【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第9分科会 QOD(Quality of Death)を迎えるために ~地域でできること~

地域医療構想策定と医療供給体制
人口減少と町立病院の役割

鳥取県本部/衛生医療評議会 櫃田 範道

1. はじめに

 2015年3月に「地域医療構想策定ガイドライン」が示されました。これは、2025年に到来する超高齢化社会に耐えうる医療提供体制構築にむけ、医療重要を推計し、地域の実情にあった医療供給体制構築をめざすべく、都道府県が「地域医療構想(ビジョン)」を策定するためのガイドラインとなります。
 ガイドラインでは、「都道府県の2次医療圏ごとに、2025年に必要な機能別病床数を算出し、それに近づける取り組みをする」ことを求めていますが、これは過剰である高度急性期病床を急性期・回復期などに転換させることと、慢性期病床(≒療養病床)を削減し、在宅医療を推進することを意味しています。長年、診療報酬改定で実現できなかった非常に難易度の高い問題が、都道府県に課せられたことになります。
 実際に、2014年から始まった病床機能報告制度の結果からも、高度急性期や慢性期病床を削減する意向はまったく見られず、逆に現状よりも多くの高度急性期未満の病床が高度急性期を、慢性期病床が回復期病床をめざすという、ガイドラインの示している方向とは正反対の結果になっています。
 本稿では、人口減少が著しい鳥取県日南町の僻地・不採算地区医療提供体制と地域医療構想を問題意識として町立病院に焦点を当て財政と医療供給体制の役割について考察を行います。


2. 地域医療構想とは

① 「地域医療構想策定ガイドライン」とは
 2014年6月に成立した「医療介護総合確保推進法」によって、都道府県は、地域における効率的・効果的な医療提供体制を確保するために、将来のあるべき姿を示す「地域医療構想(ビジョン)」を医療計画において策定することが定められました。このガイドラインは、その策定プロセスをまとめたものになります。
② 2025年に必要な病床数の推計
 都道府県ごとに地域医療構想を策定しますが、検討するのは二次医療圏単位になります。そして、使用するデータや推計するためのツールは、厚生労働省から提供されます。
 将来の必要病床数の推計方法の概略は、まず、病床機能(高度急性期・急性期・回復期・慢性期)ごとの入院する確率(入院受療率)から2025年の患者数の推計を行い、病床機能毎に定められた稼働率で割り戻して必要な病床数を算出するといった内容になっています。
③ 病床数の削減とは
 現在の療養病床数は、医療と介護を合わせて約34万床ですので、この割合で削減すると14万床削減することになり、最終的に20万床をめざすことになります。特定の条件の医療圏について期限を延長する緩和策が認められていますが、基本的には2025年までに達成するように示しました。
 また、社会保障と税一体改革では、2025年へむけて一般病床数は現状107万床から、放置すれば130万床になるところを103万床まで絞り込むことを示しています。
④ 在宅医療の推進
 療養病床の地域差と同様に、在宅医療の普及にも地域差がありますので、ガイドラインでは、各都道府県が在宅医療の推進に取り組むことを推進しています。


3. 鳥取県の地域概要と日南町・日南病院の拠点位置

 日南町は、中国山地のほぼ中央に位置し、西は島根県、南は岡山県、南西部は広島県の3県と接する県境の町です。
 面積は、鳥取県の10分の1(340.87km2)を有し、その約90%が山林となっています。
 また、人口4,665人、高齢化率49.5%(2015年国勢調査)と日本のおよそ30年先の姿と言われる高齢過疎の町です。


4. 町立日南病院の診療機能(2016年4月現在)

診療科 診療機能:内科・外科・整形外科・眼科・耳鼻咽喉科・小児科・皮膚科
病床数99床 一般病床50・療養病床49 看護基準10:1 病院設置年数:1962年1月
不採算地区病院第1種・地方公営企業法全部適用    増改築年度:2007年4月
 (注:不採算地区病院のうち第1種は直近一般病院まで15km以上の病院)


5. 日南町の人口推移と日南病院病床稼働率

① 日南町人口推移(昭和22年~平成27年まで)② 日南町地域人口将来推計
③ 日南町立病院・病床稼働率推移④ 日南町高齢化率推移


6. 町と病院事業の現状

 日南町は、1962年4月、日南町国民健康保険生山診療所を廃止し、日南町国民健康保険日南病院を一般病床27床で開設し、診療が開始されました。
 1973年に一般病床50床、1988年には一般病床80床に増床、さらに2000年に、介護保険制度の施行とともに療養病棟を竣工し、一般病床50床、療養病床49床としました。現在は、一般病床59床、療養病床40床(医療9床、介護31床)で展開しています。
 1981年頃は病院の常勤医師がいなくなり、診療所になる危機もありました。しかし、日南病院から町外の入院施設までは、直近で一般病院まで15km以上で、さらに救急指定病院までは30km弱となります。時間にすれば1時間以上かかることから、住民の保健・医療・福祉サービスが後退してしまうと危機感を募らせた病院職員が一丸となって病院を再建し、現在のコミュニティづくりの成功に結び付けています。「高齢化社会での地域医療の目的は、例え生活自立障害になっても安心して地域で生活できる地域づくりをすること」であると考え、地域とつながることを第一優先として目的を実践してきました。
 日南町は日本の高齢化のおよそ30年先を行っているため、今一般に考えられている地域医療を届けても、今の高齢者の方には30年遅れた地域医療が届くことになります。30年先の高齢化した都市では必ずこのような地域医療がなされていると考えられるものを届けて、はじめて日南町の高齢者の方に、当たり前の医療を届けたことになると考えて高齢化に対応した医療が提供されています。


7. 今後の問題点

 地域医療構想(ビジョン)では、都道府県知事は以下の措置を講ずることができると示されています。
 ①開設許可の際に、不足している医療機能を担うという条件を付けることができる、②過剰な医療機能に転換しようとする医療機関に対して医療審議会での説明等を求めることができ、転換にやむを得ない事情がないと認める時は、医療審議会の意見を聴いて、転換の中止を要請(公的医療機関等には命令)することができる、③機能分化連携が進まない場合に、医療審議会の意見を聴いて、不足している医療機能に係る医療を提供すること等を要請(公的医療機関等には指示)することができる、④公的医療機関等以外の医療機関に対しても、医療審議会の意見を聴いた上で、稼働していない病床の削減を要請することができる(公的医療機関等に対しては従前通り、削減を命令できる)。
 日南町では、病院が設置された、1962年から現在までの55年間で人口は、約1/3(5,000人から1,600人)に減少しています。
 日南町の人口推移と日南病院病床稼働率のグラフ①を参照すれば、町の人口減少とともに、病院病床稼働率も並行して減少しており、2015年度で一般病床の稼働率は70%、年間を通しては、約30%のベッドが空きとなっています。
 鳥取県では、地域医療構想では病床数9,336床を新聞報道で▲1,700床(2015.6.16読売新聞)削減と示されていますが、医療資源の分布、人口密度、地勢など、地域の医療の諸条件は千差万別であり、患者の病状も重なり合うのが実態で、安易に病床数を減らせば、さらに町外への人口流失や地域医療を衰退させかねないと考えられます。
 また、救急搬送時間が全国平均の2倍以上かかるため、2001年から平日の13時から18時の時間帯に救急車が出勤すれば医師が同乗する試みが実施され、在宅医療と救急医療を組み合わせた医師同乗システムとして、過疎の町の医療体制を充実させていましたが、医師確保が難しく現在は中断状態となっています。医療従事者の人員確保は全国的に問題となっていますが、過疎・地域医療を目的とした病院の人員確保はより一層困難であると考えます。


8. 考 察

 日南病院の院是は「町は大きなホスピタル」と掲げています。その意味は町の道路は病院の廊下、各家庭は病院のベッドであり、病院の外に100床のベッドがあります。それに向かって出かけていくということです。また、出かけていけば各家庭は介護老人保健施設にも介護老人福祉施設にもなることを意味しています。在宅で入院と同じ治療が可能なら、在宅入院という発想でスタッフが出かけていって住み慣れた家で治療をしていますと述べられています。
 つまり、高齢化が進行すれば(グラフ④参照)、高度先進医療を行っても生活自立障害を持つ方が増えてきます。一方、高齢化率が高くなれば、福祉の関係者がどんなに頑張って重度の生活自立障害を持った方を高度先進医療の病院から地域に帰せなくなる可能性が非常に大きくなります。高齢化社会で医療がスムーズにまわるためには先進地域医療が必要となりますが、「地域で医療をすること」と「地域医療をすること」は全くの別物であると考えます。
 また、経営面も重要な問題となりますが、日南病院では自治体立病院の多くが赤字決算という状況のなか1983年から2007年度の決算では、経常収支では黒字であったものの1983年から23年間続いた医業収支での黒字決算が途絶えました。この要因は内科医師3人が退職したことや診療報酬のマイナス改定など具体的内容がはっきりしており、次年度より今年度まで、経常収支は黒字で安定しています。
 これは、病床稼働率が約70%という厳しい状況のなか、年間2,000件の訪問診察と1,500件の訪問看護が実施され、地域包括医療と経営的な面で大きく影響しています。
⑤ 日南病院一般病床の平均在院日数
 日南病院は全ての疾患には対応できませんが、日南町の少子高齢化に対応するため、病院は小児科医療と高齢者医療に絞って診療されています。
 日南病院で対応できない疾患は大学病院をはじめ市内の大きな病院との連携が取られています。とくに市内の大病院へ紹介した場合、地域に帰ってきていただくために、日南病院の空ベッドが必要となります。
 これは2007(H19)年度より一般病床の平均在院日数を12日~13日(グラフ⑤参照)まで短縮し、空ベッドを確保し地域・地域住民の方を支えることで地域づくりに成功しています。
 平均在院日数を短くするのは、簡単にできることではなく、入院~治療~回復~退院~自宅までの一連のプロセスで考えると、正確な診断と適切な治療方法を選択する能力、できるだけ患者の身体に負担をかけずに手術や治療を行う能力、患者の回復を助けるリハビリ支援、適切な退院支援や後方受入施設との連携など、どこかのプロセスに問題があると患者は予定通りに退院することができず、その積み重ねが病院の平均在院日数を引き上げてしまいます。
 地域医療構想では、人口減少と2025年に到来する超高齢化社会に耐えうる医療提供体制構築にむけて医療重要を推計していますが、実際に公的医療機関や民間医療機関が多く立地している都市部と、不足している医療サービスの維持を現場で模索しながら地域の医療を守り「住民の生命と暮らしを守る」という病院が必要とされるよう、医療問題を共通認識しながら活動を続けることが重要です。


9. おわりに

 日南町・日南病院では、医療資源の現状や、地域医療において大きな役割を果たし、在宅医療等の体制整備や医療と介護との連携体制の構築に当たって役割を明確にしていると考えます。
 医療の需要は、人口構成・分布の変化、疾病構造の変化、新しい治療法の導入、圏域内・外の医療機関の状況などさまざまな要因によって変化しますが、圏域内の医療機能および連携の考え方も、その変化に対して柔軟に変更していくことが必要ではないでしょうか。
 そのためには、定期的、変化発生時における連携の在り方が重要であり、住民を含めた関係者間で十分に情報共有を図っていくことが大切であることを述べ、このレポートを締めたいと思います。