【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第9分科会 QOD(Quality of Death)を迎えるために ~地域でできること~

 国は医師不足を解消するため2008年度から医学部定員の枠を広げるなどして医師数を毎年約4千人ずつ増やしてきた。2000年は201.5人だった人口10万人あたりの医師数が2014年は244.9人まで増えたが、今なお医師不足は解消されていない。医師の職に就く子どもを地域から育てたい。そのような希望を込め市立病院は地域社会貢献の一つとして2008年から「外科手術体験キッズセミナー」を開催。その他当院が行っているイベントの紹介をさせていただく。



市立函館病院「外科手術体験キッズセミナー」の開催
~地域社会貢献を通して~

北海道本部/市立函館病院労働組合・副執行委員長 石川  彰

1. はじめに

(1) 要望活動の状況
 政府は今日の医師不足の深刻化を認識し、2008年6月27日に閣議決定した「経済財政改革の基本方針2008」を踏まえ、これまでの医学部の定員削減方針を定めた1997年の閣議決定を見直し、2009年度の医師養成課程の入学定員の増員を「早急に過去最大程度まで増員」することを決定した。
 当協議会はこれまで1997年の閣議決定の抜本的見直しを主張してきただけに、今回の対応を高く評価した。2010年に厚生労働省では医師確保対策を一層効果的に推進していくための基礎資料として「病院等における必要医師数実態調査」が実施され、その結果、医師不足の実態(地域偏在、診療科偏在)が明らかにされ、当協議会では、地域医療対策協議会を活用し、医師不足地域に配慮した制度的な措置を講じるなど、さらなる実効性を高めるような仕組みを構築するよう継続して要望している。
 そして、この実態調査の結果を踏まえ、国では2011年度より地域医療支援センターを設置して、医師の地域偏在解消等に取り組むこととしているが、当協議会ではその設置への支援措置等を要望している。なお、医師確保対策に関する要望項目の実現方については、例年5月に開催している「定時総会」及び11月に開催している「自治体病院全国大会」終了後において、国等、関係機関に対して積極的に要望活動を行っている。
全国自治体病院開設者協議会ホームページより

(2) 自治体病院・診療所医師求人求職支援センター
 公益社団法人全国自治体病院協議会(以下、全自病)では、1980年度から全国離島振興協議会、全国山村振興連盟、全国過疎地域自立促進連盟の協力のもと、全自病内に「自治体病院・診療所勤務医師等職員センター」を設置し、医療に恵まれない地域等への医師斡旋事業を実施してきた。しかしながら、地域における医師の不足・偏在の深刻化により地域医療の維持・継続に困難をきたしている現況に鑑み、従来の「自治体病院・診療所勤務医師等職員センター」を拡充・発展させることとし、公益社団法人全国国民健康保険診療施設協議会(以下、国診協)と共同により2005年4月1日「自治体病院・診療所医師求人求職支援センター」を設立した。

(3) 医師臨床研修指導医講習会事業の支援
 医師臨床研修制度においては、従来の大規模病院のみならず、中小病院、診療所等が研修施設となって全人的医療を担う医師の養成にあたることとなっている。このため、公益社団法人全国自治体病院協議会及び公益社団法人全国国民健康保険診療施設協議会では、研修医の受け入れにつき万全の体勢を整えることを目的として、研修医の指導を担当する医師の養成を行っている。2003年度から開催している医師臨床研修指導医講習会は2015年度までに130回を数え、講習会修了者も5,618人となり、全国で新任医師の指導に当たっている。2015年度は7回開催し、318人の医師が修了している。
全国自治体病院開設者協議会ホームページより

2. 市立函館病院キッズセミナー

 当院では地域社会貢献活動の一環として、毎年市内の中学校の生徒を対象とした「外科手術体験キッズセミナー」を開催しており、今年は第8回目となります。当院は、万延元年(1860年)に箱館医学所として開設され、西洋の外科医術をいち早く取り入れた高松凌雲が頭取(病院長)を務めたこともある日本でも有数の歴史をもつ病院であり、昨今、医師不足が叫ばれる中、一人でも多くの生徒さんたちが、医師の仕事に触れ、人の命の尊さを知り、医療というものに興味を抱く機会となればという思いでこのセミナーを計画し実施しております。
 セミナーでは、実際の医療機器を使用した検査や模擬手術体験など、医療の現場を実感できるような体験型プログラムを行っております。

体験実習項目(30分間隔で交代)
 ① 内視鏡外科手術トレーニング用医療器具操作体験
 ② 超音波検査(エコー)体験
 ③ 救急蘇生(ICLS)トレーニング
 ④ 超音波凝固切開装置(ハーモニックスカルペル)による模擬手術体験
 ⑤ 自動吻合器による模擬手術体験
 ⑥ バチスタ模擬手術体験
 ⑦ 結紮(糸結び)体験

3. その他の取り組み

(1) 函館健康教室
① 125回の健康講座を開催
 函病健康教室は当院利用される方をはじめ、一般市民の人たちが、自身の心身の健康に関心を持ち、健康な日常生活が送れるようサポートするための一つの機会として1999年8月から開催しています。現在は、偶数月の第3木曜日に開催し、院内の各診療科の医師や様々な職種のスタッフを講師に、身近な健康問題をテーマに、2015年6月現在までに125回の講座を開催しています。講演時間は午後2時から約1時間で、スライド写真などを使った講演を行った後、参加者との質疑応答の時間を設けるなど趣向を凝らしています。当日の講演内容に限らず、普段から疑問に思っていたことなどの質問も受けています。
庶務課 田口孝子

(2) ふれあい看護体験、高校生が患者さんと触れ合い看護の魅力を知る 看護の魅力を感じてもらうために
 当院は毎年、夏に「ふれあい看護体験」を実施しております。これは、北海道看護協会の主催で、看護師をめざす高校生を対象に行っており、毎年10人ほどの男女が体験に参加しています。ほとんどの高校生は緊張と期待で病院を訪れるのですが、看護師としての象徴である白衣に着替えた時の、その容姿は、本当の看護師になったような表情へ変化することに頼もしさを感じます。
 看護体験は、患者さんとのコミュニケーションや簡単な看護行為を実践し、看護の魅力を感じてもらうことが目的でもあります。はじめは緊張や戸惑いが見られますが、体験していく中で少しずつ緊張もほぐれ笑顔がみられるようになっていきます。患者さんからも感謝の言葉をかけていただき、高校生の皆さんも喜んでいる様子が伺えます。具体的な体験内容は、手浴、血圧測定、車椅子での移動の介助、食事介助の見学などといった患者さんと触れ合えるプログラムになっています。
<体験学生の感想>
 次に体験した高校生の感想を紹介します。
 Aさん/看護師さんは注射をするのが仕事だと思っていました。今回の体験で足を洗うことや食事の介助など多くの仕事があることを知りました。患者さんの中には自分で寝返りができない方もいるため、看護師さんが向きを変えてあげなくてはならず、大変重労働だということも分かりました。しかし、患者さんから「ありがとう」と言われたことで、その大変さも忘れるほどだと思いました。何よりも看護は、患者さんが元の生活レベルまで戻っていけるように援助することと知り、今まで以上に看護師としての職業をめざしたいと思っています。
 Bさん/初めて白衣を着て照れくさく感じましたが、本当はうれしく思いました。体験ではさまざまな医療器械を見ましたが、聴診器で自分の心臓の音を聴いたときは驚きでした。人の体は常に生きるために動いている、その手助けをするのが看護師であることを教わりました。実際に患者さんと触れ合うことが楽しいだけではなく、患者さん一人ひとりに適切な看護を提供することが看護師としての役割であることを知って今回の体験を通して将来の進路を考えることができる1日となりました。
 一方、指導者である看護師は、看護行為の説明に対して目を丸くしたり、「初めて知りました」などと感想を素直に述べる高校生を見ているうちに、自分が看護師をめざそうと思っていた時期を振り返り、あらためて初心を忘れることのないようにと思った1日だったようです。体験プログラムの一つとして、市立函館病院高等看護学院の見学もあります。そこでは、在籍している看護学生が看護学院内の見学や授業カリキュラムの紹介、看護技術シミュレーション機材の説明などを行ってくれます。現役の看護学生から看護師になろうとした動機について話してもらう時間が設けてあり、高校生は熱心に耳を傾けながら看護師という職業に夢膨らませているように伺えます。私たちとしては、高校生が看護師を将来の職業として実現につなげていただき、多くの看護師が育成されることを期待しています。この「ふれあい看護体験」をこれからも継続していきたいと考えていますので、多くの体験希望者をお待ちしております。
看護局 益子健 看護局長

(3) 高校生の1日医療職体験、最先端の医療現場を見学
<希望する1分野を選択>
 「お医者さんの仕事ってどんなだろう」「医療の現場を実際に見てみたい」そんな若者たちの気持ちに応えることで、将来の函館、あるいは日本の医療の担う人材になってほしい。キッズセミナーと同じ気持ちで、当院は毎年「地域医療体験事業」に協力する形で市内の高校生約60人が参加する「高校生の1日医療体験」を行っています。「医療は世界の共通言語です。」体験学習は院長のこの言葉で始まります。医療は医師と看護師だけでなく多くの職種が連携、協力して行うもので、それぞれに重要な役割があり、相互のコミュニケーションが大切です。たくさんの医療職があることを知ってもらった上で、医師、理学療法士、作業療法士、臨床検査技師、診療放射線技師、薬剤師の各職種から希望する1分野を選択してもらい、実際の医療の現場の見学や体験をします。各分野に担当講師を配置、医師の分野では、地元高校卒業の医師が中心となって私たちの仕事を見てもらいます。
 手術室見学では本物の手術衣に着替えて手術室に入り、手術室の構造や清潔操作について説明し、執刀医の許可が得られた場合は実際に手術を行っている部屋で手術の緊張感や雰囲気を体験してもらいます。腹腔鏡手術や体外循環装置、麻酔器など最先端の医療機器の役割について説明、実際に稼働している場面を見てもらいます。内視鏡室の見学では内視鏡検査の見学だけでなく、胃の模型を使った胃カメラの操作を実際に体験します。その他、心臓カテーテル検査の見学も行っています。理学療法士・作業療法士体験では実際の患者さんのリハビリの様子や作業療法の体験をしてもらい、患者さんが安心してリハビリできる環境づくりや、コミュニケーションの大切さを学びます。
 臨床検査技師体験では顕微鏡を使った組織検査の体験、輸血治療の重要性や最新の検査機器を学習します。診療放射線技師体験では皆さんがよく知るX線検査だけでなく、血管撮影検査やCT検査、MRI検査を見学して、その仕組みを学びます。薬剤師体験では機械を使った調剤の見学を行い、薬剤師の役割の重要性について知ってもらいます。
<若手医療者の誕生を楽しみに>
 「1日医療体験」の終了時には感想文を書いてもらいます。実際の医療現場を体験するという貴重な経験への感謝や、想像していた医療者と実際に接しての印象の違い、先端技術への感動や驚きの他に、将来、医療者を志している皆さんが、その決意を新たにしたという内容が綴られています。毎回、本当にやってよかったと私たちも感激しています。中には、中学生の時にキッズセミナーに参加してくれて、その後も医師になるという夢を継続していて、この高校生1日医療体験に来たという生徒さんと再会し、感慨深い気持ちです。いつの日か「○○大学医学部に合格しました」という便りや「僕は(私は)高校生の頃、1日体験に参加してこの道に進みました」という若手医療者に会えることを夢見ています。
消化器外科 医師 笠島浩行

 

4. 組合としての活動

 市立函館病院労働組合の基本的活動として、賃金や労働環境の問題等病院当局と対峙するばかりでなく、社会貢献として何ができるかアイデアを持ち寄りこれからの地域医療をどのように守っていくのか知恵を出し合いたい。
 また、地域では道南地区医療という官民合同で組織している協議会に所属し「いつでも、だれでも、どこでも、安心して受けられる医療や介護」をテーマに、組合員や医療スタッフの交流を通じ情報交換を行ってきた。一方、地域住民に、われわれ現場の厳しい労働環境や過酷な実態を広く知らしめてきた歴史もこの間続いている。国の政策制度は、国民総意の結集が図られなければ前進解決には至っていかない。そして、日々、更に利用されやすい医療制度を作りあげていく努力は惜しむ事無く進めていきたい。そして、医師をはじめマンパワーの確保も同時並行的に各機関に要求し続けなければならないと思っている。人間の本当の幸せは何か、不幸にも病にかかり現代医療の手に負えない状況に遭遇した人間に対しての関わりや、対応は、医療人としてさらに一歩進んで我々は考えなければならない時代に突入している。

5. おわりに

 われわれ医療労働者は、一方では組合員であり生活と権利を守る労働者と言う大前提がある。しかし、また一方では、医療人として地域で病む人達に安全で的確な医療をスピーディーに提供する義務もある。
 しかし、いまだに医師不足は中核都市でも僻地でも依然続いている。国の政策制度が時代の流れや利用者のニーズをしっかり把握しているのか、いささか疑問が残る。医療の制度や仕組みを変えるのは1労組ではいくら拳をあげても変えるのはそう簡単ではない。自治労組織内議員と協働しこれらの諸問題にこれまで以上に、今後も連携を強め運動を進めていきたいと考えている。