【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第6分科会 復興・再興・新興!! ~消滅でも創生でもない地域づくり~

 '16年度自治労新潟県本部自治研集会において「合併10年後の検証」についての作業グループを作り、自治研推進委員会分科会内での在籍合併自治体の現状・課題・問題点について報告し、今後のあり方について問題提起を行うものです。



全国最上位での大規模合併数と減少数・減少率の新潟県
―― 市町村合併10年後の現状報告と課題 ――

新潟県本部/自治研推進委員会 第2分科会

1. はじめに

(1) 新潟県における市町村合併が進められた背景
 新潟県内では、急速な人口減少や高齢化の中で地域の将来への不安や国の大幅な地方交付税の削減、また国の政策誘導等による流れの中で、積極的に県としても町村合併を推し進めることとし、次のような背景を上げていました。
① 地域社会で限界集落を想起させる少子高齢化と、自治体財政の逼迫化。
 ⇒ 小規模自治体における更なる先鋭化に対する不安など、国・地方双方の現状見直し。
② 国・地方を通じた財政危機とそこからの脱却と効率的な行財政運営。
③ 1995年の地方分権推進法、2000年の地方分権一括法を契機とした「自治・分権改革」「地方制度調査会」等での活動や答申。
④ 総務省からの合併推進に向けた「合併特例法」の改正対応。
⑤ 「分権改革」としての「自己決定・自己責任」による自治体自身の動勢。

(2) 市町村合併で求められていた視点
 新潟県をはじめ、全国的に取り組みが進められてきた市町村合併の視点として次のような課題が上げられます。
① 総務省では「地方分権の受け皿づくり」「少子高齢化・人口減少時代に対応した自治体づくり」「拡大した住民の生活圏に対応した自治体づくり」「行政の効率的な運営・財政の健全化」の4本柱。
② 人口・面積・都市規模等の外的な側面と、人材・権限・財政等の行財政基盤と政策形成能力の拡充、質の高い公共サービスの実現。
③ 日常生活圏における受益と負担関係、環境や街づくり等の広域的行政課題の克服。
④ 新設合併、編入合併等における「住民自治」と「団体自治」の確立

(3) 新潟県における市町村合併パターン
① 県では、地域において将来を見据えた活発な議論が行えることを期待し、具体的なパターン(市町村合併の組み合わせ)を提示しました。
② 合併パターンとしては、広域圏を中心とする21の基本パターンと3つのサブパターンを示し、各パターンで合併後の規模、将来人口推計、産業構造を示すと同時に合併の類型、歳出規模、まちづくりの方向性等を示し、議論の素材を提起しました。
③ 最終的に県の合併パターン通りに市町村合併が行われたのは、現在の阿賀野市・五泉市・阿賀町・魚沼市・糸魚川市・佐渡市の6自治体であり、また12自治体は合併をせず自主独立の道を歩むことを選択しました。

2. 全国及び新潟県の合併状況

(1) 全国では3,232自治体から1,718自治体へ(減少率△46.8%)
 今回の市町村合併については、各県での取り組みに対する温度差が大きく、全国一律の評価・判断はできませんが、次のような実態となっています。
① 減少率70%台の高い県
 ・全国最高の減少率の県は、長崎県で79自治体が21自治体へと減少率73.4%、減少数△58自治体となっています。
 ・第2位の減少率の県は、広島県で86自治体が23自治体へと減少率73.3%、減少数△63自治体となっています。
 ・そして第3位は本新潟県であり、112自治体が30自治体へと減少率73.2%、減少数△82自治体となっています。なお、新潟県での減少数は全国最高数となっています。
 ・第4位は愛媛県で71.4%、減少数は△50自治体、第5位は大分県で69.0%、減少数は△40自治体となっています。
② 50%を超え、半減した県
 ・全国的には47都道府県中の26県が50%を超える削減率となっています。(約55%の県)
 ・多くの県においては、総務省からの国・地方自治体の財政見直し(三位一体改革)施策により、財政面の不安と合併特例債の地方交付金への優先補填等の誘導により、財政基盤の弱い自治体が多い県において市町村合併が進められていた側面がうかがえます。
③ 1~4団体のごくわずかな県
 ・大阪府は44自治体が43自治体△1、東京都は40自治体が39自治体△1、神奈川県は37自治体が33自治体△4と、最も少ない実態となっています。
④ 1999年では全国3位の112市町村の自治体数が、全国25位の30自治体へと減少
 ・1999年に最も自治体数が多かったのは北海道で212自治体。次は長野県の120自治体で、次に新潟県、その次は岐阜県の99自治体となっていました。
 ・合併後の2014年段階では、北海道は179自治体(△33自治体、15.6%)。長野県は77自治体(△43自治体、35.8%)。岐阜県は42自治体(△57自治体、57.6%)となっています。削減率の順位としては、岐阜県が15位、長野県は37位、北海道は44位であり、新潟県は削減数、削減率でも突出している実態となっています。

(2) 新潟県は112自治体から30自治体へ(△73.2%)
 全国で最も市町村合併が進んだ新潟県の概要は以下の実態となっています。
① 減少数の82自治体は全国で最も多い県であり、112市町村が30市町村になりました。
② 減少率は73.2%で全国第3位となっています。
 しかしその差はわずかであり、全国トップとは0.2%、全国第2位とは0.1%との僅差となっています。
③ 10自治体以上の合併は全国で10自治体であり、その中に新潟市・長岡市・上越市・佐渡市の4市が入っており、全国で最大の県となっています。合わせて、この4市だけで、50の市町村が4市に収斂されました。
④ 県都である新潟市は、合併協議において政令指定市に移行することを前提に関係自治体と協議を重ね、市町村合併の2年後に政令指定都市(人口81万人)に移行しました。
⑤ 合併のパターンとしては、「市+市町村及び市+町村による市制」は13市、「町村合併により市制」は4市(胎内市・阿賀野市・魚沼市・南魚沼市)、「町村合併による町村制」は1町(東蒲原郡阿賀町)となっています。
⑥ 結果として市町村合併しなかったのは12自治体となっています。
⑦ 合併前後の市の数は20市と変わりませんが、内容としては豊栄市・新津市・白根市が新潟市に編入され、栃尾市が長岡市に編入し結果として4市が無くなりました。反対に胎内市・阿賀野市・魚沼市・南魚沼市の4市が誕生し、結果として市の総数に変動はありませんでした。
⑧ 郡レベルでは、これまで16の郡がありましたが、中蒲原郡・古志郡・北魚沼郡・東頸城郡・中頸城郡・西頸城郡・佐渡郡の7郡が無くなり、現在は9郡となっています。そして岩船郡の2自治体を除けば、残りはすべて1自治体の1郡の構成となっています。
⑨ 市町村合併と並行して広域自治体としての一部事務組合の業務が、合併後の新自治体の業務と重なるエリアについては、一部事務組合も吸収合併が行われました。
⑩ 今回の市町村合併の結果、合併後の市と県の地域機関のエリアが重なる地域として、佐渡市・魚沼市・糸魚川市の三市(三地域)が現れ、今後、県及び当該市としての広域的な業務のあり方・連携についての議論が求められます。
⑪ また新潟市においては、一時期、新潟県と新潟市を再編し、「新潟州」構想が県知事と新潟市長の間で話し合われると同時に「検討委員会」も発足し、基礎自治体や広域自治体としての姿についても議論が行われました。

(3) 新潟県の市町村合併対応について
 国の施策を上回る合併支援体制とし以下のことを実施しました。
 またこれらの支援体制は当時の平山知事の「まちづくり・むらおこし」という『地域づくり』が背景にあったことがうかがえます。
① 市町村への情報提供として、新潟県市町村合併促進要綱の策定及び合併パターンの提示
② ハード及びソフト面での合併特別交付金制度対応(要綱上の交付総額全国1位)
③ 地域づくり資金制度対応
④ 県庁内での組織体制の整備(市町村合併支援課設置・支援本部設置)

3. 市町村合併組合アンケート結果

(1) アンケート実施概要
① 今回の市町村合併の分析を測るうえで、各単組における自治体当局の住民アンケートの実施の有無と組合としての問題意識を図ることを目的とし単組アンケートを実施しました。また市町村合併をしなかった単組についても、「市町村合併をしなかった」ことが結果的にどのように判断しているのかも合わせて調査することとし、全自治体(30単組)でのアンケート調査を実施しました。
② 今回の単組アンケートは、組合執行部や組合三役での判断回答が大半であり、当該組合として全組合員を取りまとめた組織判断ではないことから、各組合(自治体)の回答についてはあくまでも当該組合としての概ねの方向性としての回答として整理を行いました。

(2) アンケート結果
① 住民アンケートは少数での自治体で実施が確認されました。1回実施は2自治体。2回実施は1自治体。
 3回実施は2自治体。10自治体では住民アンケートは未実施の実態が明らかとなりました。しかし一部の自治体においては、住民アンケートは未実施でも地域の代表や主要団体等からの直接ヒアリングを行っている実態が明らかになりました。
② 市町村合併の是非の判断としては、「良くなった」が4自治体。「悪くなった」が6自治体。「変わらない」が1自治体。「わからない・無関心」が8自治体と最も大きな回答数となっていました。
 とりわけ「わからない・無関心」については、合併自治体の4割を占め、その中に10自治体を超える合併を行った「新潟市・長岡市・上越市」の三市が回答しており、組合執行部としての合併の是非の判断や合併における各種課題についての現状分析の議論が十分に行われていない現状が推察されます。
③ 「良くなった」面では、合併特例債の優遇措置や大気の存在感・イメージの向上があげられています。
④ 「悪くなった」面では、暮らしから遠くなった。地域の声が届かなくなった。後の借金が懸念等となっている。との回答が上げられています。
⑤ 財政面では2003年と2013年を比較し、合併をしなかった自治体は軒並み財政力が低下していることが改めて明らかになりました。
⑥ 職員数や一人当たり人件費については大半が減少傾向にあることが見て取れますが、そのバラつきも大きく、一概に市町村合併の結果としてひとくくりに判断することは困難な状態であることがうかがえます。
 ⇒ 市町村合併により広域事務組合職員や消防職員等が新たに職員になっている事例もあきらかになっています。
⑦ 給与格差の是正については、「解消された」が8組合。「解消されていない」が7組合となっていて、概ね半数の自治体で職場内での旧市町村間での賃金格差が改善されずに「同一労働・同一賃金」の原則から今後の課題としてこの改善を求めていかなければならない実態が明らかになりました。
⑧ 今回、市町村合併を行ってから概ね10年が過ぎ、組合執行部や市町村合併後に採用された組合員の増、そして反対に市町村合併当時やその前段の市町村合併について積極的に議論を行ってきた当時の組合役員(組合執行部)の退任・退職や組合活動の一線から退く流れの中で、改めて組合目線と市民目線での戦略的な組合内部での議論が今後の課題として考えられます。

4. 「県民意識調査」(県自治研センター実施)に示された市町村合併に関する県民意識(アンケート・抜粋)

(1) アンケート実施概要
① 新潟県自治研究センターでは、「新潟県民の生活実態と住民意識に関する調査・研究」を行っています。
 その中で、県民意識調査(アンケート)を取り組み、「市町村合併」についても設問が設けられました。
 アンケートは配布総数で14,743枚、回答総数は6,529枚、回答率44.29%となっています。
② この内、市町村合併の設問への回答総数は6,525人でした。
 内訳は、合併自治体在住者5,931人、非合併在住者594人の方々からの回答が集約されています。
③ 回答総体でのアンケート結果について、以下報告(引用)させていただきます。

(2) アンケート結果①
① 市町村合併に対する認識では、「変わらない」が47.5%とトップであり、次に「悪くなった」が33.9%、「わからない」9.9%、「良くなった」8.7%となっており、「良くなった」との回答は総数の10%に達していない状況でした。
 ※ 組合アンケートでは「わからない・関心ない」が40%との回答率から、県民アンケート結果とは相当の乖離が明らかとなりました。
② 「良くなった」事柄としては、「広域的な政策効果」31.0%、「地域の存在感やイメージ」22.8%、「合併特例債などの優遇措置」15.9%、「無駄な経費削減」13.2%、「財政規模の拡大」10.5%、「住民負担の減」4.5%の回答順となっています。
③ 「悪くなった」事柄としては、「住民負担の増」20.6%、「暮らしから遠くなった」19.7%、「地域に配慮した政策」19.0%、「維持管理の費用増」13.5%、「地域の声が届かなくなった」11.3%、「あとの借金返済が懸念」10.4%の回答順となっています。

(3) アンケート結果②
① アンケート結果における特徴的な市町村として、「良くなった」で最も高率な市町村は南魚沼市の16.4%で最も少なかった柏崎市の6.3%の2倍以上の回答となっています。反対に「悪くなった」では佐渡市が65.5%で最小の三条市の31.1%の2倍強の回答となっています。
② 「良くなった事柄」の中では阿賀町の「地域の存在感やイメージ」66.7%、魚沼市の「広域的な政策効果」40.0%が上げられます。
③ 「悪くなった事柄」の中では燕市の「暮らしから遠くなった」34.4%、胎内市の「住民負担の増」27.7%が上げられます。

5. 結 び ~ 市町村合併は何をもたらしたのか ~

(1) 合併自治体の現状
① 市町村合併により多くの支所となった元の役場の周辺部は閑散としてします。旧役場が発注していた事業は土木事業をはじめ減少傾向にあります。また中心部においては郊外に大店舗が作られ、中心市街地の商店街では売り上げが減少し閉店が余儀なくされている地域もあります。
② これまでの市町村合併の政策決定に当たり、住民が無関係であったとは言えません。決定の判断を下したのは地域住民が選んだ市町村長や市町村議会議員(政治家)により政策決定が行われました。
③ 市町村合併から10年を経て現状を見たとき、地域住民はどこまで現状を見極めていたのでしょうか。また市町村だけでなく、国や県の政策決定が大きく関与していることから、国や県における真の地方分権・地方自治の確立の観点での意見が改めて求められます。
④ 極論ですが、たとえ村や町がなくなっても、そこで暮らしている人がいる限り、地域はなくなりません。しかし地域を救うためには1人ではできません。仲間が必要であり、生活していける基盤がなければなりません。とりわけ新潟県においては地域の特性を生かした農林漁業を柱とした自治体の在り方と、今後の市町村総合計画について「地域をどのように維持・発展させていくのか」との視点での現状分析が求められます。

(2) 合併自治体の課題
① 市町村合併により、市町村議会の絶対議員数が減少し、住民の声を議会で十分に議論することが少なくなってきています。また中心部選出の議員の比率が高く、中心部以外の議員の比率が相対的低下してきている現状から、議員の中の少数意見(地域住民の声)に対して十分な議論ができるような議会運営が求められます。
② 行政の仕事は住民団体やNPOとは違い、地域住民から税金を徴収し、地域全体の仕事を行い、災害などがあれば住民に対して強制力を伴う仕事も行っています。基礎自治体である市町村の仕事。広域自治体である県の仕事。地方自治体とは別に国で行う仕事。地域で暮らしていくためには、国・県・市町村のそれぞれの役割をうまく機能させ、初めて地域の主人公としての住民として生活が営めるようになります。そのためには改めて、国・県・市町村の仕事を見直し、基礎自治体での合併効果を享受できるよう憲法でうたわれている「地方自治」の確立に向けた議論が求められます。

(3) 合併自治体の問題点
① 最後に地域で人口減少に陥っている多くの集落での生活基盤は農林水産業であり、その所得は高くはありませんが、経済格差を気にせず「それぞれが納得した生活を営む」ことができれば、それを保障することも必要と考えます。人間は『経済』だけで生きてはいません。もっと大切な「生きがい」「自分らしさ」を求め、自分の暮らしている地域のあり方は自分たちで決めるという「自立」と「自治」の感覚こそが必要と考えます。
② そして各自治体の「自立」「自治」を柱にするとともに、近隣市町村との「連携」の在り方について問題意識を持ち、各自治体での現状や課題について意見交換を図る中で、真の問題点をつかみ、その解決に向けた取り組みが必要と考えます。
③ 労働組合(単組)として、日々の業務(地方自治の仕事)を実践し、その業務の在り方について常に問題意識をもって、組織や業務について見直しを行い「真の地方自治」についての検証が必要と考えます。