【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第6分科会 復興・再興・新興!! ~消滅でも創生でもない地域づくり~

 公共施設の老朽化による維持費の増大、建替え、廃止などは自治体運営において大きなウエイトを占めています。その中でも「学校施設」の維持管理は大きな課題と思われます。とりわけ人口減少、少子化により学校の統廃合が進み廃校となった「校舎」は数多く存在し、その利活用についても大きな問題となっています。本レポートでは、各自治体における「廃校舎」の利活用、再利用にあたっての地域との連携について提言します。



廃校舎の利活用と今後の課題
―― 再出発に向けた取り組み ――

北海道本部/空知地方本部・自治研推進委員会

1. はじめに

 学校施設は、子どもの教育施設という役割に加え、子どもを中心とした住民・保護者・行政の地域協働の象徴として100年間以上、地域コミュニティの中心に立ち続けてきました。
 しかし、近年は少子化による児童生徒数の減少、市町村合併などの影響により学校の統廃合が加速し、廃校舎となった施設はその後の有効活用が求められていますが、廃校になってから活用が図られず、遊休施設となってしまっているものも多く存在しています。

   国内の出生数
 
    国内の総人口
 
         統計局「日本の統計2016」より抜粋            統計局「日本の統計2016」より抜粋

 自治体では、廃校舎の利活用について検討を重ねていますが、新たな用途が決定できない要因として「地域等からの要望がない」「施設が老朽化している」「立地条件が悪い」などの理由が考えられます。
 特に、耐震基準を満たしていない施設を利活用する場合、膨大な改修費用が必要となることも、利活用が進まない大きな原因とも考えられます。


    空知管内の人口
                     空知の統計より
 一方では、地域コミュニティの中心として担ってきた廃校舎を、地域住民や企業等との連携により新たな施設として生まれ変わらせている実態もあります。
 こうした状況を踏まえ、地域社会や行政の立場からみた廃校舎の利活用について提言したいと思います。


2. 増え続ける廃校舎

(1) 廃校の推移
   空知管内の小中学校数
                         空知の統計より
 文部科学省が2014年11月に公表した「廃校施設活用状況実態調査」結果をみてみると、2002~2013年度の公立学校の廃校の推移は、年間500校前後で推移しており、この間の累計(5,801校)を都道府県別で比較すると、北海道が597校で他の都府県と比べて圧倒的に多く、以下、東京(245校)、岩手(233校)、熊本(232校)、新潟(201校)と続いています。
 空知管内においても、特に小中学校数が減少しており、2005年の市町村合併以降、自治体財政の健全化を進めていく中で学校の統廃合による「廃校舎」が増えてきたように思われます。

(2) 廃校舎の利活用
   公立学校の年度別廃校発生数
             文部科学省「廃校施設活用状況実態調査」
 廃校施設活用状況実態調査で、施設が現存している全国の廃校5,100校のうち、3,587校(70.3%)がその後も活用されているが、活用の用途が決まっていない廃校数も年々増加傾向にあり、2014年度の調査時点で1,081校(21.2%)が活用されていないということが判明しています。空知管内においても同様に廃校舎の利活用に苦慮している自治体も多い中、この問題にどのように対応してきたかを調査しました。
 調査では管内全自治体の現状をすべて把握することができませんでしたが、地域や企業との連携、補助金施設という状況下で選択肢が限られた中での活用など、様々な取り組みや現状を見ることができました。


3. 廃校舎の具体的な活用事例

(1) 宿泊型体験学習施設 ~栗山町の活用事例~
① 地域の状況と取り組みのきっかけ
 開校以来3,082人の卒業生を世に送り出し、数々の歴史を刻んできた「雨煙別小学校」が、児童数の減少により1998年3月に98年の歴史に幕を閉じました。朽ち果てていく施設をどうにかできないかと廃校舎の利活用の方法などを検討した結果、青少年が「自然体験が少ない」「仲間と交流する機会が少ない」といった社会的課題を背景に、実体験を通じて環境について学ぶことができるように、体験型の環境教育プログラムの拠点「雨煙別小学校コカ・コーラ環境ハウス」として宿泊可能な施設に再生しました。
② 取り組み内容
 雨煙別小学校コカ・コーラ環境ハウスは「環境教育を行う宿泊可能な体験施設」として80 人収容の宿泊施設であり、地域のフィールドを活かした「ハサンベツ里山での自然体験・里山生活体験」「夕張川やその支流での自然体験」「間伐材を使ったクラフト体験」「北海道の歴史学習」など、多様な自然体験教育プログラムが用意され、青少年を中心とする宿泊研修やスポーツ合宿などで道内外から注目されています。
 

雨煙別小学校コカ・コーラ環境ハウス

③ 取り組みのポイント・工夫
 ア 改修に際して延べ約1,500人の町民ボランティアが集まり、地域一丸となって廃校施設を再生させました。
 イ 栗山町、NPO法人雨煙別学校、公益財団法人コカ・コーラ教育・環境財団が連携して運営しています。

④ 取り組みの成果
 2010年4月のグランドオープン以来、町内小中学校の宿泊研修や各教科学習での利用、スポーツ少年団の合宿、青少年育成会のキャンプ、大学生による研究・調査事業、一般財団法人コカ・コーラ教育・環境財団主催の教育事業、企業の社員研修、卒業生による同窓会など、町内外から2万人あまりが訪れています。

 

町内の小学生を対象とした通学合宿

  コカ・コーラ環境教育賞

(2) 福祉関連施設への転用~月形町の活用事例~
① 地域の状況と取り組みのきっかけ
 月形町は過去、複式小学校が4校設置されており、自治体規模や町全体の児童数を見ても特異な学校配置でした。そのほとんどが廃校直前は児童数ひとケタとなっていましたが、地域コミュニティの中心となる施設であったため、地域からの根強い要望もあり、統廃合には相当の時間を要しました。
 しかし、集団生活や学習内容に多様な制約を受けることが多く、学習環境の低下が懸念されたため、地域の理解を得ながら最終的には小学校1校に統合する結果となりました。
 廃校となった校舎は、築年数も浅く補助金を活用した校舎でもあったことから、取り壊した場合、補助金返還対象となるため再利用せざるを得ない状況でもありました。
② 取り組み内容
 再利用にあたっては、廃校4校中3校を次に掲げる施設として再出発できました。
 納豆工場(町内福祉事業所へ無償貸与)
 作業所(町内福祉事業所への無償貸与)
 幼稚園(町外幼稚園運営事業所への無償貸与)
   

ワークセンターオプス(納豆工場)

  昭栄の里(作業所)   ちらいおつ遊び塾(幼稚園)

③ 取り組みのポイント・工夫
 廃校後の活用の検討に向け、集会施設や社会教育施設等への転用をはじめ、町以外の団体への貸与なども含め、施設の有効活用を最優先に幅広い視野で検討しました。
 また、施設については、無償貸与とする一方で、施設の改修(構造以外)や運用については使用団体に裁量を与えました。
④ 取り組みの成果
 納豆工場は、知的障がい者の作業訓練や就労の場となっている一方、地元農産物の加工品として町の「特産品」として販売しています。
 幼稚園については、町外の法人が運営する幼稚園のサテライト施設として活用しながら、週末は子どもの遊び場として、一般利用できる施設を開放し、町内外問わず多くの子どもたちが利用しています。
   

まんまる納豆

  ちらいおつ遊び塾 木製遊具

(3) すこやかで安心して暮らせる社会をめざして~赤平市の活用事例~
① 地域の状況と取り組みのきっかけ
 赤平市は炭鉱のまちとして栄え、人口も最大6万人にまで伸びました。しかし、国のエネルギー政策に伴い相次いで炭鉱が閉山、人口も減少し学校の統廃合も余儀なくされました。
 廃校となった校舎は、市の財政事情や補助金を活用し建設された経過もあり容易に取り壊しや転用ができず、廃校となった校舎は現在も多く存在しています。
 しかし、こうした中でも赤平市では子どもから高齢者、また障がいのある人も、住み慣れた地域で安心して暮らせる社会をめざす取り組みを進めています。
② 取り組み内容
 校舎の転用事例は次のとおりです。
 ア 幼稚園への転用
 イ 社会福祉法人による障がい者施設への転用
 

幼稚園について(赤平幼稚園)
~赤平市市勢要覧等より~

  障がい者施設について(光生舎フーレビラ)
~光生舎フーレビラHPより~

③ 取り組みのポイント・工夫
 社会福祉法人による障がい者施設への転用は、市内社会福祉法人より、旧百戸小学校を障がい者施設に転用できないかとの打診を受け、古くからこの社会福祉法人は地域との関わりが強く、さらに赤平市としてもノーマライゼーション(注)の普及をめざしていたこともあり、障がい者施設として新たに生まれ変わりました。
④ 取り組みの成果
 現在もこの施設では多くの方が暮らし、また同時に雇用も生まれました。
 しかし、これは唯一の活用・転用例で、今もなお多くの廃校舎が存在しており、財政や安全性の面からも多くの課題が残っていることから今後も問題解決に向けた取り組みを引き続き進めていく必要があります。

光生舎フーレビラ赤平のようす

 ア 赤平幼稚園
  ●園児数69人
  ●学級数3学級
  ●職員~正職員5人、臨時職員6人
 イ 光生舎フーレビラ赤平
  ●利用定員60人
  ●従業員~サービス管理者1人、生活支援員15人、栄養士1人


4. まとめ

(1) 廃校舎の現状と課題
 学校はその地域の顔であり、そして地域住民の交流の中心となる場所です。特に人口が集中する(市)町の中心部の学校より、比較的人口が少ない地域の小規模学校にそうした面が見られます。
 そのような学校は、学区内の児童生徒数の減少や行財政改革等に伴い学校の集約化のターゲットになってきました。
 しかし、単なる学校の統廃合ではなく、教育環境の整備や施設維持管理の効率化など、自治体の苦悩も垣間見ることができました。そして、ほとんどの廃校舎は補助金が充てられた施設であるため、補助金の返還が必要だったり、転用する場合の条件(制限)があることも転用が進んでいない要因となっていることも事実です。

(2) 今後の廃校舎の利活用の方向性
 廃校舎の再利用は多様ですが、成功したケースは実際のところ多くないのが現状です。現実としては取り壊しや塩漬(未利用)も少なくはありません。
 再利用するにしても、「学校」という元々の建築物の構造から大規模改修や老朽化部分の修繕など、多額の費用が必要となります。どこまで費用負担して施設を有効活用していくべきかという判断は今後も難しい状況にあり、公共施設として財政面からも大きな課題となってくることは間違いありません。
 また、廃校舎の利活用については、住民及び関係者、行政との間で情報共有や今後の施設の在り方についての共通認識を確保しながら、住民・地域ニーズに合致した公共施設・地域施設へ再生し、利活用していく必要があります。




(注) ノーマライゼーション
 障がい者と健常者がお互いに区別されることなく、社会生活を共にするのが正常なことであり、本来の望ましい姿であるとする考え方