【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第9分科会 QOD(Quality of Death)を迎えるために ~地域でできること~

 健康づくりのイベントに、労働組合がその都市の施策や地域の活性化のために参加しているケースは多々あると思います。しかしながら、労働組合が地域に入って、民間企業・団体と連携して健康づくりのイベントを開催することは、まれなケースだと思います。その取り組み報告を行いながら「地域包括ケアシステム」について、労働組合が主体的に議論できるアンケート調査に至るまでについてレポート報告します。



大阪市大正区からつなぐ「地域包括ケアシステム」2016
―― 10年たっても元気がええで ――

ミニミニヘルスジャンボリーin大正区コミュニティセンター市立大正会館
大阪府本部/大阪市職関係労働組合・環境保健支部 平子 一彦

1. 地域包括ケアシステムを考えると

(1) 10年たっても元気がええで
① 取り組みを始めるきっかけ
 「地域包括ケアシステム」という言葉を聞いて、率直に何だろうという疑問がありました。その疑問を一つずつ解決していこう、というところから取り組みが始まりました。
 以前、「ソーシャルキャピタル」(地域社会・コミュニティを有効に機能させる市民の信頼関係や規範、ネットワーク)をテーマとした学習会で、今後の地域保健対策のあり方が示されており、「地域」の重要性を感じていました。そこで、都市部での高齢者の比率や数の増加傾向を踏まえ、公衆衛生の現場からそれぞれの地域における連携などのサービス提供について、考えることとしました。
 また、支部単位の取り組みでは制約があるので、大都市共闘衛生部会の協力を得ながら進めることになりました。
② なにを調べるのか?
 厚生労働省は、「団塊の世代が75歳以上となる2025年を目途に、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される地域包括ケアシステムの構築を実現していきます」として、地域包括ケアシステムの概要を図のように示しています(図)
 地域包括ケアシステムでは、これまでの環境保健支部の取り組みから「予防」に焦点を当てることにしました。さらに地域で、例えば「10年たっても元気がええで」というまちづくり、「だからみんなで考えよう、自分の健康とみんなの笑顔」という意識が生まれる取り組みができないか、というテーマを立てて、研究・検討から進めることになりました。

(図)
(出典)厚生労働省「地域包括ケア研究会」資料

③ 地域を決める
 研究・検討を始めるにあたって、まずは具体的な地域を決めなければなりません。地域は大阪市内の24行政区あるなかから大正区を選択しました。当然、24区すべてでできるならよいのですが、限界があるので1区に絞りました。
 具体的に大正区を選択した理由は、事前の情報収集をしているときに、コンサルティング関係機関との相談で、「地域が面白い」「海から文化がやってくる」ということを聞いたからです。地域保健の観点からの理由とはならないのですが、まずは具体的な地域の名前が出たので選択しました。
 もちろん、高齢化率など人口構成や交通の発達などを考慮して選択する方法などもあるのですが、地域の顔が見えることを楽しみに進めることになりました。
④ 労働組合の取り組み
 2014年5月に労働組合として大正区での取り組みを確認しました。
 すでに2015年に向けて保健福祉計画・介護保険計画などで、各自治体では高齢者などの調査が進められていました。さらに計画では数値目標も示されており、「地域包括ケアシステム」についても、おもに介護保険のエリアで調査が進められている状況でした。
 さらに、2015年3月に厚生労働省が「地域医療構想策定ガイドライン」を示して、療養型病床→在宅ケアの方向性のもと「地域包括ケアシステムを構築することを通じ、地域における医療及び介護の総合的な確保を推進する」とされるなど、医療や介護の分野で大きな改革の前兆が出てきました。これらのうごきに対して、自治体労働組合として何が可能か検討し、大正区でのニーズ調査を実施することができないかと検討に入りました。
 一方、大阪では、2015年7月19日に自治労大阪府本部主催で「地域医療・介護セミナー」が開催されました。サブタイトルとして、「医療から介護から地域保健から見た地域包括ケアの現在(いま)とこれから」と題して、仙台白百合女子大学教授の大坂純さんから全体講演を受けました。同セミナーには一般参加もあり、大阪の地域包括ケアシステムをつくっていこうと大きな機運が生まれるセミナーとなり、取り組みの参考とすることができました。

(2) アンケート調査の実施を検討する
① イメージは高齢者のニーズ調査でスタート?
 ニーズ調査を実施するにあって、具体的な作業を想定しました。
 そもそも何のニーズ調査なのか、誰のニーズを求めるのかなど、対象地域、対象者、調査の内容、回答を踏まえた解析、その解析の公表などをイメージしつつ、スタートからゴールの目標を立てました。ゴールについては2016年5月を目途という目標を立てて、「一定の報告をすること」をめざしてスタートしました。
② 具体的に検討すると
 大正区の簡単な状況は、面積9.3平方キロ。世帯数約3万。人口男3万2千、女3万3千、合計約6万6千人。高齢化率25.4%。11の中学校区。湾岸地域に位置し、河川や運河などの水路に囲まれた島となっています。地下鉄網が発達した大阪市ではめずらしく、区内のおもな交通手段は路線バス。
 プロジェクトチームでは、全世帯のニーズ調査のイメージですが、全世帯の聞き取り調査をすることは無理だという結論。できる範囲の内容を検討すると、世帯数は、1,000世帯から3,000世帯まで、アンケート形式の調査票を住居に投げ込み、回収は返送用封筒、ターゲットは高齢者ではなく世帯として、さらに検討することとしました。
③ 総論賛成、各論は
 プロジェクトチームでの検討は、2015年に入り、アンケート調査を実施することで進めていたのですが、関係機関との連携を図りながら、具体的に実施方法や回収方法などについて検討していくと、当然戸別訪問はできない、各戸配布の難しさが明らかになりました。また、アンケート調査の回収方法に郵便の料金受取人払いの利用は可能か、という段階まで検討したのですが、この時点ではクリアすべき課題が多くなりすぎ、再度検討することになりました。
 関係機関との連携の中で、民間食品会社の方から、会社で各戸への投げ込みのアンケート調査をしたところ、その回収率は1%にも満たなかった、とアドバイスをいただきました。
 著名な民間食品会社のアンケート調査であっても、回収率がそのような状況であれば、地域に関係を持たない労働組合のアンケート調査は、1,000通投げ込みをしても1通返ってくるかどうかということになります。
 アンケート調査の実施方法として、各戸配布の方法は選択することができません。したがって、その他の方法を検討することになりました。

2. まずは、イベントから始めよう

(1) アンケート調査を実施するためにイベントの開催へ
① イベントの開催
大阪市大正区・今も現役の渡船
 2015年5月に開催された大阪市健康づくり計画すこやかパートナー意見交換会の会議で、ミニミニヘルスジャンボリー大正(仮称)を提案しました。
 労働組合だけでは、地域に出向いて健康づくりのイベントを開催することはやはり困難です。しかし、大阪市職環境保健支部が加盟している大阪市のすこやかパートナー制度を活用して、パートナーによる協働事業として実施することにより、イベントを開催することが可能になります。
 健康づくりのイベントを開催するにあたって、簡単な健康診断や健康体操、食のセミナーなどを想定し、「すこやかパートナー制度」の仲間に声をかけて、具体化できる感触をつかみ、2015年9月12日に大正区にある大正会館で実施する運びになりました。
 イベントの実施は、ニーズ調査を実現するためのものです。
 事前に地域に入ることも十分にできなかったので、参加してくれる方は、0かもしれないし、50かもしれない、事前の申し込みをすることもなく、大正会館の近くの世帯(約1,000世帯)にチラシの投げ込みだけをして、当日を迎えました。
② ミニミニヘルスジャンボリーin大正区コミュニティセンター市立大正会館 前日
 「ミニミニヘルスジャンボリーin大正区コミュニティセンター市立大正会館」と、標題が長いのは、いろいろとあった結果です(以下、「大正ヘルジャン」)。
 「大正ヘルジャン」開催日前日に、「みんなで考えよう~地域包括ケアシステムの効用~」と題して、プレイベントを実施しました。プレイベントには、イベントの協力者となっていただいた仙台白百合女子大学の大坂さんと労働組合の仲間が参加してくれました。
 大正区には、地域を知る物語がたくさんあります。その中の一つが「渡船」です。大阪市内で7か所の運行があり、そのうち6本が大正区とつながっています。プレイベントの参加者は、「大阪市内に『渡船』があることを、今まで知らなかった。しかも大阪市建設局が直営で運行しており、料金は無料と、驚くことばかりだった」と感想をいただきました。直接医療や保健と関係なくとも、その地域の状況を知ることは地域のソーシャルキャピタルを知ることにもなり、ひいては地域包括ケアを考えるための基礎となると思います。
③ 「大正ヘルジャン」いよいよ開催
 2015年9月12日 「大正ヘルジャン」開催。
 参加者は最大で40人。運営体制から考えると、結果的にちょうどよい人数でした。
 当日の健康づくりのメニューは、ラジオ体操、インボディ測定、健康セミナー、歌という内容で、時間を区切って開催しました。
 写真は、参加者による体操の様子です。
 みんなで体操をして、元気の度合いを確認して、そのあと、元気におしゃべりをして、日常に戻っていくことが、地域包括ケアシステムの予防の部分では大切なことだと思っています。
 参加者の多くは、女性であり、女性のコミュニケーション能力の高さを感じます。
 男性の場合は、その居場所(役割分担)が必要になってくるので、この体操教室の中で適切な居場所(役割分担)を見つけることは、至難の業だと感じました。地域包括ケアにおいても、男性の高齢者の課題がありそうに思えました。
 地域との触れ合いについては、民間か行政かという立場性にこだわるだけではなく、利用される方の利便性をもう一度考えてみることが必要だと思いました。これはまさに地域包括ケアシステムの考え方と一致することだろうと思います。

(2) アンケート調査に向けて
① アンケート調査の継続
 大正区のアンケート調査のあと、職域では保健局退職者、労働組合の関係で大都市共闘衛生部会の学習会参加者、自治労衛生医療評議会2016年地域保健・精神保健セミナー参加者に実施し、少人数ですが、大正区という地域の実態と、退職者会の方の集約、労働組合の関係者の集約について、分析をする予定です。(2015年12月現在)
② 労働組合のめざす「地域包括ケアシステム」の一助となれば
 大正区の実態を踏まえて、職域や労組との関係の分析ができれば、一定の調査結果として活用することが可能だと考えています。今回のアンケート調査やセミナーを通じて、地域のニーズ、現場組合員の声を反映した要望事項として「地域包括ケアシステムの姿」が示すことができればと考えています。
 このアンケート調査を始めた時には、ここまでの成果になるとは、考えてもいませんでした。何度も壁にぶち当たって、どうしようというのが本音でしたが、たくさんの方に助けていただき、労働組合のつながりと、奥深さを改めて知ることができました。
 関係各位のご協力に感謝いたします。
 ありがとうございました。