【自主レポート】

住民主体のまちづくりをめざして

 三重県本部/明和町職員労働組合

1. はじめに

 2000年4月に『地方分権一括法』が施行され、地方分権が本格的に実行の段階に入った。『地方分権』とは、国と地方の関係が「上下主従」の関係から「対等協力」へ変わり、分担すべき役割を明確にし、地方の自主性・自立性を高め、自己決定・自己責任を伴う、自己完結型の『分権型社会』の創造をめざしている。
 それは、『最も地域の実情に合った施策を、その地域の住民や自治体が自らの責任で判断し、実施することができる社会』の構築である。『私たちの地域のことは私たちで』という気持ちこそが大切であり、実は身近なことであるが、今、自分たちの地域を、自治のあり方を見直していくことが強く求められており、課題となっている。
 また、市町村の財政状況は、長引く景気低迷に伴い税収の伸びが期待できない中、少子高齢化の進捗などへの対応経費の増加に加え、政府の推し進める「三位一体改革」による税財源の移譲が進まない中での補助金や交付金の廃止・削減、さらに、当町においては、市町村合併が破綻し、当面の間、合併をせず自立の道を歩むこととなった今、非常に厳しい状況下にある。
 このように、地方自治体の財政力が低下する中で、効率的で質の高い公共サービスを提供し、かつ、自立・持続可能な自治体運営を行うためには、行政自身のより一層の行財政改革への取り組みが必要であるとともに、住民との合意形成を図り、協働で地域再生に向けたまちづくりを進めていくことが必要である。

2. 協働事業実施に向けて

 これまでの行政は、『公』の領域の多くの分野を担ってきたが、これからは多岐にわたる行政需要に対応するため、『個人ができることは個人が行い、できない部分を地域や民間が補完し、さらに地域や民間でできないことを公共が補完する』という補完性の原則により役割分担を明確にしながら、それぞれの長所、機能を十分発揮できる協働体制を確立する必要がある。
 そこで、明和町職員労働組合(以下、組合)としても、今後、住民主体・住民参画のまちづくり推進の一躍を担う必要があると鑑み、『住民が自主的・自立的にまちづくりに取り組む地域コミュニティーの形成』をめざし、NPO法人めいわ市民活動サポートセンター(以下、サポートセンター)、町企画課(以下、町)との協働事業の実施について提案し、2005年6月から定期的に協議を重ねてきた。
 この事業の目的及び効果として、サポートセンターとしては「住民自身が自主的・自立的に自分たちのまちをよくしていこうと考えていく『市民』意識の醸成と市民活動団体の交流を図ること」、町としては「住民だれもが自主的にまちづくりに参加でき、連携のもとで進める住民自治のしくみづくりを行うこと」、組合としては「行政職員として地域で市民活動やボランティア活動を実行している住民の声を聴き、ともに住民主体のまちづくりを考えていく意識の醸成を図ること」を掲げた。
 今、なぜ協働が必要なのか。企画・運営を協働することにより、市民と行政の得意な分野を活かし、担う役割を分担し、『まちづくりをひとまかせにするのではなく、私たちのまちは私たちの手で担っていく』という相互の意識の向上に繋がっていく。それがこの協働事業のねらいでもある。

3. パネルディスカッションの開催

 協議を進める中で、まずは『住民主体のまちづくり』の啓発のため、地域で活躍されている方や有識者を招き、『ひとまかせにしないまちづくり ~私たちのまちは、私たちの手で~』と題してパネルディスカッションを開催することになった。
 2006年1月29日に開催したパネルディスカッションには、町内外から約150人の参加者が集まった。
 コーディネーターに帝塚山大学法政策部教授の中川さん、パネラーに地元上野地区自主防災組織代表の三田さん、名張市錦生地域づくり委員会初代会長の谷川さん、三重県地域振興部地方分権室主幹(現、地方分権合併室室長)の山岡さんをお招きし、これまでのご自身の取り組み事例の発表、今後のまちづくりの展望について、それぞれの立場からお話をいただいた。
 三田さんからは、自身の取り組まれている地域自主防災・防犯の取り組みの報告と、『安心・安全なまちづくり』に向けこれまでの経験を活かしてみんなで協力し合い、自治会組織を中心とした発展を遂げていきたいとの抱負が述べられた。
 谷川さんからは、自身の取り組まれている地域での活動の報告と、安全・安心のまちづくりには、『一人ひとりの心のつながり・人間のつながり』が大切であり、それが、防災・防犯、地域づくり、そして、まちづくりへと繋がっていくことが述べられた。
 山岡さんからは、自身の取り組まれているNPO団体での活動の報告と、2005年に行ったアンケート(県民1万人アンケート、自治会長やNPO団体を対象にしたアンケート)をもとにした調査研究の結果及び「身近なまちづくり」についての事例発表がなされた。(*『身近なまちづくりのすすめ ~三重の住民自治実現に向けた地域からのメッセージ~』)
 コーディネーターの中川さんからは、まちづくり・地域づくりの進め方に対する助言とともに、「行政・議会・住民」の意識改革、特に行政職員への積極的な地域づくりへの参画の必要性についての提言もなされた。
 パネルディスカッションの中で、「旗挙げ」という形式で参加者の意向を確認したところ、「パネルディスカッションに参加して、まちづくりに関心を持った、参画の意欲を持った」という意思表示された方が大多数であった。
 また、パネルディスカッション終了後、参加者にアンケートを実施したところ、参加者の半数以上である84人から回答をいただいた。そして、今後、まちづくりの学習会があった場合の参加の意向に対しては、「参加したい」が56人、「内容によっては参加したい」が25人あり、参加者の半数が参加の意向を示された。また、「内容によっては参加したい」と回答した中では、「防犯・防災、環境問題、老人の地域活動、ユニバーサルデザイン、子育て支援、児童虐待防止等」とテーマが挙がり、参加者が様々な問題に対して関心を示していることが明らかになった。
 そして、これらを踏まえ、パネルディスカッション終了後、後日、サポートセンター、町、組合で協議を行い、①今後も、三者が協働でまちづくりについての事業を実施していくこと、②アンケートにて、特にまちづくりへの参画の意向を示された方に、『まちづくり座談会』への参加要請をし、『参加者が地域の中でまちづくりの中で核となり、参加者自身が地域のことを考え、地域の中で解決していけるような組織を形成していくことを支援していく』ことが確認された。

4. 今後の方向性

 2006年5月31日に『第1回まちづくり座談会』を開催したところ、15人の一般参加者が集まり、パネルディスカッションを受けての感想やこれまでの各自の取り組みについて発表を行い、今後のまちづくりについて議論した。
 参加者の大多数は各地域で市民活動(環境、福祉、防災・防犯等)に取り組んでみえる方であったが、いざ、『まちづくり』となるとテーマが大きすぎて、どのように進めていけばいいのか明確な方向性を見出すことはできなかった。 
 ただ、様々な活動に取り組む住民が『まちづくり』に対する想いを共有し、今後、対話や交流、親睦により信頼関係を築き上げ、お互いの特性を活かして連携していければ、「よりよい地域社会の実現」が図れるということは、参加者一同、認識ができたのではないかと考える。
 住民・行政職員の間には、まだ、市民活動及び住民主体・住民参画のまちづくりに対する認知度や有用性に対する理解度は高いとは言えず、それぞれの団体や個人の意識や取り組みには大きな差も見られる。
 今後は、「まちづくり座談会」を継続して実施することにより、明和町各地域の住民自身が自主的・自発的にまちづくりに参画し、また、座談会参加者が地域の中でまちづくりの核となり、各地域の課題・ニーズを把握し、地域で問題解決していくためのしくみづくりを進めていく。そして、行政職員自身も地域の一員として、地域のまちづくりに参画していく意識・意欲をもち、協働の意識を培う。『このまちに住んでいてよかった、このまちに住んでみたいと思える』まちづくりを、『ひとまかせにしない』まちづくりを、住民と行政等が協働して行っていくことが重要であり、早急に進めていかなければならない課題である。

パネルディスカッション 
~「ひとまかせ」にしないまちづくり~

 
まちづくりに「これからも取り組んでいきたい(黄色)」「ぜひ取り組みたい(青色)」の色紙を挙げた参加者が、大多数であった。

 

コーディネーター:中川さん
パネラー:三田さん(左席)・谷川さん(中席)・山岡さん(右席)