【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第9分科会 QOD(Quality of Death)を迎えるために ~地域でできること~

 高齢者の死が問題となっている。記憶にも新しい『無縁社会“無縁死”三万二千人の衝撃』等でも高齢者の死について取り上げる書籍やTVが増えている。また、今後、少子高齢化社会が進むに従い、この問題は、さらに深刻さを増すことが予想される。そこで本レポートでは、有田町における高齢者向け施設・居住系サービスと高齢者の尊厳ある死について報告を行いたい。



QODを迎えるために~地域にできること
―― 高齢者向け施設・居住系サービスの介護者について ――

佐賀県本部/有田町職員労働組合 北濱 隆史

1. はじめに

(1) 有田町の紹介
 有田町は、2006年3月に旧有田町と旧西有田町が合併して誕生した佐賀県の西部に位置する周囲を国見山と黒髪山に囲まれた人口約20,000人、面積約65.58km2の町である。
 古くからやきものの町として有名であり、陶器市等のやきもの関係のイベントが盛んに行われている。また今年は、日本磁器、有田焼創業400年ということで佐賀県・有田町が協力して様々なイベントが行われている。
 一方で、少子高齢化問題が深刻化している。特に旧有田町での少子高齢化は顕著である。陶器市のメイン会場となっている内山地区では小学生の人数減により小学校が廃校の危機となっており、また空き家問題や看取り・介護の問題が発生している現状がある。実際に佐賀県内の7保険者の中で一番高い高齢化率となっており介護問題等が今後深刻になっていくことが予想されている。

(2) 本テーマ設定の理由
 本レポートでは有田町内の高齢者向け施設・居住系サービスとQODについて考えていきたい。
 なぜ先に述べた様なテーマでレポートをするかというと、少子高齢化が進み在宅で生活する高齢者が減っていき、町内の高齢者向け施設・居住系サービスを利用しながら最後の時を迎える高齢者が増えていくことが予想されるからである。
 施設・居住系サービスを利用するということは最後の時をその場所で迎える可能性が高い。最後の時を住み慣れた土地で尊厳をもって迎えるためには、当該高齢者、施設・居住系サービスの事業者の努力だけでは難しい部分がある。
 ならばまずは、現在有田町内の高齢者向け施設・居住系サービスが利用者の死とQODに対してどのような取り組みを行っているか、現在把握されている問題は何か等の現状分析を行う必要がある。
 もちろん本レポートで扱うのは有田町内の限られた事業所だけであるが、全国的に今後同様の問題が起きてくると考えられる。今後、同じような問題を持つ事業所、自治体の活動の参考となれば幸いである。

2. QODとは

(1) QOD(Quality of Death/Dying、以下QOD)の定義
 QODの定義を考えていくためには、まずは先行概念であるQOL(Quality of Life、以下QOL)の概念整理を行う必要がある。QOLについては「生活の質」と訳されることが多い。現在QOLについては明確な定義があるとは言い難い状態である。いくつかのQOLについての定義があるが、ここでは2000年に厚生省が定義した概念を紹介する。
 「従来のリハビリテーションサービスは……生活の質とは、日常生活や社会生活のあり方を自らの意志で決定し、生活の目標や生活様式を選択できることであり、本人が身体的、社会的、文化的に満足できる豊かな生活を営めることを意味します。」
と定義してある。
 ここでの定義も見るとQOLは単に物的な豊かさのみを表す概念でないことがわかる。
 先行概念が物的な豊かさを表す概念でないということは、続くQODも物的な豊かさのみを表す概念でないということが想像できる。
 QOLと同じようにQODについても統一した定義があるわけではない。しかし、先に見たQOLの定義から「死の質」を高めることだと考えることができる。そこで本レポートではQOLの定義を「終末期ケアに関する医療委員会」(米国医学研究所)の質の高い死の定義
 「患者や家族の希望にかない、臨床的、文化的、倫理的基準に合致した方法で、患者、家族および介護者が悩みや苦痛から解放されるような死」
をQOLの定義と考える。

(2) 「介護者」という視点
 私が本定義を採用した理由の1つは先に述べたQOLの定義との類似性もあるがもう1点、「介護者」という視点が入っていることがある。先にも述べたが、少子高齢化が進む今後の有田町の現状を考えると、高齢者が最期の時を迎える場所として施設・居住系サービスの事業所の重要性が高くなっていく。そこでは家族以外の第三者である「介護者」と過ごす時間が長くなり必然的に「介護者」の視点が重要になると考える。
 「介護者」は当該高齢者と過ごす時間が比較的長くなる。高齢者向け施設・居住系サービスの従事者は、1日の多くの時間を当該高齢者と共に過ごし、場合によっては寝食を共にするケースもある。当該高齢者の死の直前だけではなく普段の様子、価値観等もある程度は理解している。つまり、「介護者」と「利用者」というビジネスライクな関係だけではなく精神的に強いつながりを持つことも多い。それだけのつながりを持つ可能性がある「介護者」の視点を取り入れることは「死の質を高める」ために必要なことだと私は考える。

3. 有田町の高齢者関係指標

(1) 有田町の人口分析
 ここでは有田町の高齢者関係指標を見ていき有田町が置かれている現状認識を行いたい。まず、人口動向についてであるが表1で示されているとおり、総人口は減少傾向にある。2000年時点では22,314人の人口が2015年では20,117人、2020年では20,000人を下回るなど全国の多くの自治体と同じように人口が減少傾向にある。次に高齢化率であるが2000年時点では21.7%とこの時点で全国的に見ても高い高齢化率であったが2015年には31.0%、2020年では34.2%と全国的に見ても高い高齢化率となっている。この数値は、佐賀県内の7保険者で一番高くなっている。また、高齢者のみの世帯、高齢者独居世帯も、確認できる限り2000年以降、毎年増加している。先に述べた様に少子高齢化が進むと、施設・居住系サービスの利用者が増えていくが有田町では、今後しばらくその傾向が続くと考える。
 また、後期高齢者数の増加が著しいのも特徴である。2000年に後期高齢者数が2,000人を超え2,123人となり2005年には2,648人、2010年3,069人となり2030年に4,030人と4,000人を超える。高齢者全体に占める後期高齢者の割合は2000年で43.8%、2005年52.9%、その後も50%を超えている。これだけ後期高齢者数が増加していくと必然的に毎年多くの者が最後の時を迎えることになる。


表1

引用:見える化システム https://mieruka.mhlw.go.jp/mieruka

4. 高齢者向け施設・居住系サービスとQOD

(1) 調査内容
 調査は有田町内で事業を展開する特別養護老人ホーム1施設、認知症対応型共同生活介護事業所2事業所に行った。(A特別養護老人ホーム、B認知症対応型共同生活介護、C認知症対応型共同生活介護と呼称する。)
 調査方法は直接面談による聞き取りである。
 短い時間での聞き取りであったため数値についてはおおよその数値で回答してもらった。

(2) 調査結果、分析
 まずは、2014、2015年度の死亡退所の数であるがA特別養護老人ホームでは約70人、B認知症対応型共同生活介護では約20人、C認知症対応型共同生活介護では約10人であった。
 A特別養護老人ホームはB、C認知症対応型共同生活介護事業所と比べて大規模な施設であり母数が多いため人数が多い。またもう1点、A特別養護老人ホームの方針として、最後まで看取りまで安心して任せてもらえる施設となるため、本人・家族から希望があった場合は、施設で看取りまで行う方針であることも影響しているだろうという話だった。
 B、C認知症対応型共同生活介護事業所は同程度の規模の施設であるがB認知症対応型共同生活介護事業所は、A特別養護老人ホームと同じような方針のため死亡退所が多いのに比べ、C認知症対応型共同生活介護事業所は反対に、最期は家族のもとでということで積極的に在宅復帰のための支援を行っているということだった。この方針の違いが死亡退所者数の違いに表れていると考える。
 次に、QODを高めるために、現在行っている取り組みについてだが、まず、A特別養護老人ホーム、B、C認知症対応型共同生活介護事業所に共通して挙げられているものとして、本人の意思の尊重があった。できる限り利用者の意志、自己決定を尊重していこうとする姿勢が見て取れた。もちろん、死の直前で意志をはっきりと表明できる利用者は少ないが、かすかな体の動きや表情の変化を読み取り利用者が望んでいることをできる限り叶えるようにするということだった。
 最後に、QOLを高めるために現在問題だと考えていることとして3事業所に共通して挙げられた2点について分析したい。
 まず1つ目の問題点として、家族・親族と連絡が取れないケースを挙げる。先にも述べた様に死の直前には本人の明確な意思を尊重することが難しい。そこで、家族・親族と連携し今後の方針等を決めていくことになるのだが、それができないケースがあるということだった。なぜ、家族・親族に意思表示を求めるかというと、万が一、何か問題等が起こった際に、施設の責任問題となるため本人が望んでいるにもかかわらず、その望んでいることの実現ができないことがあるからだ。そのような状態であると、介護者がそのリスクを考えてしまい十分なケアができないという。また、本人が親族等との面会を希望しても、事業所が全ての連絡先を把握しているわけではない。そこではどうしても家族・親族にお願いをするしかないのだが、連絡が取れないとその可能性は限りなく低くなってしまう。実際にB事業所では、利用者と地域の住民に築き上げられてきた良好な関係、本人の意思を鑑み、地域住民との最後の会を計画していたそうだが、個人情報保護の問題で、もし後に、家族・親族から訴えられた際のことを考えると実現できなかった、というエピソードを話された。このように、QODを高めるために事業所が行いたいケアや活動も家族・親族との連絡が取れないがために実現できないことが度々起こるという。
 2つ目としては、介護者側のケアについてである。QODを高めるために、一生懸命に頑張れば頑張るほど、介護者は悩み、疲弊していく。特にB、C認知症対応型共同生活介護事業所のような、小規模な施設であればあるほど、当該利用者と接する時間は増えていき心理的な疲労感は増していくようだった。

5. 今後の課題

 今後の課題として先に述べた問題点のうち1つ目について考えていきたい。
 面談の最中に、対象者から家族・親族との連携の重要さを聞く場面が多かった。本レポートとは直接関係ないが、家族・親族との連絡がうまくいかないと死後のケアについても考えを巡らせなければならない。本人の意思が明確に示されればいいが、高齢者向け施設・居住系サービスを利用開始した時点で何割かの方はすでに意思表示が十分できない状態で入所してくる。そのような中で、QODを高めるためには、家族・親族の協力は必要不可欠な要素であると考えられる。多職種や地域の者が連携して情報交換を行い少しでも家族・親族との連絡が上手くいくように協力していかなければならない。

6. 最後に

 本レポートは、第36回自治研全国集会(宮城自治研)のレポート・論文の募集についての趣旨にのっとったものになるよう、できる限り地域の特色を出していこうとしたいと当初は考えていた。しかし、いざ、レポートを書き始めると時間もなく、有田町の特色を出すことができないものとなってしまった。次回、同じような機会があれば、地域の特色を出した、有田町ならではのレポートを作成できるように努力したい。