【自主レポート】

品確法の導入による課題

大阪府本部/大阪市職員労働組合・都市環境局支部 伊藤 克俊

1. 法律制定の背景

 年々、公共工事・民間工事における建設投資が減少している中、建設業許可業者数はほとんど変化していない。そのため、価格のみの競争入札による過当競争が繰り返され、適切な技術力を持たない受注者のダンピングによる不良工事が発生している状況である。
 また、公共事業における入札では、談合事件やペーパーカンパニーによる入札、さらに、設計業務委託の入札における、超低価格での落札などの事象が発生している。このような中で、国では入札制度の公正・公平・透明性を確保するために年々改革が進められ、特に、2005年4月1日から「公共工事の品質確保の促進に関する法律」(以下、「品確法」)が施行され、新たな入札制度が確立された。

2. 「品確法」の概要

 「品確法」は、公共工事の品質確保に関し、国等の責務を明らかにするとともに、品質確保の促進を図り、国民の福祉の向上及び国民経済の健全な発展に寄与することを目的としている。この基本方針では、発注者が主体的に責任を果たすことにより、経済性に配慮しつつ価格以外の多様な要素をも考慮して価格及び品質が総合的に優れた内容の契約がなされることが重要とされている。また、具体的な施策では、①発注関係事務の適切な実施、②入札予定業者及び配置予定技術者に対するヒアリングを行う技術的能力の審査の実施、③技術提案の審査・評価の実施、④工事監督・検査及び施行状況の確認・評価などがある。

3. 下水道事業にあたえる効果

(1) 契約の明確化
   「品確法」は、不透明な契約(談合など)や建設業法に抵触する可能性のある契約(ペーパーカンパニーなど)に対して、「公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律」(2001年4月施行)と連動するなかで、契約の適正化や品質の確保が図られる。

(2) 請負業者の施行体制の明確化
   「品確法」では、現場代理人や監理技術者などを入札前に面談することも可能となったことから、これまでのペーパー審査ではわからなかった、工事に対する技術スタッフの考え方を聞き取ることで、工事に的確な請負者に発注できる確率が高くなる。

(3) 新技術(工法)の開発
   当初予定していた工事工期や道路上の占用面積・期間を審査対象とすることで、技術力の適した請負者が受注できる確率が高くなる。また、工事工期を入札時の加算ポイントにすることで、工期の短縮が可能となり、特に受注後、工事着手までの期間が短縮されるなど、新技術の導入や開発にも繋がる。
 以上の3点が効果を発揮することで、下水道事業における請負受注において、品質の確保や住民サービスの向上などが期待できると考える。

4. 品確法の課題

(1) 発注者側の課題
   発注者側の最大の課題は、業務量の増加に対応できるかどうか、という点である。
   工事発注業務(設計・積算など)においては、工事発注前(入札前)までに、詳細な条件明示をしなければならなくなり、その工事の目的並びに内容について十分に把握する必要性が今まで以上に重要となってくる。また、効果的・効率的に技術的能力の審査の実施や技術提案の審査・評価を行うためには、発注者側の技術力も今まで以上に必要となってくると考えられる。
   監督業務についても、契約の内容に適合した履行がなされない可能性があると認められる場合には、適切な施工がなされるよう通常より頻度を増やすことにより重点的な監督体制を整備するなどの対策を実施する必要があると考えられる。
   技術検査については、工事の施工状況の確認を充実させ、施工の節目において適切に実施し、改善を要すると認めた事項や現地における指示事項を書面により受注者に通知するとともに、技術検査の結果を工事成績評定に反映させるものとする必要がある。工事成績評定については、公正な評価を行うとともに評定結果を発注者間で相互利用することを促進するため、国と地方公共団体との連携により、事業の目的や工事特性を考慮した評定の標準化が必要であると考える。
   以上のように、発注者側の業務量は確実に増加することとなることから、発注者側の対応が遅れることにより住民サービスの低下を招きかねないと考える。

(2) 請負者側の課題
   請負者側の最大の課題は、発注者側より入札前に施工計画書の提示を求められると、受注の有無にかかわらず施工計画書を作成することになり、当然ながらそこには、施工計画立案・作成のための費用が発生する。営業経費と言えるかどうか、疑問が残るところである。
   また、中小の業者(地場業者)育成の視点からもポイント加算できるとなっているが、運用の検討が必要と考える。

(3) 品確法導入による加点項目について
   加点項目は、発注者の裁量に任せられていますが、必須項目を全国統一で設定することが必要と考える。
   1点目としては安全管理項目である。
   安全管理は、価格があってないものと言える項目である。工事現場付近の住民や現場を通行する人の安全確保、さらには現場で働く労働者の安全確保も必須である。現状では、事故を発生させたことによる指名停止などのペナルティーはあるが、事故を発生させない政策として必要な項目であると考える。
   2点目は環境政策の項目である。
   日本は、COなど、温室効果ガスの削減を謳った「京都議定書」を批准していることからも、交通渋滞や工事中に使用する資材などについて、CO削減を中心に環境保全(グリーン調達など)を視点とした評価を行うことが必要と考える。
   3点目は雇用機会の均等である。
   障害者や女性などに対する雇用機会を均等にするためにも、必須項目に加える必要があると考える。

(4) 品確法導入による加点方法について
   2005年に高度技術提案型の入札が試行実施された。入札7件のうち3件が70%を下まわる低価格入札(表-1)となっている。この結果は、小規模工事で多かった低価格入札が大規模工事まで広がりをみせていると言える。

表-1 2005年度に適用された高度技術提案型の入札結果

工 事 名
受 注 者
落 札 額
予定価格
落札率
(%)
技 術
評価点
評価項目
肝沢ダム洪水叩き
打設(第一期)工
事(東北地整)
西松・佐
藤・東急
JV
95億
5,000万円
102億
6,317万円
93.1
110点
(1位)
① コンクリー打
 設計画に係る提
  案
一般国道45号両石
高架橋工事(東北
地整)
清水建設 5億円
9,000万円
9億
4,699万円
62.8
104点
(4位)
① 橋梁上部の出
 来形、品質の向
 上に係る提案
② 橋梁下部(基
 礎含む)の出来
 形、品質管理に
 係る提案
③ 工事中の周辺
 環境等への配慮
 に係る提案
国道1号原宿交差
点立体工事(関東
地整)
大成建設 19億
4,000万円
33億
4,331万円
58.0
122点
(2位)
① アンダーパス
 部供用までの施
 工日数の低減
女川第4砂防堰堤
工事(北陸地整)
アイサワ
工業
9,800万円 2億
422万円
47.9
110点
(4位)
① 法面対策工に
 係る提案
② 掘削の方法に
 係る提案
③ 仮設備計画
 (資材の運搬方
 法)に係る提案
横山ダム国道303
号新横山橋工事
(中部地整)
鉄建・オ
リエンタ
ル異工種
JV
35億
2,000万円
36億
0,185万円
97.7
110点
(1位)
① 総合的なコス
 トに関する事項
 のライフサイク
  ルコスト
1号静清共同静岡
西地区工事(中部
地整)
大成・三
井住友J
57億
5,000万円
58億
4,178万円
98.4
102.4点
(1位)
① 特殊部の施工
 に伴う交通規制
 日数の短縮
② トンネル掘進
 に伴う建設汚泥
 の発生抑制対策
尾原ダム建設第1
期工事(中国地整)
清水・飛
島・東亜
JV
102億
8,000万円
120億
3,762万円
85.4
107.6点
(1位)
① 施工日数
② 建設廃棄物処
 理対策
③ 夜間照明対策
(日刊建設工業新聞2006年3月28日の掲載記事より抜粋)

   また、技術評価点1位以外の3つの落札結果では、落札率が62.8%、58.0%、47.9%と低価格入札となっている。このことは、発注者側の積算との矛盾があったことと同時に、技術点より低価格が評価された結果であると言える。

5. まとめ

 大阪市においても、今後、「品確法」の基本方針と実施手順(手引き)を基に、契約方式の検討と工事監督・検査及び施行状況の確認・評価に関する事項について充実を図ることが重要とし、「品確法」実施に向けた検討を積極的に行っている。
 大阪市職員労働組合都市環境局支部としては、「品確法」の本格実施に向け、日本建設産業職員労働組合協議会との意見交換も行ってきた。「品確法」は、価格競争ではなく技術の競争であります。発注者側と請負者側の適切な関係を基本に私たち発注側が効率的な対応を行うことにより、品質及び価格が総合的に優れた事業(建設工事)になると考えます。「品確法」は、今後も少しずつ見直しされると予想されますが、公共事業・公共サービスがより一層良いものとなるように、課題克服に向け、組合員の日常的なノウハウを活用していきたいと考えます。