【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第6分科会 復興・再興・新興!! ~消滅でも創生でもない地域づくり~

 「公共施設の更新問題」が浮き彫りになり、多くの自治体で"公共施設の削減"が叫ばれています。人口減少や財政状況などをふまえて施設を選別していく時期なのでしょう。しかし、削減だけでいいのでしょうか? もっとできることはないでしょうか? 鳥取市が取り組んでいる"地域活性化"や"効率UP""不要な歳出削減"につながる公共施設マネジメントの一部を紹介します。



削減だけじゃない
これからの公共施設マネジメントとは?

鳥取県本部/鳥取市役所職員労働組合 宮谷 卓志

1. はじめに

 学校や保健センター、公民館、体育館など、自治体が保有している公共施設(いわゆる「ハコモノ」)は、多様化する住民ニーズに応えるように次々と建設されてきました。
 それらの多くは、1970年代以降の高度経済成長期に集中して建築され、それから数十年が経過しており、現在、公共施設の多くが建替えや大規模改修といった"更新"が必要な時期を迎えつつあります。
 厳しい財政状況にある各自治体は、減りゆく人口(税収)の中で、公共施設の更新に必要な財源をねん出(確保)することができず、多くの自治体は施設を減らそうと躍起になっているのではないでしょうか……。(私もこの『公共施設の更新問題』に対応するため汗をかいている一担当者です。)
 公共施設は、住民のための施設(場)であるとともに、私たち地方自治体で働く者にとっては"働く場"でもあります。単純に減らすという方向でよいのでしょうか? "国も地方も財源は限られており、全ては維持できない"という現実から目を背けてはいけないものの、減らす以外の考え方も持たなければ、将来に希望を持つことはできないと思います。
 本レポートは、「公共施設の更新問題」への対応について、単純な施設削減策だけではなく、新たな公共施設マネジメントに挑戦している鳥取市の取り組みを紹介することを軸に、今後の公共施設をどうすべきか考えました。
 なお、鳥取市では、公共施設の現状や今後の財政状況等をふまえて、40年間で保有する公共施設の総床面積を29%縮減する目標を立てています。ただし、これから紹介する取り組みを通じて、収入増や不要な支出の抑制が実現することで、維持(更新)できる施設が増えることができると考えています。


2. 学校の活用

 まずは、人口減少等で廃校となった学校の再生です。この取り組みには、次のような効果があります。
① 地域のシンボルが活用されることによる地域の賑わい維持
② 新たな施設整備を行わない地域活性化(経費負担の無い住民ニーズへの対応)
 学校の多くは、長期にわたり利用できる堅牢な構造となっており、学びの場として使わなくなってからも様々なカタチでリノベーションできる優良施設と考えられます。

アトリエ小学校
≪事例1:アトリエ小学校(旧成器小学校)≫
 旧成器小学校は、地元の画家が活用して、遊びの場として生まれ変わっています。作品展示だけでなく、絵手紙作成体験や喫茶コーナーなどのある楽しい空間として活用されており、県内外からも来訪者があるなど、観光施設・文化の拠点となっています。

アトリエ小学校
≪事例2:旧日置小学校、旧勝部小学校≫
 青谷地域にある2つの小学校は、1階部分を地区公民館として活用することで、経費抑制につなげました。
 鳥取市において、地区公民館は、地域住民の活動拠点でもあり、徒歩で来やすい位置に立地することが重要な要素です。構造的に少し利用しにくい面もあるかもしれませんが、思い出のある校舎が人生を通じて活動できる場となっています。

旧日置谷小学校(植物工場)
≪事例3:旧日置谷小学校≫
 旧日置谷小学校は、民間事業者が経営する植物工場として転用しました。LEDを使用した室内での植物栽培を手掛ける企業を県外から誘致した、立派なリノベーション施設です。
 企業誘致による経済的な効果(増税)だけではなく、新たな地元雇用(特に障がい者雇用)が生まれている事例であり、廃校がお金を生む施設となっています。

≪事例4:旧佐治中学校≫
 統合によって廃校となった旧佐治中学校は、住民による利活用検討会での協議や、住民からの活用案の募集など、自治体と住民が一緒になって活用策を模索しました。現在は障がい者福祉作業所やキノコ栽培体験事業、地域の観光案内情報発信の場として活用されており、住民の地域活動の拠点となっています。

鳥の劇場
≪事例5:旧鹿野小学校体育館、旧鹿野幼稚園≫
 旧鹿野小学校と旧鹿野幼稚園は、特定非営利法人"鳥の劇場"が劇場として使用しています。
 この取り組みは文化振興としての評価が非常に高く、2016年度には国際演劇祭が開催されるなど、県内外から多くの方が本市を訪れるきっかけとなっています。その経済効果は、鹿野地域の活性化だけでなく、市全体に広がっています。

 廃校の活用事例を紹介しましたが、使用中の学校はうまく使われているのでしょうか。稼働率を考えてみました。
 教室に限っていうと、8時~16時の8時間しか稼働しておらず、稼働率は1日の33%です。また、土日や夏休みなどは利用しないため、年間での稼働率は18%程度となります。
 計算上ですが、学校(教室)は非常に稼働率が低い施設といえます。現在でも、放課後児童クラブなど授業以外でも使用していますが、今後は、民間への貸し出しや夜間・休日の開放など、もっと様々な活用方法によって建物を使い倒す考えも必要になってくると思います。


3. 手放す施設で稼ぐ

≪事例6:施設の売却≫
 景気が右肩上がりだった時代に整備された温泉保養(宿泊)施設は、市の外郭団体が保有していましたが、長年の経営不振の結果、2013年に廃止され、市に無償譲渡されました。
 行政では、宿泊機能と温泉を十分に活かすアイデアがなく、保有していても赤字を垂れ流すだけとの判断もあり、民間売却することとしました。
 地元住民とも協議し、地域活性化の面から、これまでと同じ用途(温泉保養施設)として活用していただける事業者を売却先として決定しました。その結果、外郭団体が保有・運営していた頃より、多くの利用者があり、サービスが向上したと聞いており、売却益や増収など非常に成果があったと考えています。また、従業員の雇用継続等も要件とするため、単純な価格競争ではなく、公募型プロポーザルで売却先を募集するなど労使の立場で手法が検討され、意義ある取り組みとなりました。

≪事例7:解体予定の学校での消防訓練≫
 耐震化工事で解体することとなった学校を消防隊による突入・救出訓練の場として活用しました。
 壁や床に穴をあけるなど、より実践に近い訓練が実施できるだけではなく、訓練費用の抑制にもつながりました。教育委員会事務局と消防が横の連携を取ることで実現できた事例です。
突入訓練の様子


4. 施設メンテナンスの革命

≪事例8:ドローンによる施設点検≫
 公共施設の修繕は、これまで不具合が発生してから検討されてきました。簡単に言うと雨漏りが発生して(目に見えて)から屋根の改修や天井の張替えを行うという"事後保全"です。
 しかし、雨漏りが起きた時点で、建物本体(躯体)は寿命が短くなり、空調機器などの故障も想定されます。もっと早く不具合(例えば屋根の防水シート破れ)を発見して、対応していれば、最小限の修繕(防水シートの張替え)だけで済んだかもしれない……。その点では、無駄な出費につながっていると言えます。
 とはいえ、施設点検の費用を確保することも難しいのではないでしょうか。何万円もかけて足場を組んで点検した結果、何も不具合がないと無駄な出費だと逆に問題視されるかもしれません。
 そこで、本市は、ドローン(無人航空機)を職員自らが飛行させて、施設点検を開始しました。このことによって、施設(高所)の点検が、スピーディに安く実施することができます。
 不具合を早期発見し、被害が拡大する前に対処する"予防保全"が可能となった結果、施設メンテナンス費用を削減するだけでなく、住民にとって安全で快適な公共施設を提供することにもつながっています。
ドローンによる施設点検


5. 地方から始まった公共施設マネジメント

 2014年、総務省は「公共施設等総合管理計画」の策定を全ての地方自治体に要請しました。要するに各自治体に公共施設の削減を求めてきたのです。
 しかし、国と違い、住民に近い公共施設を持っており、住民と直接対話する機会が多い地方自治体では、簡単に施設の削減が進むものではありません。だからこそ、鳥取市では、施設の削減だけでなく、紹介したようなさまざまな公共施設マネジメント施策を推進しています。こうした努力をしつつも、施設を削減しないと自治体財政は厳しいということを住民に理解していただかないといけないと考えています。
 先進自治体は、10年以上前に「公共施設の更新問題」に気づき、ゼロから研究を開始し、真剣に取り組んでこられました。その結果が全国に波及しつつあり、鳥取市もその波に乗るため必死にもがいている状況です。
 公共施設マネジメントは、国ではなく地方から始まったものであり、これからも各自治体がそれぞれの環境に併せて、独自の公共施設マネジメントを進めていく必要があります。そういう意味で自治研活動を通じて情報を共有することは、非常に有意義であると感じています。


6. まとめ

 ほとんどの自治体で財政状況が厳しく、施設の更新・修繕費を十分に確保できない状況と思いますが、借金をして施設を維持していくことも可能です。そうすれば、きれいな施設で住民も満足するでしょう。しかし、イマの世代はいいかもしれませんが、子や孫の世代には自治体が財政破たんを迎えるかもしれません……。
 それではいけない 責任を持って公共施設マネジメントを進める必要があるということを住民と共通認識を図る必要があります。公共施設に対する従来の考え方(1施設1機能など)を自治体職員、住民、議員が改める時期が来ていると感じています。
 イマこそ既成概念を取り払い、思い切った変革を求めて取り組む時期ではないでしょうか。
 子や孫の世代に胸を張って"まち"を引き継いでいくため、「公共施設の更新問題」を先送りせず、公共施設マネジメントに取り組んでいきます。
 みなさんの自治体はどんな取り組みをしていますか?