【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第6分科会 復興・再興・新興!! ~消滅でも創生でもない地域づくり~

 市役所におけるスペースを有効活用できないものか。そんな素朴な疑問から今回レポートを提出しました。



市役所におけるスペースの有効活用
心地よい空間の提供と財源の確保

愛知県本部/岡崎市従業員労働組合 鈴木 郁夫

1. はじめに

 市庁舎は本来、市の事務を行うためのスペースであり、税金で建設されている以上、余分な機能など存在しないというのが大前提ではあります。しかしながら、庁舎が建物である以上、必ず余剰的な空間や、柱など建築構造上必要不可欠であっても市の事務を行うためには特別必要のない箇所が存在することも事実です。
 一方で、昨今の行政において、住民サービスという概念は必要不可欠です。庁舎における住民サービスには、もちろん、きめ細かな窓口サービスであったり、適切な制度構築並びに運用が求められることは言うまでもありませんが、来庁された市民が気持ち良く用務を行うことができる空間の創造も、これら実務上の住民サービスと同様に重要な住民サービスと考えています。
 また、こうした来庁者にとって気持ちの良い空間は、そこで働く職員にとっても、利便性の高い快適な職場となり得ます。
 さらに、こうした余剰スペースを有効活用することにより、税外収入を得ることができれば、一石二鳥にも一石三鳥にもなると考え、本市での取り組みを紹介することで、まだこうした取り組みを行っていない自治体の参考になればと思い、今回のレポートを提出します。


2. 庁舎の有効活用の前提

 旧来の制度(地方自治法)では、庁舎などの行政財産を他人に使用させる際の手法としては、行政財産目的外使用許可しかありませんでした。また、行政財産目的外使用許可の対価として徴収する「使用料」もその性質上、入札等価格競争などによりその額を引き上げることができず、『定額』しか歳入は期待できませんでした。しかし、2007年の地方自治法改正により、行政財産も普通財産と同様に貸付可能となったことにより、定額の使用料ではなく、市と借受け相手方との合意によってその額を決定可能な貸付料とすることで、歳入の増加が期待できるものとなりました。(ただし、適正価格よりも安くする場合は、議会の議決が必要です。)
(参考)行政財産貸付制度設立の趣旨
 市町村合併により、旧市役所本庁舎が不要となるケースが全国的に増えました。市役所本庁舎は往々にして当該自治体の中心部にあり、商用ニーズが高い。これを有効に活用するため、制約の多い旧来からの行政財産目的外使用許可ではない新たな活用手法が必要となり、行政財産の貸付が生まれました。
(行政財産目的外使用許可→短期(原則1年)、行政財産貸付→長期(複数年))


3. 庁舎有効活用(自主財源確保)の主な手法

※ 以下、全ての手法において、入札などを実施し貸付料などを競わせることで、歳入の増額を図ることが可能です。
① 余剰スペースの貸付
 庁舎の床面や壁面を有償で貸し付けるもの。
 ア 自販機貸付(写真①
 自販機を置くスペースを貸し付ける。
 (自販機設置に関する事務手法としては、貸付以外にも、定額の行政財産目的外使用料を取っておいて、それプラス「協力金」などの名目で雑入を取る方法もある。)
 イ レストラン、コンビニ、法テラス等の貸付(写真②
 テナントとしてのスペースを貸し付けるもの。
 ウ 駐車場の有料一般開放
 駅前など繁華街に近く、駐車場が不足している地区の公共施設で、当該公共施設の駐車場を有料で他用途にも開放するもの。
 事務手法としては、利用者から直接利用料金を徴収する手法と、市は駐車場運営会社などと貸付契約を締結し、定額の買い付け料収入を得るという手法が考えられます。
 エ フィルムコミッション
 映画やドラマの撮影を誘致し、使用料(←目的外使用料とは異なる)を取るもの。
 実際の歳入以外にも、自治体や自治体施設のPR効果も見込める。
 (名古屋市役所は、そのレトロな造りを生かして、フィルムコミッションを積極的に行っている。)
 (本市も過去に、「図書館戦争」のロケ地として「りぶら」が候補地として挙がっていた。)
② 広 告
 ア ネーミングライツ
 ホールや橋などに名前を付ける権利を有償で付与する。(例.レインボーホール→日本ガイシホール)
 ただし、ネーミングライツには、メディアに登場するような施設や、大人数の目に触れる施設であれば広告価値があるが、小さな市町ではほとんど広告価値がなく制度自体が成立しないといった欠点もある。
 イ ディスプレイ(画面)広告(写真④)、公用車に広告(写真⑤)、水道の料金表裏面に広告、ごみ出し表に広告(写真⑦
 ウ ポスター掲示
 エ 備品、消耗品への広告掲載
 オ Webバナー広告
 これら広告事業における歳入の計上の仕方について、備品や消耗品(本市では、公用車や市民課の市民封筒)と、Web広告以外は、「広告料収入」で歳入を計上することも可能であるし、広告スペースを貸し付けるという考え方で「貸付料収入」として計上することも可能です。
 どの広告にも共通して言えるのは、市が直接募集するよりも、市は広告代理店と契約して定額収入を得ておいて、広告代理店が広告主を探してきて広告料を得るという手法の方が効率的であると思われます。これは、市では広告主のニーズの把握が困難であるということに加え、市との契約相手を広告代理店とすることで、かりに広告主が集まっても集まらなくても、市には定額の歳入が見込めることから、予算計上や財源充当などの、市における財務措置の性格とマッチしているという理由によるものです。
 ただし、この手法で注意すべき点としては、広告スペースを広告代理店に丸投げで貸し付けてしまうと、例えば風俗店の広告や特定の政治、政党に肩入れしていると想起させるような広告など、市役所内で掲載するにはふさわしくない業態の広告が掲載されてしまうといった懸念が生じます。
 しかし、こうした懸念は、広告代理店を募集する際や、広告代理店との契約締結時にあらかじめ禁止事項として規定しておけば回避可能なものであると考えます。


4. 実施状況

 3.で列記した庁舎有効活用の主な手法のうち、本市庁舎で実施済みのものは、自販機貸付、レストラン、コンビニ、法テラスなどの貸付、及びディスプレイ(画面)広告となっています。また、自主財源確保までには至ってはいないものの、本庁舎ロビーに生け花を常設していますが、当該生け花は、市内の華道団体に作品の発表場所として市役所ロビーを提供するという手法を採ることにより、生花代などは華道団体が負担することとなり、市の財政負担軽減に寄与しつつ、来庁者への潤いの確保を実現できています。(写真⑧
 なお、本市の他の公共施設においても、広告スペースの貸付や自動販売機設置スペースの貸付けなどは、複数の施設で実施されています。


5. 今後の有効スペースについて

 これまでのスペースの有効活用については、どちらかといえば、来庁者の利便性を良くすることに資するもので、かつ、自主財源確保になるもの、つまり、機能性重視であったといえます。しかし、今後は、そのような機能性だけでなく、潤いなど、来庁者に気持ち良くなっていただけるような活用ができないかと考えています。
 例えば、3月はお雛様、5月は節句といった感じで、庁舎内のディスプレイなどにより、季節を感じられたりするような空間演出を行うことで来庁者の「心の潤い」をめざすとともに、それらディスプレイが何かしらの商業活動に寄与するものとして、出資に値すると判断する業者、業界があり、市としては自主財源確保に繋がるといったものがないか、検討を重ねていきたいと考えています。標記にも記しましたが、市庁舎で働く職員も人間ですので、そうした来庁者の「心の潤い」に繋がるような空間は、職員にとっても、心のゆとりやリフレッシュにも少なからず作用すると思われます。潤いの空間ディスプレイが、市庁舎で働く職員にとっても有意義なものであれば、職員のモチベーションや事務効率の向上に間接的に寄与し、その結果、さらに良質な住民サービスの達成に繋がることを期待しています。


 

写真①

  写真②-1
 

写真②-2

 

写真③

 

写真④-1

 

写真④-2

 

写真⑤

 

写真⑥

 

写真⑦

 

写真⑧