が借り受けて改装し、移住希望者向け住宅として整備した「虹いろ住宅」(壱~四番館、家賃40,000円/月)、そして、2014年度には、子育て世代を応援するために真玉地区に菜園付きの新築1戸建て住宅「住まいるハウス」(市外在住者優先、5棟、家賃48,000円/月、現在満室)を整備し、豊後高田市での新たな生活の場として暮らしてもらっている。
 また、前述の「夢まち城台」エリアには、2015年7月募集開始のメゾネットタイプの子育て支援住宅「エミール城台」(市外在住者優先、16戸、家賃48,000円/月)を建設中で、分譲エリアと合わせて若い子育て世代の定住が期待されている。
 もちろん、通常の市営住宅にも空き部屋があることから、移住希望者の相談を受ける中で、空き家バンク物件などと合わせて、移住希望者の希望を聞く中で、通常の市営住宅(公営住宅)等についても紹介するなど、移住希望者の希望にできるだけ沿う形での紹介を実施している。

(3) 定住応援策のご紹介
① 移住体験の応援
 移住を希望される方には、一年スパンで移住先を探している方から、数か月以内には移住したいという方まで移住希望期間が様々である。また、車で来られる方から、飛行機で来られる方、近場より日帰りで来られる方から、数週間住んでみてじっくり探すという方、また、職(仕事)を探してからという方から、まずは住むところを探すという方など本当にいろいろなスタイルがある。
 ただし、共通しているのは、住むところは1日で決まる(決める)ものではないということである。
 そこで、ほとんどの方は、度々来られるか、1~2週間程度滞在して物件を探すことになる。そのため、移住希望の方の費用負担を少しでも少なくするため、空き家バンク等の物件を探すために本市に来る空き家バンクの利用登録者に、安くコテージなどに泊まれる『半住半旅田舎暮らし体験事業(1日~2週間まで)』や大分空港などからのレンタカーを使う場合の『レンタカー費用奨励事業(2015年度から)』を用意している。
 特に、2週間32,000円でコテージを利用できる「半住半旅田舎暮らし体験事業」は、利用期間中に空き家バンクの物件を見つけるだけでなく、豊後高田市の気候や文化などを体感できるということで、多くの方に利用してもらい、移住に結びついている。
 そのほかにも、年に数回、『空き家見学プログラム』を開催している。このプログラムでは、市が「海に近い物件」などその回ごとのテーマに合わせて選定した空き家バンク登録物件をまとめて見ることができることから、好評で、思い思いに空き家物件の見学をされる姿や、担当者や空き家のオーナーさんに熱心に質問している姿が見られる。
② さまざまな定住奨励金
 本市では、他にもさまざまな定住奨励金をご用意し、定住促進を図っている。
 まず、空き家バンク関係では、空き家バンクの借主でも貸主でも利用可能な『空き家リフォーム補助金』、空き家バンクの賃貸物件の契約トラブル防止のために不動産屋での契約時の仲介手数料を補助する『空き家バンク仲介手数料支援事業』、そして、空き家バンクの物件登録を進めるために、物件を紹介してくれた方へお礼を差し上げる『空き家マッチング事業』、家の新築・改修に関するものでは、夢のマイホーム新築や中古物件の購入に対して奨励金を差し上げる『ハッピーマイホーム新築応援奨励事業』、市内出身者がUターンのために空家となった自宅を改修する場合に補助する『お帰りなさい住宅改修事業』などを実施している。
 また、一昨年からは、子育て世代の転入時の引っ越し代金に対しては、『子育て世代いらっしゃい引っ越し応援金』を用意し、子育て世帯の転入の動機づけの1つになればと考えている。
 ほかにも、県補助事業の『高齢者・子育て世帯リフォーム支援事業』や賃貸物件オーナー向けの『生活応援住宅リフォーム事業』、市外在住で市内に勤務していた方が市内の民間賃貸物件に転居した場合に差し上げる『ムーブイン就労家賃支援事業』など、多くの奨励金メニューを用意し、豊後高田暮らしの第一歩をサポートしている。
 特色のあるものとして、本市に定住する新婚さんへの『新婚生活応援金』や転入してきたペーパードライバーの方が対象の「脱ペーパードライバー応援事業」、2015年度からは出産をお祝いする『キラキラ子育て応援事業』など多彩なメニューを用意している。
 これらの奨励金は多くの方にご利用いただき喜ばれているが、「この奨励金があるから豊後高田市に決めた」ということはほとんどないのではないかと考えている。実際に住むところを決める場合、住宅施策や空き家バンク、子育て応援策・教育施策などさまざまな要因を検討する中で、「しかも、こんな奨励金があるらしいよ」という最後の一押しのようなプラスαの要素としての効果を期待している。

(4) 豊後高田市の定住策のPR
 前述のいろいろな奨励金メニューや住宅などを、来てほしい方へその情報を届けるため、さまざまな情報媒体を積極的に活用し、情報発信を進めている。
 まず、田舎暮らしを希望される方のバイブルとも言われている『いなか暮らしの本』などに積極的に情報発信を行っている。2013年から実施されている同誌の『住みたい田舎ベストランキング』では、第1回が第1位、第2回・第3回が第3位の評価をいただき、マスコミ等からも紹介されたことで、非常に大きな反響があった。
 また、なかなか豊後高田市まで来ることが難しい都会在住の皆様にアピールする場として、毎年開催されている「定住フェア」等にも積極的に参加し、多くの皆様方に本市を紹介している。中には、本市を目当てに来ていただける方もおられ、熱心に質問されて、その後すぐに本市に見えられる方もいる。
 そのようなフェアや本市に来ていただいた方へ渡しているのが『定住ガイドブック』である。このガイドブックは、通常のパンフレットとは違い、考えられる市の施策を100以上載せているもので、定住応援策だけでなく、子育て、保健、教育、暮らし、農業・就労・商業に分けてさまざまな施策を紹介しており、本市に興味を持っている方、移住を本格的に考えている方でなければ、字数が多いことから読みにくいのではないかと心配になるものです。
 また、定住関係サイトも市公式HP以外に『IJU(いじゅう)支援サイト』、『ぶんごたかだに住んでくだサイト』を開設している。特にIJU支援サイトでは、空き家バンクの物件を随時アップしていることから、空き家バンク利用登録者を中心に毎日100件以上のアクセスがある。特に、テレビ等で照会された後では一日数百件のアクセスがあるときもあり、本市への移住を検討している方のポータルサイトとして積極的なPRを行っている。
 これらに加えて、テレビなどのマスコミ取材なども積極的に受け入れるとともに、「JOIN(ジョイン) 日本移住・交流ナビ」や『全国移住ナビ』などのサイトへも空き家バンクの新着物件などを登録し、移住を検討している方へ情報発信を行っている。

4. そのほかの取り組み

 今まで紹介した定住応援策のほかにも、職業紹介や婚活応援、教育や子育て支援策なども市内にお住いの方にもお使いいただいているサービスの中で、移住・定住応援策につながるものがある。
 特に前述のとおり、移住・定住を考える上では、一つの奨励金だけでは決め手にならないことから、様々な施策を進めていくこととその施策を紹介することが重要と考えている。
① 就労支援
 求人情報サイト「ほっとナビ豊後高田」を開設し、市内の求人情報を発信している。
 また、市内企業合同でのUターン就職フェアを開催。
② 就農支援
 就農研修や市独自の就農時の家賃・生活資金等を実施し、就農フェア等にも参加。
 市内の直売所へ作った野菜を持ち込むことを目標とする「アグリチャレンジスクール」も好評。
③ 婚活支援
 婚活支援も積極的に実施しており、市をはじめ市内の様々な団体の代表者で組織する「豊後高田市婚活推進協議会」が事業主体となり、毎月1回の『ツキイチ♡コンパ』の開催や縁結びお世話人さんの養成講座などを実施している。
 また、そのお世話人さんがお引き合わせしたカップルが結婚し、市内に住んだ場合はお世話人さんへ「縁結び奨励金」を差し上げる制度もあり、男女が出会うための場づくりと市全体が若者の結婚を後押しする意識の醸成を図っている。
④ 子育て・教育支援
 「いつでも・気軽に・誰でも」利用できる『花っこルーム』や市独自の保育料減免(第2子は3歳まで無料、第3子以降は無料)などの子育て支援策や無料の市営塾『学びの21世紀塾』などが好評で、「子育て応援策がいいと聞いて」や「教育がいいらしいから」といったことがきっかけで移住を決めたとの声もある。
⑤ 移住者懇話会
 2012年より、実際に市外から移住された方の意見を聞くための『移住者懇話会』を実施している。この懇話会で移住者の皆さん方からの意見をいただき、その後の移住促進策へと繋げており、参加した移住者同士のつながりも生まれている。

5. 移住から定住へ

 さまざまな移住応援策を活用いただいて、本市に移住した方は、年々増加しており、昨年度は117世帯247人となっている。今年度も地方創生で様々な自治体が移住・定住に取り組んでいく中で、さらにPRをしながら、取り組んでいく必要がある。
 同時に、この移住してきた皆さんに、本当の意味で定住いただくためには、住んでよかったと思っていただける取り組みが大事であると考えており、既に市内にお住いの皆さんが住んでよかったと思ってもらえる取り組みを大切にしている。
 ソフト・ハード両面で、子育て支援・教育支援の推進を図り、子育てと教育面では一定の評価をいただけるようになってきているとともに、市民がのびのびと過ごせる中央公園の整備や新図書館の整備、都会と遜色ない情報通信環境の整備(市営ケーブルネットワーク)などを進め、暮らしやすい豊後高田市をめざしている。
 しかし、当然のことながら、市だけの取り組みでは限界があり、やはり、移住者や若い世代の方が新たに住み始めた際に、あたたかく迎えてくれるご近所や地域づくりがとても大事であり、市全体として、移住者や子育て世代を歓迎する・支えていける意識の醸成が大事であると考えており、市民皆さんの更なる協力が必要となってきているのではないかと考えている。
 幸い、転入者数と転出者数の差である社会増減については、2011年度より好転し、2014年度では83人の社会増となり、小さな町が社会増となったことが一つの希望となっている。
 しかし、前述の自然減を少しでも自然増に近づけることが人口増に向けて重要であるため、移住・定住応援策と合わせて、「高齢者がいきいきと暮らせる健康づくりの推進」や「安心して子どもを産み、育てやすい環境基盤づくり」を進め、市民全員が『暮らしたい街 豊後高田』をめざし、市全体で取り組んでいきたいと考えている。