【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第9分科会 QOD(Quality of Death)を迎えるために ~地域でできること~

 現在、全国的に少子高齢化が進み、団塊の世代が75歳を迎え高齢社会になる2025年に向けて、高齢者部門では、高齢者が住みやすいまちになるような地域づくり・資源開発の検討を進め、「自助」「互助」「共助」「公助」を組み合わせた地域のケア体制の整備を進めている。津久見市においても少子高齢社会を迎えており、高齢者が住み慣れた地域でいつまでも元気に生活できるよういち早く取り組みを進めていくことが急務とされていた。
 そこで、年代を問わず誰もが共通して考えることができる「健康」を切り口に事業を実施し、住民と一緒に考えながら教室を作り上げたことで住民主体の集いの場(地域づくり)へと発展した内容について報告する。



住民と一緒に考える地域づくり
―― 自分で通える週1回の体操で健康づくり事業を通じて ――

大分県本部/津久見市職員労働組合 新名美加子

1. はじめに

 近年、国をあげて「自助」「互助」「共助」「公助」の取り組みの重要性が叫ばれている。特に、地域福祉を推進していくためには、この4つの"助"が独立することなく、うまく働きあうことが重要である。また、地方創生がさけばれる中、今後の地方におけるまちづくりでは、住民主体の活動が重要となってくる。
 今回、年代問わず誰もが共通して考えることができる「健康」を切り口に体操を通じて住民主体の地域づくりへと発展した内容について報告する。


2. 取り組みの経緯

 現在、全国的に少子高齢化が進み、団塊の世代が75歳を迎え高齢社会になる2025年に向けて、高齢者部門では、高齢者が住みやすいまちになるよう地域課題の発見・把握を行い、地域づくり・資源開発の検討を進め、「自助」「互助」「共助」「公助」を組み合わせた地域のケア体制の整備を進めている。
 津久見市でも2014年度末で38.1%と高い高齢化率となっており、人口推移をみても、近年著しく減少しており、今後も減少していくことが予測されている。一方で、高齢者人口・世帯数、独居世帯数は増加しており、核家族化も進んでいる。
 このような状況から、高齢者が住み慣れた地域でいつまでも元気に生活できるよう全国よりいち早く介護予防の取り組みを進めていくことが急務とされていた。特に、加齢に伴う心身機能の低下は、意欲低下から閉じこもりを強化し、日常生活はもちろん社会参加もなくし廃用症候群に陥ると言われていることから、高齢者の身近な社会参加の場である「地域」を基本に健康づくりの取り組みを推進していくことが必要だと感じていた。
 津久見市でも、住民が「社会参加をしたい」と思っていても社会参加の場が少なく遠いという地域の課題が見え、そのことで生きがいをなくし、さらなる健康状態の悪化を招いているという課題が見えてきた。こういった背景から、①歩いて行ける場所で定期的な社会参加の機会が持て心身の健康が保てるように②住み慣れた地域でいつまでも生活を送れるようにという思いのもと、体操教室の事業を開始した。

3. 事業内容

(1) 全体的な流れ
 この事業は、週1回通える場で体操を行うものである。実施する前の課題として、地域住民が通える場となるとどのくらいの大きさのコミュニティで実施することが妥当なのかわからなかった。また、定期的な運動習慣の必要性、通いの場の必要性を感じてはいたが、各コミュニティが毎週実施し、毎回体操に介入するとなると行政側の人員不足等の課題があった。
 そのため、どの単位のコミュニティで行うのがいいのか、行政がどのように関わるのがいいのか等、地域の人と一緒に考えるようにした。行政は、通いの場の立ち上げと導入期である3か月間に継続してもらえる体操への介入を行った。しかし、前述した背景や思いを達成するためにも事業を継続したものにしていく必要がある。そのため、健康づくりへの効果だけでなく、地域力についても働きかけを行っていく必要があった。
 全体的な流れについては、以下のとおりである。

流 れ概 要
1. 戦略会議の実施  庁内関係部署で集まり、市全体の長期的なビジョンを共有。さらに、まず何をするのか目的の共有を行い、行政内の支援体制の確認、普及啓発方法等、それぞれの立場でどのように関わっていくか戦略を立てた。
2. 「実施してみたい」と思えるような資料作成  事業を効果的なものにするためにも、地域の実情にあったものをそこに住む人が必要と感じないと効果が発揮されないと考えた。そのため、住民から「実施してみたい」という声があがるよう、市の現状や事業の説明を行うだけでなく、先進自治体で効果があった様子が撮影された動画等を使い、動機づけを行えるような資料作成を行った。
3. 区長会等の地域で核となる人が参加する会合での事業説明の実施  地域で核となる人へ作成資料をもとに説明を行った。その際、「健康に良いからしてほしい」という説明ではなく、「こんな効果があるらしい。したい人はいつでもサポートする」ということを伝えた。これは効果を出すためには、事業が継続したものになる必要があるため、住民自身が健康課題に気づき「実施したい」という気持ちになることが大切だと感じたためである。
 また、よく住民から「行政がここまでやってくれると思っていたのに」などの声を聞く。そのため、説明時には、行政はどんなことをいつまでどこまでするかを明確に伝えるようにし、行政の考えと住民との考えに食い違いが起き、モチベーションがさがらないようにするようにした。
4. 「実施してみたい」が出たらすぐに取り組む 
5. 市全体の分析、実施希望地区の現状分析と地区住民との情報共有
(共通理解)
 地区の実情にあったものをそこに住む人が必要と感じることで効果が出てくると考えた。そこで、地区の実情について、数値的なデータの分析や地区の環境等から予測される生活課題の分析を行い、実施地区住民と情報共有・事業に関する共通理解を行った。すると実際、数値では見えない地区の現状があったことに気づかされた。そのため、事業を開始する前には必ず実施地区住民と一緒に地域の問題や強みは何であるかを情報共有してから実施するようにした。
6. 事業内容を住民と一緒に考える。  実施地区住民と取り組みやすい日時、場所、内容、広報方法について一緒に考えた。その中で、広報したいがきれいにちらしを作成するのが苦手というものがあった。その際には、できること(レイアウトや文章等を考える)までは住民に行ってもらい、できない部分(ちらし作成)は行政が行うようにした。
7. 体操教室の開始  体操の効果がわかるように定期的な体力測定と効果的な体操の実践方法指導のために3回の講師派遣を行った。体力測定の結果を参加者へ必ずフィードバックし、効果や達成感の共有を地区全体で行うようにした。
 また、グループワークで参加者同士の意見交換の場を持ち、この体操教室をどのような形で行っていきたいか一緒に考えた。

(2) 地域と一緒に考え地域に合わせた具体的な事業内容
 事業を実施したいと申し出のあった地区は3地区あった。事業開始前には、必ず地区に出向き、地区役員等地域の核になる人が「やりたい」と思えるよう地区の現状を示しながら説明を行った。そして、実際に住んでいて感じる地区の現状はどうなのか、どう感じているのか等意見交換を行いながら共通理解ができるようにした。
 また、具体的な事業の進め方については、地区にあった内容でできるよう必ず打合せを行った。各地区と一緒に考えた事業の流れは以下のとおりである。

 A地区B地区C地区
発起人区長区長地域住民(役員)
日 時毎週金曜10時~
※ただし、第1週目は除く
第1・3火曜10時~
※3か月だけして継続するか検討する
毎週木曜10時~
広報方法第1回目のみ、ちらし作成年間スケジュール作成地域住民の声かけ
対象者等男女別で行いたい年齢関係なく集える場地域住民
内 容① めじろん元気アップ体操
② めじろんリズム体操
① めじろんリズム体操
② めじろん元気アップ体操
③ 公民館を開放
① ラジオ体操
② 公民館を解放

(A地区の様子)
 (B地区の様子)

4. 事業開始してからの変化

 地区の人と内容の検討を行い、事業を開始した。事業を進めていく中で住民の動きに変化があったので下記に記す。カッコ内は印象に残った住民の言葉である。

 A地区B地区C地区
事業開始
~1か月
DVDの使い方がわからないという声あり。
⇒使い方の説明書を作成
第1回目のときに、参加者同士で地域の強みや課題について意見交換を行う場を設けた。誰がきてもできるようにラジオ体操がしたいけどCDがない⇒CDをダビングし提供
1か月
~2か月
第1週目も自主的に実施するようになった。
「家で一人ではできない。皆でするからできる。」
「ここに来ると人と話せる」
 ラジオ体操第1だけではなく、ラジオ体操第2も行うようになった。
「体操して気持ちがいい」
2か月
~3か月
参加者と体操教室に関する話し合い(取り組んでみての感想、今後について、困難に感じていること等)来年度以降も継続したいと地区からの要望あり。
「でもまだまだ不安」
⇒この不安に関して住民と意見交換を行う必要がある
お菓子やお茶、レクレーションを持ち寄り、体操後、話したりと地域で運営し継続中
「今はやりの詐欺とかの最新情報がわかるから皆で話さんとな」
3か月
以降
DVD係、準備係等、自主的に役割が決まっていた。
口コミで参加者増加。
3月末で3か月目を迎える予定継続中

5. 体操教室での支援で見えたこと

(1) 体操教室時の様子から見えたこと
 今回、体力測定で身体的な効果を実感することができた。加えて、この教室が住民にとって自分で通える社会参加の場に近づいているように感じる。実際、体操をするだけでなく、地域で心配している詐欺の話や予防接種などの住民同士の会話の中で情報交換を行っていたり、「家でも一人だし、普段は挨拶しかしないが、ここに来たら誰彼かまわず話すから楽しい」といった交流の場になっていたり、「あんたあれがないならあげるで」など体操をきっかけに住民同士のつながりや支え合いが生まれている姿があった。

(2) 意見交換から見えたこと
 意見交換の際に、住民が感じていることについて、どうやったらこれが解決するか? ということを話し合うようにした。実際、A地区で「3か月は行政も来るのでできる。その後も実施したい思いがあるが不安」という意見が多く出た。その意見に対し、「実施したい」という思いを達成するためにも何が不安で何を解決したらいいかを話し合った。すると、DVDプレイヤーを扱える人が来ないとDVDが使えないという原因があった。そのため、使い方のわかる人に聞きながら説明書を作成し、説明書の置き場所も皆で決めたことで第1週目も自主的に体操を行うようになり、自主的に役割分担を決めたりする姿がみられた。

6. 住民と一緒に考えることの効果

 今回、住民と一緒に考えながら事業を進めたことで、身体的な効果だけでなく、住民同士のつながりや支え合いといった地域の力といった効果を感じることができた。
 実際、事業を一緒に行う中で地区によって住民性や雰囲気等に違いがあることに気がついた。C地区のようにラジオ体操がしたいとすぐに行動に移すことのできる地区もあれば、A地区のように定期的に参加者同士で話し合う場を設けながら教室を作り上げていく地区もある。どの地区にも共通して言えたことは、一緒に考え解決策を見つけ出すことが重要であるということである。解決策を見つけ出す過程の中で行政として、CDの提供、DVDプレイヤーの説明書やちらしの作成といった最小限の関わりで、あくまでも住民の意見を尊重して行ったことが現在までの地区の中で体操をきっかけにした通いの場の継続に繋がっていると推測される。
 行政主導ではやらされ感だけでなく、限界がある。今回の事業を通じて、行政だけで考えるのではなく、地域住民と一緒に作り上げることで地域住民の力を肌で感じた。今後も、行政と地域住民とが一緒に話し合い考えていくという過程を踏むことが「住みやすい地域づくり」につながるのではないかと思う。