【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第9分科会 QOD(Quality of Death)を迎えるために ~地域でできること~

 市民が住み慣れた地域で人生の最期まで自分らしく暮らせるまちづくりのため、西東京市に最もふさわしい(西東京市らしい)地域包括ケアシステム、言うなれば「オール西東京モデル」を模索しつつ施策を進めてきました。本レポートでは、これまでの西東京市における取り組みや、これから我々が取り組もうとしていることについて、在宅療養・介護連携推進事業を推進している現場職員の立場から報告します。



オール西東京モデルの構築に向けて
―― 西東京市の在宅医療・介護連携の取り組み ――

東京都本部/西東京自治研究センター・理事長 後藤 紀行 副理事長 ザーリッチ陽子
西東京市高齢者支援課 徳丸  剛

1. 西東京市の現状

(1) 西東京市の概要
 西東京市は、武蔵野台地のほぼ中央に位置しています。北は埼玉県新座市、南は武蔵野市および小金井市、東は練馬区、西は小平市および東久留米市に接しています。また、都心から20㎞圏で区部に隣接し、鉄道は、西武新宿線、西武池袋線の2路線が市内を東西に走っているため、新宿や池袋まで急行を使えば20分程度でアクセスすることができ、都心への就業や買い物などに利便性の高い位置にあります。
 さらに、市の面積は15.75平方キロメートル(東西4.8キロメートル、南北5.6キロメートル)で、後に述べるように人口は20万程度のため、人口密度は区部を除く東京都多摩地域で2位の過密さとなっています。

(2) 市の将来予測
① 高齢者人口の増加
 西東京市の人口について、市独自の将来推計では、図1のように2020年頃をピークに、2025年(平成37年)には、人口が減少する中、65歳以上の高齢者人口が増加し続け、西東京市の高齢化率は25.3%になると予想されています。
図1 西東京市の将来人口推計
② 75歳以上高齢者が増加
 また、同じく2025年には、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になることで、後期高齢者数が前期高齢者数を上回り、これまでのような医療・福祉・介護の体制では高齢者をささえきれなくなることが予想されています。
③ 高齢者の単身世帯が増加
 さらに、高齢者の増加に並行して高齢者の単身世帯の増加も予想されています。
 市の推計では、高齢者の単身世帯は2013年時点の約7,600世帯から2025年には約12,600世帯へと増加することが予想されています。
④ 都内で認知症高齢者が増加
 また、都内で見守りや支援が必要な認知症高齢者(日常生活自立度Ⅱ以上)の数も、2013年と2025年を比較すると約1.6倍に増加することが予想されており、すでに、西東京市においては、認知症高齢者(日常生活自立度Ⅱ以上)は2015年3月末現在で5千人を超えています。

(3) 市民のニーズ
 市の調査では、市内高齢者の約32%が長期療養の必要がある場合に、自宅で療養を続けたいと考えています。
 しかし、そのうち約70%は「家族に負担をかける」、「急に病状が変わったときの対応への不安」等により、実現は難しいと考えています。


2. これまでの西東京市内各団体の医療と介護の連携に関する
 取り組み

(1) 有志で連携について考える場を設置
① 議論の場の設置
 西東京市では、市内の専門職が以前より多職種連携等について議論を進めてきた経緯があります。
 その中で、多職種連携の課題を分析するため、9人程度の多職種の有志が集まり、2010年10月に「西東京市の医療・福祉・介護の連携システムを考えるコアメンバーの会(コア会議)」が立ち上げられました。
 コア会議の議題は、「そもそも連携とは何か」を共通認識するとともに、「課題解決システムと連携システム双方が機能不全となっている現状」「各会議の現状と会議形態の整理」「各分野の関係者に必要な『連携相手の情報』の不足」などの課題について検討を開始しました。
② 課題調整委員会の発足
 その後、コア会議から発展した課題調整委員会を立ち上げました。委員会の目的は、地域包括ケアの実現をめざすために、「保健・福祉・医療の連携体制を構築し、多職種が地域連携に関する課題を共有し、協議すること」でした。
③ 議論の結果
 この委員会での議論の結果、2011年10月には「在宅医療における後方支援病院との連携事業について」と題した素案を作成、2012年3月に医師会モデル事業として開始しました。
④ 次の議論の場へ
 そして、「在宅医療における後方支援病院との連携事業(モデル事業)」開始後、それまで多職種の議論の場となっていた「介護保険課題調整委員会」は発展的解散を遂げ、2014年10月、新たに「在宅療養推進協議会」として発足することとなりました。

(2) ケアマネジャーによる取り組み
 2006年には、地域包括支援センターの創設とともに主任介護支援専門員(主任ケアマネジャー)が制度化されました。西東京市では、主任ケアマネジャーの地域活動の基盤整備と、ケアマネジメントの質の向上を目的とし、2009年7月、「西東京市主任ケアマネジャー研究協議会」を発足しました。また、ケアマネジャーによる様々な地域課題の検討の場として、3つの研究部会を立ち上げ、現在も活動を継続しています。
 ・医療との連携研究部会
 ・質の向上研究部会
 ・制度・サービス資源研究部会
 その研究部会の1つである「医療との連携研究部会」の主な活動をご紹介します。
① 連携ツールの作成
 この部会では、まず医療機関との連携を進めるための連絡ツールを検討し、その結果として2009年度中に「ケアマネジャーと医療機関との連携連絡票」が作成されました。これが、市内病院との連携を深めていくきっかけとなりました。
② 連携の難しさ
 その後、上記の連携連絡票に関して、市内病院の医療相談員との話し合いを設定し、使用方法等について意見交換を行いました。しかし、その意見交換の中で各病院の組織や考え方の違いが出たことにより、市内一律の連携ツールとしての普及には至りませんでした。
③ 医師会との連携
 このように、病院との連携の難しさを感じたところで、まず、ケアマネジャーが病院について知識を得る必要があるとの結論に至り、ケアマネジャー向け研修として「病院の機能を知ろう」と題した研修を実施しました。
 また、在宅医との連携を普段から深めるため、2010年5月には医師会と意見交換会を開催し、医師会の在宅医療医会との連携につなげていきました。
④ 在宅医療医会との連携
 このような取り組みにより、在宅医療医会が以前から企画・運営してきた医師向け研修会にケアマネジャーも参加するようになり、研修会の内容も在宅医とケアマネジャー双方向けのテーマ設定を取り入れることにつながりました。その後、在宅医とケアマネジャー以外の職種も参加するようになりました。
 また、毎年1月に開催される在宅医療医会研修会の後に開催される新年会では、ケアマネジャーを始めとする多職種が参加し、医師を含めた多職種でダンスなどの出し物を企画・実施するまでになりました。

(3) 在宅医療・介護連携を進めるための市の体制整備
 市役所においても大きな変化がありました。
 2013年2月、医師出身者が市長となり、その後、WHOの健康都市連合にも仲間入りしました。
 新市長のもとで、市の施策において、在宅医療並びに在宅療養者に対する環境整備が重視され、2015年5月には、健康課と福祉部の統合による「健康福祉部」の創設と、在宅療養の推進を専門に担当する係として、高齢者支援課内に我々が所属する「在宅療養推進係」が設置されました。
 これまで、市町村には、健診等の事業を除いて在宅医療を始めとする医療分野を取り扱う部署がなく、都道府県の所管とされてきました。それが、今回の法改正によって、介護保険法の地域支援事業に「在宅医療・介護連携推進事業」が位置付けられたことは大きな方針転換です。それに対応して、市に専門部署を設置したことは、最初に市町村が取り組むべきこととして正しい選択だったと考えています。


3. 在宅医療・介護連携について議論する場

(1) 在宅療養推進協議会の設置
 在宅医療・介護連携推進事業の法制化に伴い、医療、介護、福祉の団体および市民、行政から組織される「西東京市医師会在宅療養推進協議会」を医師会と市の協働で設置しました。この会議は、2014年10月に第1回会議を開催し、その後、2016年1月までに計4回開催しました。

(2) 在宅療養推進協議会部会の設置
① 詳細な議論の場として部会を設置
 ただ、在宅療養推進協議会は、各団体の代表者に参加していただくため、合計21人の大所帯の会議となりました。このため、具体的な課題を詳細に調査・研究するためには、実際の現場で働く専門職が中心となった少人数の会議体が必要と考え、2015年度に図2のような4つの部会を設置しました。
図2 西東京市在宅療養推進協議会組織図(2015年9月時点)
② 部会の設置にあたっての検討
 この部会を設置するにあたって、最初に検討が必要な要素と段階的な計画を立案することから始めました。
 在宅療養環境整備のために必要であると我々が考えた要素は、在宅医療・介護連携の相談窓口づくり、医療・介護の資源づくり、在宅療養者を支えるための受け皿づくり、多職種連携のしくみづくり、市民への普及啓発、調査・ヒアリング等になります。このため、上記のテーマについて、その実現に向けて共に考え、実践していただける、市内で中核となる人材を集め、各部会に参画いただくことにしました。
③ 市主導の部会運営
 この部会を立ち上げるにあたって、我々が重要なことと考えたのは、部会長を誰にするのかという点です。他市の例をみると、医師や専門職が部会長に相当する職に就く傾向があります。
 その中で、我々は部会長を市職員としました。これは、担当部署である我々と密に連絡を取りながら、共に部会の議論を進めていただき、医療側、介護側に偏らない公平な立場から意見をまとめられることをめざしたからです。
④ 部会メンバーの選定
 そして、いよいよ部会を立ち上げることになった際に、一番難航した部分が部会のメンバー選定でした。理由としては、これから西東京市に合った地域包括ケアシステムを今後10年間かけて構築していく際に、これらの部会が強力なエンジンとなるために、以下の要件について考慮したためです。
 その要件とは、(ア)これまでの専門職としての活動実績や常に公的な意識をもっていること、(イ)医療と介護の連携について改善したいと考えていること、(ウ)市民のために自分たちの専門性を向上したいと考えられること、(エ)何より部会のテーマを議論するにあたって必要な人材であると考えられること、の4点です。
⑤ 今までの経験が活きたメンバー選定
 そのような、西東京市の正に宝ともいえる人材を選定していくにあたって、以前から長く市内の高齢福祉分野に携わってきた私の専門職としての経験や、人とのつながりが大きく役立ちました。一般的に、市役所の中で行政職として長く同じ部署に在籍できる専門職は本当にわずかですが、長く在籍できることのメリットが今回発揮できたのではないかと考えています。

(3) 在宅療養推進協議会の市への移管
 協議会の委員や部会の部会員のみなさんの議論への意欲は活発で、この2015年度の協議会と部会の開催数は、合計15回にも及びました。
 その後、2016年4月からは実施主体を市に移管し、名称も「西東京市在宅療養推進協議会」と改め、会議運営を行っています。

(4) 新たな部会の設置
① 後方支援病院推進部会の設置
 2016年4月から、新たな部会として、2015年度までは医師会に設置していた「後方支援病院連携推進部会」を市に移管し、「後方支援病院推進部会」を設置しました。この部会は、在宅医と各病院の医師と医療ソーシャルワーカーが参加しているため、将来的には市内各病院同士の連携の場としても活用していきたいと考えています。
② 認知症支援部会の設置
 また、2016年8月には、さらに「認知症支援部会」を設置する予定です。
 この部会の目的は、認知症初期集中支援チームを始めとする認知症施策全般を検討することであり、今後大きな役割を担っていく部会だと考えています。
図3 西東京市在宅療養推進協議会組織図(2016年7月時点)


4. 在宅医療と介護の連携拠点

(1) 在宅療養支援窓口部会での議論
 さらに、新たな取り組みとして、在宅医療・介護連携の相談窓口となる「在宅療養支援窓口」を設置することになり、どのような窓口が西東京市で必要とされているのか、在宅療養支援窓口部会で検討を行いました。この部会は、2015年9月からの半年間で、ほぼ毎月開催となる計6回を開催し、集中的な議論を行いました。
 そのため、部会でしっかりと議論することができ、西東京市の現状を把握した上で、西東京市に合う窓口の設置方針が立てられたと考えています。

(2) 西東京市に合った在宅療養支援窓口とは
① 在宅療養支援窓口の役割
 議論の中で決まった窓口の大きな役割は、西東京市の多職種連携の拠点となることです。
 そのために、実際の相談を通して課題を分析し、医療と介護の連携に関する実践的な解決策や取り組みを導いていけると考えています。
② 在宅療養支援窓口と地域包括支援センターとの住み分け
 また、設置方針を検討する中で一番議論となった課題は、すでに市内に設置されている地域包括支援センターとの役割分担でした。
 この点を議論するにあたって、我々の係で市内8カ所の地域包括支援センター全てに対してヒアリングを行いました。そのヒアリングの結果や、部会員の経験に基づく議論の中から見えてきたことは、西東京市の地域包括支援センターは市内高齢者の総合相談窓口としてしっかりと機能しており、新たな窓口にその業務の一部を移行することはかえって混乱を招くことになるということでした。
 このため、基本的には市民からの相談は地域包括支援センターが受け付け、窓口は専門職からの相談に特化することに決定しました。
③ 在宅療養支援窓口を市役所に設置
 次に大きな議論となったのは、窓口の設置場所についてです。
 部会の開催前に、我々の係が、すでに同様の窓口を設置している複数の自治体に視察に赴き、設置場所の違いなどでどのような機能・役割に違いが出るのかを示しました。
 その結果、この事業の実施主体は市であり、窓口と市が最も密接に連携を取る必要があることから、窓口は市役所に設置することになりました。このため、窓口は我々の係の最も身近な仲間であり、強力な助っ人になるとも考えています。

(3) 今後の検討課題
 上記のように、西東京市にふさわしい窓口の方針を立てることができたと考えていますが、窓口の職員だけで全ての相談に対応することは難しいと考えています。
 そこで、今後の在宅療養支援窓口部会では、窓口職員だけでは対応が難しい専門的な知識を必要とする相談の場合などに、各団体や専門職等によるバックアップの体制を構築するための検討を行う予定です。


5. いざというときでも安心できるしくみづくり

(1) 在宅医療における後方支援病院との連携事業
① 医師会がモデル事業を実施
 その他の事業として、西東京市医師会では、2012年3月から「在宅医療における後方支援病院との連携事業」をモデル事業として実施してきました。
② 事業の目的
 この事業は、「在宅かかりつけ医と後方支援病院の連携を中心に在宅生活を多職種で支える」ことを前提として、在宅療養者を支える家族への支援を目的に、在宅療養者の体調の一時的な急変の場合など、いざというときは直ちに入院できるベッドをあらかじめ確保しておくという事業です。
③ 事業の特徴
 事業の特徴としては、かかりつけの医師及び利用者(患者)の事前登録制度を原則とし、入院の際もかかりつけ医が病院に申し込む制度となっています。
 このため、病院も事前情報に基づいた受け入れが可能なため、入院受け入れの円滑化につながっていると考えています。

(2) 在宅療養後方支援病床確保事業
① 市への事業移管
 これまで数年間にわたって実施してきた本事業は、現在は登録かかりつけ医や登録患者数も徐々に増えてきています。
 そこで、2016年4月から本事業を西東京市に移管し、事業名も「在宅療養後方支援病床確保事業」に改め、市が主体となって事業を進めています。
② 利用対象者の拡大
 市に事業移管するにあたって、まず、事業対象者の拡大を行いました。
 具体的には、医師会事業の際は事業に登録できる利用者は、西東京市医師会所属医師がかかりつけ医となっている市民のみでしたが、市に移管後は、医師会を問わず西東京市民であれば全ての方が御利用いただけるように制度を変更しました。
③ 後方支援病院の拡大
 また、本事業は、これまで、市内2病院で実施してきました。
 利用対象者の拡大に加え、事業に参画する後方支援病院の拡大に向けても様々な調整を進めた結果、市内に所在する6病院のうち精神病院を除く5病院の全てから事業参加の意向をいただくことができました。
 これに伴い、2016年10月から後方支援病院を5病院に拡大し実施する予定になっています。

(3) 今後の検討課題
 このように、医師会がモデル事業を実施して、これまで積み上げてきた実績があったからこそ、5病院への拡大も可能になったと考えています。
 ただ、空きベッドの調整等を行う際などに、今までは2病院間で行われていたものが5病院に拡大することによって調整作業が煩雑になることが予想されるため、現在、各病院の医療ソーシャルワーカー同士の実務者連絡会を開催して、病院間の連携調整を行っているところです。


6. 「オール西東京モデル」の構築に向けて

(1) 市内多職種連携の推進
 西東京市ではこれまで述べてきたような経緯があり、多職種連携の土壌は醸成されてきていると感じています。しかし、まだ一部の有志の取り組みに留まっている状況もあり、職種間で十分な関係構築ができているとは言い難い部分や課題があります。
 その中で、今後は、地域包括ケアシステムについて関心が薄い、あるいは多職種連携に関する研修会等に参加したことがない各専門職にどうアプローチし、理解を促していくかが大きな課題です。そこで、連携に関心が薄い専門職に多職種研修に参加してもらうため、研修会参加後に修了証を発行することにより、各団体ごとに未参加の方のみを指名し推薦してもらう方式を現在検討しています。

(2) 他市町村との連携の推進
 西東京市の特徴として、近隣市からの訪問診療等に頼っている市民が多いこともあり、関係市区との連携も重要と考えています。
 西東京市は、東京都内では北多摩北部医療圏に属しており、圏域を管轄する保健所主催で、圏内5市が集まる意見交換会等がすでに開催されています。
 その機会に意見を交換することはもちろんのこと、機会をとらえて連携を進めるようにしています。
 さらに、その他の近隣市とも定期的な勉強会も開催しており、その場をとらえて、在宅医療・介護連携推進事業を含めた、部レベルでの交流や意見交換も進めています。

(3) 医師会との連携の推進
 また、医師会との連携については、我々独自の取り組みとして、医師会事務局とのランチョンミーティングを行っています。
 これは、我々、在宅療養推進係と医師会事務局長とが、月に1回、1時間程度、昼食を取りながら連絡調整にとどまらない意見交換を行うものです。
 これによって、医師会事務局との意思疎通が進み、連絡・調整などがよりスムーズになったと実感しています。

(4) 市民の選択と心構え
 そして、地域包括ケアシステムの基礎となる重要な事項として、2016年3月に策定された、「地域包括ケア研究会」の報告書において、これまで使われてきた「植木鉢」の図について変更が加えられました。
 それは、図4に示すように、一人ひとりの地域包括ケアシステムを示す、植木鉢の基礎となるお皿の部分の表記が「本人・家族の選択と心構え」から「本人の選択と本人・家族の心構え」となりました。
 この変更について、同報告書では、「本来は『本人の選択』が最も重視されるべきであり、それに対して、本人・家族がどのように心構えを持つかが重要である」としています。
 これは非常に重要な意味を持つと考えます。ヒアリング等で看取りを行った在宅ケアチームや遺族の話を聞くと、「本人の選択」が事前に示されていなかったため、延命治療の選択などの際に、家族が非常に難しい選択を迫られ、本人が亡くなった後も、その選択が正しかったのか悩む場合が多いようです。
 このため、本人だけでなく、家族のためにも「本人の選択」の重要性を伝えていく必要があります。
 そこで、在宅療養推進協議会の「市民との協働啓発部会」では、これをどのように市民に伝えれば「自分事」として自覚してもらえるかについて、部会員として参加している2人の市民が主導する形で、市民目線の啓発方法を検討しています。
図4 地域包括ケアシステムの「植木鉢」の図(※地域包括ケア研究会報告書を一部改変)

(5) 市役所がやるべきこと
① 地域の多職種連携の核となる
 多職種連携の取り組みについて、1つの団体主導の連携では公平な調整が難しく、市が主導する必要があります。
 また、我々のこれまでの取り組みの中でも、その必要性は痛感しています。例えば、在宅療養推進協議会についても、市主催に移行した際に、部会員の構成メンバーに占める歯科医師、薬剤師等の数を増やしましたが、それによって、各団体への随時の連絡体制が確立されたと考えています。
② 市役所内の横の連携をとる
 専門職の方との意見交換の場で、市役所の縦割り業務やセクショナリズムに関する意見や批判をいただくことがあります。
 地域包括ケアシステムを進めるためには、前提として市役所内の横断的な連携が必要と実感しています。
 このため、先に述べた在宅療養推進協議会には、部長を始めとした健康福祉部の各課長も参加し、さらに、市民部の課長も参加しています。
 今後は、商工部門など福祉部門に止まらない他部署の職員の参加を求めることで、市役所一体となった地域包括ケアシステムの構築をめざしていきます。
③ 地域ケア会議との連携
 また、地域の課題を個別のケースごとの検討から見出していく「地域ケア会議」との連携も重要であり、担当部署と緊密な連携をとっていきます。
 幸いなことに、我々の係と、地域ケア会議を担当する係とは、同じ執務室で机を接していることもあり、気軽に調整できる関係となっています。
④ 職員が地域に出る
 また、市職員が市役所内にとどまることなく、地域に出て、実際の現場の声を直接聞くことが非常に重要であると考えています。とかく、市職員は事業者や専門職を市役所に集めて会議を開催することはありますが、地域に出ていくことは少ないと感じてきました。
 その中で、私はデスクワークより、地域に積極的に出て、各専門職と直接話すことを以前から重視してきましたし、西東京市役所では、それを許容する管理職や職場の雰囲気があったと思います。現在も私を含めた係員3人は、会議の準備や事前調整などの際は、地域の専門職が働く職場にこちらから赴くこと、各職種主催の集まりに積極的に参加することを心がけています。

(6) 「西東京市に一番ふさわしい地域包括ケアシステム」の模索
① オール西東京モデルの構築と進化
 我々は、市民が住み慣れた地域で人生の最期まで自分らしく暮らせるまちづくりのため、「西東京市に一番ふさわしい地域包括ケアシステム」、言うなれば「オール西東京モデル」を模索しつつ施策を進めています。
 もちろん、「オール西東京モデル」はまだ完成には至っていません。むしろシステムとして完成することはなく、常に市民のニーズや時代に合った形に進化していく必要があります。
② 地域の財産を活かした「オール西東京モデル」
 西東京市では、これまで述べてきたように多くの志のある専門職が、自主的に様々な取り組みを進めてきた経過があります。これは、大きな財産であると共に、志がある専門職が活動できる環境が西東京市に存在したからであるとも感じています。
 図4で示した「植木鉢」で例えれば、自助・共助による「土」を耕し、専門職のまいた「種」から、個人個人に必要なサービスの「葉」を咲かせ、最期には本人が満足する最期を迎えることで「花」が咲く、という流れを作れる場所を構築すること、つまり市民それぞれの「植木鉢」を育てられる、環境のいい「庭」のようなまちづくりをすることが、我々行政が行うべきことであり、そのためにこれからも新たな挑戦を継続していきます。