【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第7分科会 若者力は無限大∞ ~若者と創り出すまちづくり~

 労働組合運動では組合員とのコミュニケーションが必要不可欠です。一般的にマジックはコミュニケーションに役立つと言われています。マジックを趣味にする自治労組合員が「専従」という立場で、コミュニケーションツールとしてマジックが本当に役立つのか、実践してきたことを基に考察と推論をします。



もしもマジシャンが労働組合運動に参加したら
~コミュニケーションツールとしてのマジックの有効性を探る~

北海道本部/後志地方本部 北本 靖夫

1. はじめに

 「もしもマジシャンが労働組合運動に参加したら」
 このタイトルってどこかで聞いたことありませんか?
 そうです、かつてベストセラー小説になった「もしドラ」のタイトルのパクりです。
 このタイトルをもじって、私も使わせてもらいました。
 私は、後志地方本部の専従の北本と申します。出身単組は真狩村職員労働組合です。タイトルにマジシャンとありますが、マジックは私の趣味です。
 20年ほど前に、真狩村教育委員会へ配属され、社会教育係を担当していました。その頃に仕事がきっかけで、独学でマジックを覚えました。その後、後志管内を中心に口コミが広がり、各種イベント、施設、保育所などでマジックショーやマジック教室など依頼されてきました。
 マジックをはじめた数年間は、楽しさよりも、苦しさの比重の方が大きかったです。なぜなら、当時の私は、簡単なマジックを数種類覚えていただけで、自分の実力とかなりかけ離れて、口コミの評判だけが広がっていたからです。そのため、実際に私のマジックをご覧になった人の期待を裏切らないようにと、必死で練習していたのです。人前で何度も失敗し、大恥をかいたことなども多数繰り返しながら、20年が経過しました。
 一般的に「マジック」というと、日常生活においてコミュニケーションに役立つと耳にします。では、果たして労働組合運動では役立つのだろうか? という疑問を抱いていました。
 私は、2015年4月より自治労後志地方本部にて、専従になりました。専従という立場で、労働組合運動を展開していくにあたり、組合員とのコミュニケーションは必要不可欠です。
 労働組合運動の中でのマジックが本当に役立つのか? その有効性について、実践してきたことをもとに考察と推論を行い、レポートとして述べていきたいと思います。


2. 組合運動で必要なことは?

 労働組合運動をしていると、ときには組合員に「協力してもらう」ことが必要になります。
 では、「協力してもらう」には何が必要でしょうか? 組合運動に限らず、仕事でも家庭でも、人があることを伝え、理解してもらい、協力してもらうには、どのようなことが必要でしょうか?
 それは、正確な情報や根拠を説明することや、知識や経験をもとに組合員へ必要性を伝え、お願いすることになります。では、必要な情報を提供し、説明するだけで、聞いた人は納得し、協力してくれるでしょうか?
 それだけでは、人は動きません。なぜなら、それは、「何を言うか」ではなく、「誰が言うか」に大きな影響を及ぼしているからです。たとえば、あなたは見ず知らずの人から、「あなたはこうした方がいいよ」「これについて協力してくれないか?」などと言われて、素直に聞くでしょうか? おそらく、警戒心を抱き、簡単にイエスとは言わないことと思います。
 では逆に、あなたにとって知っている人から何か言われたらどうでしょうか? この場合は、少なくとも聞く耳をもつ可能性は高いと思います。さらに言えば、好意的な人からの依頼は、協力してもらえる確率がグッと高くなります。
 「協力」とは相手からの「承諾」がなければ得ることができません。ということは、「協力」は「承諾」と、言い換えることができると考えられます。
 では、この「協力=承諾」はどのようにして、相手から得ることができるのでしょうか?


3. 人は好意的な人の話を聞く傾向にある

 ロバート・B・チャルディーニ著の「影響力の武器」をご存知でしょうか? この書籍は、相手からの承諾を得るために、人はどのような心の作用が働き、イエスを引き出せるのか、ということを研究したものをまとめたものです。セールスマン、募金勧誘者、広告主などのプロの世界に潜入し、その調査結果から「承諾」についてのメカニズムを解明した実例が紹介されています。
 まず、この書籍の内容について、一部触れてみたいと思います。
 人から「承諾」をもらうためには、「好意のルール」が必要とされます。
 「好意のルール」とは一言でいうと、「私たちは、自分が好意をもっている知人から何か頼まれると、ほとんどの場合イエスと言ってしまう」ということです。そして、「好意のルール」に影響する要因には、主に3つあると言われております。それは、①「身体的魅力」②「類似性」、そして③「接触の繰り返し」です。
① 「身体的魅力」とは、好ましい外見の人は承諾してもらいやすい。
② 「類似性」とは、自分と共通点を持つ人に好意を抱く傾向にある。
③ 「接触の繰り返し」とは、会う回数が増えるごとに、親密性が生まれ協力を得やすい。
ということです。
 これらの要因が影響されると、「好意のルール」が働き、相手からの「協力=承諾」を得る確率が高まるといった内容が書かれています。
 書籍「影響力の武器」で解説されていた、この「好意のルール」を、マジックで活用していった場合はどうだろうか? 「好意のルール」にまで発展させることができるのだろうか? という視点を持ち、これまで活用してきました。


4. 労働組合運動にマジックを導入してみたら

 組合活動では、「自治研集会」「組織集会」など、様々な集会や学習会があります。そして、集会終了後、時には交流会があります。交流会では、名刺交換を行い、お互いの仕事の情報交換や、共通の話題でコミュニケーションをとります。そのとき私は、マジックを披露することがありました。それは、依頼されて余興として披露する場合や、また、同席したテーブルの人に見せることもありました。
 2015年4月~2016年6月までの間、労働組合関係の小さな集まりから、比較的大人数の集まりなどあわせて、48回マジックを披露する機会がありました。
 この間、私が一番注意してきたことは、必ずマジックに「エンターテイメント性」を取り入れてきた、ということです。
 マジックは、不思議な出来事を表現するため、「タネを知っている者」と「タネを知らない者」という構図が出来上がります。特に日本人に多いと言われていることは、「絶対にタネをあばいてやろう」という気持ちが働き、そこで、対立や競争といったものが生まれやすいのも事実です。
 そのため、不思議な出来事を表現する過程において、ギャグ、小ネタなどを盛り込みながら、楽しんでもらえるよう工夫してきました。「演者」がいて「観客」がいる。当然、見てもらえる観客がいなければ、マジックは成り立たないわけであり、観客に対しては「今日も見ていただき感謝します」「全力で楽しみを提供します」という気持ちを忘れずにいました。
 つまり、どんなに不思議なマジックが上手くできたとしても、見ている相手が楽しめず、また見たいと思ってもらえなかった場合は、自分にとって、その場は失敗したと思っていました。
 常に「相手を楽しませること」いわゆる「エンターテイメント性」を意識しながら取り組んできました。


5. 「あ、あの時のマジシャンね」と、会話の糸口をつかむ

 マジックを披露してきて、共通して実感したことは、その場で「会話」が弾むことが多くなったということです。お互いを知らない者同士の空間から、共通の話題を作り出すことができました。また、2回目に会ったときにも、どちらからともなく声をかけやすくなることが、多くなりました。お互いの共通の話題がなかったとしても、相手にとっても「マジック」を話題に、声をかけてもらいやすい状況になっていたのです。
 専従という立場で単組へ訪問する場合であっても、一度会っただけの人で、私の名前は覚えられていなくても、「マジック」という話題をしたことによって、「あ、あのときのマジシャンね」と、思い出していただき、声をかけやすくなる状況を作り出すことができてきました。
 このようなことから、「マジック」は、人との距離を縮め、共通の話題を作り出し、会話の糸口をつかむ環境づくりには適していると考えられました。


6. 「好意のルール」に当てはめてみると……

 では、マジックを披露することによって、「好意のルール」にまで発展させることができたのか? これについては、まずは考えられる可能性について推論したいと思います。
 書籍「影響力の武器」の中では、「好意のルール」に影響する要因は、主に3つあると先ほど申し上げました。それは、①「身体的魅力」②「類似性」③「接触の繰り返し」です。
 一つ目は「身体的魅力」についてです。
 「身体的魅力」とは、好ましい外見の人は承諾してもらいやすい、でした。この「身体的魅力」はイコール「外見の魅力」です。つまり、外見の良い人の方が他者との付きあいで有利になる、ということです。もちろん例外もあります。
 では、「外見の魅力」を「マジック」で置き換えてみます。マジックというコミュニケーションツールを使って、エンターテイメントを提供している人、と解釈してみます。マジシャンという「役者」を演じることによって、「楽しみを与える人」という側面から考えると、「外見の魅力」に当てはまることと考えられます。
 二つ目は「類似性」についてです。
 「類似性」とは、自分と共通点を持つ人に好意を抱く傾向にある、でした。これは、マジックを見たという「共通の話題」「同じ空間で非日常の体験をした」という面では、類似性を生み出すことが可能と考えられます。
 そして最後に、三つ目の「接触の繰り返し」についてです。
 先ほど申し上げたとおり、「接触の繰り返し」は、親密性が生まれ協力を得やすい、でした。これは、一度見た人が、次回また見るのを楽しみにしてもらえる、という面から考えると、マジックは、接触の繰り返しのきっかけとして、非常に可能性が高いツールと考えられます。
 私のマジックが、この「好意のルール」の3要因に完璧に当てはまってきたか、というと決してそうではなかったと思います。しかし、上記の3つの推論から、今後さらなる探求と追求を重ねることによって、可能性はグッと高くなると考えられると推論します。


7. コミュニケーションが苦手だった私が……結論は、

 もともと、コミュニケーションが苦手な私が、マジックのおかげで、コミュニケーションをとることができました。マジックがなければ、この間、多くの人とは交流できなかったと思います。労働組合運動のコミュニケーションツールとして、マジックは非常に有効であると結論づけたいと思います。


8. 終わりに

 最後に、これからはどんな分野であれ「エンターテイメント」の要素が必要になってくることを申し上げたいと思います。
 私は、マジックという分野で、使い方を一つ間違えば、ただ自慢するためだけの道具に陥りがちなツールを、「相手を楽しませる」ことにフォーカスし、エンターテイメント性を重視してきました。なぜなら、人は本能的に「楽しみたい」という気持ちを持っているからであり、そして気持ち一つで、人の行動が変わってくるからです。
 これからも、労働組合運動に限らず、職場、地域の人との関わりにおいて、どうしたら相手が楽しめるだろうか? というエンターテイメント性を重視しながら、マジックをよりよいコミュニケ―ションツールの一つとして発展させることを追求してまいりたいと思います。