【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第9分科会 QOD(Quality of Death)を迎えるために ~地域でできること~

震災と原発事故による双葉地域の医療
~崩壊状態から復興に向けた今後の展望~

福島県本部/民進党・県民連合・県議会議員 橋本  徹

1. はじめに

(1) そもそも医療崩壊とは
 高い平均寿命、低い新生児・妊産婦の死亡率など世界的に見てもトップレベルの医療が受けられる日本。しかしながら、地方を中心に医師不足が喫緊の課題となり、医療崩壊が叫ばれて久しい。
 医療崩壊とは①住民が必要とするときに適切な医療を受けられる状況が失われること、②救急患者のたらい回し、地方の自治体立病院の閉院・閉院危機、あるいは特定の診療科の休診 ―― などを指す。医療費抑制による病院の疲弊と医師不足を原因とする医師の疲弊が原因となっている。医療崩壊は「医療費抑制」「病院経営の悪化」「医療の変化」「医師不足」が関連している。
 まずは国の医療費抑制政策が挙げられる。企業などの保険者と医師会、財務省、厚生労働省は、医療費の抑制とバランスの維持を重点に置いている。医療費の伸びは平均5%となっているが、一律に定める診療報酬費でコントロールしている。実態は報酬点数と大きな乖離もある。そこに医師養成数抑制が拍車をかけ、医師不足の要因となっている。

医師・看護師不足(2007医療供給体制の各国比較)

国 名 1,000人当たり
病床数
100床当たり
医師数
1,000人当たり
医師数
100床当たり
看護職員数
1,000人当たり
看護職員数
平均在院
日 数
日 本13.914.92.166.89.334.1
ドイツ8.242.53.5120.79.910.1
フランス7.147.23.4108.27.713.2
イギリス3.472.72.5294.210.08.1
アメリカ3.177.52.4337.210.66.3
OECD Health Data 2009 より

(2) わが国の医療
・病院と医療者の自己犠牲の上で成り立っている。
・医療者の献身的努力で、現状の医療体制がかろうじて支えられ、医療崩壊への進行を食い止めている。
・医療崩壊は、いつ、どこで起きてもおかしくない状況である。
 医療崩壊は東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所の事故によって、双葉地方に一気に起きてしまった。

2. 震災前後の双葉地方の医療・介護の提供体制の変化

(1) 震災と原発事故に伴う医療体制の変化

病院の稼働状況(相双地域の病院数)
(2015年7月)
 震災前
(2011年3月)
現 在
(2015年7月)
相馬地方10
双葉地方
 
診療所の稼働状況
(相双地方の診療所数)
 
 
震災前 現 在
相馬地方 80 69
双葉地方 48

 双葉地方の病院稼働率16.7%(休止中5)。診療所稼働率17.4%(休止中38)となっている。相馬地方は現在、ほぼ回復している。相馬・双葉地方から他の地域への入院患者(県内)は推計約800人。
 相双地方(特に双葉地方)の医療施設の約8割が休止中であるため、浜通りを中心とした広域的な支援を行っているのが現状。そもそも、他地域に頼っていた救急搬送の状況が、震災と原発事故によってさらに加速した格好となっている。
 ちなみに……
 ・いわき地方への救急搬送 178人 44.9%(2014年)←339人 13.8%(2010年)
 ・双葉地方内への救急搬送 91人 23.0%(2014年)←1,545人 63.0%(2010年)
 ・郡山・田村地区への救急搬送 102人 25.8%(2014年)←102人 4.2%(2010年)
となっている。(双葉地方広域市町村圏組合調べ)

(2) 医療介護の提供体制の状況
 医療人材 相双地域(特に双葉エリア)の医療人材不足が続いている。
 人口対10万人のエリア別の医師と看護職員数が顕著となっている。震災前の2010年時は、双葉地方の人口対10万人における医師数は103だったのに対し、震災後の2012年は7.4までに激減。看護職員数も1,031.3から126.2となった。避難指示区域が中心となっており、避難が解除されていたのは、広野町と川内村となっており、特に原発事故があっても診療を続けていた高野病院(広野町)の存在が非常に大きい。その高野病院事務長の高野己保さんは、2016年1月19日付MRIC by医療ガバナンス学会発行のメールマガジンに寄稿。救急搬送の増加と死体検案が震災前に増えていると指摘している。

エリア別医療施設医師数
(人口対10万人)
  エリア別看護職員数
(人口対10万人)
 

 2013年を基準とすると、救急搬送は2014年がその6倍、2015年は11倍。このなかで夜間、休日、時間外の診療受け入れは2倍に。その半数が、復興関係者。原発事故の影響で……、
 高野病院から一番近い入院機能を持つ病院は、南のいわき市に17キロ、北の南相馬市に60キロ。高度な治療が必要な場合は、北は南相馬市立総合病院、南はいわき共立病院となる。
 それでも対応できない場合2時間以上かけて福島県立医大まで行く必要。
 背景として、いわき市には双葉郡からの避難住民が2万4千人、除染作業員が3万4千人いるほか、震災の年には33万5千人弱だった人口が35万7千人に増加。医療機関はスタッフ不足もあり疲弊しており、救急医療もパンク状態。いわき市で受け入れられないと言われた救急車が、高野病院まで受け入れを要請される状態が続いているという。

(3) 避難区域の介護福祉施設の運営状況
 双葉地方を中心に震災当時の避難指示区域内の施設の約4割が休止中であるため、浜通りを中心とした広域的な支援を行っている。

避難区域内の主な福祉施設の運営状況(カ所)

 救護施設特養、老健など認知症
グループホーム
入所・通所
障がい者施設
障がい者
グループホーム
保育所
2011・3202021
2015・8111213

避難指示区域内(震災当時)の主な福祉施設の再開状況(2015年8月現在)
 
 
 

 再開状況を見ると、「避難先での事業再開」「休止、廃止」など各施設の運営体制など対応は多様になっている。最近の動きをみると、2015年9月5日に避難指示が解除された楢葉町で特別養護老人ホームのリリー園が運営を2016年3月30日に再開。障害者支援施設などを運営する社会福祉法人友愛会は2016年4月から、避難先の群馬県高崎市から富岡町に近い同じ双葉郡内の広野町に5年ぶりに帰還して事業を再開した。

 

3. 双葉郡の医療・介護の現況

(1) 福島県の調査
 双葉郡の町村で、住民帰還の条件の一つに挙げられるのが、医療の再建となっている。
 しかし、県の調査では、住民が戻らなければ、診療再開が見通せないとの病院側の意向があることが明らかになった。
・東京電力福島第一原発事故後に休業した双葉郡内の医療機関を対象。
・今後5年間での診療再開の意向を聴取。
・公立・民間の病院や医科診療所、歯科診療所計70施設のうち35施設が回答。
 双葉郡の医療機関に対する意向調査は初めて。
 双葉郡8町村や国、医療関係団体が参加した双葉郡の医療体制を考える検討会で結果を示す。

双葉郡内の医療機関再開の意向
  病 院 医 科
診療所
歯 科
診療所
再開する
地元町村以外で
再開する
条件が整えば
地元町村で
再開したい
14
再開しない
わからない(未定)
19 12 35

≪回答結果≫
 地元で「再開する」との病院、診療所は6施設。最も多かったのは「条件が整えば再開したい」との意向で、全体の4割の14施設が回答した。 →このうち再開の「条件」を複数回答で聞いたところ、13施設が挙げたのが「住民帰還」。回答した病院・診療所には、住民帰還が進まないと経営的に成り立たないとの見方があるとみられる。*図は2015年11月20日付福島民報

 
県内外への避難者数
(2016年4月)
  避難者の意向
(2015年2月調査)
 

 被災当時の市町村に戻る条件(複数回答あり)
・除染の終了(47.8%) ・放射線の影響や不安がなくなる(45.2%) ・避難元の地域が元の姿に戻る(33.2%) ・原子力発電所事故の今後について不安がなくなる(32.6%) 
 医療については……
・健康を長期に見守り、健康増進につながる体制 ・安心して生活できる医療・福祉環境

(2) 県立大野病院附属ふたば復興診療所の開所

 

 福島県は2月1日から、楢葉町北田に整備した県立大野病院附属ふたば復興診療所(愛称・ふたばリカーレ)の診療を開始した。
 診療科目は内科と整形外科。整形外科を担当する所長と福島医大から派遣される医師が受け持つ。スタッフは看護師4人、放射線技師1人、薬剤師1人、事務職3人。診療日は内科が月曜日から金曜日、整形外科が月、水、木曜日で、土、日曜日と祝日は休診。県によると、開設から1カ月間の患者数は393人。内科は1日平均11.8人、整形外科は同13.2人が受診した。1日で最も患者数が多かったのは38人だった。

 

(3) 2次医療体制の必要性

 

 避難指示区域の解除が進み、各自治体に診療所などが整備される中、入院や手術が可能な2次医療体制を整える必要性が高まりを見せている。
 検討会では、「民の力では限界。官の力で体制づくりが不可欠」との意見も出た。双葉郡の町村にとっては、医療体制の整備は住民帰還の実現を左右する大きな課題となっていることは言うまでもない。
 検討会では、町村側からも、医療体制の整備の必要性や医師・看護師・介護職員不足の深刻さを指摘する声が上がり、国に支援強化を求める意見が相次いだ。
 県と福島医大は、福島医大を拠点とする二次医療体制を構築する方針を決定。6月県議会にも関連予算などを提出する考え。

 

(4) 訪問介護の必要性
 関係する対象58施設中52施設(89.7%)が回答。
 今後(5年間)の再開の意向(地元町村で再開している施設・事業所を除く)。

区  分地元市町村で
再開する
地元市町村以外で
再開する
条件が整えば
地元町村で再開
再開しない
施 設
12.5%37.5%50.0%0%
居宅サービス17
23.1%11.5%65.4%0%
地域密着型
サービス
0%87.5%12.5%0%
合   計1322
16.7%30.9%52.4%0%

条件内訳(重複回答)

区  分ア 住民帰還イ 生活インフラ
の復旧・整備
ウ 除染の終了エ その他
施 設
居宅サービス 15 13 12 13
地域密着型
サービス
合   計 20 18 15 16
29.0% 26.1% 21.7% 23.2%

※ 「エ その他」の内容
 ・介護人材の確保、専門職員の確保、若い年代の住民の帰還、廃炉に向けての安全性、事業収支の見通し、二次医療機関の整備/医療機関の再開、介護ニーズ、人員配置基準の緩和、介護サービス事業所の再開(居宅介護支援事業所再開の条件)
意見・要望等
 ・町内で働いてくれる人が少ないため、事業所指定を受ける際の配置基準について考慮して欲しい(訪問介護)。
  利用を希望している人が多いと思われ、専門職員の確保を強く望む(訪問入浴介護)。
 ・介護保険の改正により収入が減り、建設費等の借金があるため、(地元に戻って)不安定な経営はできないのが現状(通所介護)。
 ・避難者を対象に活動しているため、非常に経営効率が悪く、(広範囲で自らも避難中)東京電力の賠償が打切られればいつ廃業に追い込まれてもおかしくない状況である(居宅介護支援)。
 ・行政には、帰還再開に向けた具体的な支援策を提示願いたい(居宅介護支援)。
 ・地域密着型サービスについて、職員と利用者を守るため、事業所を開所している地域の方々も受け入れできるよう、県から国や市町村へ「避難地の特例」としての働きかけをお願いしたい(認知症対応型共同生活介護)。
 介護人材は……
 ・福島県全体で人材不足が続く。2014年平均の有効求人倍率は3.12(全国平均3.38、宮城県5.37、岩手県3.75)、特にいわき地域で顕著となっており、2015年6月現在で4.05となっている。相双は2.63。

4. 今後の展望

 これまで、見守り活動、健康支援、心のケアをはじめ地域医療、介護・福祉体制の再構築、再開支援・人材確保に努めてきた。今後も継続して取り組む必要がある。
 国は帰還困難区域を除く避難区域について2017年3月までに避難指示を解除する方針。帰還を見据えた住民の意向と、診療再開への病院・介護施設側の意向の双方をくむためには、国や県の公的支援策が急務となっている。
 帰還を促進するためには、心身の健康の維持・増進の面で、介護予防・生活習慣病予防に向けた市町村・関係団体との連携事業が必要。
 安心して帰還できるためには、帰還先の体制整備医療・福祉施設の再開支援、医療・介護人材の確保はもちろん、ICT(情報技術に通信コミュニケーションの重要性を加味)活用による地域医療ネットワークの活用近隣エリアをはじめとした県内の広域的なバックアップ体制の拡充が急務だ。また、生活再建支援生活支援相談員の増員、支援者間の連携強化・地域包括ケアの推進住民同士の見守り、支え合い体制づくり医療介護体制の再生と連携体制を構築する必要がある。
 病院側の自助努力も求められるが、検討会などでの意向調査を踏まえれば、公的な医療機関を含めた施設の広域配置も検討。
 帰還後の住民が暮らしを立て直すためには適切な医療・介護を提供する体制を整えることが重要だ。そのための道筋を行政が具体的に示す必要がある。帰還住民の生活再建を支えるためには医療・介護機関に限らず、商業施設や事業所の再開を後押しすることも必要だ。暮らしに関わる多面的な復興施策の展開を求めたい。