【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第11分科会 じちけん入門!! ~じちけんから始まる組合活性化~

 三重県では、過去2年連続で県の財政難又は、地方交付税削減を理由に給与削減が行われ、県職労は交渉において、県の財政運営の責任を追及し、今後は独自削減を行わないよう県に要請してきた。県職労自治研推進委員会は、県の財政運営や予算編成方法等の現状や地方財政制度について課題を研究するとともに、外部から講師を招き、県財政や予算編成方法等の課題について研究し、それを基に県当局に財政運営に対する提言をします。



三重県財政の健全化に向けた取り組み


三重県本部/三重県職員労働組合

1. はじめに

 三重県では、2012年度は県の財政難を理由として、2013年度は国の地方交付税削減を理由として、2年連続の給与削減が実施され、県職労は給与削減に関する交渉において、県の財政運営の責任を追及し、不足額の圧縮、今後は独自削減を行わないよう県として最大限の努力を行うことの確認をしてきたが、このような給与削減が二度と行われないよう、改めて県の財政運営や予算編成方法等の現状や地方財政制度について課題を研究し知識を高めることとした。
 一連の取り組みにおいて、県職労自治研推進委員会は、自治総研の飛田博史研究員の指導を仰ぎながら、県財政や予算編成方法等の課題について研究し、それを基に予算編成方法の見直しや県の財政運営に対する提言を行った。
 今回のレポートは、これまでの研究結果及び県職労から県当局に対し提言を行った結果を取りまとめたものである。

2. 三重県の財政状況

(1) 財政力指数
 地方自治体における財政運営が健全に行われているかどうかを判断する指標として、一般的に財政力指数が用いられる。財政力指数は、決算における基準財政収入額を基準財政需要額で除した数値の過去3カ年の平均値で算出されるもので、この数値が高いほど健全な財政運営が行われているといえる。
 三重県の2011年度の財政力指数は0.57818であり、総務省が設定したグループではB2に属する。上位から数えても15番目の財政力指数となり、全国平均(0.49025)と比べても比較的健全な財政運営が行われているといえる。

(2) 他県との比較
 次に三重県と同グループで比較的財政力指数が近い県とで、2011年度決算状況の比較を行った。三重県の財政力指数と近似する(0.5台)の県は、宮城県、群馬県、岐阜県、滋賀県、岡山県、広島県、福岡県の7県であった。
 三重県を含む8県の比較を行った結果、三重県は経常収支比率が8県中で最も高いという結果となった。(表1参照)
 経常収支比率とは、自治体が使える予算のうち、人件費や生活保護費、借金返済に充てる公債費など、避けられない必要な経費(義務的経費)が占める割合のことである。この値が高いほど財政が硬直化していることになり、新しい行政需要や投資に向けるための一般財源(政策的経費)が少ないということになる。

表1:経常収支比率一覧表

 

三 重

宮 城

群 馬

岐 阜

滋 賀

岡 山

広 島

福 岡

財政力指数

0.57818

0.52183

0.58155

0.52103

0.57630

0.51401

0.58577

0.59744

経常収支比率

97.1%

93.3%

96.7%

93.6%

93.8%

92.0%

90.9%

94.9%


(3) 三重県の現状と課題
 (2)で記述したとおり、三重県は他県に比べて財政が硬直化しており、政策的経費に対応できる予算割合が低い状況にある。
 さらに、三重県が試算した中期財政見通しによると、義務的経費のうち社会保障関係経費や公債費は毎年100億円規模で増加していくという結果が示されており(表2参照)、今後ますます財政状況は厳しくなることが想定される。
 財政の硬直化を改善するためには、支出における公債費等を減少させる必要がある。しかし、そのためには県債発行を抑制して県債残高を減少させていく等の中長期的な対策を講じなければならない。
 現在の厳しい財政状況の中で、限られた財源を効果的、効率的に配分するために、まずは現行の予算編成方法を検証する必要がある。


表2:三重県の中期財政見通し試算(公債費及び社会保障関係経費)
                                   単位:億円
区   分 2012年度 2013年度 2014年度 2015年度

社会保障関係経費

861

902

928

966

公 債 費

1,067

1,137

1,188

1,236

合   計

1,928

2,039

2,116

2,202

増   額

 

111

77

86


3. 県職労の取り組み

(1) 予算編成方法の課題について(包括配分制度の見直し)
 三重県では予算の配分方法として、2002年度から施策別財源配分(包括配分)制度が用いられてきた。この制度は、県庁内における権限の移譲と分限化を進めるために、部局長の権限と責任において企画・立案するために必要な一般財源を各部局に包括的に配分する制度である。なお、包括配分の対象となる事業については、原則財政当局の査定は行われていない。(図1参照)
 包括配分制度は、部局長の裁量によって必要な事業に予算を配分することができ、さらに財政当局の査定を必要としないことから、包括配分予算がある程度確保されていた運営当初は、有効な制度であったと思われる。
 しかし、支出における義務的経費の割合が年々増加し、施策別財源配分額が減少していく中で以下のような課題が生じるようになった。
 ・各部において十分な事業内容の議論が行われずに、薄く広く予算が配分されてしまう。
 ・制度上は施策別財源配分であるが、実際には施策を構成する事業の担当部局が複数であっても、横断的な財源調整は行われていない。
 ・『成果の確認と検証』制度によって事業の財政当局が課題を指摘したとしても、包括配分された事業の査定を財政当局が十分に行えないことから、その課題が解消されずに再度予算が配分されてしまうケースがある。

参考:予算編成の年間スケジュール

 このような課題はあるものの、包括配分には一件査定等に比べて予算編成作業を省力化できるというメリットがあることから、このメリットを生かしつつ、かつ効果的、効率的に予算が配分できるよう配分制度の見直しを行う必要があった。

(2) 新たな予算配分方法について
 2013年度の予算編成に向けて、県職労から県当局に対して上記のような理由に基づく予算編成方法の見直しについて申し入れを行った。一方、県当局においても三重県行財政改革取組の中で予算編成に対する見直しが進められていたことから、2013年度予算調製方針においては包括配分制度が見直されることとなった。
 新たな配分制度として、2013年度予算編成から優先度を付けて予算要求を行うシーリング制度が導入されることになった。(図2参照)

 見直し内容(包括配分の制度疲労、部局間の横断的な調整を実施するための見直し)
 ・施策別財源配分(包括配分)制度を廃止し、政策的経費については、要求上限額(シーリング)を設定
 ・各部局において、要求上限額の範囲内で事務事業ごとに優先度(ABC)を付けて予算要求を行う。優先度は一般財源ベースで1/3ずつ。
 ・知事と部局長間での協議の場を3段階で設定
 ・優先度を踏まえ、財政当局が査定を実施

施策別財源配分(包括配分)の見直し図
図1:施策別財源配分(包括配分)制度(2012年度まで)

   前年度予算額△a%の金額を政策ごとで包括配分


図2:新たな予算配分制度(2013年度以降)
   対前年度予算額△b%の金額で要求上限額(シーリング)を設定


(3) 予算配分方法の見直しによる効果
 新たに導入された予算編成方式によって、2013年度は100件以上の事業が削減される等、一定の選択と集中が行われ、予算が効果的・効率的に配分できたといえる。
 しかし、一件査定に比べれば予算編成作業は省力化されているものの、各部局において優先度を付ける作業や、その優先度に基づく査定作業等が包括配分に比べ業務増となっている。さらに、これまでとは異なる、慣れない予算編成方式であったことから職員の負担感も大きいものとなった。
 今後は、こういった業務負担を更に削減できるよう、引き続き県職労としても新たな予算配分方法の検証を行い県当局に対して改善を求めていく。

4. 2013年度の取り組みについて

(1) 地方交付税削減による給与削減
 2012年度の給与削減は、県の財政難、歳入不足を理由としたものであったが、2013年度は、国が地方公務員の給与を国家公務員と同様に7.8%減らすことを企図して、地方固有の財源であるはずの地方交付税を削減したことを理由とするものであった。県職労は、交渉において、憲法の地方自治の本旨を盾に、県当局が国に対しあらゆる手段を使い、地方交付税削減の撤回を求めるよう要求するとともに、給与削減額の圧縮に努めた。さらに広く地方財政制度にも精通し、県の財政運営を注視することが必要であると考え、財政制度に関する研修会への参加や勉強会を開催し、県の財政運営に対する課題等を検討した。

(2) 県職労自治研学習会
 国の地方交付税削減による給与削減を受け、県職労としてもより一層地方財政制度や県の財政状況への理解が必要であるが、財政制度は専門的な知識も要するため、県職労内部だけでの取り組みでは限界がある。そこで、財政の専門家である外部講師として、公益財団法人地方自治総合研究所から飛田博史氏を迎え、県職労自治研学習会を開催した。学習会では、国と地方の財政関係や交付税制度、地方財政の現状と課題などについての講演と、決算から見た三重県財政の現状を分析も行い、今後の県当局への提言内容に繋げた。

 ・2013年度三重県職労自治研学習会
  日 時 2013年11月22日
  場 所 三重県総合文化センター
  講 師 公益財団法人 地方自治総合研究所 飛田 博史 氏
      「地方財政の仕組みと決算から見た三重県財政」

5. 2014年度の取り組み

(1) 三重県の財政運営に対する申し入れ
 県職労は、財政制度の課題について自治研推進委員会の提案を受け、以下のような課題があると整理した。
・財政調整基金の適正な運用
 財政調整基金には年度間の財源を調整する機能があり、極端に残高が少なくなると年度間の財源調整が機能しなくなるため、財政調整基金の残高管理を適正に行う必要がある。
・公債費の抑制、県債残高の減少
 三重県は公債費負担比率が全国平均より高く、県財政に対する負担となっている。利子負担については、近年低利になっているとはいえ、金利上昇による公債費増大リスクがあり、公債費および県債残高の減少に向けた取り組みが必要である。
・中長期の財政見通しの策定
 将来にわたって健全な財政運営を行うためには中長期的な財政見通しが必要であり、適宜見直しが必要である。
・交付税総額の確保
 交付税の原資である国税5税の法定率分については近年財源不足が続いており、一時的措置であった臨時財政対策債が常態化している。抜本的な交付税財源の見直しが必要である。
・歳入確保、未収金・貸付金・出資金等債権の管理
 引き続きあらゆる財源確保の取り組みが必要である。また、貸付金の貸し倒れなどは県財政に対して負の影響を与えるため、未収金、貸付金、出資金等の債権管理を適正に行う必要がある。

 県職労では、県の財政運営に対する改善要請として、上記内容で県当局に対して「財政運営に対する申し入れ」を行った。

(2) 地方財政の充実及び強化を求める意見書について
 地方財政は、国が毎年度策定する地方財政計画が大きく影響し、また今回の交付税削減による給与削減を見ても分かるとおり、国の関与によって左右される。よって、国に対して地方財政確立のための声を上げることは非常に重要であり、その一つとして、地方自治法第99条に基づき、地方公共団体の議会から国に対して意見書を提出する取り組みを行った。県職労は、県議会の組織内議員と連携し、県議会から国へ意見書が提出されるよう働きかけた結果、2014年10月17日の本会議において、「地方財政の充実及び強化を求める意見書」が採択され、国へ意見書が提出された。

6. 2015年度の取り組み

(1) 伊勢志摩サミットに対する申し入れ
 2015年8月13日に伊勢志摩サミットの対する申し入れを県当局に対して行った。2016年5月に開催される伊勢志摩サミットに関連して、業務量の把握や適切な人員配置等想定される課題について要請を行うとともに、多額のサミット開催経費が見込まれることから、国費等の財源確保に努めるとともに、職員の労働条件の悪化や公共サービスの低下等に繋がらないよう求めた。また、予算議論として、緊急性の低い事業など可能な限り来年度に見送るよう検討を行うことなどを提言した。

(2) 地方財政の充実及び強化を求める意見書について
 昨年に引き続き、地方自治法第99条に基づき、地方公共団体の議会から国に対して意見書を提出する取り組みを行った。県職労は、県議会の組織内議員と連携し、県議会から国へ意見書が提出されるよう働きかけた結果、2015年10月20日の本会議において、全会一致で「地方財政の充実及び強化を求める意見書」が採択され、国へ意見書が提出された。

(3) 第二次三重県行財政改革取組に対する申し入れについて
 2012年3月に策定された「三重県行財政改革取組」は、「自立した地域経営」を実現することにより、「みえ県民力ビジョン」の着実な推進につなげるため、「人づくりの改革」、「財政運営の改革」、「仕組みの改革」の3つを柱とし全庁あげて取り組まれた。その後、2016年3月に新たに策定された「第二次三重県行財政改革取組」では、第一次での成果と課題、現在の社会経済情勢を踏まえた改革の必要性を踏まえ、「平成28年度における予算節減取組」や「歳入確保ワーキング・グループ(WG)」「歳出確保WG」の設置といった県財政に関わる具体的な取り組みが示されたことから、WGで賃金・労働条件など人事委員会勧告に関する事項などは議論しないこと等について、2016年4月26日に県当局に対して申し入れを行った。

7. 財政健全化・組合員の賃金を守る取り組みについて

 財政運営の責任は県当局にあるものの、労働組合として当局の財政運営に無関心であってはならない。組合員の賃金労働条件を確保すること、ひいては県民に対しての良質な行政サービスを確保するためにも、労働組合も財政状況を注視し安定的な財政運営や財政健全化にむけて取り組むことが重要である。
 県職労ではこれら一連の取り組みを通じて、県の財政運営や地方財政制度について知見を高めることができた。また、再び財政難による給与削減が行われることのないよう、それらの知見をもとに、予算編成ルールについて改善提言を行い、当初予算や補正予算編成時に労使協議を行い、財政調整基金残高のチェックや歳出事業の内容確認を行い、さらに地方交付税法17条の4に基づき、県から国へ交付税総額確保の意見を提出するよう要請し、また組織内県議会議員と連携し、地方自治法第99条による県議会の意見書を採択させるなど様々な取り組みを行ってきた。
 今後の三重県の財政状況の見通しとしては、2016年伊勢志摩サミット開催経費の捻出にあたり当初予算編成が厳しかったことや、さらに今後予定される菓子博や国体といった重要イベントでも引き続き厳しい財政運営が見込まれることから、県職労は、安定的な財政運営が行われるよう、今後も取り組みを行っていく。