【チャレンジサポート活動実績報告】

第36回宮城自治研集会
第8分科会 地域の子育て力が豊かな地域社会をつくる ~未来へつなぐ、子育て~

 越前市公共サービスユニオンは、一昨年、地方自治研究全国集会(佐賀大会)にて、自治研チャレンジサポート優秀企画賞を受賞し、以後、子どもの貧困や児童虐待問題に関する具体実践施策を検討する「自立支援・地域福祉研究会」を催し、地域を巻き込んだ自治研活動を展開してきました。本レポートでは、地域自治研活動の一環として創出された"研究会"の活動経過を振り返るとともに、その成果について報告します。



社会的養護の裾野を拡げていくために
―― チャレンジサポート
「自立支援・地域福祉研究会」活動成果報告 ――

福井県本部/越前市公共サービスユニオン

1. 研究団体の概要

 越前市公共サービスユニオンは、児童家庭支援センター一陽及び児童養護施設一陽で働く労働者全員で構成される労働組合です。そもそも私たちの職場の運営母体である『社会福祉法人越前自立支援協会』は、2005年秋、武生市(現越前市)職員組合の職場自治研活動を契機として巻き起こされた市民運動(=募金運動)によって起業されました。つまり私たちの組織は、まさに"自治労運動の成果"として誕生したのです。なお現在は、当時の自治労組織内議員が副理事長の任に就き、また当時の市職執行委員長が統括所長として運営のかじ取りを行っています。そのような稀有な生い立ちゆえ、私たちは、職場自治研活動を自らの労働運動の中核に据えつつ、働く仲間同士の団結(チームワーク)と連帯(ネットワーク)をなにより大切にした組織マネジメントを実践しているところです。
 創設以来、私たちは、地域・市民の力の結集によって創立された組織であるという矜持を胸に、常に地域に必要とされる組織(=社会資源)であり続けようと努めつつ、殊に地域や市民に開かれた運営を心掛けてきました。さらには丹南自治研究センターやNPOえちぜん(越前市のNPO中間支援組織)をはじめとする地元市民活動(NPO)団体、福井県地方自治研究センター等との連携のもと、多種多彩なソーシャルアクションを実践しています。


2. 研究の概要

 さて、子どもの貧困や虐待の連鎖が大きな社会問題となっている今日、社会的養護施策は年々その守備範囲を拡大させていくことが求められています。
 具体的には①地方自治体との連携のもと、望まない妊娠(妊娠葛藤)や育児不安などに対応すべく妊娠期・乳幼児期からの切れ目ない支援体制をどのように構築していくのか?
 また②地域のNPO等との協働のもと、ケアラー(→里親や家族介護者など無償支援者)やケアワーカー(→職業支援者)への支援の仕組みをいかに創造していくのか?
 さらには③地元養成校(大学等)と共創のもと、未来の支援者=福祉人材=の育成をいかに実効化していくか?……という視座での制度・政策の具現化が必要となってくるでしょう。
 越前市公共サービスユニオンは、2014年秋、このような問題意識をベースとして意気揚々と自治研チャレンジサポート事業に応募しました。


3. 研究活動の軌跡

 チャレンジサポート事業認可以降、まずは妊婦や親子支援の拠点としての『子育て支援センター』の創設をめざし研究を開始しました。その活動実績は以下のとおりです。
① 2014.12. 4 先進事業所視察  <子育て支援センター大高(愛知県)> 
② 2014.12.10 職員全員研修会  <講師:子育て支援センターピノキオ 理事長>
③ 2015. 1.24 実務者実践検討会 <講師:あすなろ子育て広場 相談員(石川県)> 
④ 2015. 2.10 実務者実践検討会 <講師:児童養護施設ゆうりん指導員(愛知県)>
⑤ 2015. 3.17 子育て支援センター一陽 事業担当予定者打ち合わせ
⑥ 2015. 4. 1 越前市内にて「子育て支援センター 一陽」をオープン
⑦ 2015.11.12 福井新聞にて、センターの創設以来半年にわたる活動が報道される
 次に、ケアラーズカフェ・子ども食堂の研究を開始しました。その活動実績は以下のとおりです。
⑧ 2015. 3. 4 「子ども食堂サミット:子どもの食を考える~実践報告:子ども食堂の作り方」全国学習会参加
⑨ 2015. 5.15 先進事業所視察 <ケアラーズカフェ・アラジン、キートス(東京)>
⑩ 2015.10.11 「地方自治と子ども施策全国自治体シンポジウム(子どもの居場所分科会)」に参加
⑪ 2016. 2.21 「共生社会創造フォーラムin福井」に参加
⑫ 2016. 4.20 越前市内に実行委員会形式で子ども食堂(名称:みんなの食堂)がオープン。以後月2回ペースで開催。一陽も実行委員会に参画。毎回、一陽の入所児童及び退所児童数人が参加している。
⑬ 2016. 5.22 自治労北信地連福祉交流集会にて「子ども食堂とケアラー支援に学ぶ、地域福祉の未来」と題したパネルディスカッション(市民啓発型オープン集会)を開催
 さらに、大学共創・人材育成実践に関する研究を開始しました。その活動実績は以下のとおりです。
⑭ 2015. 7. 3 先進大学視察 <日本福祉大学(愛知県)>
⑮ 2015. 7.11 実務者実践検討会 <千葉県若人自立支援機構 役員(千葉県)>
⑯ 2016. 4. 1 「市政研究(特集:子どもの貧困~世代間連鎖を防ぐ支援を考える~)」に児童養護施設の子どもたちの大学進学等に関する制度研究成果の一部を発表
⑰ 2016. 4. 1 施設入所児等を対象に、仁愛大学が授業料支援金として年間30万円を減免給付する制度を創設


4. 研究の成果と将来展望

(1) 子育て支援センターのオープン
 多くの先進施設の実践を学ぶなかで、①育児不安の解消はもとより、児童虐待や貧困家庭の早期発見など切れ目のない支援のスタートは、0~2歳児とその保護者を対象とした子育て支援センターが本来担うべきである。②しかし子育て支援センター(正確には同センターが開設する「集いの場」)を訪れることのない親子こそがリスクを孕む家庭であり、支援が必要な家庭である可能性が高い。③そこでハイリスク家庭を捕捉し的確に支援を行っていくためには、"待ちの姿勢"にとどまることなくアウトリーチ型の福祉事業を展開していくことが期待される。ということを学びました。
 これらの研究成果を受けて、私たちは2015年4月よりアウトリーチ型事業(=※「越前市夢を育むはじめの一歩事業」)の一拠点として「子育て支援センター一陽」をオープンするに至りました。
 今回、子育て支援センターを創設したことで、社会福祉法人越前自立支援協会は、児童家庭支援センター、児童養護施設、子育て支援センターの3事業を実施する組織となりました。今後は、行政(越前市)と私たち法人組織との協働型自治研活動によって、これらの事業を一体的かつ統合的に実施していくことで、要保護児童家庭への支援の継続性や悉皆性をより一層高めていければと思っています。
 ※「越前市夢を育むはじめの一歩事業」とは、生後5か月の母子に絵本をプレゼントする事業。「子育て支援センター一陽」は、絵本の受け渡し場所であるとともに、受け取りに来られない家庭を(同センター所属のソーシャルワーカーが)直接訪問し、絵本を届ける事業を行っています。

(2) ケアラー支援拠点及び福祉人材育成施策に関する研究成果の発表
 「人を支えるのは、あくまで人である」との強い信念のもと、ケアラー及びケアワーカーへの支援システムに関する研究、並びに未来の支援者=福祉人材=の育成に関する研究を行ってきました。また「人材確保・育成には、大学等人材養成校と福祉施設職場との連携領域(のりしろ)拡大が不可欠である」との認識のもと先進事例等の研究を進めてきました。
 その研究成果(=ケアラーの疲弊実態等)は、2015年5月に発行された「連合総研DIO(No.305):特集 となりに潜む、子どもの貧困」誌上に「疲弊する社会的養護ケアワーカー ~求められる支援者への支援~(p12~p15)」と題して掲載されました。また子ども食堂やスーパー学童保育等の先進実践事例は、2015年11月に完成した自主制作ブックレット「社会的養護からの挑戦(p88~p92)」で報告しました。
 一方、大学等養成校との連携のあり方に対する提言については、2016年2月に発行された「日本の科学者Vol.51(特集:貧困問題と社会福祉の役割)」に「社会的養護組織人材マネジメントに関する一考察(p45~p47)」と題して取り纏めるとともに、2016年4月に発行された「市政研究No.190(特集:子どもの貧困~世代間連鎖を防ぐ支援を考える~)」に「児童養護施設の子どもたちへの支援とその課題」と題したレポートを提出し、児童養護施設出身児童の進学や自立に関する現行制度上の幾つかの懸案について論点化を行いました。その結果、地元越前市に拠点を構える仁愛大学では、(資生堂社会福祉事業財団の児童福祉奨学金制度とジョイントする形で)2017年度入学以降、児童養護施設入所児童や里子であって将来児童福祉分野での就労等を前提とした進学を希望する学生を対象に、授業料支援金として年間30万円を減免給付する制度を創設しました。
 さらに2016年5月22日には、越前市で開催された北信地連福祉交流集会にて「子ども食堂とケアラー支援に学ぶ、地域福祉の未来」と題したパネルディスカッション(=市民啓発型オープン集会)を開催し、子ども食堂やケアラーズカフェの実践事例や役割について、市民への周知・啓発に努めました。

(3) さらなる挑戦……協働カンパニー創造への挑戦
 今後、私たちは、これらの研究成果等を十分踏まえた上で、いよいよ当地でも本格的に「ケアラー支援拠点づくり」及び「大学共創・福祉人材育成」に向けた取り組みを進めていく所存です。
 その際(=殊に子ども食堂やケアラーズカフェを運営する際)には、これらの支援拠点を、①"(地域のみんなが個性を活かしつつ、その能力や強みに応じて)大いに働き合い、認め合う"場として位置付けるとともに、かような労働機会を通して、②"(従来の制度枠では、ただ単に)支援される側であった者が、支援する側にまわることが可能となる"システムが本格稼働していくよう、仕事の捉え方等を工夫していきたいと思っています。なお、このシステムは、近年、厚生労働省がめざそうとしている"誰もが支え合う地域の構築"を先行的に具現化するものであり、"社会的課題を措置費(=扶助費)で解決するだけでなく、事業(=起業)で解決していく"ことの実践に他ならないと確信しています。
 私たちは、このようなシステムの主柱となるべき事業体="協働カンパニー"を、自らが暮らす地域(福井県越前市を中心とする丹南地域全域)のど真ん中に創り出すためにチャレンジを継続していきたいと思っています。


5. おわりに

 児童養護施設は、その一切が措置費で運営されている施設です。当然のことながら措置費は、使途制限が厳しく、今回報告させていただいたような"社会的養護の裾野を拡げる"ための新規事業や社会的起業の検討に要する研修費や視察旅費等を捻出するのは至難でした。
 また今回の活動は、「地域自治研活動」と銘打ったことで、地域のNPO活動家や福祉事業者、大学関係者なども加わることとなり、従来の労働組合運動(=職場自治研活動)のスキームを超えたソーシャルアクションへと広がりを見せました。いずれも"チャレンジサポート事業"だからこその成果でしょう。関係各位に謹んで感謝申し上げます。


2015年11月12日(木)