【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第9分科会 QOD(Quality of Death)を迎えるために ~地域でできること~

 最近の結核集団感染事例の発生傾向から発生場所と社会情勢との関係について検討した。



最近の結核集団感染事例の発生状況について


群馬県本部/群馬県職員労働組合・結核を考える会 櫻井 昇幸

1. はじめに

 結核は、エジプトのミイラにその痕跡が確認されており、約9千年前にはヒト型結核菌が確立されていたと言われている。日本における最古の結核症例は鳥取県の青谷上寺地(あおやかみじち)遺跡の人骨の中から見つかった進行した脊椎カリエスにより曲がった脊柱が2例確認されている。それ以前の遺跡からは、結核の痕跡は見つかっておらず、弥生人が大陸からもたらしたと考えられている。
 また、日本における結核は、沖田総司を初めとし、高杉晋作、正岡子規、樋口一葉など多くの歴史上の人物が結核によって、その命を落としている。その中で石川啄木は、肺結核により咳をする様をキツツキになぞらえ、自らのペンネームとしている。
 多くの文学者の命を奪った結核だが、結核を患ったが上に花開いたとも言えるのではないか。
 このように結核は、人と人との交流、また文化の交流とともに感染を拡大してきたと言えるが、最近の結核集団感染事例からその傾向を考察したので報告する。

2. 内 容

(1) 国内の結核罹患率の推移
 結核は、戦中戦後、国内で大まん延し亡国病と恐れられた。その後の衛生状態の改善や結核対策、新たな抗結核薬の開発により激的に減少したものの、昭和50年代に入ると罹患率の減少傾向の鈍化や集団感染事例の報告等が問題となった。

(2) 集団感染事例の発生状況
 平成5年以前は、集団感染事例の報告は年間数例であったが、平成5年以降報告数が急激に増加している。

(3) 結核集団感染事例の発生場所
 学校及び事業所での発生が多い傾向にあるが、相対的な数の差によるものとも言える。

(4) 集団感染事例に係るキーワード
 数は多くないが年毎に特徴的な発生場所を抜き出したので、以下に挙げる。

発生場所社会情勢
平成9年    消費税5%に引き上げ
平成10年精神病院飲食店遊技場  和歌山毒物カレー事件
平成11年警察宗教法人  地域振興券の支給
平成12年サークル精神病院   三宅島噴火全島民避難
平成13年飲食店宗教法人   アメリカ同時多発テロ
平成14年遊技場飲食店   ソルトレイクオリンピック
平成15年サークル警察   鳥インフルエンザ発生
平成16年飲食店    新潟中越地震
平成17年ネットカフェ飲食店遊技場  日本の人口が初めて減少
平成18年刑務所宗教法人サークル遊技場各地で大雪
平成19年刑務所警察自衛隊遊技場 新潟中越沖地震
平成20年宿泊施設飲食店技場   
平成21年スナック飲食店   桜島噴火
平成22年自衛隊留置場    
平成23年遊技場刑事施設飲食店避難所 東日本大震災
平成24年      
平成25年      
平成26年刑事施設    消費税8%

3. まとめ

 結核集団感染事例の発生は、結核罹患率の減少に伴い社会問題化してきた。これは、結核罹患率が低下してきたことにより結核菌に既感染の人口が減少し、一度結核排菌患者が発生すると感染・発病につながる可能性のある人口が相対的に増加したことによるものである。裏を返せば結核集団感染事例の増加は、公衆衛生の向上によるものと言える。
 今回、結核集団感染事例の発生と社会情勢との間に何らかの関係があると仮定し、その関係性を検討したが、唯一顕著な関係性を見いだせたのは、2011(平成23)年の東日本大震災と避難所での集団感染事例の発生のみであった。しかし、ネットカフェや飲食店、スナックでの発生は、つぶさに検証すれば当時の世相や流行を反映しているものと思われる。
 結核集団感染事例の発生は、公衆衛生上の重大な問題であるが、結核罹患率が低下した状態では防ぐことは難しいと思われることから、発生後の対応が重要であり、如何に最小限に収束されるかに重きを置くべきであると考える。
 近年、結核菌の分子疫学的解析手法の発展により、これまで解明できなかった結核菌の伝搬経路の究明が期待されることから、菌バンクやデータバンクの早期の構築が待たれる。




【参考文献】
・群馬県の結核(2014(平成26)年)(発行元:群馬県)