【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第11分科会 じちけん入門!! ~じちけんから始まる組合活性化~

 越前市が他市に誇れる政策の一つに、単独・自校・直営方式の給食があります。各学校で調理される給食は、安全、安心で、そして何より美味しいことは言うまでもありません。この政策を支えているのが、給食調理員です。これまでも給食調理員は、学童ランチサービスや給食まつり等の取り組みを行ってきましたが、今年は自治研活動の一環として、人や地域をつなぐ活動を行っています。



給食がつなぐ人とまち
―― 給食調理員の自治研活動 ――

福井県本部/越前市職員組合・副執行委員長 林 亜希子

1. はじめに ―― 越前市の小学校給食 ――

 越前市は、2005年10月に武生市と今立町が合併して誕生しました。面積は約230km2、人口は約8万3千人の地方の中小都市です。
 小学校は17校ありますが、現在でもすべての小学校で単独・自校・直営方式により給食が提供されています。子どもたちが学ぶ校舎内で給食が作られているため、調理場所から食べる場所が近く、安全、安心なのはもちろんですが、自分たちが食べるものを日々作ってくれる人の顔が見える、人間にとって大切な「食」が学校生活の中に組み込まれた環境のなかで子どもたちが育っていくことになります。昔は当たり前だったことですが、現在では給食センターによる給食提供を行う自治体が増加するなか、単独・自校・直営方式の給食は今や越前市の誇れる政策の一つであり、市長自らも、県内はもちろん全国にも誇れる美味しい給食であるとの認識を示しています。
 越前市の財産といえるこの給食を支えているのが、現業職の給食調理員です。現在の各校の児童数及び給食調理員数は表1のとおりですが、ここ10年間は給食調理員の退職者補充が十分ではなく、特に2009年度以降は正規調理員の採用は行われなかったため、調理員たちは厳しい職場環境におかれています。こうした状況に危機感を抱いた給食調理員は、自分たちの職場を守るために自治研活動に取り組むことになりました。

  岡本小学校給食室
ガラス越しに見学できるようになっている。

【表1 各小学校の給食調理員数(2016年度)】

小学校名児童数給食調理員数
正規嘱託臨時
武生東2232 13
武生西3522 24
武生南5613115
神 山1902 13
吉 野4503 25
国 高6583227
大 虫3412 24
坂 口211 12
王子保3532125
北日野2802 13
北新庄1882 13
味真野2722 13
白 山692 13
花 筺1852 13
岡 本1602 13
南中山1582215
服 間752 13
4,5363662264

2. これまでの取り組み

(1) 学童ランチサービス
 当市の給食調理員の自治研活動は、2006年の学童ランチサービスから始まりました。学童ランチサービスとは、夏休み期間中に児童センターの学童保育を利用する児童に昼食を提供するものです。
 労働状況への危機感の高まりから、給食調理員は自分たちの職場を守るために何をしたらいいのか、何が求められているのかを話し合い、現場から提案、実行しようと、調理員プロジェクトを立ち上げました。そこで調理員が着目したのが、学童保育でした。
 福井県は昔から共働き率が高く、2010年度の国勢調査でも56.8%と全国1位となりましたが、当時越前市においても、学童保育を利用する児童の数は増加傾向にありました。夏休み期間中に学童保育に通う子どもたちは、毎日お弁当を持ってきており、保護者からは給食を実施してほしいとの要望が多数寄せられていました。
 この保護者のニーズを捉えた調理員は、調理員全体で話し合った結果、2006年に学童ランチサービスを試行することにしました。
 試行であるため、期間は7月25日から28日までの4日間とし、実施する児童センターも西児童センターの1ヶ所のみで、学童児童42人を対象として実施しました。職員連携や運営体制等の課題はありましたが、多くの保護者から継続を望む声が上がったため、翌2007年度は期間も10日間に延長し、6ヶ所の児童センターで行うこととなりました。課題であった運営体制等についても、教育委員会や児童福祉課と話し合い、勤務地を変更して通常業務として取り扱うことや光熱水費等の経費は教育委員会で負担すること、児童センターの指定管理者である社会福祉協議会と協力体制を構築すること等について確認することができました。
 全調理員で取り組んだ2007年度の学童ランチサービスの本格実施は、保護者から「調理員さんが作ってくれるので栄養面も衛生面も安心」、「子どもがうれしくて、毎日の給食の時間が楽しみだった様子」等の感想が寄せられ、地元紙にも市職員組合の取り組みとして紹介されました。
 保護者からの評判も上々の学童ランチサービスを、調理員から市の事業として取り組めないかと理事者側に提案したところ、組織内議員である三田村輝士市議会議員のサポートもあり、2008年度からは市の事業として行われることになりました。本事業は現在まで継続され、子育て・教育環境日本一をめざす越前市の事業として定着しています。調理員の自主的な取り組みが、市の重要な事業の一つになったのです。

図書室で食べる給食   子どもたちと一緒の給食

(2) 給食まつり
 給食調理員の次の取り組みは、自分たちが提供している質の高い公共サービスである給食を市民に広く知ってもらおうと2010年に始めた「越前市小学校給食まつり」です。
 越前市の単独・自校・直営方式の給食は、栄養バランスのとれた食事を提供するだけでなく、地産地消による正しい食習慣や食文化を伝え、食事を学ぶ教育の場にもなっています。また、床面を常に乾燥した状態に保つドライシステムによる衛生管理とアレルギーにも対応した調理により、高い安全性と信頼性が確保され、できたての温かい給食を提供できる供給体制になっています。このことを保護者だけでなく他の市民にも知ってもらうために、調理員が主体的に企画や準備を行い、毎年夏休みに実施しています。
 6回目となった2015年は、8月9日(日)に開催されましたが、「福丼選手権・給食バージョン」と題して、参加者に3種類の丼ぶり(れんこん入り鶏そぼろ丼・きむたく丼・かきあげ丼)を食べてもらい、人気投票を行いました。投票の結果、1位になった「れんこん入り鶏そぼろ丼」は、2学期の学校給食で一斉提供されました。また、展示コーナーでは、調理器具に触れることができたり、給食室の1日や安全性に配慮された給食調理の様子を壁紙で紹介したりと、質の高い越前市の給食を親子連れや学校給食を懐かしむ方々などの多くの来場者にPRすることができました。

たくさんのお客さんでにぎわう体育館   大鍋調理を体験する子どもたち

3. 給食調理員の採用状況

 前述したとおり、越前市では2009年度以降正規調理員が採用されなかったため、2005年の合併時には66人だった正規調理員が、2014年には42人に、3分の2にまで減少してしまいました。その結果として、職場での非正規職員の割合が年々高まり、正規調理員の負担がどんどん重くなっていきました。最近は、アレルギーを持つ子どもの数もアレルギーの種類も増加しており、子どもたちの命を預かる現場を全く余裕のないギリギリの人員でまわしている現状のままでは、いつか取り返しのつかない事故が起こってしまうかもしれない、越前市の財産である給食を守れないと、現業職だけでなく一般職も含めた市職全体で正規調理員の採用に取り組みました。一般職の中には、組合運動を通じて初めて我が子が通う学校給食の現場が過酷な状況にあることを知り、衝撃を受けた職員もいました。一般職の人員が減ってもかまわないとの覚悟で正規調理員の採用を組合員一丸となって求めました。
 調理員の自治研活動等の取り組みや市職の交渉が実り、2015年に6年ぶりに正規調理員が2人採用され、今年も3人の調理員が採用されました。しかし、未だ退職者補充に止まっていることから、現場の厳しい状況は変わらず、また採用年齢も40歳以上に設定されていることから、今後も継続的な取り組みが必要です。

【表2 正規調理員数の変遷】(中学校、保育園の調理員も含む。)

年 度20052006200720082009201020112012201320142015201620172018
H17H18H19H20H21H22H23H24H25H26H27H28H29H30
職員数6665635857575451464242424137
退職者数22520335423141
採用者数110010000023
※ 職員数と採用者数は年度初めの数、退職者数は年度末の数。

4. 新しい取り組み

 近年の給食調理員をめぐるこのような状況を受けて、地域に貢献する何か新しいことができないかと、今年になって調理員は様々な取り組みを行っています。

(1) 美味しい婚活 ―― エプロン大作戦 ――
 先ず、最初の取り組みが、3月6日(日)に越前市福祉健康センターで開催された婚活イベント「婚活給食クッキング エプロン大作戦」(主催 おいしい婚活実行委員会)です。
 このイベントは、みんなの共通の思い出である「給食」をテーマに、調理員にサポートしてもらいながら、男女が協力して小学校時代の給食を作ることで出会いの場を創出するものでしたが、定員男女各15人のところ、それを上回る男女各18人(計36人)の方々が参加されました。
 メニューは、懐かしい給食の味の「ビビンバ」と「わかめスープ」。調理員が各グループの男女をやさしくサポートしながら、みんなで和気あいあいと料理を完成させました。
 できあがった後の食事タイムでは、調理員手づくりの鳥のからあげと揚げパンも一緒に食べながら、誰もが一つや二つの思い出がある給食の話で盛り上がりました。終始和やかムードのエプロン大作戦でしたが、給食がご縁で数組のカップルが誕生しそうな模様でした。エプロン大作戦は大成功のうちに終了しました。

ビビンバとわかめのスープ   給食の話で盛り上がる食事タイム

(2) 伝統食材「打ち豆」のカレー ―― アースデイえちぜん ――
 続いては、毎年越前市のいまだて芸術館で行われている環境イベント「アースデイえちぜん」(主催 エコラブえちぜん)への参加です。
 アースデイとは、1970年4月20日にアメリカで始まった「地球のことを考え、行動する日」のことで、その考えは世界中に広まり世界各地で様々なイベントが開催されています。越前市では中断がありましたが、1993年から開催され、今年は5月15日(日)に開催されました。
 このイベントで調理員が提供したのが、「打ち豆とほうれん草のカレー」です。「打ち豆」は、雪国福井に伝わる大豆保存食で、大豆を水に浸して柔らかくしたものを叩いて潰してから乾燥させたものです。大豆をそのまま調理するよりも、抗酸化作用で知られるポリフェノールの量が増加すると言われています。みんなが大好きなカレーと福井の伝統食材の最強のコラボレーションです。
 ふるまいの時間が近づくと、会場にはカレーのいい匂いが漂い、それにつられて集まったお客さんでテントの前に長蛇の列ができました。用意した100食は、あっという間になくなりました。
 カレーは、小さい子どもから年配の方まで美味しく食べられる給食ならではのやさしい味でした。テントの横には、伝統食材である打ち豆等の紹介にあわせて、調理員たちが、給食は「食育」であるとの思いで、日々子どもたちに、安全で安心な美味しい給食を作っていることについてもふれられていました。そのことはきっと、やさしいカレーの味とともに、お客さんの心に残ったと思います。
 余談になりますが、アースデイでは、もうすっかり恒例となりましたが、丹南自治研センターも市職員が応援派遣されている「塩竈市」の特産品販売をはじめ、LGBT(性的少数者)について紹介するブース等を設けました。

カレーをふるまう調理員   カレーを待つ長蛇の列

(3) 廃校で給食復活 ―― ほたるカフェ ――
 最後は、「ほたるカフェ」(主催 しらやま振興会)への参加です。こちらも6月の越前市のイベントとして定着してきましたが、美しい山や川に恵まれ、近年はコウノトリが舞う里づくりの舞台となっている越前市の白山地区で行われているイベントです。10年以上前に廃校となった白山小学校第一分校を、ホタルが舞う6月の週末のみカフェとして活用する取り組みですが、今年は旧分校に給食が復活しました。
 メニューは、週替わりで4種類。(メニューは表3を参照)ちくわの二色揚げやきなこ揚げパン、ドライカレー等懐かしい味ばかりです。また、牛乳とミルメークも付いており、食器も学校で使われているプラスティックと、まさに給食です。

【表3 ほたるカフェの給食メニュー】

 メニュー(牛乳・ミルメーク付)
第1週ごはん・鶏肉のオーロラソース和え・ボイルキャベツ・豆腐のスープ
第2週ごはん・ちくわの二色揚げ・もやしのごまあえ・打ち豆入り田舎汁
第3週きなこ揚げパン・海草サラダ・コーンポタージュ
第4週ドライカレー・ドレッシングサラダ・野菜スープ

 校舎内であれば、どこで食べてもよく、校長室や音楽室、教室等、それぞれが思い思いの場所で懐かしい味を堪能していました。用意した50食はすぐに売り切れてしまい、大人になっても給食を懐かしむ人がこんなにたくさんいることに驚きました。給食は、世代を超えて人をつなぐもの、人を横だけでなく縦にもつなぐものであることを実感したほたるカフェでした。

給食の定番 カレー   音楽室で音楽を聴きながら

5. おわりに ―― 給食が人や地域をつなぐ ――

 給食の思い出がない人はきっといないはずです。それが給食の強みであり、それを支える給食調理員の武器でもあります。今年越前市の調理員は、この給食を武器に、越前市の安全安心で美味しい給食をPRするだけでなく、人を縦にも横にもつなぎ、地域の活性化にも貢献しました。
 これは、調理員たちの食についての知識や技術等のノウハウが活かされたもので、自校直営で給食を提供している越前市の調理員だからこそできたことだといえるでしょう。越前市の給食が、自校直営だからこそ、子どもたちだけでなく大人にも地域にも貢献できるものであることを、この半年間の取り組みが証明しています。
 これからも安全安心な美味しい単独・自校・直営の給食を守るためには、継続的な正規調理員の採用が不可欠です。越前市では昨年6年ぶりに正規調理員が採用されましたが、前述のとおり現場の厳しい状況は変わっていません。また、採用年齢が40歳以上であること、そして今後の数年間で定年退職者数が多くなることが見込まれるため、調理技術の継承も懸念されています。
 越前市職員組合は、このような調理現場をめぐる状況に危機感を抱いた調理員の自主的な取り組みを最大限に活かし、今後も調理員はもちろん、私たち一般職も含めた職員一丸となって、越前市の財産である給食を守るために、不断の粘り強い交渉を行っていかなければなりません。