【要請レポート】

第36回宮城自治研集会
第9分科会 QOD(Quality of Death)を迎えるために ~地域でできること~

 日本に三大ドヤ街といわれる街がある。東京の山谷・横浜の寿地区・大阪の釜ヶ崎の3つのうち、寿地区は、人口が一番少なくコンパクトにまとまっている。もともと日雇労働者の街といわれてきたが、単身の高齢者の数もこの20年で多くなった。現在は「福祉の街」ともいわれるようになっている。寿地区での様々な試みを、第二期寿地区の地域福祉保健計画推進会議の取り組みを中心に報告する。



寿地区で取り組まれている地域福祉保健福祉
―― 住民も支援者も楽しみながら顔の見える関係作り ――

神奈川県本部/自治労横浜公共サービスユニオン・副委員長
特定非営利活動法人ことぶき介護・管理者
梅田 達也

1. 寿地区について

(1) 寿地区の概要
① 寿地区の場所
 横浜市中区のJR石川町駅から、徒歩で約500メートルの位置にある。線路をはさんで海側には、元町・中華街・山下公園・港の見える丘公園などの観光地があり、線路をはさんでちょうど逆の位置である。中華街に行こうとして寿地区に迷いこむ人も間々見受けられる。寿地区という場合、横浜市中区にある寿町・松影町・長者町・三吉町の中の一部の中にある簡易宿泊所街を指す。主だった地区は約300メートル四方内にある。
② 寿地区の歴史
 敗戦後進駐軍に接収されていたが、1955年に接収が解除された。1956年と57年に、横浜市中区桜木町にあった横浜公共職業安定所と横浜労働出張所が、寿町に移転したことなどにより、日雇労働者の寄せ場も移転となった。
 高度経済成長に入った1965年には約80軒の簡易宿泊所が営業するようになり、現在の寿地区が形づくられた。
③ 労働者の街から福祉ニーズの高い街へ
 最盛時は8,000人以上いたといわれる労働者でにぎわった寿地区も、港湾関係の仕事が、コンテナ輸送や機械化の進行のため、土木建築労働へ移行してきた。オイルショックや不況により、就労人口が減ったことや、高齢化が進んだことにより、生活保護受給者が増加している。かつては港湾労働をはじめとした「労働者の街」といわれていたが、現在は「福祉ニーズの高い街」と変わっている。

(2) 寿地区の現状
① 寿地区住民の高齢化
 1990年は65歳以上の高齢化率は7.7%だった。横浜市の高齢化率8.6%・全国の高齢化率12.0%よりも低かったが、5年後の95年には17.6%になり、横浜市・全国の高齢化率を超えた。2013年には50%を超え、2015年は54.0%となった。なお、男女別では、約95%以上が男性である。
② 寿地区内にある簡易宿泊所
 旅館業法における「簡易宿所」のことをいう。寿地区の場合は、個室で鉄筋コンクリート構造が多い。高齢化が進んだこともあり、新築の場合はエレベーター付きとなり、階段だけのところもエレベーターを付けるところが増えている。部屋は3畳~4畳が多い。2015年は124軒が営業している。
③ 寿地区の福祉施設・医療機関・行政機関
 ア 横浜市生活自立支援施設「はまかぜ」
 生活困窮者自立支援法に基づく、横浜市の一時生活支援施設として設置されている。
 イ 保育園・保育所
 寿福祉センター保育所・ことぶき保育園の2か所。
 ウ 医療機関
 地区内には、寿町勤労者福祉協会診療所とことぶき共同診療所の2つがあり、周辺にもクリニックや病院が多くある。精神科・内科を中心に、多くの医師や看護師が関わっている。また地区内の訪問看護は、「訪問看護ステーションコスモス寿」が1か所ある。山谷のステーションが母体ではじめた老舗である。寿地区外からも訪問看護師が訪問している。
 エ 横浜市の行政機関
 横浜市の行政機関として、寿地区対策担当(寿福祉プラザ相談室)がある。地域の関係機関・団体と行政による幅広いネットワーク整備と、協働による地域の課題解決に取り組んでいる。行政機関であるが、柔軟な業務展開を行い、寿地区でなくてはならない中心的な機関である。寿福祉プラザ内には、また、寿地区から約1キロのところに中区役所があり、生活支援課・高齢障害支援課・福祉保健課をはじめ、多くの職員が積極的に関わっている。

(3) 寿地区にかかわる人達
① 寿地区の住民と管理人さん
 寿地区に住む人の多くは、簡易宿泊所でひとりで暮らしている。そのため、同じ簡易宿泊所内や同フロアの知り合いにいろいろなことを頼むことが多い。部屋の中にいる場合も多いが、日中外で過ごす人も多い。そのため、顔見知りになる場合も多い。また、一番に相談に乗る場合が多いのが、簡易宿泊所の管理人さんである。生活全般の相談をまずしてもらうことが多い。その後どこに相談に行くかという振り分けをしてもらう場合もある。
② 寿地区でのさまざまな活動
 寿地区内には、様々な団体が活動している。日雇労働者支援の寿日労、野宿者などの支援をしている寿炊き出しの会や寿医療班がある。また、日本基督教団寿地区センターなど、数十年前から活動している団体も多くある。また、簡易宿泊所をホステルとして、外国人観光旅行者に宿泊させる団体もある。
③ 多くの障害福祉団体・介護事業所
 寿地区がまだ「労働者の街」だったころから、身体障害者の「ことぶき福祉作業所」がある。また、アルコール依存症者の回復施設「寿アルク」や精神障害者の地域作業所「ろばの家」も地区内にある。
 2000年の介護保険導入後の数年は参入が少なかったが、2005年ごろからの急激な高齢化に伴い、介護保険事業所の参入が増えてきた。特に高齢者向けのデイサービスは、地区内に8か所ある。また訪問介護事業所や居宅介護支援事業所も地区内やその周辺に20か所以上ある。


2. ことぶきゆめ会議

(1) ことぶきゆめ会議とは
① 横浜市の地域福祉保健計画
 横浜市の地域福祉保健計画は、社会福祉法に基づき、福祉と保健を一体的に推進していくものと位置付けている。横浜市は政令指定都市のため、各種の福祉保健サービスの提供や取り組みは各区で行う。中区の場合は、「中なかいいネ」という愛称で、誰もが住み慣れた地域でいつまでも安心して暮らしていけるようなまちづくりをめざして、計画が作られた。
② 地区別福祉保健計画
 中区には12の連合町内会エリアがあり、寿地区をあわせ、13の地区別計画を策定した。
③ ことぶきゆめ会議の実際
 地区別計画を実行していくにあたり、寿地区福祉保健計画第Ⅱ期推進委員会を月に1回開くこととした。しかしながら、この推進委員会の名称が長いため、「ことぶきゆめ会議」と呼ぶこととした。

(2) 寿地区福祉保健計画(第Ⅱ期)
① 地区の現状分析
 計画を策定するにあたり、地区の良いところ、地区の良くしたいところを出した。
 良いところとしては、
 ア 2か所の保育園と学童保育があり、地域に子どもの姿がある。高齢者向けの行事が多い。
 イ 介護保険事業所や障害者地域作業所や診療所など、高齢者や障害者が活用できる社会資源が多い。
 ウ 診療所が往診や服薬管理などきめ細かく対応してくれている。
 エ 挨拶が多い。地域の人たちが、事業所や行政の職員とも挨拶を交わし、顔が見える関係が築けている。
 オ 生活してみると良い地域だと実感する。いろんな人が住める、懐の深いまち。
 カ 地区外からもボランティアの参加が多い。
 良くしたいところとしては、
 ア 高齢や障害のために基本的な生活習慣に課題のある人が増えている。
 イ アルコールなどへの依存がある人達には、適切な支援が必要。
 ウ 家族の支援が得られない単身者が多く、病気が重篤化する傾向があり、周囲の支えが必要。
 エ 孤独になりがちな高齢・単身者の交流を増やす必要がある。異世代間交流をもっと促進したい。
 オ まちに安心して利用できる車いす用トイレやバリアフリーの浴場がもっと増え、多くの人が利用できればよい。
 カ 「花いっぱい運動」などで、粗大ごみの不法投棄は減ったが、もっと減るようにしたい。
 キ 地域全体の防災意識をもっと高めたい。
② 目標・めざす姿
 ア 人と人との助けあいやつながり、活発な交流のあるまち。
 イ 病気に負けないで、誰もが健康に暮らしているまち。
 ウ 住む人、訪れた人が心安らぐまち
③ 行動と工夫
 ア 交 流
  a 寿独自版「中なかいいネ ニュース」をつくり、発信しよう。
  b 社会資源ツアーなどを行い、自分たちの地区の強みを知ろう。
  c ネットワーク連絡会を定期的に開催し、積極的に情報共有しよう。
  d 福祉まつりやミニ運動会などのイベントを開催し、交流を進めよう。
 イ 支 援
  a 就労継続のため、基本的な生活習慣を身につける支援をしよう。
  b 金銭管理や健康管理を必要とする人への支援をしよう。
  c アルコール依存症以外の自助グループも立ち上げを支援しよう。
 ウ 環 境
  a 粗大ごみの不法投棄防止の活動を継続しよう。
  b 地区内で出る家電製品の手分解を事業化しよう。

(3) ことぶきゆめ会議での取り組み
① 社会資源ツアー
 寿地区には、住民団体・民間団体・行政機関・医療機関・福祉団体が数多く活動している。顔の見える関係があるので、それぞれ挨拶はするのだが、実際にどこでどのような活動をしているのかがわからないことも多い。ことぶきゆめ会議のメンバーで、寿地区内にある関係団体の場所を見学し、話を伺った。2011年~2015年の5年間で、19か所見学した。
 19か所の場所は以下の通り。寿町勤労者福祉協会、ことぶき学童保育、横浜市福祉サービス協会ヘルパーステーション寿、松影デイサービスセンター、ことぶき介護、簡易宿泊所、不老町地域ケアプラザ、寿でぃ、ボートピア横浜、市民の会寿アルク、自立支援施設はまかぜ、ことぶき共同診療所・デイケア、ろばの家、ことぶき福祉作業所、ボートピア横浜(2回目)、寿福祉プラザ相談室、支援調整担当、寿クリーンセンター
② 勉強会
 寿地区には、様々な分野で長年にわたり活動をしていたり、専門家や行政の職員がいる。その方たちを講師に招き、ことぶきゆめ会議において勉強会を開いた。勉強会の一部は以下の通り。
 ことぶき学童保育から見た寿地区の30年(山埜井さん)、寿町で業務で関わった横浜市職員のお話(中土木事務所/中区保護課)、寿で暮らす「要介護5の人の生活について」、牧野中区長の話し、特別養護老人ホームでの「生活」について、バンクーバーダウンタウンイーストサイド地区の取り組みについて(首都大学東京准教授 山本薫子さん)、「金銭管理支援について」、「成年後見制度」について(行政職員)、「薬物依存症」について(横浜ダルク職員・当事者)、生活困窮者支援制度について(中区福祉保健センター担当部長 巻口さん)、「寿地区の成り立ちについて」(寿福祉プラザ相談室 関根さん)
③ イベントの開催
 高齢者や子どもや関係機関の交流をはかるため、イベントを行ってきた。寿地区の保育園児や寿アルクのメンバー、ことぶきゆめ会議のメンバーが、地区内の寿公園で「みんなの運動会」として毎年行った。また、地域の福祉団体を中心に、出店を出し、巨大海苔巻を作るイベントを寿福祉祭りとして、寿地区の中心にある、寿総合労働福祉会館広場で行った。
 それ以外にも寿地区では行事が行われている。5月には鯉のぼり大会、7月には七夕祭り、8月には「ことぶき打ち水大作戦」といったイベントで、保育園児と寿地区住民が参加してお祭りが開かれている。10月には中消防署や伊勢佐木警察署などの協力のもと、消防音楽隊による「防災パレード」が行われた。12月の「クリスマス点灯式」では、根岸米軍支所、横浜のサッカークラブチーム「YSCC」や寿地区のキャラクターコトブキンちゃんがサンタとして参加した。2月には「大・豆まき大会」が行われ、寿地区に関わる関係者が一堂に集まる「大賀詞交歓会」が行われ、約200人の参加があった。
④ その他
 Ⅱ期地区別計画の中で、薬物依存の学習会を開いたりする中で、寿地区に隣接しているかながわ労働プラザで、横浜ダルクの職員による相談会が毎月開かれるようになった。将来この地区でのデイケア開設をにらみ、まずは薬物依存当事者や支援する行政や団体の職員等からの相談にのっている。


3. これからの寿地区の取り組み

(1)  寿地区福祉保健計画(第Ⅲ期)
 「寿に住んでいる、寿で育ったと、堂々といえるまち」
 このキャッチフレーズを目標に、今後に向けて計画を作った。
① 社会資源や支援の方法等を外部の人からもっと見えやすくする必要がある。
② 地域の人たちが「不安があるとき」「何かしたいけれど、何をしたらいいかわからないとき」に相談できる窓口や情報提供を充実させる。
③ 地域行事等を通じて、他地域との交流を更に増やしていく。

(2)  目標と具体的な取り組み
① 「寿地区の"えん"結び ~小さなえんから大きなえんへ~」
 ア みんなの運動会や福祉まつりなどをきっかけとして、横のつながりや異世代交流の幅が広げられるよう、中身を工夫しながらつづけていこう。
 イ 社会資源ツアーなどを通して、寿に携わる人たちがお互いのことを知り、また外部の人に寿について知ってもらう手段のひとつとしても活用していこう。
 ウ 子どもも含め、寿の中で顔を合わせる人どうしが日常的なつながりがもてるように、運動や外遊びを通して交流を進めよう。
② 「寿地区の元気 ~自分らしく元気でいられるまちへ~」
 ア 「マップを片手に気軽にどこでも血圧測定」を合言葉に、健康に対する意識が芽生えるきっかけづくりをし、何かあった時の相談先も知ってもらおう。 
 イ 寿に住む人たちが抱える病気や障害等について理解が進むよう、相談会や研修会などの取り組みをしていこう。
 ウ 寿地区で行われている「健康」に関する取り組みを広くみんなに知ってもらえるように、情報提供の方法を工夫していこう。
③ 防災に対する意識を高める
 ア 地域防災拠点運営委員会を連携しながら、防災活動に関する取り組みをしよう。

(3) まとめ
① いろいろな課題を抱えることにより、新たな可能性の模索
 寿地区には、単身高齢者の急激な増加に加え、認知症といった課題をかかえる人、アルコール等に問題があるひとなど、都市部の抱えきれなくなった人達を受け入れている状態が続いている。この課題をひとつずつ関係機関と連携して取り組むことにより、新たな可能性を探すことができる。
② 課題解決だけではなく、楽しみながらの地域福祉
 「福祉ニーズの高い街」ということだけでは、外からのイメージも、住民も関わっている人達も閉塞したイメージとなってしまう。多くの支援者が集う、「ことぶきゆめ会議」のメンバーを中心に、社会資源ツアーやイベントや学習会を企画していく。また、今までと同様に、毎月の小さいお祭りを行いながら、異世代交流や広く参加を呼び掛ける。
③ 寿地区は、日本の5年後10年後の先取り
 今後高齢化が進んでいく日本の中で、現在高齢化率が54%の寿地区は、日本の将来を先取りしている部分がある。ここで住民・行政・民間団体がどう協働していくかが問われている。