【自主レポート】

今、問われる公共サービス

 沖縄県本部/石垣市職員労働組合 長浜 信夫

=石垣島の紹介=

 石垣島は、沖縄本島からさらに南西へ411㎞の位置にあり、西表島、竹富島、波照間島、小浜島など12の有人島からなる八重山群島の中心となる主島であります。更に西へ277㎞には隣国台湾があり、国境に位置する亜熱帯海洋性気候に属する周囲100㎞の島で人口47,000人余の一島一市です。島特有のゆったりとした時の流れに風光明媚な景色、伝統芸能や食文化など多方面に渡り観光客に受け入れられ、癒しの島、南の楽園として高い人気があります。NHKテレビドラマ「ちゅらさん」や「ドクターコトー」「さとうきび畑の唄」等の民放テレビ番組など、八重山群島を題材にした映画制作などで昨今の沖縄ブームに追い風となり、観光客入域者が年々増加しています。昨年は、県内全体の観光客が650万人で、八重山圏域では75万人もの観光客が訪れ、観光産業は好調に推移しています。産業は、農業(さとうきび、パイン、マンゴー、葉たばこ等)、畜産(肉用牛)、観光業が中心で人口が年々増加傾向にあり全国の中でも元気と活気のある島です。

1. はじめに

  まず始めに、政府の進める構造改革のあおりを受け、全国的に公務員に対する風当たりが強まる中、今私たちは公共サービスのあり方について、原点に立ち返り足下を見つめ直す機会に迫られていると痛感します。本市自治体においても、様々な改善すべき問題点や課題等が多岐多様に横たわっていると思われますが、サービスのあり方について、多くの自治体が今、転換期を向かえております。本市の事例から改めて考え見つめ直し、お互いの意識向上へと繋がる喚起となり、少しでも皆さんの参考になればと思います。

2. 公共サービスの概念

 公共サービスは、公正公平な市民福祉サービスの提供で、市民生活の向上を図る大きな役目があるが、これには、市民が等しく行政からの恩恵を受け更には、社会的に生活困窮する弱者を救済するなど行政がサービス提供を保障する大きな責任があります。
 享受者である市民に高品質で公正公平なおかつ、一定のサービス提供を図らなければならないのは当然のことであるとともに、市民本位の立場に重点を置くことこそ、公共サービスの意義・本質があると思われます。

 

3. 本市のサービス形態と経過

 市民の生涯スポーツの推進を図り、公共施設の効果的利用や施設利用拡大と活性化、市民サービスの向上などを目的に1996年4月、(財)石垣市公共施設管理公社が設立され運営が開始されました。設立当初、市民ニーズとして行政需要は複雑化、拡大する中、財政事情は財源確保や行財政運営の困難に直面しつつあったように思われます。

石垣市総合体育館

 このような状況下に、県内多くの自治体では公共施設の直営から民間委託へと加速し本市においても公益法人(財)石垣市公共施設管理公社が設立されたのであります。財政面から限られた財源の効果的でかつ、効率的な運用を考えるならば当然であったし、市民サービス向上と市民福祉の増進という観点からは、必然的であり市民要請であったと思慮されます。公社設立の意義とその果たす役割は、十分に機能すると共に適正に運営してきたものと考えます。

4. 「指定管理者制度」導入

 2003年9月2日の改正地方自治法が施行され、公の施設運営については、これまでの「管理委託」から「管理代行」をさせることができる、いわゆる「指定管理者制度」の適用がなされました。施工後3年以内、すなわち2006年9月1日までに本制度を導入することとなっており、本市においては、条例化に向けた市当局の事務作業が着々と進められてきました。そこで「指定管理者制度」を知っておく必要があります。
 現行の公の施設に関わる管理主体を、民間事業者などに拡大することによって、住民サービス向上と行政コストの縮減を図るところに目的があり、この制度を活用することによって、地域振興や活性化を期待し行政改革の効果、推進を図るところにあります。
 しかし、前述の管理公社設立時にも行革の視点と市民サービスの向上、財源の効率、効果的な運用を図る施策として設立されたことは、両者とも基本的な相違点は大差ないものと思われます。

5. 従来と「指定管理者制度」との相違点

 それでは、どこがどのように変わるのか簡潔に触れてみたい。従来の管理委託制度は、「委託」「受託」という法の契約関係にあり、市に施設使用の許可などを逐次求めていました。しかし、指定管理者制度では「管理の代行」をするものであり、「使用の許可、取り消し」が指定管理者に認められ機動的、弾力的に処分決定することができるところにあります。双方に長短所はそれぞれにありますが、従来の「管理委託」では、公社などに一括管理を行わせることで市との連携が図りやすく、業務のスムーズな運営ができることにあり反面、機動性、弾力性に欠け判断をその都度市に求めるなど運営上、主体性が乏しい側面があります。「指定管理者制度」では、質の高いサービスや経費の削減を図れる可能性が高い利点がある一方、協定上、詳細な業務範囲や使用などが盛り込まれ、かえって弾力性に欠け運営が硬直化、窮屈になる恐れがあります。本来、公の施設は住民福祉の観点から、負担の少ない低廉な価格サービスと、公正な運営で誰にでも気軽に利用できるよう住民に施設を均等に提供していくものです。民間への「管理代行」によって、利潤だけが追求され使用料金が上がったり、施設運営に公正さが欠け、住民サービスの低下に結びつかないかなど、本来の趣旨が失われないか憂慮される部分があります。

6. 憂慮する問題点

石垣市中央運動公園陸上競技場

 政府のいわゆる三位一体改革のあおりを受け、出資を受ける公営企業、外郭団体が真っ先にターゲットにされ解体し民間への移行が進んでいます。「官から民へ」という、公の業務を民間に開放するために法の改正を行い、地方にその押しつけをすることは、これまた地方自治体さらには、末端に痛みを与える弱者いじめであります。まさに究極の自治体リストラの構図と言うべきです。今後、さまざまな問題がないわけではありません。「指定管理者制度」が導入されると、議会への報告義務や情報公開の対象外となり、住民のチェック機能が及ばなくなってきます。決して、すべて民間企業まかせになったり行政の指導が緩慢になったりしては、放漫で住民サービス軽視の制度となりかねません。また、個人情報保護等の取り扱いも重要になってきます。公の施設について「直営」か「指定管理者制度」を導入するかの判断は市当局にありますが、導入の際、応募方になると思われますので、市当局の指定判断は極めて重要かつ、慎重でなければなりません。2006年9月までに全施設を移行するのか、あるいは一部を残し直営とするのか、さらには全施設を制度導入の場合、自治体の出資法人等が整理されることになり、職員の保障はどのようになるのかなど、今後自治体の対応が重要になってきます。いずれにしても、地方自治体244条の2関係の改正によって避けることは出来ないので、各自治体はどの方法が市民に利用しやすく、質の高いサービス提供が出来るのか、あるいは安定した施設運営が出来るのかなど慎重に峻別し決断しなければなりません。

7. 自治労との取り組み

第二多目的広場

 本市における「指定管理者制度」導入については、対象となる職場に動揺と衝撃を与え職場の雰囲気が一変する中、市当局からの説明が十分になされないまま他府県の情報のみが先走り、職員の不安は増幅するばかりでした。八方ふさがり状態の折り、自治労組合との意見や情報交換等の勉強会を始めることとなり、勇気を得、まさに水を得る魚の思いでありました。2003年9月の指定管理者制度学習・意見交換会を皮切りに取り組み、次のとおり「指定管理者制度に関する見解を求める要求書」を市当局に提出し回答を求めました。
 ① 公共サービスの質と水準の確保を図るために自治体の役割と責任についての考え方「管理条例」を個別に検討しているのか。
 ② 管理公社職員の身分保障はどのように考えているのか。
 その後さらに、「公共施設の直営を求める要求書」を提出しましたが、市当局からは何ら回答がないまま「指定管理者制度」導入が、2005年9月の定例会最終本会議で可決されることとなりました。市当局の組合軽視とも言うべき勝手な行動に団体交渉で意見を求めその結果、「公社職員については、雇用責任の観点からも雇用保障に関する協定を結んでも良い。」との発言を市長から引き出すことができました。その発言を受け12月に「指定管理者制度に伴う雇用保障に関する協定書」の締結を求め、2006年3月に次の内容で協定に至っています。
 ① 職員の雇用及び身分を保障する。
 ② 職員の賃金・労働条件について、これまでの条件を下回らないように努める。
 ③ 職種決定にあたっては、各職員の職能及び経験等を考慮する。

8. 求められる私たちの姿勢

建築中の屋内練習場

 サービスを享受する市民に対し、提供する行政側のスタンスと職員個々の姿勢が重要になってくるものであり、両者の認識が噛み合い共有してこそ最適なサービスの品質提供に繋がるものだと考えます。そこで、職員個々の意識と公僕としての基本的姿勢が最重要になってくるものだと思慮します。職員はあくまでサービス提供の仲介者であり、常に第三者的視点と立場から俯瞰した判断処理能力を身に付けなければなりません。業務遂行に課題難題はつきものであり、決して臆することなく果敢に立ち向かうやる気と意欲、時には勇気を所持することが肝要であると同時に、与えられた使命であると痛切します。そのためにも個々人が意見を述べ合い、議論できる職場の雰囲気作りと互いの密接な連携、そして共同である協力態勢が大切であると考えます。職場のリーダーは良好な人間関係の構築と、お互いが一体感を共持できるように努めるとともに、指導力、統率力が求められてくることは至極当然なことだと言えます。職員は精神的に豊かであってこそ、適正な行政サービス運営ができるものであり、良質な公共サービスを提供するための能力と資質、さらには役割が十分に引き出され機能するものだと考えます。他に至っては、民間に比して私たちは、何が不足なのか真摯に考えてみる必要があります。そのことによって、市民との距離を身近にする糸口があるかも知れないと考えるからです。民間から学ぶべき点は大いにあり、職場派遣交流事業等で意識が高められるものだと思います。本市の4月から導入された指定管理者制度では、サービス向上の効果に期待が懸かるところでありますが、業務によっては公の立場でなければ、公正な判断に影響を及ぼす場合もあると考えられます。すべてにおいて、必ずしも民間が良いとは限りません。いずれにせよ、指定管理者制度のスタート初年度でありますので、その効果を今後、見極め検証していく必要があります。制度導入によって、従来まで執行の業務内容について、市民から何かと比較される訳ですからこれまで以上に私たちは、意識改革と自己向上を更に図らなければならないと痛感します。

庭球場

 公共サービスが充実し、市民が分け隔たりなくサービスを享受できることは、市民が元気になり街に活気がみなぎってくるものだと認識します。それこそ自治体としてのめざすべき本来の公共サービスのあり方であり、サービス提供者の行政、享受する市民の良好な信頼関係が構築されるものだと思慮されます。すなわち行政側、享受する者お互いに果たすべき責任が十分に機能してこそ、ともに相乗効果が発揮されそのことが結果として、良質で最大な公共サービスへと結びつくものであると考えます。元気な街は、公共サービスが充実し行政、市民の良好な互助的循環サイクルが確立するのではないのでしょうか。

 

 

9. 「指定管理者制度」導入後の状況

市営プール

 さて、「指定管理者制度」導入で、従来と何がどのように変わったのか結果が求められてきます。しかし、単年度そこそこではあまりにも拙速でありますが、前進的な姿勢を持って企画立案や、実践行動と取り組みが必要になってくると思います。公社が指定管理を行っている主な施設は、陸上球技場、野球場、庭球場、プール場、総合体育館、サッカー場等ありますが、利用者へのサービス向上拡大を図るため一部施設においては、利用時間の延長や小・中学生水泳教室、一般対象の健康水泳教室の開設、イベントでの出店など試行錯誤を重ね模索する現状であります。サービスの後退は許されるものではなく、むしろサービスへの欲求は高まる一方でありますので、市民ニーズに応えていかなければならず、従前にも増して質の向上と充実に取り組み細心の配慮が必要になってくるものだと思います。

10. 今後の取り組み

 本市において、2006年4月1日から指定管理者制度がスタートし、一部施設においては、公募なしで管理公社が指定管理者に選定されました。しかし、指定管理者の協定期間は3年であり、その後、確実に指定管理者を巡り他業者との競争の時がやってきます。これまで「公の施設」が果たしてきた意義と役割を踏まえ、具体的な検証を行い安易な市場開放を許さない取り組みが必要になると思います。また、「公の施設」としての実績と専門性、サービスの質、継続性、安定性を確保していくため日常の業務を詳細に分析精査していくことが大事になってきます。さらには、市当局と協定書を締結したとはいえ、職員の身分や賃金、労働条件などが安定的に確保されるよう見守っていく必要があります。今後、他市の動向をも注視しながら「真の市民サービス向上とは何か」「地域社会の活性化に繋がるのは何なのか」という観点から拱手傍観せず、今後とも自治労組合と歩調を合わせながら、指定管理者制度に対する学習を深め、尚一層取り組んでいきたいと思います。