【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第9分科会 QOD(Quality of Death)を迎えるために ~地域でできること~

 松江市社会福祉協議会労働組合の組合員54人中26人(48%)が、高齢者の総合相談支援を行う地域包括支援センターに所属しています。日頃の業務から見えてきた医療と介護の連携における課題解決に向けて、労働組合としてどのような取り組みができるのかを検討しました。



いかにして「医療と介護」は、連携するのか。
―― お互いの役割を知ることから始めよう ――

島根県本部/松江市職員ユニオン・社会福祉協議会支部
 湯浅 佳代・竹谷 師子・角  知子・原  陽子・山野 裕子

1. はじめに

 松江市社会福祉協議会には、高齢者の相談窓口の地域包括支援センターと、障がい者の相談窓口のサポート絆等があります。
 高齢者も障害者も、住み慣れた地域で安心して暮らしていくためには、日常生活を支えてくれる介護と、健康を維持していくための医療のサポート、そして地域住民の見守りや支え合いが、とても重要な要素になっています。
 2013年度のレポートは、住民との協働による地域づくりについての組合の役割を研究しました。
 今年度は、介護が必要な市民が安心して暮らしていけるように、医療と介護の連携における社協の組合の役割について、研究することにしました。


2. 現 状

 地域包括ケアシステム構築に向けて、2006年4月に介護保険法が改正され、高齢者が住み慣れた地域で、自分らしく暮らしていける地域づくりを構築するための拠点として、地域包括支援センターが設置されました。
 松江市社会福祉協議会は松江市から事業受託して、現在、日常生活圏域を6圏域として、6カ所の地域包括支援センターと2カ所のサテライトを運営しています。
 地域包括支援センターには、社協組合員54人中26人が勤務しています。
 地域包括支援センターの役割として、
・介護予防の推進(ケアマネジメントや介護 予防事業の実施)
・総合的な相談・支援
・虐待防止などの権利擁護事業
・ケアマネジャーからの相談への対応
などがあげられます。
 特に2015年4月介護保険制度改正に伴い、地域包括支援センターの機能強化の1つの柱として、「医療と介護の連携の推進」があげられています。

図1 松江市地域包括支援センターの圏域と包括の地図


 次のグラフは、地域包括支援センターの年度ごとの相談件数(図2)、医療機関からの紹介件数(図3)、医療機関との連絡調整(図4)の推移を示したものです。

図2 松江市地域包括支援センター 相談件数

図3 医療機関からの新規紹介件数 図4 医療機関との連絡調整

 図2~図4より、地域包括支援センターへの相談者の増加に伴い、医療機関からの紹介件数や連絡・調整件数が増えていることがわかります。新規紹介件数は本人の家族・親戚からが全体の5~6割ですが、次いで医療機関からの紹介が2番目に多い件数となっています。これは下記に紹介する地域包括支援センターと医療機関との関係づくりの成果があらわれたものと考えます。


3. 松江市の関係機関による医療と介護の連携の取り組み

(1) 情報の共有化
 2009年に地域包括支援センター、総合病院の相談員、介護支援専門員協会の代表者で、高齢者が入院した時にどのような情報がお互いに必要か情報交換をしました。
 そして、高齢者が入院された時に在宅での経過や心身の状況、生活環境、生活に対する本人や家族の思いなどが情報提供できるツール「基本情報・情報提供書」(図5)を作成し、2010年から全市で使用を開始しました。


図5 基本情報・情報提供書
 


 これにより、ケアマネジャーが高齢者のアセスメントをして作成した基本情報が、介護サービス事業所や入所施設、医療機関等に情報提供をする時に、そのまま利用ができるようになりました。
 また、地域包括支援センターは、医療機関の相談員とケアマネジャーとの合同研修会を開催し、入退院時の連携方法について意見交換を重ね、病院・ケアマネ連携フローチャート(図6)を作成し、市内の入院機能のある医療機関、ケアマネジャーの事業所に配布しました。

図6 病院・ケアマネ連携フローチャート

(2) 顔の見える関係づくり
 地域包括支援センターでは、ケアマネジャーや介護サービス事業所、入所施設、医療機関の相談員等の高齢者に関わる現場のスタッフの顔の見える関係づくりとして、ブロック連絡会の開催や介護現場のスタッフのスキルアップを図る為の「包括公開講座」を開催しています。毎回70人から150人の参加があります。
 また、2007年から医師会と介護支援専門員協会と協同で、「医師とケアマネジャーの合同研修会」をこれまで10回開催し、看取り等様々なテーマで意見交換や事例検討を行いました。在宅で看取りをする際の往診体制や医療用麻薬・機器の調達、認知症の方の支援などの地域課題に対して、医療と介護の視点から支援方法について検討しています。
 医師の参加は10人程度で横ばいですが、ケアマネジャーの参加は年々増加し、30人から100人になっています。また介護保険課や医療政策課からも参加されるようになりました。
 連携のツールとして2010年に医師会と介護支援専門員協会と地域包括支援センターで「医師とケアマネジャーの連絡票」(図7)を作成しました。連絡がとりやすくなった一方で、「ケアマネジャーの顔がみえなくなった」というかかりつけ医の声もあり、今後は、普段からの相談やカンファレンスを通して「顔のみえる関係づくり」が求められています。
 小地域での取り組みとしては、2013年から宍道町で、町内の医療機関や行政、ケアマネジャー、介護サービス事業所、介護施設、地域包括支援センターが毎年6回程度集まり、事業所紹介や勉強会、懇親会を通して連携を図っています。
 美保関町では、昨年度開業医、行政、ケアマネジャー、介護サービス事業所、地域包括支援センターの意見交換会を開催しました。意見交換会で出された声をもとに、今年度は地区社協事業として「家族介護教室」を事業化することが出来ました。今年度も継続して意見交換会を開催し、地域のニーズの共有を図っていきます。

図7 医師とケアマネジャーとの連絡票


4. 医療機関の取り組み

(1) 鹿島病院
 在宅医療連携推進事業の委託を受け、2013年度から在宅機関との連携強化のための活動を行っています。内容としては医療・福祉関係者88か所へのアンケートを実施。それに基づき、54医院を訪問し鹿島病院の機能を説明、交流会も開催し開業医との連携をはかりました。地域住民対象の講演会も開催し、地域に根ざした医療が提供されています。
 また多職種協働をめざし、鹿島病院のスタッフ・地域の開業医・行政・訪問看護・ケアマネジャー・地域包括支援センター総勢50~60人が一堂に会し、事例を通して各機関の機能と役割を明確にすることができました。会を重ねるごとに「顔の見える関係」ができたことで、普段からの連携もとりやすい状況となっています。
※ 島根県在宅医療連携推進事業:地域医療再生計画に基づき、2013年から2015年度にかけて医師会・病院・市町村等に在宅医療における多職種協働の取り組みを実践するための要となる「在宅医療連携部署」を設置し、保健所・市町村・地域包括支援センターとの連携により、在宅チーム医療の実践活動に取り組む

(2) 松江記念病院
 2014年3月から『在宅医療連携推進のための多職種連携会議』を開催し、松江記念病院・医師会・松江市立病院・行政・訪問看護・介護支援専門員協会・入所施設・地域包括支援センターの総勢20人が参加しています。在宅医療連携での現状と課題について意見交換をし、「関係者同士の顔の見える関係作りが先ずは重要だ」「かかりつけ医をもつ必要性を啓発すること」「医師を含めての病院スタッフと在宅部門スタッフとの情報共有の仕方や日頃からの密な連携連絡が一番だ」「看取り時の開業医の確保の難しさ」などの課題が出ました。今後も事例検討を踏まえて意見交換をしていく予定です。

(3) 松江赤十字病院
 急性期病院として在院日数の短縮を迫られる中で、各医療機関の機能やかかりつけ医を持つことの重要性について、院長自ら地域の研修会や寄り合いに出かけています。
 また入所施設や地域の介護職や看護職の支援のために、看護部では、地域の高齢者に関わる看護師対象の地域医療勉強会、入所施設に直接訪問するおしかけ勉強会、医療知識についての相談窓口の設置をしています。
 ケアマネジャーとの連携も重要視し、介護支援専門員協会と2013年から年1回合同研修を企画、ケアマネジャー・病院相談員・病棟看護師が出席し、お互いの連携や退院時のカンファレンスの効果的な開催について話し合いを重ねています。また慢性疾患で入退院をくり返す方に入院時に在宅スタッフと病院スタッフが合同カンファレンスを行い、入院早期から退院にむけての取り組みを行っています。

(4) 松江生協病院
 松江保健生活協同組合の活動として、健康づくり、地域の健康講座への講師派遣、組合員が集まる班会での健康チェックなどを行っています。
 2014年4月には地域連携室、医療福祉相談室、サポートセンター、居宅介護支援事業所の4つの部署が一体となり「せいきょうサポートセンター」として開設、病院内の情報共有と連携をはかっています。

図8 ネットワークのイメージ


5. 課 題

 前述したように、医師とケアマネジャー、介護スタッフ等が様々な場面で話し合いを重ね、顔の見える関係づくりや情報共有のツールの作成など、様々な取り組みを行っています。こうしたなか、「入院後情報提供書がどのように活用されているのか」「在宅での様子が伝えてあるのに、急に退院になるのはどうしてだろう」「病院はどのような情報を知りたいのだろう」「退院時のカンファレンスの目的がうまく伝わっていない」「病院の中の相談体制がわからない」「病棟からどんな人が医療相談室に紹介されているのか」「在宅で看取りたいけど往診してくれる先生がいない」などの意見が地域包括支援センターに寄せられています。


6. 組合としての取り組み

 松江市における医療と介護の連携の課題について、組合としてどのような取り組みができるのか話し合いました。その結果、同じ松江市職員ユニオンに加入している松江市立病院労働組合とで組合員同士忌憚のない意見交換ができればと思い、意見交換会を提案しました。
 2015年6月に総勢約20人で行いましたが、お互いに様々な分野に所属しており、医療・福祉・介護と一言で言ってもかなり幅の広い現場で多くの組合員が働いている状況がわかりました。また、病院へ入院し退院までの流れは、私達在宅部門を担う者にとってまだまだ知らないことが沢山あることがわかりました。
 その中でも良かったこととして、
・担当している方が入院した折にケアマネジャーが病院に送っている「基本情報・情報提供書」が活用されていたこと
・入院時に病棟で退院に向けて支援が必要かどうかをチェックして該当者を早期に病院相談員につないでいる
・一時外出時に家屋チェック等の為リハビリスタッフが自宅に同行訪問している
などがわかりました。
 一方で課題としては、
・地域連携室内での相談体制についてよくわからない
・病院スタッフの介護保険制度についての理解が十分ではないこと
・地域包括支援センターの役割がまだ十分知られていなかったこと
・在宅で看取りをする際の往診体制や医療用麻薬・機器の調達が難しいこと
・一人暮らしのため治療が終わっても自宅に帰れない方の対応
などがあげられました。
 先ずは、松江市立病院・松江市社会福祉協議会の互いの業務内容を知ることから始めなければ、お互いの課題解決や連携には辿りつかないと実感しました。


7. 提 案

 医療・介護の連携という枠組みで考えるとしても、どのような現場での働きがあるのか、そこでの課題は何か、解決に向けてどのように考えていくのか等具体的な連携方法に至るまでの多くのステップがあることを感じ取りました。今後は、継続して行う情報交換会などを通して、一つ一つこのステップを踏み確認をしていくことで互いの理解を深め、医療・介護の連携へと進みたいと考えています。次回は7月にお互いの職場紹介から始めることになりました。
 こうした取り組みが松江市の医療と介護の架け橋となり、地域課題の解決に向けて、組合として一役を担うことができればと考えています。




参考・引用文献
・松江市『第6期介護保険事業計画・高齢者福祉計画』
・一般財団法人 長寿社会開発センター『地域包括支援センター運営マニュアル2012』
・光生館『医療制度改革と地域ケア』