【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第12分科会 ほんとうの住民協働とは? ~地元スペシャルになろう

 自治体を取り巻く状況は、少子高齢化が進展することにより、人口減少に直面することが予測されている。今後は、歳入の減少とともに社会保障費が増大することにより、財政的逼迫が懸念されており、これまでの一律的な行政サービスの維持は困難である。このような中、行政サービスを補完し、市民の活力を引き出す取り組みとして龍ケ崎市の市民協働事業を紹介する。



中核的な地域コミュニティの推進
~地域力を高めるために~

茨城県本部/龍ケ崎市職員労働組合

1. はじめに

 少子高齢化が進展するなか、住民から地方自治体に対するニーズは、年々、多様化・個別化しているのが実情である。以前の「右肩上がり」の時代のように、これらのニーズに対し地方自治体による行政サービスにより全て対応していくことは、難しい状況にある。
 このような中、住民との「協働」によるまちづくりを多くの地方自治体の主要施策として掲げるようになってきた。
 地域社会においては、住民同士の人間関係の希薄化が進んでおり、区や自治会、町内会といったコミュニティも、組織や活動の維持・継続ですら苦慮する事例も多く聞かれるところであり、地域課題の解決に向けた取り組みも十分に行われていないことも少なくない。
 しかし、一方では、1995年発生の阪神・淡路大震災以降、一般の市民(住民)による公益的な活動が注目され、1998年には特定非営利活動促進法(いわゆる「NPO法」)が公布されるなど、住民自身による主体的な活動により、身近な課題の解決に向けた取り組みが盛んになってきている。
 災害時における住民同士の助け合い・支え合いが必要不可欠であることは明らかであるが、高齢化の進展に伴い、地域社会の日常生活においても、このような活動は今後一層重要となってくるものと思われる。
 龍ケ崎市では、コミュニティセンターの区域(以前の小学校区)を単位とする「中核的な地域コミュニティ」の形成を、2011年度から推進しており、2016年5月時点で、市内13地区のうち、11地区で協議会組織が設立された。
 中核的な地域コミュニティの形成を推進する目的や、地域コミュニティの活動に対する龍ケ崎市の取り組みを、以下に紹介する。


2. 龍ケ崎市の住民自治制度

 市制施行した1954年に、龍ケ崎市では「龍ケ崎市区長設置条例」を制定し、行政区単位に区長及び班長を、市の非常勤特別職として住民に委嘱した。これら区長や班長の役割としては、市広報紙の配布や、市に対する住民からの要望の取りまとめなどが主なものであった。
 1982年に竜ヶ崎ニュータウン北竜台地区への入居が始まったが、ニュータウン地区では、このような「区長制度」ではなく、「自治会制度」に基づく住民自治活動がスタートした。
 このため、龍ケ崎市における住民自治活動は、「区長制度」と「自治会制度」の2つの制度により行われてきた。区長制度については、「行政の下請け的制度」と指摘する声や、「同じ市内なのに2つの住民自治制度があるのはおかしい」との意見も聞かれていた。
 その後、2008年度をもって「龍ケ崎市区長設置条例」を廃止することが市議会で可決された。区長制度は、市政施行直後からの歴史を終え、新たな住民自治制度がスタートした。
 現在、市内には区や自治会、町内会など、組織名称はいろいろであるが、このような「住民自治組織」が約180組織ある。


3. 龍ケ崎市のコミュニティセンター

 龍ケ崎市では、1986年より順次小学校区ごとに公民館を設置し、2007年には市内の全小学校区(13地区)での設置を終えた。
 小学校区を単位とする公民館設置の長所としては、地元小学校と連携した活動が可能であることや、住民同士が比較的近距離に居住するため「顔の見える関係」で活動ができることなどがあげられる。
 ただし、公民館は、社会教育法に基づき設置されており、教育施設としての性格を有していることから、もっと幅広い地域活動に利用してもらえるよう、2011年4月からコミュニティセンターに改め、防災や後述する地域コミュニティの活動拠点として、現在、機能を発揮している。

~ 防災拠点としてのコミュニティセンター ~
防災ボックス
 これまで震度5強以上の地震が発災した場合、市の職員は市役所に参集後に活動していましたが、休日・夜間など勤務時間外の発災に備え、地区防災拠点となるコミュニティセンターや、防災コンテナなどの鍵を保管し、震度5強以上で自動開錠する「防災ボックス」を玄関付近に設置しています。
防災ボックス収納品
防災コンテナの鍵コミュニティセンター鍵
小中学校の門の鍵小中学校体育館の鍵
防災井戸蛇口ハンドル
防災コンテナ

 災害時には、指定避難所の小・中学校内に各1基ずつ災害時使用品が収納してある備蓄倉庫を配置し、収納数量は、1基あたり約250人の人が3日間過ごすことを想定した飲料水・食料・毛布などの生活物資と、避難所を運営するにあたって必要な関連資機材、そして被災者を救出する時に必要と思われる工具などです。


4. 中核的な地域コミュニティとは

 地域では、区や自治会、町内会などの住民自治組織をはじめ、自主防災組織、民生委員児童委員、防犯連絡員、青少年育成市民会議、長寿会、PTA、子ども会育成会など、さまざまな組織が活動しており、これらの組織が地域社会を支えていると言っても過言ではないだろう。
 しかし、地域において活動しているという点では一致するも、これらの組織間で共通して協議の場を設けたり、相互に連携・協力する機会というのは、これまで持っていなかったと思われる。市(行政)との関わりについても、市の担当課が異なることもあり、地域と市が総合的に向かいあう体制が不十分であったと言わざるを得ない面もあった。
 また、これらの組織では、会員の高齢化に伴う担い手不足など、活動の継続に課題を抱える例も多く見られる。
 これらの課題も含め、龍ケ崎市では、住民自治組織を中心とし、地域活動に取り組む組織が相互に連携・協力して、地域課題の解決を図ることができ、ひいては地域の力(地域力)が向上するよう、コミュニティセンター単位での中核的な地域コミュニティの形成を検討し、2011年度から住民自治組織の代表者などとの協議を進めてきた。


5. 住民からの意見

 2011年度に、市内13地区を回り、主に住民自治組織(区や自治会、町内会など)の代表者と意見交換を行った。
 この中で、住民からの意見としては、「現在の住民自治組織活動で十分であり、『屋上屋を架す』ようなものである」、「役員のなり手不足などの課題がある中で、そのような組織を立ち上げても継続した活動は難しいのでは」、「行政(市)がやるべき仕事を住民側に押し付けるのか」といった意見が聞かれる一方で、「地域の高齢化を考えると、住民が主になっての活動も必要」、「住民が活発に活動できる地域にしたい」などの意見もあった。しかし、全体的に見てみると否定的な意見が多かった感は否めない。
 この意見交換の中で、中核的な地域コミュニティ設立について、具体的な検討を進めてもよいとする地区も数地区あり、翌2012年度に「設立準備会」が8地区において設置されることとなった。


6. 設立準備会での協議

 同じ龍ケ崎市内ではあっても、それまでの地域における住民の活動はさまざまであり、設立準備会での協議も各地区での特徴が現れた。具体的には、既に地区内全体としての活動が行われている地区の場合には、新規活動の検討や新組織の規約や予算、役員体制など具体的な検討に早い段階からとりかかれたが、一方では、設立準備会を設置しても、なお「行政の押し付けではないか」との疑問から、中核的な地域コミュニティの必要性そのものからの話し合いが続く地区もあった。
 設立準備会は、概ね月1回のペースで開催されていたが、毎回、市担当課の職員も参加し、まさに「膝を交えて」の話し合いとなった。このように設立準備会での協議は進み、2013年度に7地区で中核的な地域コミュニティが設立されるはこびとなった。


7. 中核的な地域コミュニティと市の関わり及び支援①
 ~地域担当職員制度~

 このように市は中核的な地域コミュニティの設立に関して、意見交換から設立準備会のそれぞれの段階で地域に関わってきた。設立後も、引き続き関わりを持ち続け、住民との協働で地域づくり活動に加わっている。
 中核的な地域コミュニティに対する市の関わり(支援)としては、大きく分けて、人的な支援と財政的な支援の2つがある。
 まず、人的な支援としては「地域担当職員制度」がある。
 中核的な地域コミュニティが設立された地区について、当該地区の担当の市職員を5人配置し、地域と行政の「パイプ役」を担うものである。この地域担当職員は、課長級職員を「サポーター長」、課長補佐級職員を「副サポーター長」、係長級以下職員を「サポーター」として任命し、中核的な地域コミュニティの会議や行事などに参加し、「地域ではどのようなことが課題となっているか」、「その課題に対しどのような取り組みを進めようとしているか」などを直接把握するとともに、住民から求められる行政情報の提供や質問・要望への回答を行うものである。
 地域担当職員制度に関し、住民側からは「市職員が身近に感じられるようになった」、「行政情報が提供されるので、住民の活動がしやすくなった」、「市役所の担当課へ早くつないでくれる」など、概ね好印象の声が寄せられている。しかし、「どのあたりまで地域担当職員に頼んでよいか分からない」など、住民と地域担当職員の役割分担が不明確であり、戸惑う声も聞かれる。
 しかし、市職員が地域の会議や行事などに出向く機会はこれまであまりなかった中で、地域担当職員制度により、住民と市職員との距離感は一層縮まったものと思われる。


8. 中核的な地域コミュニティと市の関わり及び支援②
 ~地域コミュニティ補助金~

 中核的な地域コミュニティ形成より以前から、地域活動に対して市は補助金などの交付による財政的支援を行ってきた。

【表1】これまでの地域への補助金など
対 象予 算金 額
住民自治組織
(区や自治会、町内会など)
① 住民自治組織活動推進奨励金1戸につき1,000円(年額)
② 地域づくり補助金1組織につき
基本額3万円+戸数割300円×戸数(上限/年額)
コミュニティセンター ③ コミュニティセンター
 活動推進協議会補助金
1協議会につき70万円(年額)
④ コミュニティセンター講座 講師謝礼1コミュニティセンターにつき20万円(年額)

 表1のうち、「①住民自治組織活動推進奨励金」は、引き続き、単位の住民自治組織へ交付するものとし、②から④までの補助金などを原資とし、中核的な地域コミュニティを交付対象とする新たな補助金に再編した。

【表2】中核的な地域コミュニティへの補助金
対 象予 算金 額
中核的な地域コミュニティ地域コミュニティ補助金 1地区につき
基本額100万円+
戸数割500円×戸数(上限/年額)

 この新たな補助金は、これまでの地域への補助金などよりも多く交付することとした。より活発な地域活動を期待する観点で増額したことに加え、これらの予算をどの活動に重点的に配分するかについては、市から縛りをかけることなく、それぞれの地区の特色を生かせるよう、中核的な地域コミュニティ内での話し合いで決定できるようにした。


9. 中核的な地域コミュニティの活動事例
 (龍ケ崎市発行「地域コミュニティNEWS」より)

(1) 龍ケ崎地域コミュニティ協議会
「地域の安全は私たちが守ります~地区内全域での防犯パトロール実施をめざして~」
 龍ケ崎地区では、これまで防犯パトロールを実施してきた町会と、実施できなかった町会がありました。2012年度の地域コミュニティ設立準備会の協議の中で、「地区内全ての町会で防犯パトロールを実施したい」との提案があり防犯部で取り組むことになりました。「地域の安全は私たちが守る」を合言葉に、徒歩による防犯パトロールを月1回のペースで実施しています。実施に当たっては、地域の皆さんから協力者の募集を行い、防犯部員と合わせ体制を整えました。月ごとに班編成を行い、当番を決めています。

(2) 城ノ内コミュニティ協議会
「城ノ内お助け隊始動」
 地区内の元気なボランティアが、ちょっとした困りごとのある方への手伝いを通じ、住民同士のつながりを深めることを目的とした「城ノ内お助け隊」がスタートしました。
 スタートと同時に、外出時の付き添いや草刈りなどの依頼が届き、地域で支え合うまちづくりにつながることが期待されます。

(3) 川原代ふれあい協議会
「花いっぱい運動が茨城県知事表彰を受賞
 川原代ふれあい協議会は、2012年3月に茨城県道路里親団体に認定され、県道佐貫停車場線沿い約1kmにわたる花いっぱい運動を行っています。道路の美化活動に努めたことにより、茨城県知事より表彰状が授与されました。茨城県道路里親制度における龍ケ崎市の認定団体としては、同じ佐貫停車場線沿いで活動している「馴柴地区花いっぱい連合会」に続く受賞となります。

(4) 八原まちづくり協議会
「笑顔の花を植えましょう
 八原まちづくり協議会では、「花いっぱい運動」として、城ノ内中学校の生徒や市役所職員のボランティアと一緒にさんさん館脇の桜並木にパンジーの苗を植えました。
 協力してくれた中学生の皆さんも、苗植えから水やりまで、朝早くから一生懸命に作業してくれました。春にはピンク色の桜と黄色のパンジーが道行く人々の目を楽しませてくれることでしょう。

(5) 馴柴まちづくり協議会
「小学校との合同防災訓練」
 馴柴まちづくり協議会では、防災活動を地区内の自主防災会と連携して行うため、協議会内に馴柴地区内の自主防災会で構成された「馴柴地域自主防災会」を立ち上げました。平常時から防災に関する勉強会や防災訓練などを行い、大災害発生時には被害を最小限に食い止めるための取り組みを進めています。
 昨年9月に馴柴小学校で行った防災訓練では、馴柴地域自主防災会の運営委員、訓練に参加した地区住民や小学生など、約1,000人が小学校の体育館に集まりました。訓練では大災害を想定し、実際に開設された際の避難所の運営方法や、小学校の防災コンテナに備蓄されている物資の活用、救命訓練などを行いました。参加者からは「人数が多いと避難所運営は大変だね。やはりこういう訓練は大事だよね」といった声も聞かれました。また、市からは地域担当職員(サポーター)も参加し、MCA無線による災害連絡通信の訓練等を運営委員と協力して行いました。


10. まとめ

 自治体を取り巻く状況は、ここ十年ほどで大きく変化してきている。今後は少子高齢化が進展することにより、人口減少に直面することが予測されている。少子高齢化による自治体への影響は、歳入の減少とともに社会保障費が増大することにより、さらなる財政的逼迫が懸念されている。
 龍ケ崎市の人口の将来推計では、2015年の8万人をピークに2040年には約7万人となり、さらにその先も人口減少が続くと見込まれている。また、将来の人口構成は、現在と比較して、現役世代である生産年齢人口が減少し、老年人口が増加すると予想されている。このような人口構造の変化は、自治体経営にも大きな課題を投げかけている。先ず自治体の財政的制約が増すことから、これまでの一律的な行政サービスの維持は困難となり、その結果として、地域の新たな担い手となる高齢者の知識や経験を地域活動に活用することが求められている。こうした中で市民協働事業の推進は、社会の変化に対応する有力な政策であると考えられる。
 龍ケ崎市では、市民協働事業の推進のため、ハード面の対策として、市民活動の拠点となるコミュニティセンターを建設し、さらにソフト面の対策としては、住民自治組織である中核的な地域コミュニティを設立し、人的支援と財政的支援を行っている。それぞれの中核的な地域コミュニティにおいては、高齢者の方が中心となり、趣味を生かす活動や地域のボランティア活動などが行われており、これらの活動は、行政サービスを補完するとともに地域ニーズに基づいた活動として広がりをみせている。さらに、中核的な地域コミュニティの別の役割として、災害時の救援活動があげられる。コミュニティセンターを指定避難所として、近隣の小中学校に防災コンテナを配置することで、災害初期は住民自身による救援活動の態勢が整いつつある。
 以上のように、市民と行政が社会の状況変化に対応し、市民協働事業として、それぞれの役割を補完しながら活動することで、両者の信頼醸成に繋がるとともに、市民の間に社会に貢献したいとの意識が高まることで地域力の向上が図られることが期待される。